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絶対に、敵わない
しおりを挟むパー砦には兵が並び、僕達を歓迎してくれているようで、野次が一切飛んで来ない。槍を持った兵士の列の間を進む馬車に何かしようとする者はいないみたいで静かにその場に立っていた。そして砦の玄関に着くとライラによりドアが開かれ、玄関前に並んだ執事とメイドに迎えられた。
「ウェストモーア様、ようこそお越しいただきました。奥様もお帰りなさいませ。家臣共々首を長くしてお待ちし申しておりました。公爵夫人に於かれましては当家へのお立ち寄り、心から御礼申し上げます。不備も多々御座いましょうが、ごゆるりとお過ごし下さいませ。エリザベス様に於かれましては…」
「不敬です。外しなさい」
貴族の挨拶は長い。義母様は長さが足りなかったのか珍しく怒りを顕にする。その場から去れって意味なんだろうけど、下がれでなく外せと言うのがより強い拒絶を表してる…と思う。執事は深く頭を下げて砦に入って行った。多分どこかに隠れるのだろう。次に前に出たのは僕の事をずっとジト目で見てたメイド長。義母様に対する不敬を詫びて、なぜか僕に長い長い挨拶をした。
「他領の領主を舐めているのか、男爵だから舐めているのか。それとも敵対してるから舐めているのか」
「そのような事は決して」
「とっとと行こうぜ。こんなトコで立ちんぼにされてたらマジでキレっかんな?さっさと案内しろや」
エヴィナの口調は相変わらずだが砦の中に案内された。
エントランスに積まれていた死体は片付けられ、義兄の執務室に詰め込まれた死体も1つもなくなっていた。そして部屋の中央には前に会った執事と義兄。そして端々には騎士が立っている。護衛のつもりか?
「本日は足をお運び頂き誠に感謝致します。此度の調停に於かれまして……」
挨拶も名乗りもなく戦後交渉の始まりを告げられた。立ってするのか?
「義母様、エヴィナ。まずはそちらへ掛けようか」
貴族の挨拶が長いとは言え、それより長くなるだろう戦後交渉を立ってするのはおかし過ぎる。僕は執事の言葉を無視して2人に声を掛けた。
「ありがとう、ウェストモーア卿。夫人もお掛けなさって」「は、はい」
義母様は僕の提案を素直に受けてくれた。間違ってたら後で説教されるだろう。義母様はエヴィナを奥へ、自分はソファーの真ん中に座ると僕はその隣に迎えられた。エリザベス様とセーナは言われる前に背後に立った。そして執事に声を掛けるとエヴィナの正面に座らせた。
「其方もお掛けなさい」
「……分かり、ました」
義兄は義母様の正面に座らされた。こちらは下座らしいが、誰が上なのかはこれで決まった。もちろん僕は下だ。会話に付いて行けないもの。後ろで立ってたい気分だが、エリザベス様は代わってくれなそうだった。
戦後交渉は当然長く掛かったが、僕はろくすっぽ頭に入らなかった。何となく聞こえたのは領土の割譲とお金の徴収。後は税金がどうたらこうたら。執事は何とか譲歩させようとしてたみたいだけど、女性に口喧嘩で勝てる訳がないだろ。中央でバチバチやってた公爵様だぞ?多分誰も敵わないだろ。
夜になり、今夜は夕食を頂き砦に泊まる。毒を盛る等の妨害はされなかったが、僕はメイド達に洗われた。唯一の妨害工作を受けて、僕は寝かせてもらえなかった。人の家に来て何で朝までイチャイチャさせられるのさ。5人は交代で寝てたから良いだろうけどさ、コッチは休憩だけだったんだぞ?翌朝は半分頭が寝てる状態で交渉の場に望んだ。相手も憔悴してるみたい。寝られなかったのかも知れないな。僕とは理由が違うけど。
さらに2日掛けて話をまとめ、戦後交渉は終わった。義母様が終わらせた。相手からしたら終わらせて頂けたって感じか。執事と義兄は窶れてげっそり。誰にケンカを売ったのか、相当懲りたみたいだな。出迎えに来なかった分、見送りには来てもらう。門前まで馬車の前を歩かせて、オーイへ向かう馬車が見えなくなるまで見送らせた。
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