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どんな時も自分を高い位置に置こうとするヤツ
しおりを挟む目覚めて翌日。タララの強化が済んだので、今日から本格的に引きこもる。別に人生が嫌になった訳では無い。スキルチップを使うのだ。
ソーサーに噛み付いて、チップを千切る。干し肉に噛み付いて、チップを千切る。お湯を飲み飲み、チップを千切る…。
スキル : 走る☆☆ 走る☆ 走る 走る 走る
走る : 早く移動する為のスキル。速度が少し増し、更に僅かに増し、更に大幅に増し、更に少し増し、更に少し増し、体力の消耗を少し抑え、更に僅かに抑え、更に大幅に抑え、更に少し抑え、更に少し抑える。
気付いたらウサギが1000枚を超えて星が増えていた。星2になりそうなのはハシリトカゲとハチか。考えずに齧り付く。
昼食とトイレ休憩以外の時間を注ぎ込み、噛み付き、千切り、破いてこうなった。
スキル : 走る☆☆ 走る☆☆ 走る 走る 走る
走る : 早く移動する為のスキル。速度が少し増し、更に少し増し、更に大幅に増し、更に少し増し、更に少し増し、体力の消耗を少し抑え、更に少し抑え、更に大幅に抑え、更に少し抑え、更に少し抑える。
スキル : 刺突☆☆ 刺突
刺突 : 刺突武器を効率よく扱う為のスキル。攻撃速度と命中率が中程度増し、更に少し増し、無駄な動きを中程度抑え、更に少し抑える。
ハチは効果が強いので星2で銀を超えた。元の殺傷力が低いので効果を増してるのだろうね。
夕飯に行こうとランタンに油を足したら瓶が空になった。今夜は持つだろうけど明日にでも買ってこなきゃいけないな。体を動かしてないので夕飯は焼肉2枚だけにした。お風呂も今日はいいや。干し肉とソーサー買って、もらい火して帰った。財布の硬貨も減ってきたな。明日の買い物のついでにギルドに寄るか。
帰宅して、1000枚セットの検品をする。チップを使う気力も無いし、新規のチップでなければ100枚なり1000枚なり揃わないと使う気になれないんだよね。かと言って1万枚あっても心折れるけど。
頭 398
立方体 250
脚 126
短剣 119
棒 107
入っていたのはこの5種類。これ1枚10ヤンの方だろ?ブラウンさん間違えたのかな?金銀買ってるからおまけしてくれたのかな?それでも1000枚セットにしてるって事は、いずれまた高いのを買わされそうな気がしてならない。
立方体は土魔法の基礎。これはありがたい。以前は無かったから新たに仕入れてくれたのだろうな。けど仕入れるなら100で良くないか?1000買わせる気満々マンめ。既に1000枚仕入れてて、250枚ずつ混ぜ込んで売りつける作戦かも知れない。
折角の星が付くチップだけど明日にしよう。
厩に住んで今日で10日か。顔を洗いに部屋を出たら、引き落としますよーって内容の板がドアノブにかけてあった。昨日かけられてたのかな?それとも今朝?気付かなかったよ。下に降りたら馬を洗ってる人がいたのでどうすれば良いのか聞いてみたら、ひっくり返してドアノブにかけておけば良いんだって。今月からは2万ヤンか。濡れた馬に顔を洗われ、髪を毛繕いされたので頭から洗う羽目に遭った。昨日お風呂に入らなかったからかな?
朝食を食べたら洗濯をして買い物に出かける。いつもの雑貨屋には外に油を売るスペースがあり、瓶入りや量り売りしてくれるおじいさんが座ってるんだ。
「こんにちは。量り売りでお願い」
「いらっしゃい。まずは容器を量るので出しておくれ」
天秤を使って素早く量り、油を注いで蓋をして再び量る。重さの差が油の量って事だね。数字の書かれた板をもらって、店の中で支払いを済ませたら商品と交換してくれるのだとさ。0.8ナリで800ヤン、0.8ナリしか容量がなかった上に瓶1200ヤンか。ぼられたなー。
「お客さん、目の前で量らない瓶詰めは信用しちゃいけませんよ」
瓶を受け取りおじいさんに教えを賜ってしまったよ。瓶だけでなく、中身も注意しろって事だね。お礼を告げて店を後にしたらギルドへと向かう。
「あら、ゲインさん。今日はお休みですか?」
中に入って顔を逸らす前に先制されてしまった。受付カウンターに座るマーローネだ。手招きまでしてやがる。スイングドアは外から来る者の顔が丸見えなんだよなー。仮面被るかな…。
「小銭ください」
ギルド証を出して出された黒板に金額を書いて、何やら処理されてギルド証とお金が出される。銀貨10枚、1万ヤンだ。
「ゲインさん、お暇でしたらお仕事しませんか?」
「街にいるから暇だと思うのは間違いだよ」
「それは残念です」
「本格的なダンジョン探索に向けて色々やってるんだ」
「じゃあ、デ」
ガガガッ!
