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武器さえあれば熊なんて敵じゃない
しおりを挟む食事が済んだら部屋に戻り、装備を整え下に降り、セイコーとベガに朝の挨拶をして、顔を洗ってギルドへと向かう。
「馬に馬車まであるとは…」
「ゲイン~、セイコーちゃんの匂いがするぅ」
「ちゃんと洗ったんだがなぁ」
「熊がおびき寄せられるかも知れないわね」「確かに」
「熊だったらな」
「人は近寄らないわね」
「そこまで臭うか?セイコーが泣くぞ?」
「言い過ぎたわよ、ごめんあそばせ」
ギルド前、ちょっと壁に寄った所に人集りが出来ていて、壁を背にしてギルマスと職員が立っている。パーティー名を呼んでる辺り、点呼でもしてるのだろう。近寄りつつある俺達に目が合ったギルマスが睨みを利かすと、それに気付いた冒険者達が一斉に振り返った。
「お前、威圧が効いてないのか!?」
「え?」
冒険者の一人に声をかけられ振り返るとタララとリッツに捕まり立ちするアントルゼとカウモアが居た。あれ?メロロアは?と思う間もなく背後から悲痛な声が上がった。
「わ、悪かった。だがお前等が遅れたのも悪っ悪かったって!!」
メロロアはギルマスの後ろで何か痛いか怖い事をしているようだ。
「遅れてなんてないじゃないですかもう。ギルマスが冒険者に舐められちゃいけないってのは分かりますが、これから依頼なんですから。意欲下げないで下さいね?」
「ぅぐ、分かった。済まなかった!」
謝罪もあったし手を打つか。それに今の茶番は余所者な俺達の実力を他の冒険者に知らしめる意味合いがあるのだと思う。みんなを集めて人集りに加わると、職員からの点呼があり、話が始まる。
場所は街の西、林を抜けた先の岩場だそうだ。昨日見た草原は崖の下にあり、そちらには人が入らないので行かなくても大丈夫との事。他の冒険者達は知っているだろうが、俺達の為に注意事項も説明してくれた。
「あ?リッツじゃねえか。お前コイツ等と組むのか?」
「え?あ、はい。今日は主に援護に回るだけですが」
「お前が居るなら説明は要らんかったか。足りない分はお前が説明しておけ。では各自、死ぬなよ」
「「「おうっ」」」
冒険者達が声を上げ、西門へと向かって行く。俺は少し気になる事を聞いてみた。
「ギルマスは目が悪いのか?」
「…どうだかな」
言葉を濁したが間違い無いだろう。威圧した時正面に居たのだから。答えを聞いて聞いて治るモノで無し、取り敢えず俺達も向かう事にした。
西門を抜けて街道を行く。リッツの速度に併せて行くので早足と歩きで交互に進む。
「はっ、はっ、何時も、こんなに早いんですかっがはっ」
早足に慣れてないのか、リッツの息が荒い。喋りながらむせている。
「落ち着いて、ゆっくり息を吸うと良いぞ」
「セイコーちゃんが来るまでは走ってたよ」
「スキルが無きゃ私もそんな感じよ」
「ス、スキル、ですか…ふう、ひぃー」
「スキルどんなの持ってるか、後でで良いから教えてよ」
「え、まあ、パーティーですし、良いですよ?」
勿論野良パーティーでこんな事は聞かない。教え合ってもその場で使うスキルだけだ。俺達は長距離移動のパーティーになるので、ある程度は詳しく知っておきたい。
「ゲイン様、地元民のリッツさんならチップ屋について知っているかも知れません」
「チップ?スキルチップですか?それなら商業区で、西門のすぐ側にありますよ?」
「見てなかったぜ」
「依頼中ですから仕方ありません」
「帰りに見てこ?」
「ああ。けど今日は軽く覗くだけにしとこう」
「一応ですが、近々で必要そうなスキルですと、火魔法と水魔法が初級で使えます。後は弓術。短剣剣術とナイフ格闘術もあります」
「魔法、奮発したんだね~」
「高かったですが鍛治にも家事にも使えますからね」
火と水に、ナイフとダガーか…。確認したら全部持ってた。
「ありゃ、それ全部手持ちにあるな」
「売り付けられなかったわね」
「残念だぜ」
「お、お金…取りますよねそりゃあ」
「安心なさい?ゲインから買った方が安いわよ」
「買うチップは選べないけどねー」
タララは100枚買わないじゃないか。こんな事ならブラウン商店で箱買いしてから出るんだった。
