『下着の禁書庫(ランジェリー・アーカイブ)』 〜1日1枚だけ地球のコレクションを召喚したら、異世界の女たちが僕なしでは生きられない体になった

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第8話:文明圏への帰還と「街のQOL診断」

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死の森を抜け、開けた街道に出たとき、世界の色が変わったように思えた。
先頭を行くラナは、弾むような、しかし音もなく流れるような足取りで大地を蹴っている。

(……ああ。やっぱりすごいわ、これ)

服の下で密着する『神風(KAMIKAZE)』と『疾風(HAYATE)』。
激しい動きの中でも、胸は一切暴れず、腰回りは鋼のような芯が通ったように安定している。それでいて、締め付けられている窮屈さは微塵もない。むしろ、零助の魔力が肌を優しく叩くたび、全身の力が一点に収束していく。

「……ふふっ」

思わず零助の方を振り返ると、彼は相変わらず無頓着な顔で、手に持った水晶端末を眺めていた。

「なにニヤついてんだよ、ラナ。街が見えてきて緊張が緩んだか?」

「別に、そんなんじゃないわよ。ただ……アンタが作ったこれ、本当にすごすぎると思ってね。守られてるっていうか、身体が『アンタのもの』になったみたいで、負ける気がしないのよ」

「……言い方が誤解を招くぞ。それは単なる機能性だ」

「機能性? 職人気取りもいいけどさ、アンタにここまで中身まで作り変えられちゃったら、もうアンタの女にされたのと同じことよ。……責任、とりなさいよ?」

ラナはいたずらっぽく、だが本気の色を混ぜた瞳で笑った。零助への依存を「誇り」として受け入れた彼女の言葉には、相棒としての信頼と、それを超えた熱烈な情愛が宿っている。

「お前わかってて言ってるのか…?まぁ、いい。さあ、見えてきたぞ。町だ」

零助の視線の先、平原の果てに巨大な石造りの城壁が姿を現した。


国境都市グラナダ。
王都への物流の要所であるその街は、活気に満ちていたが、同時にピリついた緊張感も漂っていた。巨大な城門の前には入街審査の列ができ、鎧を纏った衛兵たちが厳しい目を光らせている。

「おい、あの二人を見ろよ……」
「銀狼族か? あんなに綺麗なのは初めて見たぜ」

入街審査の列の男たちの視線がラナに集中する。だが、彼女は気にする素振りも見せず、堂々と零助の隣を歩いていた。

やがて彼らの番が来る。門衛の男は、零助の泥にまみれたワイシャツと、ラナの圧倒的なオーラを交互に見て、不機嫌そうに槍の柄で地面を叩いた。

「止まれ。身分証の提示を。ないなら通行税と、厳重な荷物検査だ」

「あいにく、森で魔獣に襲われて身分証は紛失してね。俺はただの仕立て屋だ。彼女は……まあ、俺の商売のパートナーだよ」

零助が適当な嘘を混ぜて微笑むが、門衛は鼻で笑った。
「仕立て屋だぁ? その恰好でか。おまけにその娘、ただの亜人じゃねえな。その纏ってる魔力の濃さ……他国の間諜か、あるいは犯罪者か。おい、そこの娘、服を脱いで調べさせろ。怪しい魔道具を隠してないかな」

門衛が下卑た笑いを浮かべ、ラナの肩に手を伸ばそうとした。


「……その汚い手、私の身体に触れる前に切り落とされたいわけ?」

地を這うような低い声。
ラナが一歩前へ出た瞬間、門衛の動きが凍りついた。
彼女が纏う『疾風』が一瞬で爆発的な魔力を練り上げる。ラナは戦わずとも、全身から放たれる「圧」だけで大気を物理的に歪ませていた。

「この男を不審者扱いするのも大概にしなさいよ。……それから、私の身体を『調べる』なんて、一万年早いわ」

「ひ、ひぃっ……!? 応援を呼べ! 狂犬が暴れてるぞ!」

門衛たちが慌てて笛を吹き、周囲から数十人の重武装衛兵が駆けつける。
ラナは嘲笑うように腰の剣に手をかけた。今の彼女なら、この程度の数、ほんの少し出力を上げるだけで塵にできるだろう。

