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第12章「王国の陰謀──囁かれる裏切り」
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迷宮都市から王都に戻った翌日。
蓮たちは騎士団本部に呼び出された。
「何の用件でしょうか?」
アリシアが団長のレオンハルトに尋ねた。
「実は、重大な報告がある」
レオンハルトは深刻な表情を浮かべた。
「王国内部に、魔王軍のスパイがいる可能性が高い」
「スパイ……!?」
四人は驚愕した。
「ああ。最近、王国の機密情報が次々と漏洩している」
レオンハルトは資料を広げた。
「軍の配置、貴族の動向、魔法研究の成果……これらの情報が、魔王軍に筒抜けになっている」
「それは……」
アリシアは顔を曇らせた。
「かなり深刻ですね」
「ああ。そして、スパイは王宮内部にいると推測している」
「王宮内部……」
蓮は眉をひそめた。
「それって、貴族か官僚ってことですか?」
「おそらくな」
レオンハルトは頷いた。
「だが、誰がスパイなのか特定できていない」
「それで、私たちに何を?」
「お前たちには、密かに調査してほしい」
レオンハルトは真剣な目で言った。
「騎士団が動けば、スパイに気づかれる。だが、冒険者であるお前たちなら、怪しまれずに調査できる」
「わかりました」
アリシアは頷いた。
「必ずスパイを見つけ出します」
騎士団本部を出ると、四人は相談を始めた。
「どうやって調査する?」
セラが尋ねた。
「まずは、情報収集ね」
リリアが言った。
「王宮内部の人間関係、最近の動向……怪しい人物をリストアップしましょう」
「私は、騎士団の同僚に聞いてみます」
アリシアが提案した。
「何か知っているかもしれません」
「じゃあ、俺とセラは街で情報を集めよう」
蓮が言った。
「酒場とか、商人とか……色々な人に話を聞いてみる」
「了解!」
四人は手分けして調査を開始した。
蓮とセラは、王都の酒場を回った。
「すみません、最近の王宮の様子、何か変わったことありませんか?」
蓮は酒場の店主に尋ねた。
「ん? 王宮か……」
店主は顎を撫でた。
「そういえば、最近、ある貴族が頻繁に謁見の間に出入りしているって話だな」
「ある貴族?」
「ああ。確か、デュランス伯爵ってやつだ」
「デュランス伯爵……」
蓮はその名前を記憶した。
「ありがとうございます」
別の酒場では、商人から情報を得た。
「デュランス伯爵? ああ、知ってるよ」
商人は声を潜めた。
「最近、急に金回りが良くなったって噂だ」
「金回りが?」
「ああ。豪華な屋敷を建てたり、高価な宝石を買い漁ったり……」
「……怪しいですね」
蓮は眉をひそめた。
夕方、四人は宿で情報を共有した。
「デュランス伯爵か……」
アリシアは考え込んだ。
「私も、騎士団で同じ名前を聞きました」
「どんな人物なの?」
セラが尋ねた。
「30代後半の貴族です。財務を担当していて、王国の予算を管理しています」
「財務……つまり、お金の流れを把握している」
リリアは鋭く指摘した。
「それなら、魔王軍に情報を売って金を稼いでいる可能性があるわ」
「そうですね」
アリシアは頷いた。
「でも、証拠がありません」
「なら、証拠を掴むしかないわね」
リリアは杖を握った。
「今夜、デュランス伯爵の屋敷に潜入しましょう」
「潜入……ですか?」
蓮は驚いた。
「ええ。違法かもしれないけど、王国を守るためには仕方ないわ」
「……わかりました」
アリシアは決意した。
「やりましょう」
深夜、四人はデュランス伯爵の屋敷に忍び込んだ。
「静かに……」
アリシアが先頭を歩いた。
屋敷は広く、多くの部屋があった。
「どこを調べる?」
セラが囁いた。
「書斎よ」
リリアが答えた。
「機密文書があるとすれば、そこにあるはず」
四人は書斎に向かった。
書斎の扉を開けると、豪華な部屋が広がっていた。
本棚、机、金庫……
「あの金庫を調べましょう」
リリアは金庫に近づいた。
「開けられる?」
「任せて」
リリアは魔法で鍵を解除した。
金庫の中には──
魔王軍とのやり取りを記した手紙が入っていた。
「これは……」
アリシアは手紙を読んだ。
「間違いない。デュランス伯爵は、魔王軍に情報を売っていた……」
「くそっ……裏切り者め……」
セラは怒りを露わにした。
「この手紙を証拠に、騎士団に突き出しましょう」
蓮が言った。
だが、その時──
書斎の扉が開いた。
「誰だ!?」