「露店街みたいな所でも売ってたりする?先日見て回ったけど見つけられなくてさ」
「あると思いますよ。絶対ではありませんが…。あ、皆さんのランクを聞いてませんでした。私Bです」
「護衛依頼達成済みなんですね。私達は揃ってCです。パーティーランクはDですね」
「先輩だったんだねー」
「え?あの依頼、B以上…でしたよね?」
「ギルマスのゴリ押しでさ」
「無理せず、慎重に行きましょ?ね?」
リッツから臆病風がビュービュー吹いてるのが可笑しくて笑ってしまう。
「ははは、敵次第だね」
「ひひっ」
「ふふふ…で、良いのよね?」
「…誰か、へで笑ってください」
「ほほほ…柄ではありませんね」
「ドレス着たら大丈夫よ」
「大丈夫なんでしょうか……」
休憩してる何組かのパーティーを追い越して目的地の入口思しき岩場にやって来た。岩が高くて隠れるのに良さそうな場所だが、それは敵にも言える事。同業者同士で撃ち合う危険もありそうだ。
「みんな、感知系スキルで索敵しながら行こうか。リッツさんは殿で、メロロアは岩の上から斥候を頼むよ」
「はーい」「あいよー」「右に出ます」「は、はい」
盾を構えたタララを前に、左右を俺とカウモア真ん中にアントルゼを据えて後ろをリッツにお願いした。
「ゲイン、私は後ろを見れば良いのね?」
「真ん中はみんなで意識しよう」
「…皆さん察知を持ってるのですか?」
「探知まであるわよ?高かったわ」
「お、お金持ち…」
「ゲインの特技ってね、お金稼ぎなんだよー」
「一番稼いでるのお前だぞ?」
「売れないも~ん」
「ゲインさ~ん、近くには居ないみたいです~。他のパーティーも奥へ奥へしてるみたいですし、追いますか?」
少し前に出ていたメロロアが帰って来ると、選択を迫る。追うか、追わぬか。
「いや、ザルだろ」
「成程。左右も多めに見ますね」
俺の答えに納得し、消えた。消える必要はあるのだろうか?
「えっと、どうする予定なのでしょうか」
「左右から挟まれないよう慎重に進むよ。みんな、ブロック10個くらい取っといて」
「「はーい」」「了解です」
「ブロック?…え?ええ!?」
タララとカウモアが立ちそびえる岩からブロックを切り出し、俺とアントルゼに10個ずつ配る。それを見たリッツは驚きの声を上げた。
「そんなスキル見た事無いですっ。何ですかそれ!?」
「ゲインに買わされた結果ね」
「詳しくは後でな。みんな、抜剣して行くぞー」
「はーい、棒だけど」
「私スコップよ」
「ブロードソードで行きます」
剣鉈をスコッと抜いて感知系スキルに集中する。リッツも弓を携えて、移動の準備は整った。
「ゲイン様」
「ゲインさん、右から来ます。熊2です」
暫く歩いているとカウモアが反応し、メロロアが帰って来た。
「通路を出来るだけ塞いでタイマンに持って行こう」
「私とアントルゼで左右から挟みます」
「やってやるわ!」
「あたいは前の半分ね」
立ちそびえる岩を迂回して、アントルゼとカウモアが左右からブロックを積み上げる。足りない分はその場で切り出してるようで、ドカドカッと壁を作る音に熊達の足が止まった。
「そろそろかな?」
足の止まった熊の一匹を狙い、タララがブロックを射出する。足元を狙った2つは躱されたが、その上に俺が4段乗せて、準備は整った。
「ボーグ!」
狭い隙間を抜けようとして押し合いになる熊共の足元をぬかるみに変える。足を取られた熊共に生き残る未来は無い。
「デリートウォーター!」
「出るよ!」
タララの金棒が四足を固められた熊をぶちのめす。身をよじって躱そうとするが、左右からブロックが飛んで来て挟まれてはどうしようも無い。頭蓋骨をぐっちゃぐちゃにされて、熊共は動かなくなった。
「ふしっ!ふしーっ!」
「よくやったぞタララ。焼肉1枚増やしてやろう」
「ひっ、ひっ、やった。ふぅ~」
「ゲイン様、ブロックを回収します」
「武器が増えたわね。槍作ったのに」
みんながブロックを片付けてる間に熊の血抜きをしておこう。剣鉈でスパッと首を落としたら、直ぐにデリートウォーターを2発。急いでるので手足は捨てるが腕と脚を根元から収納し、胴体は4分割にして収納した。
「討伐部位ってどこだっけ?」
「顔ですね」「ぐちゃぐちゃね」
「無いよりマシだろうし回収しとくよ」
「皆さん、何と言うか…、まともじゃないですね…」
立ち尽くしていたリッツさんからの評価は辛口だ。
「俺もそう思うよ。皮が勿体ないけど分割しないと回収出来ないからねー」
「そうじゃ無いの!こんな戦い方する人達初めてって話なの!」
解体方法では無く、戦い方の話らしい。まあ、まともに武器で戦ってたのタララだけだしな。俺も魔法しか使ってないし。
「中級魔法を持ってる事にも驚きですが、泥沼を固めて足止めなんて、初めて見ましたよ!」
「有効だろ?」
「そうですが…」
「リッツさんはデリートウォーターって、何に使ってた?」
「…濡れた服を乾かすくらいにしか…。獲物の血抜きまで出来るなんて…」
「詳しくは後で話すが、これ内緒な?」
「訳が分かりませんが…、分かりました。取り敢えず、皆さんがこの依頼に捩じ込まれた理由は理解しましたよ」
「ゲインー、片付け終わったよ~」
「俺のブロックは?まあ、良いか」
岩からブロックを切り出して俺の準備も整った。隊列を組んでいると斥候に向かってたメロロアが帰って来た。今度は岩の上をぴょんぴょん跳ねてるから分かる。
「ゲインさん、この辺りはこれだけみたいですね」
「あら、意外と少ないのか?それとも奥に群れてるか?」
「後者だと先行者が危ないですねぇ」
「とは言え急いでは行けないな」
「どして?」
「居ないと思うと居るモンだからだ」
「メロロアでも気付けないならよっぽどよ?」
「その時は私も参戦しますよ。一先ずは安心して良いかと」
「なら急ごうか。前線が崩壊したら俺達の負担がヤバそうだ」
慌てず急いで確実に。感知系スキルで見渡しながら、足並み揃えて前を追う。
「おーい、生きてるかー?」
岩に背を着け休んでると思われる一団に少し遠くから声をかける。
「一人怪我した。あるならポーション売ってくれ」
「…なあリッツさん、依頼行くのにポーション持たないで行くのはここでの常識か?」
「まさか。使い切ったのでしょう?」
「種類とお値段分かる?」
「ライトポーションで5000ですね。ノーマルで8000です」
「意外と良い値段するのね。アクセサリーより高いじゃない」
感知系スキルでは嘘は無いみたい。
「メロロア先輩、お願いします」
「はいはーい」
鞄からポーション1本取り出して、メロロアに渡し、10ハーン程の間合いを取って待機した。野獣達との戦いより、冒険者同士のいざこざの方がよっぽど危険なんだ。アントルゼとリッツをタララの後ろに隠し、カウモアは抜剣状態だ。
「ゲインさん、売って来ましたよ」
「助かるよ」
帰って来たメロロアから金を受け取り目で合図。リッツ以外は気付いたか。前進する振りをして、見えなくなったら迂回する。金属鎧だからどこまで騙せるか分からんが、警戒してると思わせて、諦めてくれればそれでも良い。
「あの、聞いて良いですか?」
「察知スキルってな、相手の感情が分かるんだよ」
「表情には、出てませんでしたね…。まさか…」
「ゲインさん、後で報告しておきますね」
「いつもすまないねぇ」
「祝杯付き合ってくださいね」
声はするのに姿は見えず、けれどどこかに隠れてる。
「ゲイン様、前に1頭です」
「後ろからも来てるわね」
「困ったな」
「お酒を部屋に持ち込みさせてくれたら…」
「メロロアよ、寝てる子も居るんだぞ?おっぱい枕で我慢してくれ」
「それはそれで。では…」
「おっぱい…」
リッツの呟きが終わると同じく、熊の気配が消えた。そしてその場所には血を流した熊がうつ伏せになっている。
「悔しいが首だけ持ってこう」
「モモもっ」
「急げよ?」「あいよっ」
デリートウォーターを2回かけ、首を落として回収した。タララはモモだけ回収し、ボーグをかけて泥まみれにしていた。考えたな。
賊と化した奴等を撒くのに無駄な時間を費やして、干し肉を齧りながら歩く。
「コレってパーティー毎に何匹殺るとかあるのか?」
「無いですよ」「ありませんね」
「なら帰ろうか」
地元民と元ギルド職員が言うのだから間違いないだろう。それに、6人パーティーで頭3つに体2つとモモ2本なら充分だろ?それに同業者にまで狙われていたら仕事にならん。索敵しながら大回りで街に戻った。
「あらリッツ。パーティー組んだって聞いたけど」
ナマモノなので1番に買取りへ足を運ぶと、リッツの顔馴染みなのかフランクに話をしだす買取り嬢。なぜか俺を見て嫌な顔をする。
「何を疑ってる?仕事しないなら他と代わってくれないか?ここで熊の生首晒しても良いんだぜ?」
「う、疑ってなど…。ともかく、解体場へどうぞ」
嫌な事をされたら嫌な事で返すのが1番だ。カウンターを血塗れにしたくない買取り嬢はすぐさま場所を変える提案をした。
「ゲインさん、この子、幼馴染みなんで、あまり無碍にしないでくれると嬉しいです」
「ならその子さんが今どんな感情を向けてたか教えてやろう。疑いに、嫌らしさ、そして敵意だ」
「察知!?」
「私以外みんな使えるわ」
「は!?」
「ねえ、敵意って女の敵、みたいな?」
「まあ、怒るわよね」
「我が主になんて感情を向けるのですか。貴族であれば首が飛びますよ?」
「私をギルドから寿退社させてくれた人なんですから、変な目で見ないでください」
「熊って事は今日の依頼の新人なのよね?」
「リズ、この人達、CだけどB以上だから、頭使って」
「感情もコントロールできると尚良いな」
その後は無言を貫いて、解体場に案内されると係の者と引き継いで、スタコラサッサと逃げてった。頭を使ったようだ。
「熊狩りにしちゃあだいぶ早いな。トラブルか?」
「ああ。地元のパーティーが野党になった」
「そうか。後で報告頼むわ。で、獲物はどこだ?」
出された盥に熊の生首を乗せてやる。血抜きはバッチリだから汚れは最小限に抑えてある。それを見たずんぐりマッチョのおじさんはほうほう言って品定めを始めた。メロロアは一足先に報告して来てくれるって、解体場を出て行った。
「体はどうした?」
「焼肉と干し肉にする予定だよ」
「なら皮は要らんだろ?買い取るぜ?」
「タララ、良いか?」
「なんであたいに聞くのさ」
「皮も食うかなーって」
「煮ると美味しいよねー…って、今まで食べてなかったじゃん」
「食べられるのね」
「煮込む時間はありませんね。売るのが良いかと」
バラバラだから売れるか分からんが、取り敢えず全部テーブルに乗せてやった。
「良い血抜きしてやがる。それに傷も無ぇ。皮が切れてなきゃもっと色付けてやったがな」
「持ち切れないんだ」
「100ナリ制限か。だったら良い事教えてやるぜ。毛皮だけって念じながらソイツを仕舞ってみな」
「なるほどね。スキルはアイデア次第で色々使えるって、改めて感じるわ」
おじさんに言われた通りにやってみると、分断されたモモが骨付きモモ肉に変わった。
内部での加工は出来ないが、細かいパーツ毎で収納できるのか。だったら毛皮だけでなく、内臓だけ、骨だけって事もできるハズ。で、やってみたら骨だけ回収できた。元々怖いスキルだと思ってたが、かなりヤバい。
みんなにも一通り解体させて、生首と生皮を納品した。ちなみに骨は要らないってさ。買取額は明日、依頼料と一緒に出すって事で、解体場を離れた。
「あ、リッツ以外にお金振り込むよ」
「遊ぶ金が増えるわね」
「遊びにでも行きますか?」
「あたいお金使う遊びした事な~い」
「俺もだ。冒険者になるまでお金自体数える程しか触ってなかったし」
「だね~」
「あら、私もよ?払うのは家だったもの」
「恥ずかしながら、私もです」
「タララさんは庶民の出、なんですね」
「俺農民」
「私…秘密で」「でしたら私も」
「お金のあるなし関係なく、お金は触れないモノなのです。戻りましたよ~」
「5人でお金を分けるから、空いてそうなカウンターに行こう」
「「「「はーーい」」」」
ボッチになりそうなリッツを押して引いて、空いてるカウンターに並ばせる。1人にしたら厄介事に遭うからな。順番が回って来ると受付嬢にギルド証を渡し、4人のギルド証に40万ヤンずつ振り込んでもらった。
「お、お金持ち…」
「働けば貯まるわよ」
「ゲインと一緒ならねー」
「タララのおかげだぞ」
「イチャイチャするのは宿に帰ってからにしましょう。私も参加したいですから」
辺りから、チッチチッチと鳥が鳴く。干し肉も作りたいし退散するに限るな。ギルドから出て宿に向かう道すがら、気になったので聞いてみた。
「なあリッツさん」
「は、はいっ。なんでしょうか」
何を緊張してるのか?