「危ないじゃないですかーもー!」
背後に来たので撃ってやったが見事に椅子で受けられてしまった。もう勝てそうにないな。ドヤ顔のメロロアである。
「デートしましょ?デート!」
「ヤダよ俺を殺す気か?遊んでないで仕事しろ」
走って逃げたよ。空荷で走るとすげー速いのな。露店街に逃げ込んで、串焼き2本買って厩に帰った。馬達を撫で回し、馬房の中で横たわる熊を見つけた。掃除してなかったらうんこまみれだぞタララよ。柵に手足をかけて仰向けになっている。
「起きろ。いつから馬になった?」
「ゲーイーン、つーかーれたー」
「風呂に入って宿で寝ろよ」
「だっこしてー」
「装備着込んでて上がるかよ。串焼き分けてやるから風呂に入ってこい!」
もぞもぞするタララを急かして風呂に向かわせた。まずは報告、飯風呂寝る。ちゃんとしないと体を壊すぞ?部屋に入って石炭を足して、魔法で火を付けお湯を沸かす。タララが戻って来るまでチップでも齧っていよう。
スキル : 土魔法☆
土魔法 : 土魔法を扱う為の基礎スキル。
ソイル : 魔力を消費し土を発生させる。
サンド : 魔力を消費し砂を発生させる。
ストーン : 魔力を消費し石を発生させる。
きっちり100枚使って星を付けた。多分放出量が増えていると思う。千切り終わってゆっくりしている内にタララも戻って来た。
「あたいも串焼き買って来たよ。ゲインのお昼だし」
俺の座る場所を奪うかのように密着してくるタララから、珍しく良い匂いがする。花のような香りだ。
「なんかタララ、良い匂いがするな」
「でしょ?お風呂にお花が入ってたの。これで男をイチコロなんだって」
「男にだけ効く毒なのかな?」
「ゲインだって分かってるくせにー、おっぱい吸ってもいいんだぞ?このこのー」
「疲れておかしなテンションになってるな?先に昼飯にしようぜ。おっぱいは逃げないが串焼きの温もりはどんどん逃げてくぞ?」
湯で温まり、良い香りに包まれて、腹を満たしたタララの目には、開ける力は既に無く、俺の胡座に体ごと倒れ込んで夢の世界へまっしぐらになっていた。自分の部屋で寝ろよ…。
「今回だけだぞ?」
ベッドに抱き上げ寝かせてやると、熊並みの力で抱き着いて来たので仕方なく俺も横になった。良い匂いと顔に当たる柔らかさが心地いいかも知れない。深い呼吸を繰り返し、睡魔の誘いに乗ってやった。
「起きれ?ゲイン、もう夜だよ?」
「ん…、もうそんな時間か…」
「おっぱい枕、そんなに良かった?」
「ああ…、柔らかくて、温かくて、良い匂いがしたよ。タララは重くなかったか?」
「平気だよ。ゲインの匂い好きだもん。ちょっと馬の匂いもしたけど」
「そろそろ離してくれ。飯に行くんだろ?でないと3人目が出来てしまう」
「あたいは、良いよ?ゲインにはあたいの全部あげる」
「俺はもうちょっとタララと冒険者したいよ。それに今子作りしたら隣から何を言われるか」
「そ、そうだね…。ちょっと、恥ずかしいね」
ランタンに油を入れ、いつの間にか買っていたタララの分も入れてやり、カバンを提げて外に出た。いつもの酒場でいつもの夕飯。目に付くのはタララの笑顔と使い始めたばかりのランタンだ。
「タララのは六角形なのな」
「これ?こっちの方が照らす範囲が広いんだって」
窓をカパッと開くと6枚のうち3枚が解放し、開かない3枚に合体した。俺と同じで、戦う時は置いて殴るのだが、盾がある分灯りが届かず、鼻を頼りにぶちのめしていたそうだ。
「なんかね、出入りのチェックが厳しくなったんだって」
「成りすまして人を襲うチンピラがいたからなー。仕方ないな」
「ゲインの言ってた通りに挨拶したら丁寧に教えてくれたよ」
「挨拶は大事だな」
「他の冒険者はそーゆーの全然しないもんねー」
「門番さん直伝の、門番さんと仲良くなる方法だからな」
「それ初耳」
「大した事じゃないんだけどな、それよりタララはどこまで潜って来たんだ?」