デュランス伯爵が、護衛を連れて立っていた。
「侵入者か……」
伯爵は冷笑した。
「どうやら、勘づかれていたようだな」
「デュランス伯爵……あなたは、王国を裏切ったのですか!」
アリシアは剣を抜いた。
「裏切り? いいや、取引だよ」
伯爵は肩をすくめた。
「魔王軍に情報を売り、その対価として金を得る。ただのビジネスさ」
「ビジネス……?」
アリシアは怒りで震えた。
「人々の命がかかっているんですよ!」
「知ったことか」
伯爵は冷たく言い放った。
「私は、私の利益のために動いているだけだ」
「……許せない」
アリシアは剣を構えた。
「あなたを、騎士団に突き出します」
「できるかな?」
伯爵は護衛たちに命じた。
「あの娘たちを殺せ」
護衛たちが一斉に襲いかかってきた。
「みんな、戦うよ!」
蓮は支援魔法を発動した。
「グランド・サポート!」
三人の体が光り輝いた。
「はああっ!」
アリシアが護衛たちを次々と斬り倒していく。
「フレイムアロー!」
リリアの炎の矢が、護衛たちを貫く。
「はっ!」
セラの拳が、護衛たちを殴り飛ばす。
あっという間に、護衛たちは全滅した。
「くそっ……」
伯爵は焦った。
「こんなはずじゃ……」
「観念してください」
アリシアは剣を伯爵に向けた。
「あなたは、もう逃げられません」
「……」
伯爵は諦めたように肩を落とした。
だが、次の瞬間──
伯爵の体が黒い煙に包まれた。
「な、何……!?」
「これは……闇魔法……!」
リリアは驚愕した。
黒い煙の中から、伯爵の声が響いた。
「お前たち、よくやった」
その声は──もはや伯爵の声ではなかった。
低く、冷たい声。
「だが、もう遅い」
黒い煙が晴れると──
そこには、黒いローブを纏った人影が立っていた。
「お前は……」
「俺は魔王軍第二師団長、ダークソーサラー・ゼノン」
ゼノンは冷笑した。
「デュランス伯爵は、ただの傀儡だったのさ」
「傀儡……」
「ああ。俺が洗脳して、操っていた」
ゼノンは笑った。
「お前たちが伯爵を疑うように、わざと証拠を残しておいたんだ」
「何のために……」
「決まっている。お前たちを罠にかけるためさ」
ゼノンは腕を広げた。
すると──
屋敷全体が黒い霧に包まれた。
「この霧は、闇の結界だ。外には出られない」
「くっ……」
アリシアは剣を構えた。
「お前たちは、ここで死ぬ」
ゼノンは魔法を唱え始めた。
「みんな、気をつけて!」
蓮は叫んだ。
「ダークネスボルト!」
ゼノンが無数の闇の矢を放った。
「くっ……!」
アリシアは剣で弾く。
「フリーズシールド!」
リリアが氷の盾を展開した。
だが、闇の矢は氷を貫通してくる。
「痛っ……!」
リリアの肩に闇の矢が刺さった。
「リリア!」
「大丈夫……まだ戦える……」
リリアは杖を構え直した。
「行くわよ……フレイムストーム!」
巨大な炎の竜巻がゼノンを襲う。
だが──
ゼノンは闇の壁で炎を防いだ。
「ぬるいな」
「くそっ……」
「あたしが行く!」
セラが突撃した。
だが、ゼノンは一瞬で姿を消し、セラの背後に現れた。
「遅い」
ゼノンの蹴りが、セラの背中に叩き込まれた。
「ぐはっ……!」
セラは吹き飛ばされた。
「セラ!」
蓮は駆け寄った。
「大丈夫……?」
「う、うん……でも、あいつ、強すぎる……」
「……」
蓮は焦った。
ゼノンは強い。
支援魔法をかけても、歯が立たない。
「どうすれば……」
その時、アリシアが叫んだ。
「神谷さん! あの時の魔法を!」
「あの時の……」
蓮は思い出した。
オーバードライブ・サポート。
全能力を3倍にする、最強の支援魔法。
だが、使えば倒れてしまう。
「でも……」
「いいんです!」
アリシアは真剣な目で言った。
「私たちを信じてください!」
「……わかった」
蓮は決意した。
「みんな、5分で決着をつけて」
「任せて!」
セラは拳を握りしめた。
「あたしたち、やるよ!」
「ええ」
リリアも頷いた。
「全力で行くわ」
「行くよ……オーバードライブ・サポート!」
屋敷全体が、眩い光に包まれた。
三人の体が、激しく輝く。
「この力……!」
アリシアは剣を構えた。
「行ける……!」
「はあああっ!」
アリシアは一瞬で、ゼノンの懐に飛び込んだ。
「な、速い……!」
ゼノンは驚愕した。
アリシアの剣が、ゼノンの胸を貫く。
「ぐはっ……!」
「フレイムエクスプロージョン!」
リリアの最大魔法が、ゼノンを直撃した。
「ガアアアッ!」
「とどめだ!」
セラが跳躍した。
そして──
渾身の一撃を、ゼノンの顔面に叩き込んだ。
ドゴォォォンッ!
