【完結】剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。

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 聞く所によると、昨夜の僕は途中で寝てしまい、お連れの兵士に担がれて宿のベッドに寝かされたらしい。別れの挨拶出来なくて失礼してしまった。

「あンた、二日酔いはしてないのね」

「早寝したからかな。パーティーの男達はエール10杯飲んでも朝にはケロッとしてたから、みんなそうかと思ってたよ」

「丈夫で何より。解毒したら食事にしましょ」

 セーナはゴニョゴニョ呪文を唱え、自身に魔法を掛ける。風魔法の解毒なのだろう。しばらくすると治ったようで、寝癖髪をエナンで隠して立ち上がる。

 食堂での朝食は野菜のスープにソーサーで軽く済ませる。胃に負担を掛けたらいけないんだと。

「お別れの挨拶出来なかったんだけど、やっぱりお詫びした方が良いかな」

「大丈夫よ。私が代わりにしといたから。けどそうね。お手紙書いたら喜ばれるかもね。お詫びじゃなくて、感謝を伝えなさい?」

 なるほどね。その方がレイさんも喜ぶか。

「所で何で宿屋なの?エリザベス様のお屋敷に行けば良かったのに」

「元々この宿で飲み直しする予定だったのよ。あンた潰れちゃったし、1人にするのは忍びないってんで、お開きにしたの」

「それこそ詫び状書かなきゃ…。王子様達は?」

「昨夜の内にお城に帰られたわ。また会いましょ、ですって」

 そんなにおいそれと会える立場でもないだろうに、気を使ってくれたんだな。セーナは薬草を卸すのに城には行けるみたいだけど、流石に僕では門番に止められて終わりだろうね。

 食事を終えて宿を出る。宿代に食費まで国から出してもらってしまった。税金を納めてる人達に睨まれない内にエリザベス様のお屋敷に逃げ込もう。

「お前等、見た所冒険者か。ここは貴族街だ、分かるな?」「立ち入るには相応の許可が要る。無ければ引き返す事を薦めるぞ」

 貴族街の入口で衛兵に止められてしまった。そりゃあそうだよな。メイドさんも付いてないし通行証とかも無いのだ。どうにかして連絡を取りたいが、そう運良く事は運ばないのが人生である。

「ユカタ、どうしましょ」

「僕達エリザベス様の所で厄介になってるんだけど…、あ」

 効果があるか分からないけど取っておきのアレを見せる。

「エリザベス様の割符だよ。コレで通れないなら連絡を付けて欲しいんだけど」

「確かに、コレは割符だな…」「我等にはエリザベス様の家紋は分からん。見ての通りな身分なのでな」

 用心のため、やはり通してはもらえなかったがひとっ走りしてくれる事となり、衛兵と待つ事しばし。知った顔の馭者さんが馬車で乗り付けてくれた。

「宿の者に言えば話を付けてくれましたのに」

「私達平民よ?気付きもしなかったわ」

「腹ごなしに歩きたかったし、仕方ないよ」

「そうね。そう言う事にしときましょ」

 でないと宿の主人の首が飛ぶ。僕等のミスで他所に迷惑掛けられん。

「ユ~カタ~ァ」

 離れに戻り、尻尾を振って飛び込んで来るウォリスに抱き締められる。よく見たらロシェルだ。柔らかい物を顔に押し付けられて抱き返すと、背中を杖で突っつかれた。

「むごむご」「ぅあ~んユカタァ~」

「離れて喋りなさいよ」

「朝からお盛んね」「ロシェル、次代わってくれよ」

 エリザベス様とエヴィナも離れにいたようでエントランスまで来たみたい。3人衆もいるようで、私もと聞こえて来る。はしたないですわよ?

「ぶは。ただいま。初めてお酒飲んだよ」

「お元気そうで何よりね」

「王子様達にお礼状を書きたいのだけど、僕が普通に送っても大丈夫?途中で焼かれたりしない?」

「当家の紙をお使いなさい。破り捨てる勇気のある者はそう多くはないでしょう」

「アーターシーも行きたかった~」「うぷ」

 エリザベス様を差し置いてそれは無理だろ。ロシェルを宥めて落ち着かせると、エリザベス様に手ほどきを受けながら手紙を書いて送ってもらい、その後は酒場での話をしたりして午後まで過ごした。






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