「地下2階だよ。1階はゴブリンしかいないし、階段がすぐに見つかったから降りちゃった。下に行く階段も見つけたけどそこでやめといたよ。ウルフとゴブリンしかいなかったけどねー」
「賢明な判断だ」
「ウルフのチップ拾ったけど、要る?」
「オオカミとは違うのかな?」
「あたいじゃわかんないよ。ゲインが見てみて」
1枚受け取り図柄を見るが、オオカミと変わらないな。
「使っても良いか?」
「良いよ、あげるー」
「1枚5ヤンもするのに太っ腹なやつめ」
「柔らかい方が好きなんでしょ?」
「おデブちゃんは嫌だなー」
「いーから使え!」
凄まれちゃったので使いますよ。破いてもくもく、体に吸い込まれて行ったのをステータスで確認するが、新規スキルは無かった。ウルフとオオカミは同一みたいだ。魔石食ってるか否かの差でしかないから当たり前か。
「オオカミと同じ物だと思う。噛み付くスキルだな。そもそもウルフのチップを俺がオオカミだと思い込んでただけって方が正しいかも知れん」
「あたいは使わないし、全部あげるよ」
25枚のウルフチップをもらってしまった。
「ギルドに寄って、換金してから寝ろよ?」
「泊めてよー」
「洗濯しなさい。それにうちは1人用だ」
「2人用の賃貸借りたら、泊まりに来てくれる?」
「探すのは良いと思うぞ?余計な荷物を持ってダンジョンに入らなくて済むからな。それもまあ、数日分先払いしておけば済む話なんだが」
「なら明日は休み!家探すよ」
お前なら、借家の一軒家でも買えちゃうぞ。とは言わないでおく。そこに住んだら俺がヒモって呼ばれてしまうからな。
食事を済ませてタララのランタンにもらい火をしたら、ちょっと歩いて風呂屋の前で別れた。
ガガガッ!
足元に3発の小石を撃ち込み動きを止める。風呂屋の灯りの影に隠れていた害意が驚きと恐怖に変わった。
「お前、逃げ出したのか?」
ソレは答えない。けど感知系スキルで全て見えているんだよ。フードの2人組の、俺を刺した方の女だった。
「もう1人はどうした。捨てたのか?」
「そんな訳あるか!剣を返せ!」
「それが人に物を頼む態度か?襲って奪うつもりなら働いて中古の剣でも買えば良いだろ。返して欲しいならせめて清潔にしろ。タララは気付いてたぞ?気付かぬ振りして帰ってったがな」
「素手でも負けはせん」
「無理だよもう。もう1人の居場所もスキルで見つけた。風呂屋の裏の路地で男に絡まれてるぞ。貴族の護衛のクセに何やってんだ。俺は風呂に入るから、助けに行きたきゃさっさと行け。俺は貴族なんかと関わり合いたくないんだよ」
ささっと風呂屋に入り込み、男湯のドアの中に逃げ込んだ。馬の匂いがするらしいし、念入りに擦らないと…。
浴槽に浸かってゆったりまったりしていると、感知系スキルが2人の男の死を捉えた。逃げるな馬鹿女、明日騒ぎがデカくなるだろうが。
案の定、翌日の公共浴場前は衛兵が立ち、周囲への聞き込みがなされていたようだ。日がな一日チップを千切り、夕飯を食べに行く支度をしていると、飯を一緒に食べようと遊びにきたタララが外の様子を教えてくれた。
「ったく、あたいじゃないって言ってんのに」
「ご愁傷さま。けどどうしてタララが疑われたんだろうな」
聞くと、殺しの起きた時間+移動時間で換金に来たタララ他数名の冒険者が疑われてギルドの尋問室に呼ばれたのだと。衛兵詰所なら1日じゃ帰って来られないと言われてギルドに行ったそうなのだ。何人もいる冒険者の中で、行動記録が残ってるタララは早めに解放されたんだって。
「ねえ、ゲイン。怒らない?」
「怒るような事を言う訳か」
「うん。あたいね、あの子達を助けてあげたい」
「なぜそう思った?」
「このままだと餓死しちゃう。あれはそう言う匂いだったよ」
「場所は分かるか?」
「うん…。南東の壁の方。焼肉「やめとけ」なんでよ!?」
「肉の匂いで他のも集まってくるからだよ。ソーサーだけにしとけ」
「そうだね」
「行くなら風呂に入ってからだな。着替えもな。肉の匂いでいくらでも集まる」
「それは…、否定出来ないかな。装備着けるの?」
「夜のスラムだ。出来るなら泥まみれにでもなってから行きたいよ」
「それはヤだな」
この街には、スラムがある。働けない者、働きたくない者、悪事を働いた物が隠れ住むと冊子には書いてあった。国や街が保護したり摘発すればいいのにしないのは、単純に儲からないからだ。みんな農家や鉱山労働者にしてしまえば良いのに。
風呂に入り、一旦部屋に戻って装備に着替える。ギルドの前で待っていると少ししてタララが宿から出てきた。ちゃんとフル装備だ。
「歯は磨いたか?食い物は絶対に出すなよ?」
「磨いたよ」
「敵は殺す、良いな?」
「敵って…」
「こちらに寄ってくる全てだ」
「ゲインさん、きな臭い仕事ですか?」
「付いてきても報酬無いぞ?」
後ろに立つメロロアに、振り向かずに告げてスラムへと歩き出すとすぐに感知系スキルからメロロアが消えた。
「メロロアの匂いはするか?」
「全然」
「あれがプロだ。勝てる気がしない。いつでもメロロアが襲ってくると思って警戒しとけよ?」
「しないでしょ?」「しませんよ」
「しないって」
「きっと嘘だ。警戒を怠るなよ」
タララを前に、ゆっくり進む。興味本位で付いてきたメロロアは多分前か後ろか右か左か上か下にいるはず。即ち分からない。金銀の感知系スキルが効かないのだから虹でも使わないと太刀打ち出来ないな…。
星明かりしかないこの辺りでは、人の姿など無いように見える、と言うか暗くて見えないが、感知系スキルのおかげで壁際や、端材を組み上げた掘っ建て小屋の中に人の姿を捉える事ができる。
「見えてるか?」
「夜目は利くんだ」
鼻もだろ。暗い中を音を立てないようにゆっくり歩く。音を出さないのもランタンを出さないのも、敵の注目を集めない為だ。しばらくして2人の隠れ場所に到着した。
「出て来い馬鹿女」
「!?」
静かな口調で声をかけると衣擦れの音が反応した。
「餓死させたいならそのままでいれば良いさ」
「……わかった。お嬢様、少し出ます」
「んぅ…」
返事に力が無い。俺を刺した方の女は音を立てず、静かに歩み寄ってきた。
「…殺しに来たのか?」
「付いてこい。死にかけのお嬢様も「確保しましたよ」」
俺の前にいたはずのお嬢様が、今は俺の後ろにいる。姿を現したメロロアに横抱きにされて抵抗もしない。いや、できないのだろうな。
「お嬢様に「静かにして」」
「言う通りにしとけ。行くぞ」
「ゲインさん、私が先導します。付いてきて下さい」
お嬢様を抱えたメロロアが何故か先導し、俺達、女と付いて行く。しばらく歩いて着いたのは俺の住んでる厩だった。
「俺の部屋かよ!」
「ギルドよりは良いでしょう?」
そっと部屋に入り、ランタンを出す。いつもは広めの部屋だけど、5人入ると手狭だな。敷物の上に座らせてテーブルに水とソーサーを出してやる。
「まずは食え。その間にそいつの飯を作る」
お湯が半分程になった寸胴鍋に、千切ったソーサーを入れて煮る。混ぜて溶かしたどろどろが、とろとろのさらさらになったら火を落とし、味を見る。薄ら甘い飲み物になった。
「体力の落ちた老人や子供が飲むやつだ」
「ゲインさん面白い物知ってますね」
「本当の意味で飲むソーサーだね」
タララのコップに入れた飲むソーサーを、メロロアがやつれた女にちびちび飲ませてる。
「ん…あ…まい…」
久しぶりの食事が気に入ったのだろう、女はメロロアのするがままに飲まされて、落ち着いたら眠ってしまった。
「お嬢様を救ってくれて…感謝する」
「とっとと街を出て行けばもう少し食うに困らなかったと思うけどな?」
「…武器無しでは、守れん」
「飯無い方が守れんだろ?それに、棒切れや石ころでも獲物は狩れる。火が付けられるかどうかは腕次第だがな」
「ゲインさん、そりゃあ無理ですよ。蝶よ花よと育てられたお飾り騎士様ですよ?」
女をベッドに寝かしつけ、様子を見守っていたメロロアがトゲのある言葉を放つ。お飾りでも騎士になれりゃ安泰だよな。
「騎士って刺突剣なの?」
「力無いですからねー。剣よりもお茶の相手をする方が多いとも言われていますよ」
「そんなヤツに刺されたのか俺は…」
「その節は、すまなかった。お願いします。剣を返して下さい」
「金貨2枚」
「……」
女は押し黙る。払えるはずがないからな。代わりにタララが口を挟む。
「ゲイン、それ、あたいが払っちゃダメ、かな?」
「理由次第だな。俺が納得できるならそれでも良い」
「逃げ出す理由なんて人それぞれだけどさ、逃げるなら逃げ切って欲しいんだ」
「逃げる算段がないからこんな状態なんだぜ? 」
「全ては私が不出来なせいだ」
「そうだな。無知は罪だ」
「でしたら、お二人でこの人達に教えてあげれば良いのでは?」
「は?」
メロロアの突然の提案に変な返事をしてしまった。メロロア曰く、この女共を冒険者に仕立て上げ、生き方を教えてやれと言う事だそうだ。
「俺達はまだCランクだ。なんでFランクを育てなきゃならんのか」
「借金を返せる宛なんて、ゲインさんの下で働く以外無いじゃないですか?娼婦でも良いですけど」
「選択肢を消すなよ…。それならこいつらを俺の借金奴隷にするぞ?」
「エロい事をするんですね?」
「後ろから刺されたくないんだよ。パーティーメンバーが信じられないって時点でお断りなのはどのパーティーでも一緒だろ?」
「まあ、臨時でも無ければそうですね」
「それと、2人に仮面を用意しろ。顔割れてるからな」
「えー」
「嫌なら金下ろして引越しする」
「そんなぁ~、分かりましたよ。用意します」
明日、朝一で届けると言って出て行ってしまった。てか、こいつら俺の部屋に泊めるのかよ…。
「はぁ~。お前らは明日から冒険者だ。借金なんて2~3日もあれば返せるが、生きて行きたきゃ慣れる事だな」
「…わかった」
「じゃあ俺は宿に行くからとっとと寝てしまえ。明日迎えに来る」
残りのソーサーを全部出して、皮鎧と衣類の入った洗濯籠を収納した。1万5千枚もあるチップも草網カバン2号に纏めて仕舞った。置物の翡翠は盗れるものならって感じで放置した。
「え?ゲイン宿行くの?」
「俺だって寝たいんだよ」
「良いのか?逃げるかも知れんぞ?」
「街にいたら殺す。逃げるなら街を出ろ。できれば3つくらい離れた街まで行ってくれ。俺もその辺には行かないようにするから」
吐き捨てて部屋を出た。付いてきたタララと共に久しぶりにギルド直営店にやってきたが、満員御礼だと。ソーサー8食分は売って貰えたので良かった。24枚で800ヤン。安い。
「酒場にでも行って飲んでるふりでもするかな」
宿を出た俺達はすっかり人気の無くなった大通りを歩く。
「ゲイン、うちくる?」
「うち?お前賃貸探すって言ってたな。2人用のが見つかったのか」
「…なかったよ。けど3人になってもいーもん」
「しないよ?」
「わーってるよぅ」
タララに連れられた先は街の北西、貴族街に近い一軒家だった。
「お前これ家賃いくらだ」
「月10万ヤンだよ?」
「騙されてやしないか?安過ぎるだろ。こう言う家は金持ちが住むもんだ」
「お金はある」
「そうだな、あったな…」
中に入るとさすがに何も無い、真っ暗な玄関だった。ランタンの灯りの向こうに階段が見える。
「2階建て?0が1つ増えたりしなかったか?」
「厩だって階段あるじゃん」
「うちのは部屋1つで2万ヤンだ。1人で行かせたのは不味かったかなぁ」
「あ、マーローネさんと一緒だったよ?不安なら聞いてみなよ」
「不安が増したよ…」
1人が不安だったタララはマーローネに相談して商業ギルドに同行してもらい、物件を下見して契約を結んだそうだ。
1階には厨房と食堂、居間と客間にトイレ、そしてなんと風呂!2階には書斎に寝室が4つあり、屋根裏部屋もあると言う。絶対10万じゃ足りない。
階段を昇り、階段を昇って着いたのは屋根裏部屋。どの部屋も何も無いので今夜はここで寝るらしい。
「マント買ったよ」
「良いと思うぞ。けど部屋で寝るならマントより毛布が良いだろうな」
収納されてたマントを出して、ひらひらさせてくるが、埃が立つでやめた方がいいよ?寝具が無いので俺もポンチョ被って寝る事にした。
「この家ってね、衛兵隊の偉い人の家だったんだって」
小さな声で呟くように話すタララの声は静かな部屋にはよく響く。
「でね、その偉い人がなんかやらかして、仕事はクビ、一家は離散したそうだよ。場所は良いんで商業ギルドが買い取ったんだけど、一家離散した家だから買い手が付かなくて、安くても数年住んで安心して住めたって実績が欲しいんだって」
「知ってるか?そう言う家をな、事故物件って言うんだぞ?」
「へー」
そんな理由で安くなったのか…。ある意味俺のせいだな。いや、俺のおかげで安くなったのだ…と思ってないとやってられん。おやすみなさい!
朝になり、俺の腹を抱き枕にしてたタララを起こす。
「起きろ~。飯食って迎えに行くぞ~」
「う~…、ほしにくぅ…」
干し肉を鼻の前でチラつかせ、反応が出たのを見計らい、投げる。モゾモゾしながら干し肉に這い寄って行った。2人共装備つけたまま寝たので、抱き枕にされて動けなかったのだ。俺も飯にしよう。
食事を済ませて厩に向かうと、部屋のドアに袋がかけてあった。
「入るぞ」
袋を手に取り中に入る。2人共起きて部屋の隅に隠れるように座っていた。
「何やってんだお前ら、飯は食ったのか?」
「食べた。何者かと思って警戒していただけだ」
「助けて欲しいとも思ってないし、助けを頼んでもない。甘い水もソーサーも献上されたから仕方なく食べてあげたけど、店であんな下級品出されたらこっちがお金をもらいたくなるわ。そこの翡翠で良いわ、換金して支払いなさい」
「タララ、見たか?これが貴族だ」
息を吹き返したと思ったらこんな対応をされた。俺は怒って良いはずだ。
「あんた、今から痛い目見るけど覚悟してね?」
さすがのタララもこれには怒ったようだ。助けるなんて言わなきゃ良かったな。無礼者の女はタララの熊顔に恐れをなしているが、前に立つ女の後ろに隠れて減らず口を叩いた。
「エリモア、無礼者を懲らしめなさい」
ガッ!
「ふぐっ…」
「お前がそんな端っこにいる理由はこれだな」
腹に石を受けて蹲り、必死に吐き気を堪える女に答えを示す。
「俺が怒ってその馬鹿に殴りかかっても守れるように、だな?」
「エリモア!しっかりしなさい!死んでも守るのがあなたの役目でしょ!?」
「もう…しばけ、ありばぜん…」
「お前はもうしゃべるな。そこで寝てろ」
バチッ!バシッ!バチッ!
「ヒギッ!ぎゃ!いぎっ!」
1発ずつ、丁寧に顔面を狙い小石を射出する。痛みで蹲り、前の女の影に隠れるが、そんな事で避けられる程、俺の攻撃は甘くない。威力を変えず弧を描いた射撃が無礼者の体を容赦なく痛め付ける。
苦痛の声を上げながら、蹲った女の下に潜り込む卑怯者に怒りを通り越して殺意が湧いた。
「ウォーターウォール」
卑怯者のいる壁際を完全に水で満たした。顔を出さねば溺れ死ぬ。顔だけ出てる護衛の女を引きずり出し、水の壁を泥の壁に変えた。
「げ、ゲイン…様、お許しください」
「許せる範囲、超えてんだよ」
泥の壁を消し、卑怯者が大きく息を吸おうとした口に石をぶち当てると、声もなく崩れ落ちた。
「ゲイン!」「お嬢様!」
「治すなら借金だな。ゆ~っくり考えろ、ダンジョンに捨てに行くだけだ。俺もその方が後腐れなくて良い」
「治して下さい!私共々奴隷になります!お願いします!」
「良いのか?勝手に決めて。死なせた方が借金安いぞ?」
「お願いいたします、ゲイン様ぁ!」
「ゲインさん、それ以上はダメですよ?」
仕事はどうした?ドアも閉めてたはずなんだが、メロロアが感知系スキルをすり抜けて背後に現れた。
「貴族殺しはギルドでも庇いきれません」
「くそが。なら治療と奴隷の契約をしてくれ。冒険者の登録もな」
「お昼過ぎになったらギルドへ来てください。それまでに処理しておきます」
お飾り騎士から小皿に血をもらうと、卑怯者を担いで姿を消した。窓もドアも閉まっているが、本当に出て行ったのだろうか?
「どうだ?これでも貴族と関わらなきゃならんのか?」
「ゲインのが正しかったよ。今回はね」
今回は、か。次回も、その次も、俺の方が正しいと強く思う。搾取する側とされる側である以上、どんなに良い関係を築こうとも、結局する事される事は一緒なのだから。
現在のステータス
名前 ゲイン 15歳
ランク C/F
HP 100% MP 84%
体力 D
腕力 E
知力 E
早さ D-
命中 E-
運 D
所持スキル
走る☆☆ 走る☆☆ 走る 走る 走る
刺突☆☆ 刺突
硬化☆☆ 硬化 硬化
投擲☆☆ 投擲
急所外物理抵抗☆☆
飛躍☆ 飛躍
木登り☆
噛み付き☆☆ 噛み付き
腕力強化☆ 腕力強化 腕力強化
脚力強化☆ 脚力強化☆ 脚力強化
知力強化☆
体力強化☆ 体力強化 体力強化
ナイフ格闘術☆ ナイフ格闘術
棒格闘術☆
短剣剣術☆
避ける☆
魅力☆
鎧防御術
察知
探知
マジックバッグ
魅了
威圧
水魔法☆ 水魔法
ウォーター
ウォッシュ
デリートウォーター
ウォーターバレット
ウォーターウォール
ボーグ
土魔法☆
ソイル
サンド
ストーン
火魔法
エンバー
ディマー
デリートファイヤー
所持品
鉄兜E
肩当E
胸当E
腰当E
上腕当E
脛当E
鉄靴E
革製ヘルメット
革製肩鎧
革製胴鎧
皮手袋
皮の手甲
混合皮のズボン
皮の脚絆
耐水ブーツ
耐水ポンチョ
草編みカバンE
草編みカバン2号
布カバンE
革製リュック
木のナイフE
ナイフE
剣鉈E
解体ナイフE
ダガーE
革製ベルトE
小石中497
小石大☆450
石大☆20
冒険者ギルド証 6671558→6652791ヤン
財布 銀貨11 銅貨6
首掛け皮袋 鉄貨31
部屋の鍵
冊子
寸胴鍋
お玉
コップ
皿
カトラリー
竈
五徳
木ベラ
籠入り石炭52
洗濯籠
多目的板
蓋の無い箱
敷物
ランタン
油瓶0.5ナリ
着火セット
翡翠特大
中古タオル
中古タオル
中古パンツE
パンツ
ヨレヨレ村の子服セット
サンダルE
革靴
街の子服Aセット
街の子服BセットE
スキルチップ
ウサギ 3022/4391
ウサギS 0/1
ウサギG 0/1
ハシリトカゲ 2056/3166
ハシリトカゲS 0/1
ハチ 1742/2859
ハチS 0/1
カメ 2000/3459
カメS 0/1
ヨロイトカゲS 0/2
石 0/1853
石S 0/1
スライム 1023/2024
鳥? 213/1360
トンビS 0/4
サル 715/857
ウルフ 0/1051
ワニS 0/1
蝶 0/204
花 0/161
腕 440/541
腕S 0/1
腕G 0/1
脚 549/650
脚S 0/101
脚G 0/1
頭 475/576
体 422/523
体S 0/1
体G 0/1
棒 526/627
ナイフ 112/504
ナイフS 0/1
短剣 0/220
鎧S 0/1
袋S 0/1
水滴 157/394
水滴S 0/1
立方体 175/275
火 0/1
魅了目S 0/1
威圧目S 0/1
頭三本線S 0/1
頭三本線G 0/1
9
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