ゼノンは壁に叩きつけられた。
「く……そ……」
ゼノンの体が煙のように消えていった。
「覚えて……ろ……」
ゼノンは完全に消滅した。
ゼノンが消えると、闇の結界も消えた。
「やった……」
三人は安堵の息を吐いた。
だが──
「神谷!」
振り向くと、蓮は地面に倒れていた。
「神谷さん!」
アリシアが駆け寄った。
「大丈夫……ですか……」
「うん……ちょっと……疲れただけ……」
蓮は弱々しく笑った。
「みんな……無事で……良かった……」
そして、意識を失った。
翌朝、蓮は騎士団の医療室で目を覚ました。
「目が覚めましたか」
レオンハルトが立っていた。
「団長……」
「よくやってくれた」
レオンハルトは頷いた。
「デュランス伯爵の件、魔王軍の幹部を倒したこと……全て報告を受けた」
「伯爵は……」
「洗脳が解けた。今は、王宮で治療を受けている」
「そうですか……」
蓮は安堵した。
「お前たちのおかげで、王国は救われた」
レオンハルトは深々と頭を下げた。
「感謝する」
「いえ、当然のことです」
蓮は笑顔で答えた。
数日後、蓮は完全に回復した。
「もう大丈夫?」
セラが心配そうに尋ねた。
「うん、完璧」
蓮は笑顔で答えた。
「みんな、心配かけてごめん」
「謝らないで」
リリアは微笑んだ。
「あなたのおかげで、私たちは勝てたのよ」
「そうですよ」
アリシアも頷いた。
「あなたは、私たちの英雄です」
「英雄なんかじゃないよ」
蓮は照れくさそうに笑った。
その日の午後、四人はギルドに集まった。
「次の依頼、どうしましょうか」
アリシアが掲示板を見た。
「ちょっと待って」
バルトが声をかけてきた。
「お前たちに、特別な依頼がある」
「特別な依頼?」
「ああ。王宮からの直接依頼だ」
バルトは一枚の手紙を渡した。
「何でも、ある人物を護衛してほしいとのことだ」
「護衛……?」
蓮は手紙を読んだ。
【依頼内容】
異世界からの来訪者の護衛
王都到着予定:明日
報酬:応相談
依頼者:王宮
「異世界からの来訪者……?」
蓮は驚いた。
「まさか……」
「どうやら、お前と同じ転生者らしいぞ」
バルトは言った。
「王宮が保護して、明日王都に到着する」
「転生者……」
蓮は複雑な表情を浮かべた。
自分以外にも、この世界に転生した人がいる。
「どんな人なんだろう……」
「明日、会えばわかるわ」
リリアが言った。
「とりあえず、今日はゆっくり休みましょう」
「そうですね」
蓮は頷いた。
その夜、蓮は一人、宿の屋上に立っていた。
星空を見上げながら、考え込んでいた。
「もう一人の転生者か……」
どんな人なのだろう。
男性か、女性か。
年齢は。
性格は。
「元の世界の話ができるかもしれない」
蓮は少し期待した。
元の世界の話を、誰かと共有できる。
それは、蓮にとって嬉しいことだった。
だが、同時に不安もあった。
もしその転生者が、自分とは違う価値観を持っていたら。
もし、敵対することになったら。
「……考えすぎか」
蓮は頭を振った。
「明日、会ってみればわかる」
窓の外には、満月が輝いていた。
運命の出会いが、すぐそこまで迫っていた。
もう一人の転生者との出会い。
それが、蓮たちの運命を大きく変えることになる。
だが、今はまだ、蓮は知らない。
ただ、明日への期待と不安を胸に、夜空を見上げているだけだった。
蓮たちは騎士団本部に呼び出された。
「何の用件でしょうか?」
アリシアが団長のレオンハルトに尋ねた。
「実は、重大な報告がある」
レオンハルトは深刻な表情を浮かべた。
「王国内部に、魔王軍のスパイがいる可能性が高い」
「スパイ……!?」
四人は驚愕した。
「ああ。最近、王国の機密情報が次々と漏洩している」
レオンハルトは資料を広げた。
「軍の配置、貴族の動向、魔法研究の成果……これらの情報が、魔王軍に筒抜けになっている」
「それは……」
アリシアは顔を曇らせた。
「かなり深刻ですね」
「ああ。そして、スパイは王宮内部にいると推測している」
「王宮内部……」
蓮は眉をひそめた。
「それって、貴族か官僚ってことですか?」
「おそらくな」
レオンハルトは頷いた。
「だが、誰がスパイなのか特定できていない」
「それで、私たちに何を?」
「お前たちには、密かに調査してほしい」
レオンハルトは真剣な目で言った。
「騎士団が動けば、スパイに気づかれる。だが、冒険者であるお前たちなら、怪しまれずに調査できる」
「わかりました」
アリシアは頷いた。
「必ずスパイを見つけ出します」
騎士団本部を出ると、四人は相談を始めた。
「どうやって調査する?」
セラが尋ねた。
「まずは、情報収集ね」
リリアが言った。
「王宮内部の人間関係、最近の動向……怪しい人物をリストアップしましょう」
「私は、騎士団の同僚に聞いてみます」
アリシアが提案した。
「何か知っているかもしれません」
「じゃあ、俺とセラは街で情報を集めよう」
蓮が言った。
「酒場とか、商人とか……色々な人に話を聞いてみる」
「了解!」
四人は手分けして調査を開始した。
蓮とセラは、王都の酒場を回った。
「すみません、最近の王宮の様子、何か変わったことありませんか?」
蓮は酒場の店主に尋ねた。
「ん? 王宮か……」
店主は顎を撫でた。
「そういえば、最近、ある貴族が頻繁に謁見の間に出入りしているって話だな」
「ある貴族?」
「ああ。確か、デュランス伯爵ってやつだ」
「デュランス伯爵……」
蓮はその名前を記憶した。
「ありがとうございます」
別の酒場では、商人から情報を得た。
「デュランス伯爵? ああ、知ってるよ」
商人は声を潜めた。
「最近、急に金回りが良くなったって噂だ」
「金回りが?」
「ああ。豪華な屋敷を建てたり、高価な宝石を買い漁ったり……」
「……怪しいですね」
蓮は眉をひそめた。
夕方、四人は宿で情報を共有した。
「デュランス伯爵か……」
アリシアは考え込んだ。
「私も、騎士団で同じ名前を聞きました」
「どんな人物なの?」
セラが尋ねた。
「30代後半の貴族です。財務を担当していて、王国の予算を管理しています」
「財務……つまり、お金の流れを把握している」
リリアは鋭く指摘した。
「それなら、魔王軍に情報を売って金を稼いでいる可能性があるわ」
「そうですね」
アリシアは頷いた。
「でも、証拠がありません」
「なら、証拠を掴むしかないわね」
リリアは杖を握った。
「今夜、デュランス伯爵の屋敷に潜入しましょう」
「潜入……ですか?」
蓮は驚いた。
「ええ。違法かもしれないけど、王国を守るためには仕方ないわ」
「……わかりました」
アリシアは決意した。
「やりましょう」
深夜、四人はデュランス伯爵の屋敷に忍び込んだ。
「静かに……」
アリシアが先頭を歩いた。
屋敷は広く、多くの部屋があった。
「どこを調べる?」
セラが囁いた。
「書斎よ」
リリアが答えた。
「機密文書があるとすれば、そこにあるはず」
四人は書斎に向かった。
書斎の扉を開けると、豪華な部屋が広がっていた。
本棚、机、金庫……
「あの金庫を調べましょう」
リリアは金庫に近づいた。
「開けられる?」
「任せて」
リリアは魔法で鍵を解除した。
金庫の中には──
魔王軍とのやり取りを記した手紙が入っていた。
「これは……」
アリシアは手紙を読んだ。
「間違いない。デュランス伯爵は、魔王軍に情報を売っていた……」
「くそっ……裏切り者め……」
セラは怒りを露わにした。
「この手紙を証拠に、騎士団に突き出しましょう」
蓮が言った。
だが、その時──
書斎の扉が開いた。
「誰だ!?」
デュランス伯爵が、護衛を連れて立っていた。
「侵入者か……」
伯爵は冷笑した。
「どうやら、勘づかれていたようだな」
「デュランス伯爵……あなたは、王国を裏切ったのですか!」
アリシアは剣を抜いた。
「裏切り? いいや、取引だよ」
伯爵は肩をすくめた。
「魔王軍に情報を売り、その対価として金を得る。ただのビジネスさ」
「ビジネス……?」
アリシアは怒りで震えた。
「人々の命がかかっているんですよ!」
「知ったことか」
伯爵は冷たく言い放った。
「私は、私の利益のために動いているだけだ」
「……許せない」
アリシアは剣を構えた。
「あなたを、騎士団に突き出します」
「できるかな?」
伯爵は護衛たちに命じた。
「あの娘たちを殺せ」
護衛たちが一斉に襲いかかってきた。
「みんな、戦うよ!」
蓮は支援魔法を発動した。
「グランド・サポート!」
三人の体が光り輝いた。
「はああっ!」
アリシアが護衛たちを次々と斬り倒していく。
「フレイムアロー!」
リリアの炎の矢が、護衛たちを貫く。
「はっ!」
セラの拳が、護衛たちを殴り飛ばす。
あっという間に、護衛たちは全滅した。
「くそっ……」
伯爵は焦った。
「こんなはずじゃ……」
「観念してください」
アリシアは剣を伯爵に向けた。
「あなたは、もう逃げられません」
「……」
伯爵は諦めたように肩を落とした。
だが、次の瞬間──
伯爵の体が黒い煙に包まれた。
「な、何……!?」
「これは……闇魔法……!」
リリアは驚愕した。
黒い煙の中から、伯爵の声が響いた。
「お前たち、よくやった」
その声は──もはや伯爵の声ではなかった。
低く、冷たい声。
「だが、もう遅い」
黒い煙が晴れると──
そこには、黒いローブを纏った人影が立っていた。
「お前は……」
「俺は魔王軍第二師団長、ダークソーサラー・ゼノン」
ゼノンは冷笑した。
「デュランス伯爵は、ただの傀儡だったのさ」
「傀儡……」
「ああ。俺が洗脳して、操っていた」
ゼノンは笑った。
「お前たちが伯爵を疑うように、わざと証拠を残しておいたんだ」
「何のために……」
「決まっている。お前たちを罠にかけるためさ」
ゼノンは腕を広げた。
すると──
屋敷全体が黒い霧に包まれた。
「この霧は、闇の結界だ。外には出られない」
「くっ……」
アリシアは剣を構えた。
「お前たちは、ここで死ぬ」
ゼノンは魔法を唱え始めた。
「みんな、気をつけて!」
蓮は叫んだ。
「ダークネスボルト!」
ゼノンが無数の闇の矢を放った。
「くっ……!」
アリシアは剣で弾く。
「フリーズシールド!」
リリアが氷の盾を展開した。
だが、闇の矢は氷を貫通してくる。
「痛っ……!」
リリアの肩に闇の矢が刺さった。
「リリア!」
「大丈夫……まだ戦える……」
リリアは杖を構え直した。
「行くわよ……フレイムストーム!」
巨大な炎の竜巻がゼノンを襲う。
だが──
ゼノンは闇の壁で炎を防いだ。
「ぬるいな」
「くそっ……」
「あたしが行く!」
セラが突撃した。
だが、ゼノンは一瞬で姿を消し、セラの背後に現れた。
「遅い」
ゼノンの蹴りが、セラの背中に叩き込まれた。
「ぐはっ……!」
セラは吹き飛ばされた。
「セラ!」
蓮は駆け寄った。
「大丈夫……?」
「う、うん……でも、あいつ、強すぎる……」
「……」
蓮は焦った。
ゼノンは強い。
支援魔法をかけても、歯が立たない。
「どうすれば……」
その時、アリシアが叫んだ。
「神谷さん! あの時の魔法を!」
「あの時の……」
蓮は思い出した。
オーバードライブ・サポート。
全能力を3倍にする、最強の支援魔法。
だが、使えば倒れてしまう。
「でも……」
「いいんです!」
アリシアは真剣な目で言った。
「私たちを信じてください!」
「……わかった」
蓮は決意した。
「みんな、5分で決着をつけて」
「任せて!」
セラは拳を握りしめた。
「あたしたち、やるよ!」
「ええ」
リリアも頷いた。
「全力で行くわ」
「行くよ……オーバードライブ・サポート!」
屋敷全体が、眩い光に包まれた。
三人の体が、激しく輝く。
「この力……!」
アリシアは剣を構えた。
「行ける……!」
「はあああっ!」
アリシアは一瞬で、ゼノンの懐に飛び込んだ。
「な、速い……!」
ゼノンは驚愕した。
アリシアの剣が、ゼノンの胸を貫く。
「ぐはっ……!」
「フレイムエクスプロージョン!」
リリアの最大魔法が、ゼノンを直撃した。
「ガアアアッ!」
「とどめだ!」
セラが跳躍した。
そして──
渾身の一撃を、ゼノンの顔面に叩き込んだ。
ドゴォォォンッ!
