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慣れって、凄い
しおりを挟む招かれざる客が帰って3日、発着場の石板を張るついでに全体的な作りを変更する事になった。ジュンが間に合わせで作ったL字の二重壁では馬車が入れなくなるし、壁自体が固めた土であるため強度に不安が残る。粘土や石材が手に入った事もあり、作り直しを棟梁兄に相談した所、それならと設計図を描いてくれたのだ。
「私の部屋がなくなってしまうわ。ユカタ、一緒に寝て下さる?」
「無くなりませんよ。今ある魔法壁の外に作り始めますし、繋ぎ目はジュンの魔法で仮接続するって事なので、お屋敷の完成まではいつもの部屋で大丈夫です」
「ジュン、よしなに」「ひぇぇ…」
ジュンに圧を掛けるのはおよし下さい。とにかく作業は開始された。ジュンが作った部分を消して、残った土と、空堀までの岩盤手前までの土と粘土を背嚢に収納する。ロシェルや獣人達でも落ちたら登って来られないくらいの深さの大穴が出来た。村への出入りも出来なくなったので、コレが埋まるまで狩りはお休みだ。
「ご領主様、梯子はこんくらいの長さで良かったのかの?」
年寄りの片手間が役に立つ。紙の材料になる草も、彼等の集落では縄を編んだり屋根材や土壁の添加剤として使われていたそうで、長いロープと枝打ちした端材で丈夫な梯子を作ってくれた。地面に杭を打って下へ降ろすと床から余る程の長さ。たった3日で作ったのか。凄いな。
「僕も縄編みはした事あるけどこれは凄いね」
「慣れたモノですわい」「喜んでくれて良かったのう」
「オレにゃどー凄ぇのか分かんねーんだけど」
降りながら説明するが、エヴィナは上にいたので途中で聞いていたかどうかは分からん。地下に降りて、床に残った粘土を回収すると、砂と石を排出する。金属や色石を捨てると女性が怒るのでその辺りは残してどんどん捨てて行く。粘土や土等必要な物を残した結果穴は1/3程しか埋まらなかったし、上から散水する事で更に嵩が減った。これは仕方無い。
「領主様、はよ橋を掛けとくれ。砂掘りに行くぞい」
棟梁兄が砂掘りを急かす。お屋敷建築の合間を縫って手伝ってくれてるから、時間を有効に使わなきゃならん。
「うん。じゃあジュン、頼むよ」
「行くよー」
ジュンの魔法使用は今日はコレで最後。凹み全体に石の塊を詰め込むのだ。魔法の耐久力を落とす事で魔力の消費を抑えられると言うが、相当な量の魔力が使われるのは明らかである。穴の中で、魔法で発生した四角いブロック状の石がどんどん大きくなって行く。棟梁兄は橋と言ったがジュンは地盤を固めようとして大魔法を使ってくれたのだろう。棟梁兄は凹んだらまた埋め立てりゃ良いと言う。
「大丈夫?」
「う、うん。普段の建造でだいぶ慣れてるから平気だよ。けど慣れてない人がやったら死んじゃうかもね」
「あまり気負わんで良いぞ?」
「は、はい…」
上から魔法の石板で塞ぐのだから、凹んだらその都度直せば良いだけの事だと棟梁兄は繰り返した。
「道なんて使ってりゃどうしても凹むモンじゃ。数年で直すモンなら物理建築より魔法の方が手軽で良いって事もあるわい」
コストも馬鹿にならんからな、ガハハ。だって。僕が開けた大穴がちょっとの時間で埋まるのだものな。物理建築が魔法建築に嫉妬する気持ちも分かる。
馬車に揺られて残土捨て場。金属や色石が発見された事で、今は宝の山である。風の侵食で丸くなった土山を、背嚢と呪物で回収する。更に採掘場を拡げるため、土と粘土を切り出した。久しぶりに土木作業員の仕事をしているな。
「岩盤の下って砂なの?」
「ありゃあ風で表土が積もってるだけじゃ。岩の下は砂岩じゃったが、アレは掘らん方が良いな」
ソレを掘ると地盤が崩んでしまうと言う。岩盤の下に空洞が出来ちゃうんだって。採掘場を拡げて村に帰る。時間は夕方になっていたが埋めた石はまだ健在。入村拒否をされなくてホッとした。
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