「リッツさんは今夜も家に帰るの?」
「はいっ、今夜は家に帰れます。明日の昼に売却の手続きがあるので、明日は午後までご一緒出来ません」
「ならさ、今からキッチン借りても良いかな?干し肉の仕込みをしたいんだ」
「宿でやると汚れ気になるもんね~」
「掃除できる程度の汚れでしたら、まあ」
「大丈夫よ、ベッドを汚したくないってだけだから」
「はぁ…」
お喋りしながらリッツの武器屋に向かう。
「あ、そうだ。剣鉈のメンテナンス頼める?金払うよ?」
「構いませんよ?後、その事なんですが…」
嵩張る鍛冶用品を出来れば持って行きたいと言う。鍛冶場に寄って見せてもらうと、1人で持ち運ぶには無理があり、馬車に乗せたらセイコーが可哀想に思える程重そうな荷物だらけだった。
「竈は流石に無理だな」
「それはまあ」
「ゲイン、あんた竈あるじゃない」
アントルゼが言うので出して見せると、長物は焼けないが小物なら何とかと言う評価。長い奴を作ってくれればカウモアの得物を叩き直す事ができると言う。
「ツーハンドソードもあるんだよなぁ、100ナリに収まるかどうか…」
「そんなのまで持ってるんですか…」
大物の双璧をなす研ぎ機は100ナリに収まった。100ナリに収まるように作ってあるのかも知れない。そうでなければ売りにくいだろうしな。
「では研いでおくので皆さんはキッチンへどうぞ。なるべく汚し過ぎないように、お願いしますね」
さて、キッチンに来た。大きいテーブルがあるので助かる。先ずは鍋やバケツ、箱も中身を出して、容器になる物全部出す。そして調味料。
「タララは肉を同じ重さで切ってくれ。厚みも同じくらいだと食べる時悩まなくて良いぞ」
「あ~い」
「それと、焼き鍋に入る大きさでな」
「あいよー」
「鍋に調味液を作るから、2人は肉を浸してバケツに入れてくれ」
「分かったわ」「了解です」
「ゲインさん、私は?」
「タララに渡す前の肉から筋でも外してもらおうかな。後、骨を焼いて、筋と一緒に煮てもらおうか」
「野菜も入れます?」
「ああ、ハーブも入れようか」
「了解しました」
「ゲインさん、研ぎ終わりましたよ」
「ありがとう。300ヤンで良い?」
「はい」
リッツにお金を支払って、作業開始だ。人体の急所を知り尽くしているだろうメロロアのナイフが、塊肉から筋を切り外し、程良い大きさの精肉へと変える。それをタララが収納で切り分けて、アントルゼとカウモアが調味液に浸し、バケツへ入れる。
「リッツさん、竈使って良い?」
「え、はい。構いませんよ?」
許しを得て、石炭を焚べて火を着ける。時短のために魔法で着けたが久しぶりの魔力が減る感覚に少しフラッとする。
熱した焼き鍋に脂を焼き、更に骨を並べて焼く。腹が減るな。背後からジュルジュルと不快な音がする。
「タララ、焼いた脂身、食うか?」
「食~べる~」
味付いてない脂身を熊みたいな顔で咀嚼してた。怖いよ…。
焼けた骨を仕舞い、新たな骨を焼く。鍋に入れたいけど使用中だから仕方ない。
「ゲイン様、バケツと箱が一杯です」
「疲れたわ」
「アントルゼは手を洗って良いぞ。肉の残りはどれくらいだ?」
「漬け込まれた切り身はモモ肉2つ分で、残りは丸々残っております。体8、腕4、モモ4ですね」
「箱とバケツじゃこんなモンか。枚数はわかるか?」
「872枚です」
「あんた、数えてたの?」
「ゲイン様なら気にするかと思って」
「良かったわね、気にされてて」
「1日10枚食べても87日…うひひ…」
それ、俺達食ってない計算だろうが。それにタララが2枚、俺達が1枚ずつ食べて1日21枚だ。40日程度しか持たん計算だが、その前に悪くなるだろうな。
「時間の止まる箱が欲しいぜ…」