ゼノンは壁に叩きつけられた。
「く……そ……」
ゼノンの体が煙のように消えていった。
「覚えて……ろ……」
ゼノンは完全に消滅した。
ゼノンが消えると、闇の結界も消えた。
「やった……」
三人は安堵の息を吐いた。
だが──
「神谷!」
振り向くと、蓮は地面に倒れていた。
「神谷さん!」
アリシアが駆け寄った。
「大丈夫……ですか……」
「うん……ちょっと……疲れただけ……」
蓮は弱々しく笑った。
「みんな……無事で……良かった……」
そして、意識を失った。
翌朝、蓮は騎士団の医療室で目を覚ました。
「目が覚めましたか」
レオンハルトが立っていた。
「団長……」
「よくやってくれた」
レオンハルトは頷いた。
「デュランス伯爵の件、魔王軍の幹部を倒したこと……全て報告を受けた」
「伯爵は……」
「洗脳が解けた。今は、王宮で治療を受けている」
「そうですか……」
蓮は安堵した。
「お前たちのおかげで、王国は救われた」
レオンハルトは深々と頭を下げた。
「感謝する」
「いえ、当然のことです」
蓮は笑顔で答えた。
数日後、蓮は完全に回復した。
「もう大丈夫?」
セラが心配そうに尋ねた。
「うん、完璧」
蓮は笑顔で答えた。
「みんな、心配かけてごめん」
「謝らないで」
リリアは微笑んだ。
「あなたのおかげで、私たちは勝てたのよ」
「そうですよ」
アリシアも頷いた。
「あなたは、私たちの英雄です」
「英雄なんかじゃないよ」
蓮は照れくさそうに笑った。
その日の午後、四人はギルドに集まった。
「次の依頼、どうしましょうか」
アリシアが掲示板を見た。
「ちょっと待って」
バルトが声をかけてきた。
「お前たちに、特別な依頼がある」
「特別な依頼?」
「ああ。王宮からの直接依頼だ」
バルトは一枚の手紙を渡した。
「何でも、ある人物を護衛してほしいとのことだ」
「護衛……?」
蓮は手紙を読んだ。
【依頼内容】
異世界からの来訪者の護衛
王都到着予定:明日
報酬:応相談
依頼者:王宮
「異世界からの来訪者……?」
蓮は驚いた。
「まさか……」
「どうやら、お前と同じ転生者らしいぞ」
バルトは言った。
「王宮が保護して、明日王都に到着する」
「転生者……」
蓮は複雑な表情を浮かべた。
自分以外にも、この世界に転生した人がいる。
「どんな人なんだろう……」
「明日、会えばわかるわ」
リリアが言った。
「とりあえず、今日はゆっくり休みましょう」
「そうですね」
蓮は頷いた。
その夜、蓮は一人、宿の屋上に立っていた。
星空を見上げながら、考え込んでいた。
「もう一人の転生者か……」
どんな人なのだろう。
男性か、女性か。
年齢は。
性格は。
「元の世界の話ができるかもしれない」
蓮は少し期待した。
元の世界の話を、誰かと共有できる。
それは、蓮にとって嬉しいことだった。
だが、同時に不安もあった。
もしその転生者が、自分とは違う価値観を持っていたら。
もし、敵対することになったら。
「……考えすぎか」
蓮は頭を振った。
「明日、会ってみればわかる」
窓の外には、満月が輝いていた。
運命の出会いが、すぐそこまで迫っていた。
もう一人の転生者との出会い。
それが、蓮たちの運命を大きく変えることになる。
だが、今はまだ、蓮は知らない。
ただ、明日への期待と不安を胸に、夜空を見上げているだけだった。
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