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宿屋の、天井
しおりを挟む「久しぶりね。少し大きくなった?」
目の前の美人さんが僕とセーナの前で嬉し気な声を上げる。美人さんの斜め後ろに立つ美男さんは、以前のキリッとした表情と変わって柔和な笑みを浮かべていた。
「本日はお招き頂きありがとうございます。前年の約束を覚えて頂き感謝いたします」
深く礼を執り、美男美女へ返事を返す。貸切にしたのだろう酒場に僕の声は良く響く。店の中には客が4人と店主と従業員の6人だけ。外にはその何倍もの兵士がいるけれど、僕の声が外に漏れる事はない。魔法で中の様子が分からないようにしてあるそうな。
「ちゃんと言葉遣いも覚えたのね、偉いわ。けど今夜は普通に接してちょうだい」
「良かったわね。付け焼き刃が剥げる前にお許しが出たわよ。王都で別れて以来ね、お久しぶり」
貴族様への言葉遣いは元々出来てたと思うけど?それにエリザベス様と話す事もあってそれなりに使い慣れているハズだ。それにしても、セーナはアッゼニで戻らず王都まで来てたんだな。
「セーナはあの後ここまで来てたんだ?」
「売り物の卸し先が王都にあるのよ」
「宮廷薬事局ね。お城まで一緒だったから私も驚いたわ」
お城に物売りに行ってたのか。そりゃあかなりの額になるキノコだったし、全量買うだけのお金がある場所は限られるだろうね。
「レイチェル、そろそろ私を紹介して欲しいのだが」
「話に入れてあげないと可哀想ね。こちらはルメートル様。この国で3番目くらいの貴族よ」
「2番目は…母上か、まあ良い。この場ではただのルメートルだ。お前はパレードに来ていたな、我が妻と手を振り合っていたのを見てつい声を掛けてしまった」
「あら不敬。私行けなかったのに」
「こちらはセーナ、魔道砲の、と言えばお分かりね?そしてこの子がユカタ。貴方が見初めてくれなければこの子と結婚してたかも、ね」
「そうか、恋敵であったか。魔道砲のセーナの名を知らぬ軍属は少なかろう。戦線を共にする事は無かったが、武勇は聞いている」
「貴方、言葉が硬くなってるわよ」
「恋敵に嫉妬しただけだよ」
「王子様、ご安心を。ユカタは学園でハーレムパーティー作る程モテモテですから」
「男もいたよ!4人いたもんっ」
それからは学園での話や皆のこの1年での話をして過ごした。そして僕は、初めてお酒を飲んだ。値段を知ったら目玉が飛び出るだろう程の果実酒を頂いたのだけど、正直美味しさが分からなかった。甘くてそこそこ安いミードの方が好き。エールもほんのり甘くて好きかも。名前は忘れたが甘く加工したお酒も甘くて美味しかったし、果実を搾って割ってあるヤツも甘酸っぱくて美味しかったと思う。飲んだ所までは覚えてる。
──────────────────
「初めてで飲み過ぎよ」
「ちゃんと守ってたのね。偉いじゃない」
「女の子達の前でこんなになったら、美味しく食べられちゃうわ」
「嫉妬?」
「私より先に結婚したら嫌じゃないの」
「お先に失礼したわね」
「1つ貸しにしておくわ」
「では私から2人に返そう。何が良い?」
「平和が1番よ」
「ふふっ、大きく出たわね」
「それは相手次第だね。だが願われなくとも私も同じ気持ちだよ。それ以外で、私の手に足りる物で頼む」
「じゃあ……」
──────────────────
目覚めたら、知らない宿屋の天井でベッドに1人。横を見遣ると隣のベッドで誰か寝てる。三角帽子があるのでセーナだと思われる。
「セーナ、朝だよ。ここどこ」
「ん…。飲み過ぎたわ…。お水ちょうだい…」
お水。起き上がり周りを見て、テーブルに水差しとコップがあるのが確認出来た。僕も飲みたいので先に1杯頂いて、セーナの元に持って行く。
「二日酔い?お水だよ。起きれる?」
「気合いを入れるわ…んっ、ふっ!んんっ!」
ダメそうなので起こしてあげたよ。
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