208 / 385
気持ちを、伝える
しおりを挟む聞く所によると、昨夜の僕は途中で寝てしまい、お連れの兵士に担がれて宿のベッドに寝かされたらしい。別れの挨拶出来なくて失礼してしまった。
「あンた、二日酔いはしてないのね」
「早寝したからかな。パーティーの男達はエール10杯飲んでも朝にはケロッとしてたから、みんなそうかと思ってたよ」
「丈夫で何より。解毒したら食事にしましょ」
セーナはゴニョゴニョ呪文を唱え、自身に魔法を掛ける。風魔法の解毒なのだろう。しばらくすると治ったようで、寝癖髪をエナンで隠して立ち上がる。
食堂での朝食は野菜のスープにソーサーで軽く済ませる。胃に負担を掛けたらいけないんだと。
「お別れの挨拶出来なかったんだけど、やっぱりお詫びした方が良いかな」
「大丈夫よ。私が代わりにしといたから。けどそうね。お手紙書いたら喜ばれるかもね。お詫びじゃなくて、感謝を伝えなさい?」
なるほどね。その方がレイさんも喜ぶか。
「所で何で宿屋なの?エリザベス様のお屋敷に行けば良かったのに」
「元々この宿で飲み直しする予定だったのよ。あンた潰れちゃったし、1人にするのは忍びないってんで、お開きにしたの」
「それこそ詫び状書かなきゃ…。王子様達は?」
「昨夜の内にお城に帰られたわ。また会いましょ、ですって」
そんなにおいそれと会える立場でもないだろうに、気を使ってくれたんだな。セーナは薬草を卸すのに城には行けるみたいだけど、流石に僕では門番に止められて終わりだろうね。
食事を終えて宿を出る。宿代に食費まで国から出してもらってしまった。税金を納めてる人達に睨まれない内にエリザベス様のお屋敷に逃げ込もう。
「お前等、見た所冒険者か。ここは貴族街だ、分かるな?」「立ち入るには相応の許可が要る。無ければ引き返す事を薦めるぞ」
貴族街の入口で衛兵に止められてしまった。そりゃあそうだよな。メイドさんも付いてないし通行証とかも無いのだ。どうにかして連絡を取りたいが、そう運良く事は運ばないのが人生である。
「ユカタ、どうしましょ」
「僕達エリザベス様の所で厄介になってるんだけど…、あ」
効果があるか分からないけど取っておきのアレを見せる。
「エリザベス様の割符だよ。コレで通れないなら連絡を付けて欲しいんだけど」
「確かに、コレは割符だな…」「我等にはエリザベス様の家紋は分からん。見ての通りな身分なのでな」
用心のため、やはり通してはもらえなかったがひとっ走りしてくれる事となり、衛兵と待つ事しばし。知った顔の馭者さんが馬車で乗り付けてくれた。
「宿の者に言えば話を付けてくれましたのに」
「私達平民よ?気付きもしなかったわ」
「腹ごなしに歩きたかったし、仕方ないよ」
「そうね。そう言う事にしときましょ」
でないと宿の主人の首が飛ぶ。僕等のミスで他所に迷惑掛けられん。
「ユ~カタ~ァ」
離れに戻り、尻尾を振って飛び込んで来るウォリスに抱き締められる。よく見たらロシェルだ。柔らかい物を顔に押し付けられて抱き返すと、背中を杖で突っつかれた。
「むごむご」「ぅあ~んユカタァ~」
「離れて喋りなさいよ」
「朝からお盛んね」「ロシェル、次代わってくれよ」
エリザベス様とエヴィナも離れにいたようでエントランスまで来たみたい。3人衆もいるようで、私もと聞こえて来る。はしたないですわよ?
「ぶは。ただいま。初めてお酒飲んだよ」
「お元気そうで何よりね」
「王子様達にお礼状を書きたいのだけど、僕が普通に送っても大丈夫?途中で焼かれたりしない?」
「当家の紙をお使いなさい。破り捨てる勇気のある者はそう多くはないでしょう」
「アーターシーも行きたかった~」「うぷ」
エリザベス様を差し置いてそれは無理だろ。ロシェルを宥めて落ち着かせると、エリザベス様に手ほどきを受けながら手紙を書いて送ってもらい、その後は酒場での話をしたりして午後まで過ごした。
30
あなたにおすすめの小説
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
俺は何処にでもいる冒険者なのだが、転生者と名乗る馬鹿に遭遇した。俺は最強だ? その程度で最強は無いだろうよ などのファンタジー短編集
にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
私が過去に投稿していたファンタジーの短編集です
再投稿に当たり、加筆修正しています
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
魔法物語 - 倒したモンスターの魔法を習得する加護がチートすぎる件について -
花京院 光
ファンタジー
全ての生命が生まれながらにして持つ魔力。
魔力によって作られる魔法は、日常生活を潤し、モンスターの魔の手から地域を守る。
十五歳の誕生日を迎え、魔術師になる夢を叶えるために、俺は魔法都市を目指して旅に出た。
俺は旅の途中で、「討伐したモンスターの魔法を習得する」という反則的な加護を手に入れた……。
モンスターが巣食う剣と魔法の世界で、チート級の能力に慢心しない主人公が、努力を重ねて魔術師を目指す物語です。
迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる