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第13章「もう一人の転生者──鏡のような存在」
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翌日の午前、四人は王宮の謁見の間に呼ばれた。
「緊張するな……」
蓮は呟いた。
王宮に入るのは初めてだ。
豪華な装飾、高い天井、立派な柱──全てが圧倒的だった。
「大丈夫ですよ」
アリシアは微笑んだ。
「私も一緒ですから」
謁見の間に到着すると、すでに何人かの貴族や騎士が集まっていた。
そして、玉座には──
国王陛下が座っていた。
「頭を下げろ」
レオンハルトが囁いた。
四人は膝をついた。
「面を上げよ」
国王の声が響いた。
四人は顔を上げた。
「お前たちが、冒険者パーティ『トリニティ』か」
「はい、陛下」
アリシアが答えた。
「うむ。お前たちの活躍は聞いている」
国王は満足そうに頷いた。
「魔王軍の幹部を倒し、王国を守ってくれた。感謝する」
「恐れ入ります」
「さて、本題に入ろう」
国王は手を挙げた。
すると、謁見の間の扉が開いた。
一人の青年が入ってきた。
「……」
蓮は息を呑んだ。
青年は20代前半と思われる。
整った顔立ち、黒髪、そして──どこか日本人らしい雰囲気。
「彼が、異世界からの来訪者だ」
国王が紹介した。
「名を、佐藤健太という」
「佐藤健太……」
蓮は青年を見つめた。
健太は蓮に気づき、目を見開いた。
「まさか……お前も日本人か?」
「ああ……」
蓮は頷いた。
「俺も、転生者だ」
「そうか……」
健太は複雑な表情を浮かべた。
謁見が終わった後、四人と健太は別室に案内された。
「改めて、自己紹介しよう」
健太は椅子に座った。
「俺は佐藤健太。24歳。元々は、東京でシステムエンジニアをしていた」
「俺は神谷蓮。22歳。大学生だった」
蓮も自己紹介した。
「へえ、大学生か。どこの大学?」
「都内の私立大学。あまり有名じゃないけど」
「そうか」
健太は頷いた。
「で、お前はいつこの世界に来たんだ?」
「三ヶ月前。交通事故で死んで、気がついたらこの世界にいた」
「俺も似たようなもんだ」
健太は腕を組んだ。
「過労死だけどな」
「過労死……」
「ああ。残業続きで、ある日突然倒れた」
健太は自嘲気味に笑った。
「社畜の末路ってやつだ」
「……」
蓮は言葉に詰まった。
「まあ、今となっては過去の話だ」
健太は立ち上がった。
「それより、お前のスキルは?」
「支援術師だ。仲間を強化するスキル」
「支援術師か……」
健太は少し驚いた表情を浮かべた。
「俺は『剣聖』だ」
「剣聖……?」
「ああ。剣の才能が異常に高くなるスキルだ」
健太は腰の剣を叩いた。
「おかげで、この世界に来てから一ヶ月で、Bランクまで上がった」
「一ヶ月でBランク……!?」
蓮は驚愕した。
自分は三ヶ月かかってCランクだった。
「すごいな……」
「まあな」
健太は自信満々に言った。
「剣聖のスキルは、本当に強力だ。俺一人で、Aランクの魔物も倒せる」
「……」
蓮は少し複雑な気持ちになった。
健太の自信に満ちた態度。
自分とは対照的だった。
その時、アリシアが口を開いた。
「佐藤さん、一つ聞いてもいいですか?」
「何だ?」
「あなたは、なぜ王都に来たんですか?」
「ああ、それか」
健太は椅子に座り直した。
「実は、俺は辺境の街で冒険者をしていたんだが、ある日、魔王軍の幹部に襲われた」
「魔王軍の幹部……」
「ああ。ダークナイト・ガロンって奴だ」
「ガロン……!」
蓮は驚いた。
以前、王都で会った魔王軍の幹部だ。
「お前も会ったことあるのか?」
「ああ、少し前に」
「そうか」
健太は頷いた。
「俺は、ガロンと戦って、何とか撃退した。だが、一人では危険だと判断して、王都に来ることにした」
「なるほど……」
「それで、国王陛下に保護を求めたってわけだ」
健太は腕を組んだ。
「まあ、俺の実力を見込んで、騎士団に誘われたけどな」
「騎士団に……」
「ああ。でも断った」
健太は立ち上がった。
「俺は、組織に縛られるのが嫌いだ。自由に動きたい」
「……」
蓮は健太を見つめた。
自信家で、実力もある。
だが、どこか孤独な雰囲気も漂っていた。
その日の午後、四人は健太と一緒に街を案内することになった。