調味液の大鍋が空いたので骨と筋と野菜とハーブを煮るのだが、筋を入れたら勿論骨なんて全部入らない。使い切れない骨と肉の処理に困った。
「宿にでも売ってしまったらどうです?」
地元民のアドバイス助かる。
「地元民の顔が利いてくれると助かる」
「なら早い方が良いですね。夕方になれば依頼の肉が出回り始めますから」
「ギルドに卸しても良い訳か」
「ゲインさん、買い叩かれますよ?敵を作らないって考えは賛同しますが」
「多分だがな、今俺達が持ってる肉が1番程度の良い肉だと思うんだ」
「なら狙いは貴族御用達の店ですね」
「顔が利くならそうしたいな」
「これでも地元民です。任せてください」
握り拳を胸の前でグッとして、ドヤる顔が曇らない事を願う。
「メロロア、悪いがリッツさんと2人で売って来てくれないか?」
「了解ですよ~」
「皆さんで行かないのは?」
「あたい獣人だし、熊人だもん」
「私アリよ?」
「牛です」
「鍋の世話するし」
「べ、熊人はともかく、アリや牛なのは外せば良いのでは…」
「それは出来ないわ。美し過ぎて貴族が嫁に欲しがるもの」
「男が群がって歩けなくなります」
「…もう良いです…」
何かを諦めたリッツはメロロアと共に出て行った。メロロアは骨も持ってったのか。売れたら良いがなぁ…。
煮込み、水を足し、石炭を焚べ、甘いお湯を飲み、更に煮込む。そんな感じで時間を潰しているとリッツとメロロアが帰って来た。感情を察するに、売れたようだ。
「戻りましたー」「ただいまです」
「「お帰りー」」「お帰り」「お帰りなさい」
「まさかあんな額で売れるなんて…」
「言った通りでしょう?買い叩かれるって」
「本当に…。ゲインさんの特技がお金稼ぎだって、理解出来ました」
何と、あれだけの量の肉が完売したのだと。店に使う以上の分は贈答用だとメロロアは推測した。そして骨も売れたそうだ。俺がやってたのを説明すると、ならば試しにと買ってったそうだ。こっちはほぼ投げ売りだそうで儲けは微々たる物だが売り捌けるだけ立派だ。
「リッツの顔が相当利いたんだな」
「いえいえ、肉の質が良かったからですよ」
「私、飛び切り営業スマイルしました!」
「そかそか、よしよし」
俺の竈に火を移し、鍋を乗っけて収納する。寝る前に水を足せば朝には火も消えているだろう。
「今貰えた売上はすぐに分配してしまおう。いくらになった?」
「全部で120万ヤンになりました」
それは、売れたなぁ。リッツが喜ぶのも頷ける。1人20万ヤン。12枚のミスリル貨を2枚ずつ受け取り、懐へ仕舞う。
「あ、あの、今日、泊まって行きません?」
「1人で寝るのが不安か?」
「察して下さい!」
不安感は察してたけど、そこまで不安になる事ないだろう?頭が働かなくなってるんだろうな。
「ギルドに預けて来たら良いのに」
「だな。夕飯食べるにも風呂入るにも外出るだろ?その時に寄ったら良いさ」
タララの答えにハッとしたリッツ。やはり錯乱してたようだ。
「で、ですよね。何でそんな事思い付けなかったんだろ…」
「お金の怖い所よ」
「あの、一緒に来てもらえますよね…?」
仕方の無い先輩だ。店を出て、ギルドへ向かう。タララとアントルゼとカウモアは宿に戻した。そろそろ夕飯だから席取っといてもらう為だ。それに目立つしな。
「小銭は取っとけよ?」
「子供じゃないんですから、そんなヘマはしませんよ」
見た目は子供だけどな。だが口に出さない。
「おう、アイツだ!」
「先に逃げ出しやがって!」
「お前等のせいでパーティーが崩壊したぞ!?」
何を言っているのやら。ギルドに着くと、依頼を受けてた冒険者達が俺達に向かって怒鳴り散らす。確かに数は減ってるな。だがお前達と共闘して無いし、俺達を狙って来た馬鹿共はニタニタと元の顔をより醜く変えていた。
