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凄く楽しかった記憶だけ、ある。
しおりを挟む翌日。竜騎士の背中にしがみ付いて上空に舞い上がる。僕とセーナとエリザベス様の3人は城に帯同する事になった。
「ちっ、なぜ私がこんな新興貴族の小僧等乗せねばならんのか」
他に聞かれないからと高を括る連隊長はすぐに後悔する事になる。
「その言葉、お母様に聞かせましょうか?」
「っ!?」
エリザベス様の風魔法は言葉を飛ばすだけだったと記憶しているが、どうやら聞き耳を立てる事も出来るようになったらしい。
「流石にそこまではせんがな。だがユカタは公爵家に連なる者ぞ?貴様自分の家を潰す気か?」
「はっ、出過ぎた口を、致しました…」
言葉を無くした連隊長は命令を聞く駒となり、空気を重くして城まで騎竜を飛ばした。セーナの方は変な文句は言われなかったらしい。言ったら死んでただろうしな。
城に着くと、すぐに湯浴みが用意され、貴族式の湯浴みを済ませて身嗜みを変える。慣れてはいない貴族の格好をさせられると、応接間へと連れられる。先に部屋に居た人を見て、慌てて膝を折った。
「良い。楽にせよ」
「はは。慶事にお迎え頂き誠嬉しく思います」
ソファーに掛けていたのはこの国の王様、ペリエ王陛下。王様が楽にしろと言うが楽にしてはいけない。メイドさんに促され席に着くが、脚を組んだりしたら首が飛ぶ。背もたれにも凭れられない。お茶が来て、口を湿す。話す事は無い。
「エリザベスは、よくやっておるか?」
「は、はいっ。む、領地の運営に助力頂いております。住民達とも良き関係を築いております」
「そうか」
急に話し掛けて来るからドキドキして言葉が詰まってしまった。何とか返事を返すと王様は短く応え、再び時間が止まったかのような静寂に包まれた。セーナでもエリザベス様でも良い。早く来てくれっ。しかし待てども来ない。
「女性のお召しは時間が掛かるモノで御座います」
メイドに言われ、諦める。
「お、王子殿下は…」
「政務中で御座いましょう」
仕事と言われたらどうしようも無い。王様も仕事に行って良いのですよ?お茶飲んで柔らかいお菓子食べてるけど、それきっと凄い高いヤツですよね?
「そち、子はまだか?」
「こ…?」
「お子様のご予定を伺われております」
「ご、ご希望とありますれば、来年か再来年にでも…」
「うむ。期待しておる」
何の事かと聞き返そうとしてメイドさんに助けられるが、子供の催促だった。村が軌道に乗るまではって思ってたけど、住民達はどんどん孕んでお腹大きくしてってるんだよな。戦力である事も考えると、避妊魔術を解くのはまだ早い。エリザベス様の戦力を使わなくて済む程の戦力を集める…。戦力となる住民を集める…。村の整備を進める…。食料…。治水…。
「孫の顔をお見せするにはまだ些か掛かりそうですわね。陛下、しばらくに御座います」
どこから聞いていたのか、応接間に入って来たエリザベス様に王様の顔も綻んだ。
「おお、久しいな。息災か?」
「お陰様で。先日は急な訪問で驚きましたが、王子妃殿下の慶事にお招き下さりありがたく存じます」
女性が来ると話が増えて、僕も少しだけ気が休まる。その内セーナもおめかししてやって来た。メイドさん達にやられたそうだ。3人が揃った所で王子妃殿下と面会となる。が、王様も付いて来た。断れる訳が無い。
「陛下におかれましては足をお運び下さり感謝致します。皆もお久しぶりね。この様な姿で申し訳ないのだけど」
女性3人、口が開くともうすぐ産まれそうとか関係無い。男2人を放ったらかしで歓談に耽ってしまった。王様と元平民は部屋の隅に追いやられ、その内そっと部屋を出た。
「ユカタと言ったな。酒は飲めるか?」
「は、少しだけなら」
「ならば付き合え」
断れないので付いて行くが、お供とか衛士とか付けなくて良いのか?その後地下蔵でへべれけになってる2人が巡回に発見され、内1人は尖塔の牢に収監された。もちろん僕だ。
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