「この街、でかいな」
健太は周囲を見回した。
「辺境の街とは比べ物にならない」
「王都ですからね」
アリシアが説明した。
「人口10万人。王国で最も栄えた都市です」
「へえ」
健太は興味なさそうに答えた。
「で、お前ら、普段は何してるんだ?」
「依頼を受けて、冒険してます」
セラが元気よく答えた。
「魔物を倒したり、人を助けたり!」
「ふーん」
健太は特に感心した様子もなかった。
「俺も似たようなもんだな」
「……」
蓮は少し戸惑った。
健太の態度は、どこか冷たい。
仲間意識や、人を助けることへの情熱が感じられない。
夕方、五人は酒場で食事をしていた。
「それにしても、お前ら仲良いな」
健太が言った。
「いつも一緒に行動してるのか?」
「ええ」
アリシアは微笑んだ。
「私たちは、パーティですから」
「パーティか……」
健太は酒を飲んだ。
「俺は、ずっとソロだったからな。パーティを組んだことがない」
「え、一度も?」
セラは驚いた。
「ああ。一人の方が楽だし、自由に動ける」
「でも、一人じゃ危険じゃない?」
「別に」
健太は肩をすくめた。
「剣聖のスキルがあれば、大抵の魔物は一人で倒せる」
「……」
蓮は黙り込んだ。
健太の考え方は、自分とは真逆だった。
蓮は仲間を大切にし、支援することに喜びを感じている。
だが、健太は一人で戦うことを好み、仲間を必要としていない。
「なあ、神谷」
健太が蓮を見た。
「お前、支援術師でよく生き残れてるな」
「え?」
「支援術師なんて、一人じゃ何もできないだろ。よく死なずに済んでるもんだ」
「……」
蓮は少しムッとした。
「確かに、俺一人じゃ戦えない。でも、仲間がいるから」
「仲間か」
健太は冷笑した。
「仲間に頼るってのは、結局自分が弱いってことだろ」
「そんなことない」
アリシアが反論した。
「仲間と協力するのは、強さです」
「へえ」
健太は興味なさそうに答えた。
「まあ、お前らはそう思ってればいいんじゃない?」
「……」
四人は黙り込んだ。
健太との価値観の違いを、痛感した。
その夜、蓮は一人、宿の部屋で考え込んでいた。
「健太……か」
同じ転生者なのに、全く違う。
考え方も、戦い方も、生き方も。
「俺は、仲間を大切にしたい」
蓮は拳を握りしめた。
「一人で戦うなんて、寂しすぎる」
その時、ノックの音が聞こえた。
「入って」
扉が開くと、アリシアが立っていた。
「神谷さん、少しいいですか?」
「うん、どうぞ」
アリシアは部屋に入り、椅子に座った。
「佐藤さんのこと、考えていたんですか?」
「……うん」
蓮は正直に答えた。
「同じ転生者なのに、全然違うなって」
「そうですね」
アリシアは頷いた。
「佐藤さんは、とても強い。でも……」
「でも?」
「孤独そうです」
アリシアは悲しそうな表情を浮かべた。
「一人で戦い続けることは、とても辛いことだと思います」
「……」
「神谷さんは、私たちと一緒に戦ってくれます」
アリシアは微笑んだ。
「それが、どれだけ嬉しいか」
「アリシア……」
「佐藤さんも、本当は仲間が欲しいのかもしれません」
「そうかもしれないな……」
蓮は考え込んだ。
「でも、あの態度じゃ、仲間はできないだろうな」
「ええ」
アリシアは立ち上がった。
「でも、いつか佐藤さんも、仲間の大切さに気づくといいですね」
「うん」
二人は静かに微笑み合った。
翌朝、五人は訓練場に集まった。
「よし、今日は訓練しよう」
健太が提案した。
「お前らの実力、見てみたい」
「わかりました」
アリシアは剣を抜いた。
「では、模擬戦をしましょう」
「おう」
健太も剣を抜いた。
アリシアと健太の模擬戦が始まった。
「行くぞ」
健太が突撃した。
その速さは、驚異的だった。
「速い……!」
アリシアは剣で受け止めた。
だが、健太の攻撃は止まらない。
連続で斬撃が繰り出される。
「はああっ!」
アリシアも反撃した。
二人の剣が激しくぶつかり合う。
「すごい……」
蓮は見惚れた。
二人とも、本当に強い。
数分後、健太が攻撃を止めた。
「お前、強いな」
「あなたもです」
アリシアは息を整えた。
「剣聖のスキル、本当に強力ですね」
「まあな」
健太は剣を納めた。
「でも、お前も相当なもんだ。Bランクの実力はある」
「ありがとうございます」
次に、リリアと健太が魔法と剣の模擬戦を行った。
「フレイムランス!」
リリアの炎の槍が飛んでくる。
だが、健太は軽々と避けた。
「遅い」
健太は一瞬でリリアの目の前に現れた。
「くっ……」
リリアは咄嗟にバリアを張った。
だが、健太の剣はバリアを砕いた。
「降参」
リリアは杖を下ろした。
「あなたには勝てないわ」
「魔法は強力だけど、近距離戦は苦手だな」
健太は指摘した。
「もっと接近戦の訓練をした方がいい」
「……ありがとう」
リリアは少し悔しそうだった。
最後に、セラと健太が格闘戦を行った。
「はあっ!」
セラの拳が飛んでくる。
だが、健太は剣の柄で受け止めた。
「力はあるな」
「まだまだ!」
セラは連続で攻撃を繰り出した。
だが、健太は全て避けるか受け止めた。
「でも、技術が足りない」
健太は瞬時にセラの背後に回り込んだ。
「こうやって背後を取られたら終わりだ」
「くっ……」
セラは悔しそうに拳を握りしめた。
「もっと強くならないと……」
「頑張れ」
健太は珍しく、優しい口調で言った。
訓練が終わった後、五人は休憩していた。
「お前ら、確かに強いな」
健太が言った。
「でも、まだまだ伸びしろがある」
「ありがとうございます」
アリシアは微笑んだ。
「あなたの指摘、参考になりました」
「まあな」
健太は立ち上がった。
「俺、明日から単独で依頼を受けることにする」
「え……」
「ソロの方が性に合ってるからな」
健太は歩き出した。
「じゃあな」
「待って」
蓮が声をかけた。
「何だ?」
「もしよかったら、俺たちと一緒に行動しない?」
「……」
健太は振り返った。
「一緒に?」
「ああ。俺たち、仲間を募集してる」
蓮は真剣な目で言った。
「健太、強いし、一緒に戦えば心強い」
「……」
健太は少し考え込んだ。
「悪いけど、断る」
「え……」
「俺は、一人で戦う方が好きだ」
健太は冷たく言い放った。
「仲間なんて必要ない」
「でも……」
「それに、お前らとは考え方が違いすぎる」
健太は背を向けた。
「じゃあな」
健太は去っていった。
「……残念ですね」
アリシアが呟いた。
「ええ」
リリアも頷いた。
「でも、仕方ないわ」
「あいつ、本当は寂しいんじゃないかな」
セラが言った。
「一人で戦うの、辛いと思うよ」
「……そうだね」
蓮は健太の背中を見つめた。
「でも、無理に誘うこともできない」
「ええ」
アリシアは微笑んだ。
「いつか、佐藤さんも気づくといいですね」
「うん」
四人は静かに頷き合った。
その夜、健太は一人、酒場で酒を飲んでいた。
「仲間か……」
健太は呟いた。
「必要ない……俺は一人で十分だ……」
だが、心の奥底では──
少し羨ましいと思っていた。
蓮たちの笑顔。
仲間との絆。
信頼し合う関係。
「……くだらない」
健太は酒を飲み干した。
「俺には関係ない」
だが、その目には──
少しだけ、寂しさが滲んでいた。
一方、蓮たちは宿の部屋で談笑していた。
「健太、強かったね」
セラが言った。
「うん、本当に強い」
蓮も頷いた。
「でも、俺たちも負けてられないな」
「そうですね」
アリシアは微笑んだ。
「もっと強くなりましょう」
「ええ」
リリアも頷いた。
「私たちなら、できるわ」
四人は笑い合った。
絆で結ばれた仲間たち。
彼らの冒険は、これからも続いていく。
だが、この出会いが──
後に大きな意味を持つことになる。
健太と蓮。
二人の転生者の道は、いずれ再び交わる。
その時、二人は協力するのか。
それとも──
まだ、誰も知らない。
ただ、運命の歯車が、静かに回り始めていた。
翌日、蓮たちは新しい依頼を受けることにした。
「さて、次はどこに行く?」
セラが尋ねた。
「これなんてどうですか?」
アリシアが依頼書を指差した。
【依頼内容】
北の山脈で異常気象発生
調査求む
報酬:60シルバー
難易度:B
「北の山脈か……」
蓮は考え込んだ。
「行ってみよう」
「了解」
四人は新しい冒険に向けて、準備を始めた。
一方、健太も単独で依頼を受け、街を出発していった。
二つの道。
それぞれの冒険が、今始まろうとしていた。
だが、いずれその道は──
再び交わることになる。
運命は、まだ始まったばかりだった。
「緊張するな……」
蓮は呟いた。
王宮に入るのは初めてだ。
豪華な装飾、高い天井、立派な柱──全てが圧倒的だった。
「大丈夫ですよ」
アリシアは微笑んだ。
「私も一緒ですから」
謁見の間に到着すると、すでに何人かの貴族や騎士が集まっていた。
そして、玉座には──
国王陛下が座っていた。
「頭を下げろ」
レオンハルトが囁いた。
四人は膝をついた。
「面を上げよ」
国王の声が響いた。
四人は顔を上げた。
「お前たちが、冒険者パーティ『トリニティ』か」
「はい、陛下」
アリシアが答えた。
「うむ。お前たちの活躍は聞いている」
国王は満足そうに頷いた。
「魔王軍の幹部を倒し、王国を守ってくれた。感謝する」
「恐れ入ります」
「さて、本題に入ろう」
国王は手を挙げた。
すると、謁見の間の扉が開いた。
一人の青年が入ってきた。
「……」
蓮は息を呑んだ。
青年は20代前半と思われる。
整った顔立ち、黒髪、そして──どこか日本人らしい雰囲気。
「彼が、異世界からの来訪者だ」
国王が紹介した。
「名を、佐藤健太という」
「佐藤健太……」
蓮は青年を見つめた。
健太は蓮に気づき、目を見開いた。
「まさか……お前も日本人か?」
「ああ……」
蓮は頷いた。
「俺も、転生者だ」
「そうか……」
健太は複雑な表情を浮かべた。
謁見が終わった後、四人と健太は別室に案内された。
「改めて、自己紹介しよう」
健太は椅子に座った。
「俺は佐藤健太。24歳。元々は、東京でシステムエンジニアをしていた」
「俺は神谷蓮。22歳。大学生だった」
蓮も自己紹介した。
「へえ、大学生か。どこの大学?」
「都内の私立大学。あまり有名じゃないけど」
「そうか」
健太は頷いた。
「で、お前はいつこの世界に来たんだ?」
「三ヶ月前。交通事故で死んで、気がついたらこの世界にいた」
「俺も似たようなもんだ」
健太は腕を組んだ。
「過労死だけどな」
「過労死……」
「ああ。残業続きで、ある日突然倒れた」
健太は自嘲気味に笑った。
「社畜の末路ってやつだ」
「……」
蓮は言葉に詰まった。
「まあ、今となっては過去の話だ」
健太は立ち上がった。
「それより、お前のスキルは?」
「支援術師だ。仲間を強化するスキル」
「支援術師か……」
健太は少し驚いた表情を浮かべた。
「俺は『剣聖』だ」
「剣聖……?」
「ああ。剣の才能が異常に高くなるスキルだ」
健太は腰の剣を叩いた。
「おかげで、この世界に来てから一ヶ月で、Bランクまで上がった」
「一ヶ月でBランク……!?」
蓮は驚愕した。
自分は三ヶ月かかってCランクだった。
「すごいな……」
「まあな」
健太は自信満々に言った。
「剣聖のスキルは、本当に強力だ。俺一人で、Aランクの魔物も倒せる」
「……」
蓮は少し複雑な気持ちになった。
健太の自信に満ちた態度。
自分とは対照的だった。
その時、アリシアが口を開いた。
「佐藤さん、一つ聞いてもいいですか?」
「何だ?」
「あなたは、なぜ王都に来たんですか?」
「ああ、それか」
健太は椅子に座り直した。
「実は、俺は辺境の街で冒険者をしていたんだが、ある日、魔王軍の幹部に襲われた」
「魔王軍の幹部……」
「ああ。ダークナイト・ガロンって奴だ」
「ガロン……!」
蓮は驚いた。
以前、王都で会った魔王軍の幹部だ。
「お前も会ったことあるのか?」
「ああ、少し前に」
「そうか」
健太は頷いた。
「俺は、ガロンと戦って、何とか撃退した。だが、一人では危険だと判断して、王都に来ることにした」
「なるほど……」
「それで、国王陛下に保護を求めたってわけだ」
健太は腕を組んだ。
「まあ、俺の実力を見込んで、騎士団に誘われたけどな」
「騎士団に……」
「ああ。でも断った」
健太は立ち上がった。
「俺は、組織に縛られるのが嫌いだ。自由に動きたい」
「……」
蓮は健太を見つめた。
自信家で、実力もある。
だが、どこか孤独な雰囲気も漂っていた。
その日の午後、四人は健太と一緒に街を案内することになった。
「この街、でかいな」
健太は周囲を見回した。
「辺境の街とは比べ物にならない」
「王都ですからね」
アリシアが説明した。
「人口10万人。王国で最も栄えた都市です」
「へえ」
健太は興味なさそうに答えた。
「で、お前ら、普段は何してるんだ?」
「依頼を受けて、冒険してます」
セラが元気よく答えた。
「魔物を倒したり、人を助けたり!」
「ふーん」
健太は特に感心した様子もなかった。
「俺も似たようなもんだな」
「……」
蓮は少し戸惑った。
健太の態度は、どこか冷たい。
仲間意識や、人を助けることへの情熱が感じられない。
夕方、五人は酒場で食事をしていた。
「それにしても、お前ら仲良いな」
健太が言った。
「いつも一緒に行動してるのか?」
「ええ」
アリシアは微笑んだ。
「私たちは、パーティですから」
「パーティか……」
健太は酒を飲んだ。
「俺は、ずっとソロだったからな。パーティを組んだことがない」
「え、一度も?」
セラは驚いた。
「ああ。一人の方が楽だし、自由に動ける」
「でも、一人じゃ危険じゃない?」
「別に」
健太は肩をすくめた。
「剣聖のスキルがあれば、大抵の魔物は一人で倒せる」
「……」
蓮は黙り込んだ。
健太の考え方は、自分とは真逆だった。
蓮は仲間を大切にし、支援することに喜びを感じている。
だが、健太は一人で戦うことを好み、仲間を必要としていない。
「なあ、神谷」
健太が蓮を見た。
「お前、支援術師でよく生き残れてるな」
「え?」
「支援術師なんて、一人じゃ何もできないだろ。よく死なずに済んでるもんだ」
「……」
蓮は少しムッとした。
「確かに、俺一人じゃ戦えない。でも、仲間がいるから」
「仲間か」
健太は冷笑した。
「仲間に頼るってのは、結局自分が弱いってことだろ」
「そんなことない」
アリシアが反論した。
「仲間と協力するのは、強さです」
「へえ」
健太は興味なさそうに答えた。
「まあ、お前らはそう思ってればいいんじゃない?」
「……」
四人は黙り込んだ。
健太との価値観の違いを、痛感した。
その夜、蓮は一人、宿の部屋で考え込んでいた。
「健太……か」
同じ転生者なのに、全く違う。
考え方も、戦い方も、生き方も。
「俺は、仲間を大切にしたい」
蓮は拳を握りしめた。
「一人で戦うなんて、寂しすぎる」
その時、ノックの音が聞こえた。
「入って」
扉が開くと、アリシアが立っていた。
「神谷さん、少しいいですか?」
「うん、どうぞ」
アリシアは部屋に入り、椅子に座った。
「佐藤さんのこと、考えていたんですか?」
「……うん」
蓮は正直に答えた。
「同じ転生者なのに、全然違うなって」
「そうですね」
アリシアは頷いた。
「佐藤さんは、とても強い。でも……」
「でも?」
「孤独そうです」
アリシアは悲しそうな表情を浮かべた。
「一人で戦い続けることは、とても辛いことだと思います」
「……」
「神谷さんは、私たちと一緒に戦ってくれます」
アリシアは微笑んだ。
「それが、どれだけ嬉しいか」
「アリシア……」
「佐藤さんも、本当は仲間が欲しいのかもしれません」
「そうかもしれないな……」
蓮は考え込んだ。
「でも、あの態度じゃ、仲間はできないだろうな」
「ええ」
アリシアは立ち上がった。
「でも、いつか佐藤さんも、仲間の大切さに気づくといいですね」
「うん」
二人は静かに微笑み合った。
翌朝、五人は訓練場に集まった。
「よし、今日は訓練しよう」
健太が提案した。
「お前らの実力、見てみたい」
「わかりました」
アリシアは剣を抜いた。
「では、模擬戦をしましょう」
「おう」
健太も剣を抜いた。
アリシアと健太の模擬戦が始まった。
「行くぞ」
健太が突撃した。
その速さは、驚異的だった。
「速い……!」
アリシアは剣で受け止めた。
だが、健太の攻撃は止まらない。
連続で斬撃が繰り出される。
「はああっ!」
アリシアも反撃した。
二人の剣が激しくぶつかり合う。
「すごい……」
蓮は見惚れた。
二人とも、本当に強い。
数分後、健太が攻撃を止めた。
「お前、強いな」
「あなたもです」
アリシアは息を整えた。
「剣聖のスキル、本当に強力ですね」
「まあな」
健太は剣を納めた。
「でも、お前も相当なもんだ。Bランクの実力はある」
「ありがとうございます」
次に、リリアと健太が魔法と剣の模擬戦を行った。
「フレイムランス!」
リリアの炎の槍が飛んでくる。
だが、健太は軽々と避けた。
「遅い」
健太は一瞬でリリアの目の前に現れた。
「くっ……」
リリアは咄嗟にバリアを張った。
だが、健太の剣はバリアを砕いた。
「降参」
リリアは杖を下ろした。
「あなたには勝てないわ」
「魔法は強力だけど、近距離戦は苦手だな」
健太は指摘した。
「もっと接近戦の訓練をした方がいい」
