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飲み切り、サイズ
しおりを挟む酒場の2階にはあまり客が居ない。なぜなら品が届くのが遅いからだ。注文も下に降りてしなきゃならず、面倒なので1階が空くまで外で待つ者も多い。その代わり、下より静かでキレイで空いている。
「注文書くよ。みんな取り敢えずエールで良いかな?」
「僕果実水」「アタシも同じの」
ジュンが注文を紙に書いてくれる。主張しないと全員エールが来ちゃうので果実水を頼んだ。
「食べ物はどうする?」
「予算内で適当に」「肉」「肉だな」「「同じく」」「私はいいわ」「でしたら私も」「なら肉だな」「だな」
「大皿でお肉ね。じゃあ行って来るね」
このように、主張しないと大体肉になる。今日の報酬を持ちパーティーの予算係でもあるジュンは階段を降りて行くと、さほど時間を置かず帰って来た。
「誰か助けてー」
「僕手伝うよ」「私も」
ジュンは先んじて皆の取り皿やカトラリーを持って来た。僕はお皿を、マキはカトラリーを受け取ると僕の着くテーブルに持って行く。男5人、僕の両隣にマッチョ、正面に元デブが座っている。華がない。
「ミルコ君にクリス君、手伝ってもらえる…かな?」
「お、おう」「何だ?」
今度はマッチョを名指しで指名し、階段を降りてった。料理人を脅して肉を早く焼かせたりするのだろうか。だが僕の予想は違ってた。階段を軋ませて上がって来たクリスは樽を、ミルコは樽を乗せる台を抱えて来たのだ。
「ジュン、今行くよ」「あ、ありがとう」
コップを大きなトレイに乗せて上がって来たジュンを手伝う。空だと言っても足元の視界が無いのは危ない。トレイの下から手を添えて交代だ。
「私は大丈夫。ユカタ君とロシェルちゃんのはこれだから、先に持ってって」
「アタシのコレ?」「うん。ゆっくり持ち上げてね」
「こっちは用意出来たぞ」
「私が注ぎますので席にてお待ちください」「あ、私持ってくね?」
マキが皆の分のエールを注ぎ、ジュンがそれぞれ配ってく。
「お肉はもう少し時間が掛かると思うけど、先に飲んじゃう?」
「そうね。喉も渇いてるし、頂きましょう」
「「「おーう」」」
グビグビと喉を鳴らし、マッチョの腹にエールが注がれて行く。
「「ぶへぇ~」」「「ぶひ~」」
ゴーラの鳴き声見たいな声を出すのはエールを飲んだ後の決まりらしい。ぶひーとまでは行かないが、女子達の方からも控えめな鳴き声が聞こえて来る。
「弟よ、まだ飲み足りないだろう?」
「もちろんだ」
「俺の分も注いで来い」
兄貴の強権で立たされる弟の姿はどこにでもあるモノだ。女子達は交代でやると言うのに。
「それにしても、樽で買うとは思って無かったぜ」
「よく買えたよね」
「人数も多いし、注いで持って行くより手間が無いからね。持ち上げられる人も居たし」
ミルコの言葉に乗っかると、ジュンが経緯を話してくれる。ここには年明け前から通っていたし、ギルド直営とは言えクリスエス商会の息が掛かっている店だ。融通を利かせてくれたに違いない。
「飲み切らないと持ち帰れないし、飲み切ったら終了だけどね。後片付けも」
終わりが見えるのは良い事だ。飲み切れる量であるならばな。8人が7・8杯ずつ飲める量だそうだが、飲めるのか?
飲めた。元デブの腹は元の姿に近付き、2人して天を向いている。押したら出るので触れない。マッチョは体中真っ赤になった。3人衆は男衆に半分程飲ませていた様子。で、エヴィナは男並に飲んでケロッとしてる。普段から強いのをキュッとしてるからだろうな。
「今襲われたら死ぬよ?」
「う、うぷ…」「襲われねぇ事を祈るぜ…」
酒を飲んだら死ぬ。ロシェルの言いたい事が分かった気がした。
「学園まで戻れる?デブはダメそうだけど」
元、ではなくなった腹をした2人は酒精でなく量に殺られていると思う。10杯は飲んでたからな。腹を刺されたら血の代わりにエールが噴き出す事だろう。
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