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安全、第一
しおりを挟むキャンプ地とした場所は三本の木が密に生えたなだらかな傾斜地。街道からも距離があり、気まぐれで来る者はいないだろうと思われる。
「ねね、枝払う?」
「床を作ってからにしようか。ジュン」
「まずは土台から行くね」
木登りして枝払いをすると言うロシェルにはもう少しだけ待機していてもらう。ジュンは三本の木を包むように土魔法で土台を作る。
「アタシは登れるけど、みんな上がれる?」
高さ5m程の土台が出来てロシェルは皆に問うが、気にせず枝払いに行ってもらった。その間下にいる僕等は警戒しながら薪拾いに勤しむ。
枝払いが終わると今度はジュンが土台に登る。1人では上がれないジュンは、自分の足元を土魔法で盛り上げて上がって行った。
「切ったヤツ、どーする?」
「ロシェルちゃん、ありがとね。下に落としといて良いよ。ロシェルちゃんも下で休んでて」
ジュンがどうするのか見物だ。僕としては平らな土台の周りに壁を建ててくれたら十分だったが、彼女はもっと安全を確保したいらしい。土台の際から魔法で石の壁が生えると、しばらくして土台を包み、枝払いしたスペースを覆ってしまう。更に少しして石壁に穴が空くと、中からジュンの声がした。
「上がれるよー」
上がれるとは言え暗いな。密になった木の内側を開けてあるのか、手を振っているのが見える。木の内側に付けられた石の突起に足を掛けて登って行くと、部屋の端の天井に一点の明かりが見えた。煙突にするのだろうか。
「明かり着けるからちょっと待ってて」「アタシもー」
光源が増えて中が見渡せるようになる。窓を付けられないので圧迫感はあるが、雨風に敵の飛び道具まで防げる壁であれば文句は無い。
「ジュン、コレはどれだけ持ちますの?」
「はい。石壁なので解除したり壊れない限りは残り続けます」
壊れると破片は消えちゃうそうだ。皆の意見を聞きながら、竈や煙突、下の階にトイレなんかを作ったジュンは暫く休憩となった。
「出ますでしょうか」
夕飯を食べて明かりを落とす。不寝番をする僕に、エリザベス様は小さく囁く。
「僕等で殺れる規模だと良いけどね」
肩に乗った金髪に返す。居なければ、より奥を探して回るしか無い。居なくても、使った分を回収しなければならない。
今回の行程での一番の目標はセーナが使う魔石の確保。次に野営の経験を積む事。そして夜戦の経験を得る事だ。野営の経験は学園の安全な敷地内や、護衛のいる馬車の中でしかした事が無く、夜戦に於いては参加させて貰えなかった。多分ロシェルはどちらも経験済みだと思うが、僕の腕に柔らかい物を押し当ててる人を含め、他の皆は未経験なハズだ。夜戦の対人戦に至っては僕も経験が無い。ちなみに村は行ければ良いや程度の目標である。行った所で風呂も宿も無いからな。
「ユカタァ…おしっこ」
「見ててやろうか?」
「うん…」
交代時間にはまだ少しあるが、我慢出来ず目が覚めたのであろうロシェルは僕を小便扱いする。反撃を肯定されて困ったが、地上部の入口は開けてあるので1人では行かせられない。右腕を包む柔らかさから離れると、水筒を持って寝惚け娘を連れて下に降りる。
野営中の冒険者が一番無防備な状況は、寝てる間ではなく今この瞬間だ。コの字で囲われただけの個室の中で一部の装備を外し、動きずらい姿勢で一点に集中する行為は朝晩関係なく危険なのだ。ロシェルが用足ししてる間、僕は出入口を見ながら警戒を続ける。
「出た」
「手を洗え」
持って来た水筒はこのためだ。
「違う、敵」
「…まず手を洗え」
「貴方様」
上からも声が掛かる。ガサガサ音がしているし、いち早く気付いたエリザベス様は寝てる連中を起こしたようである。
「ただいま」「どんな感じ?」
「多いですね。数は15、ウォリス種かと」
「大きいの居るよ」
エリザベス様は正確な数を答え、ロシェルは群れの中にボスが居ると言う。
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