【完結】剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。

もる

文字の大きさ
176 / 385

指示役の、仕事

しおりを挟む


 ロシェルの言葉に、エリザベス様は言葉を詰まらせる。多いと言ったのは、敵の数か?レイナの問いに、エリザベス様は眉間に皺を寄せて答える。

 この先にある袋小路の空間に、多数の敵が群れなしている。人の姿はその場には無く、袋小路の先にある扉の奥にある事を期待する。と告げた。そして、

「戻りましょう」

 エリザベス様の口から逃げの指示。

「問題ありません」

 レイナからは攻めの意見が上がる。

「策が?」

「もちろん。ジュン、こっちに来て」「う、うん」

 どうやら策があるようだが、何をする気だろう?3人が作戦会議で固まってるので殿の僕は後方警戒に務める。

「よろしい。ではその様に」「「はいっ」」

 幅6m程の坑道の端を1列になると、袋小路に向けて静かに近付いて行く。先頭のロナンの後ろにはレイナ、ジュン、エリザベス様の順に歩き、金属を着けている僕やエヴィナ達前衛は最後尾を少し離れて付いて行く。

「そろそろよ?」「はい。詠唱始めます」「私も…」

 レイナとジュンが詠唱を始める。火に土…。なるほど、そう言う事か。

 レイナの掲げた杖の上に、デカめの火球が3個上がる。慌てて、しかし静かに盾役を呼んで、エリザベス様が撃ち終えたら前に出るよう伝えた。

「放ちなさい」

「んっ!」

 気合いで3つの火球を飛ばす。短縮詠唱の1種で難易度が高くなるそうだが、スキルの呪いのおかげで威力は落ちないと帰りの道でレイナに聞いた。

 火球が袋小路の空間に入る頃にはジュンの魔法が発動していて、床と壁を押し込みながら天井に向けて土の壁を伸ばして行く。

 部屋の中に火球が入って来たのだ。中にいる魔物達も冷静ではいられない。外へ出ようとする敵に向かって取り巻きの3人が魔法を放つと、魔物は壁と天井に挟まれて悲鳴のような声を出す。そこにエリザベス様の魔法が発動した。手をかざして発動した魔法は、さっき釣り過ぎたと言って戦った敵に使ったのと同じ風魔法だろう。その証拠に、塞ぎ掛けの土壁からは轟音と炎が見え、挟まれた魔物を焼き殺していた。

「炭焼きか…」

「ドロップも燃えてるわね」

 呟きをペニーが返す。色々燃えてるだろうな。

「ユカタ君。確認は、私達が行こ?」

「オレも行くぜ。魔法も疲れるだろうし休憩な。他のは護衛。良いだろ?」

 ペニーとカシーが僕を誘うと、エヴィナも同行すると言い、他の人には休憩を促す。指示役の2人は魔法の維持に集中してて返事所では無いが、代わりにマキが了承した。

「ジュン、あの壁に僕等が入れるだけの穴、開けられる?」

「全部消すんじゃ、ダメなの?」

「しぶといのがいたら飛び出して来るからね。覗き穴が欲しかったんだ」

「穴には出来ないけど…、端から消してくなら、多分大丈夫」

 魔物達の悲鳴が止んで炎の轟音が収まると、ジュンは魔法を少しずつ解いてくれた。消すなら一気に消す方が楽だそうだが、しぶとい奴っているからね。隙間が開くと熱気が外へ漏れ出て来る。近くに寄ると火傷しそうだ。鍛冶屋の炉端のようなこの中に居て、生きていられる者は多くないだろう。離れた場所から中を見て、敵らしき者が居ないのを確認してから土壁を消してもらった。

「うっ、砂漠に来たみてぇだぜ…」

「足が熱いと感じたらすぐに引き返して。壁にも触っちゃダメだから」

「魔石はナイフとかで弾くか、蹴っ飛ばして外に出そ」

 熱気の篭もる空間に、敵の姿は1つもなく、あるのはキラリと光る魔石に何かが燃えた灰、そして刃物等の金属。火球3つ分の威力が窺える。

 足の熱さで何度か出入りを繰り返し粗方魔石と金属を外に出した頃、満を持してエリザベス様の口が開かれた。

「あの中を」

 あの中。部屋になってる扉の奥を調べろと言う事だ。仕方ないな。ジュンの背嚢から抱える程の大きさの水樽を出してもらい、何とか持ち上げる。

「そう言うのは俺の仕事だ」「2人の方が早いぜ兄貴」

 マッチョにヒョイッと取られてしまった。













しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

俺は何処にでもいる冒険者なのだが、転生者と名乗る馬鹿に遭遇した。俺は最強だ? その程度で最強は無いだろうよ などのファンタジー短編集

にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
私が過去に投稿していたファンタジーの短編集です 再投稿に当たり、加筆修正しています

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

魔法物語 - 倒したモンスターの魔法を習得する加護がチートすぎる件について -

花京院 光
ファンタジー
全ての生命が生まれながらにして持つ魔力。 魔力によって作られる魔法は、日常生活を潤し、モンスターの魔の手から地域を守る。 十五歳の誕生日を迎え、魔術師になる夢を叶えるために、俺は魔法都市を目指して旅に出た。 俺は旅の途中で、「討伐したモンスターの魔法を習得する」という反則的な加護を手に入れた……。 モンスターが巣食う剣と魔法の世界で、チート級の能力に慢心しない主人公が、努力を重ねて魔術師を目指す物語です。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

処理中です...