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ホントは僕が、前に行きたい
しおりを挟む「なにさ…」
「止めとけ。ネタが被ってんだろ」
クリスの言葉にロシェルは息を吐く。深く潜って稼げる冒険者は僕達なんか目もくれないのだ。その証拠に…。
「おい、上腕三頭筋」
「誰がナイスバルクだって!?…って先輩方!こんな時間で間に合うんスか?」
クリスに声を掛けたのはルイ姐さんの列に並ぶ先輩冒険者。極細のチェーンメイルを隆起した肉体に這わせているデカくてぶ厚い男達で、結構深い所まで潜っているとギルドで聞いた。
「お前等がちゃんと減らせりゃな。でなけりゃ俺等が減らしちまうぜ」
「コッチは初めてなんで、程よく間引いといてくださいや」
「おう、生きて帰れよ。ミルコもチェーン着けろよ」
「おうよ。稼いだら良い店紹介してくれや」
前を行くミルコにも声を掛け、先輩マッチョは先を急ぐ。僕等学生は急がない。と言うより急げない。地下2層までしか行けないのもあるが、食い扶持を稼ぐ冒険者の邪魔をしない事が厳命されているからだ。
付かず離れず列を成し、やって来たのは太くて高い木の柵の張られた門。柵の奥は鬱蒼とした森があり、前もって学んでいても、ここがダンジョンである事にピンと来ない。見た目ただの森である。
開け放たれた門前では学生専用の係員がいて、水晶玉で学生証を光らせると、代表に割符を渡している。サボる奴が居たのだろうし、未帰還者を調べるのに使うのだろう。
「ご無事でありますよう」
「無理はしませんわ。さ、行きますわよ」
ミルコを先頭にしてエリザベス様が先を行く。僕達も学生証を出して割符をもらって続いた。
門を潜って森の中。授業によると、今いる第1層と奥の方で1段下がった2層はフィールド型と呼ばれていて、地下から上がって来る魔素によりダンジョン化した森だと言われているそうだ。なので敵を倒しても死体にならず、死んだ傍から溶けて地面に染みて行くと聞く。
先達が歩き続けて出来た道を、前の集団が歩いてく。奥の方が稼げると考えての行動だ。
「クリスは戦いたい?ロシェルは?」
「そりゃあ、なあ」
「ユカタがそーゆー事言う時ってさ、戦闘を回避したい時だよねー」
「みんながみんなそう思って奥に行くとさ、さっき愚痴ってた奴等とかち合いそうじゃない?」
「2層の方が狭いですから、可能性は高まりますね」
「冒険者になっても、しばらくは奥に入れないもんね」
「近場で植生を確認する方が私達の学びになる。と言う訳ね」
「買い取りされないしね」
3人衆の言葉にさらに続けた。今回の採集物は全て学園に納められる。無料で。即ちタダ働きだ。敵を倒した時に現れる魔石やアイテムもだ。下手に良い物を拾ってしまっては悔しいし、悪い先輩に奪われるのも嫌だ。かと言ってサボっていては経験にならないので、金は稼がず経験だけを身に付ける行動を提案した。
「収穫0だとサボったと思われちゃうし、採るだけ採るけどねー」
踏み固められた土の道を離れ、森の中に入って行く。先頭はロシェル、クリスとマキが続き、レイナとジュンで、最後に僕。
「ロシェル、行き過ぎだ」
「追わなくて良いぞー」
「はぐれたらどうすんだ」
「死ぬかもね。ロシェル!言われた事守れないなら討伐すっかんな!」
離れた木の上から恨みがましい目で見ているが、ペースを変えずにゆっくり近付く。
「僕とレイナが見える範囲で先行する。話はしたよな?」
「だってぇ…」
地上の進みが遅いと言いたいのだろう。樹上をピョンピョンしていては気付かないのだろうな。
「上からじゃこう言うの見えないだろ?」
僕は手に持った草束を見せてやる。片手にはナイフを持ち、もう片方には大きめの草が2種類、指に挟んで束になってる。どちらも薬草だ。
「いつの間に」
「そんなに生えてたのかよ」
「私、気付かなくて踏んでたかも…」
地表にいて気付かないなら、樹上なら尚更だよな。
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