「他に何か言う事はあるか?」
「「「「!?」」」」
「こっちも野暮用終わらせるから、それまでにお前等が言いたい事、全部紙に纏めとけ」
「字なんて書けっか!」
「職員に代筆頼めよ馬鹿」
空いてるカウンターに入り、リッツの事務処理をしてもらう。馬鹿共も職員を捕まえて、紙に何やら書かせてるようだ。俺は小声でギルマスを呼ぶように伝えると、受付嬢は目配せして他の職員を上に上がらせた。
「小銭は取っとけよ?」
「あ…。すみません、引き出し…お願いします」
よくそれで護衛依頼こなせたな…。
現在のステータス
名前 ゲイン 15歳
ランク C/D
HP 100% MP 92%
体力 D
腕力 E
知力 E
早さ D-
命中 E-
運 D
所持スキル
走る☆☆ 走る☆☆ 走る 走る 走る
刺突☆☆ 刺突
硬化☆☆ 硬化 硬化
投擲☆☆ 投擲
急所外物理抵抗☆☆
飛躍☆ 飛躍
木登り☆
噛み付き☆☆ 噛み付き 噛み付き
肉体強化 肉体強化☆ 肉体強化☆
腕力強化☆ 腕力強化 腕力強化
脚力強化☆ 脚力強化☆ 脚力強化
知力強化☆
体力強化☆ 体力強化 体力強化
ナイフ格闘術☆ ナイフ格闘術
棒格闘術☆
短剣剣術☆ 短剣剣術☆
避ける☆
魅力☆
鎧防御術
察知
探知
マジックバッグ
マジックボックス
鑑定☆ 鑑定
魅了
威圧
壁歩き
水魔法☆ 水魔法
|├ウォーター
|├ウォッシュ
|└デリートウォーター
├ウォーターバレット
├ウォーターウォール
└ボーグ
土魔法☆
├ソイル
├サンド
└ストーン
火魔法
├エンバー
├ディマー
└デリートファイヤー
所持品
革製ヘルメット
革製肩鎧
革製胴鎧
皮手袋
皮の手甲
混合皮のズボン
皮の脚絆
水のリングE
水のネックレスE
水のブレスレットE
革製リュックE
├草編みカバン
├草編みカバン2号
├紐10ハーン×9 8ハーン
└布カバン
├冊子
├筆記用具と獣皮紙
├奴隷取り扱い用冊子
└木のナイフ
革製ベルトE
├ナイフ
├剣鉈
├剣鉈[硬化(大)]
├解体ナイフ
└ダガー
小石中472
小石大☆450
石大8
石片71
槍☆13×4
槍1
石製穂先24
冒険者ギルド証 400,000ヤン
財布 ミスリル貨233 金貨30 銀貨10 銅貨83
首掛け皮袋 鉄貨374
箱中 1,024,678ヤン
ミスリル貨 金貨69 銀貨291 銅貨436 鉄貨78 砂金1250粒
マジックボックス
├猪燻203枚
├戦利品
├箱
|└シルクワームの反物×30
├未購入チップ各種箱
├医薬品いろいろ箱
├食料箱×2
├調理器具箱 (肉漬け中)
├寸胴鍋
├水飴寸胴1/2
├大鍋 (骨煮中)
├ヤカン
├お玉
├コップ
├皿
├カトラリー
├木ベラ
├ランタン箱
|└油瓶×10 8.6/10ナリ
├竈、五徳 (骨煮中)
├蓋付きバケツ大 (肉漬け中)
├テントセット
├マット×4
├中古マット×5
├毛布×9
└洗濯籠
├耐水ブーツ
└耐水ポンチョ
鉄兜E
肩当E
胸当E
腰当E
上腕当E
ゲル手甲E
ゲル股当E
帆布のズボンE
脛当E
鉄靴E
熊皮のマントE
籠入り石炭0
石炭75ナリ
ランタン
油瓶0/0.8ナリ
着火セット
輪止め×2
飼葉たっぷり
服箱
├中古タオル
├中古タオル
├未使用タオル×2
├中古パンツ
├パンツE
├未使用パンツ×2
├ヨレヨレ村の子服セット
├サンダル
├革靴
├街の子服Aセット
└街の子服Bセット
スキルチップ
ハシリウサギ 0/4521
ウサギS 0/1
ウサギG 0/1
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