「……ありがとう」
リリアは少し悔しそうだった。
最後に、セラと健太が格闘戦を行った。
「はあっ!」
セラの拳が飛んでくる。
だが、健太は剣の柄で受け止めた。
「力はあるな」
「まだまだ!」
セラは連続で攻撃を繰り出した。
だが、健太は全て避けるか受け止めた。
「でも、技術が足りない」
健太は瞬時にセラの背後に回り込んだ。
「こうやって背後を取られたら終わりだ」
「くっ……」
セラは悔しそうに拳を握りしめた。
「もっと強くならないと……」
「頑張れ」
健太は珍しく、優しい口調で言った。
訓練が終わった後、五人は休憩していた。
「お前ら、確かに強いな」
健太が言った。
「でも、まだまだ伸びしろがある」
「ありがとうございます」
アリシアは微笑んだ。
「あなたの指摘、参考になりました」
「まあな」
健太は立ち上がった。
「俺、明日から単独で依頼を受けることにする」
「え……」
「ソロの方が性に合ってるからな」
健太は歩き出した。
「じゃあな」
「待って」
蓮が声をかけた。
「何だ?」
「もしよかったら、俺たちと一緒に行動しない?」
「……」
健太は振り返った。
「一緒に?」
「ああ。俺たち、仲間を募集してる」
蓮は真剣な目で言った。
「健太、強いし、一緒に戦えば心強い」
「……」
健太は少し考え込んだ。
「悪いけど、断る」
「え……」
「俺は、一人で戦う方が好きだ」
健太は冷たく言い放った。
「仲間なんて必要ない」
「でも……」
「それに、お前らとは考え方が違いすぎる」
健太は背を向けた。
「じゃあな」
健太は去っていった。
「……残念ですね」
アリシアが呟いた。
「ええ」
リリアも頷いた。
「でも、仕方ないわ」
「あいつ、本当は寂しいんじゃないかな」
セラが言った。
「一人で戦うの、辛いと思うよ」
「……そうだね」
蓮は健太の背中を見つめた。
「でも、無理に誘うこともできない」
「ええ」
アリシアは微笑んだ。
「いつか、佐藤さんも気づくといいですね」
「うん」
四人は静かに頷き合った。
その夜、健太は一人、酒場で酒を飲んでいた。
「仲間か……」
健太は呟いた。
「必要ない……俺は一人で十分だ……」
だが、心の奥底では──
少し羨ましいと思っていた。
蓮たちの笑顔。
仲間との絆。
信頼し合う関係。
「……くだらない」
健太は酒を飲み干した。
「俺には関係ない」
だが、その目には──
少しだけ、寂しさが滲んでいた。
一方、蓮たちは宿の部屋で談笑していた。
「健太、強かったね」
セラが言った。
「うん、本当に強い」
蓮も頷いた。
「でも、俺たちも負けてられないな」
「そうですね」
アリシアは微笑んだ。
「もっと強くなりましょう」
「ええ」
リリアも頷いた。
「私たちなら、できるわ」
四人は笑い合った。
絆で結ばれた仲間たち。
彼らの冒険は、これからも続いていく。
だが、この出会いが──
後に大きな意味を持つことになる。
健太と蓮。
二人の転生者の道は、いずれ再び交わる。
その時、二人は協力するのか。
それとも──
まだ、誰も知らない。
ただ、運命の歯車が、静かに回り始めていた。
翌日、蓮たちは新しい依頼を受けることにした。
「さて、次はどこに行く?」
セラが尋ねた。
「これなんてどうですか?」
アリシアが依頼書を指差した。
【依頼内容】
北の山脈で異常気象発生
調査求む
報酬:60シルバー
難易度:B
「北の山脈か……」
蓮は考え込んだ。
「行ってみよう」
「了解」
四人は新しい冒険に向けて、準備を始めた。
一方、健太も単独で依頼を受け、街を出発していった。
二つの道。
それぞれの冒険が、今始まろうとしていた。
だが、いずれその道は──
再び交わることになる。
運命は、まだ始まったばかりだった。
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そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様
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ファンタジー
上澄タマルは過労死した。
死に際にスローライフを夢見た彼が目覚めた時、そこはファンタジー世界だった。
「異世界転生……!? 俺のスローライフの夢が叶うのか!」
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こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。
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死にゲー世界よ、これがほんわかスローライフの力だ!
タマルを異世界に呼び込んだ謎の神ヌキチータ。
様々な道具を売ってくれ、何でも買い取ってくれる怪しい双子の魔人が経営する店。
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【完結】うだつが上がらない底辺冒険者だったオッサンは命を燃やして強くなる
邪代夜叉(ヤシロヤシャ)
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まだ遅くない。
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十数年の時は流れてオッサンとなり、その間、大きな成果を残せず“とんまのトーマ”と不名誉なあだ名を陰で囁かれ、やがて採取や配達といった雑用依頼ばかりこなす、うだつの上がらない底辺冒険者生活を続けていた。
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スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
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【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
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アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
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私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ
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薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。
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以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・
「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。
主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。
前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。
また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。
以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。
異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜
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【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】
異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。
『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。
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