「ラナ、やめろ」

零助の声が、彼女の昂ぶりを静止した。
「でも零助! こいつら、アンタを馬鹿にしたあげく私に触ろうとしたのよ!」

「暴力で通っても、街で店は開けないだろ。……いいよ、ここは大人しく捕まってやる。ちょうどいい機会だ」

「……正気? アンタ、牢屋に入れられるのよ?」

「いいんだよ。この街の『不自由さ』を特等席で診断してやるさ」

零助はニヤリと笑い、抵抗する様子もなく手を挙げた。
「わかった、指示に従うよ。……ラナ、俺を信じろ」

「……はぁ。アンタがそう言うなら、付き合ってやるわよ。あとで泣きついても知らないからね。ただし、アンタに何かしたり私に触れようとしたヤツは全員殺す」

ラナは不満げに鼻を鳴らし、剣から手を離した。
こうして、伝説の仕立て屋と最強のモデルは、街に足を踏み入れるなり「囚人」として連行されることになった。

だが、連行される最中も、零助の目はすれ違う女性衛兵や町娘たちの姿を冷徹にスキャンし続けていた。

「……ひどいな。あそこの衛兵、鎧の下のサラシがキツすぎて呼吸が止まってる。あれじゃ戦闘中に酸欠で倒れるぞ」

「……アンタね、連行されてる最中に女の胸元ジロジロ見てんじゃないわよ」

ラナは呆れたように毒づくが、その胸の奥では、冷たい刺が刺さったような不快感が広がっていた。
零助が他の女を「解析」するたび、ラナは言いようのない焦りに襲われる。

(……やめてよ。そんな風に、他の女の身体を『理解』しようとしないで)

自分だけが、彼自身を纏っている。彼の指先に、全身を、脳を、魂まで踏み込まれ、作り変えられた唯一の存在。その特権的な居場所が、零助の気まぐれで他の女にも分け与えられてしまうのではないか。
もし彼が他の誰かに、自分以上の「装備」を与えてしまったら? そうなれば、自分への関心は薄れ、支配は解けてしまうのではないか。

(私から、奪わないで……。この男に支配される悦びも、あの全能感も、そして零助に愛される快感も全て私だけのものなんだから)

ラナは無意識に、服の上から自らの胸を強く抱きしめた。
零助がこの街の女たちを「救済」しようと口にするたび、彼女の心は、彼への熱烈な依存と、それゆえの醜い嫉妬に焼き尽くされそうになっていた。

「ラナ、見てろ。この街の女たちはみんな、目に見えない鎖に縛られてる。……救済が必要だと思わないか?」

「……勝手にすれば。でも、忘れないでよね。アンタの『モデル』は私だってこと」

ラナは顔を背け、震える声でそう告げるのが精一杯だった。

鉄格子の閉まる音が地下牢に響く。
だが、その暗闇の向こうから、凛とした――しかし、零助の目には「致命的な不自由」を抱えていると一目でわかる、危うい足音が近づいてきた。

「……お、さっそく『特上の患者』がお出ましだぞ」


現れたのは、白い修道服に身を包んだ、清廉な空気を纏った少女――この街の聖女、クラリスだった。

「地下牢に不審な男女が連行されたと聞き、視察に参りました。……お怪我はありませんか?」

鉄格子の向こう側から、凛とした、しかしどこか儚げな声が響いた。
現れたのは、汚れ一つない純白の修道服に身を包んだ少女だった。彼女の纏う空気は清廉で、周囲を警護する騎士たちの殺気立った雰囲気とは対照的だった。

だが、零助はその慈愛に満ちた微笑みなど見向きもしなかった。彼の目は、彼女の衣服の「不自然な歪み」一点に釘付けになっていた。

「……おいアンタ。なんでそんな物身に着けて、平然とした顔をしてられるんだ?」

「え……? 私の、……ですか?」

少女――クラリスは、当惑したように瞬きをした。

「零助…また始まった。アンタね、いきなり失礼でしょ。こんな綺麗な女の人が、わざわざ牢屋まで心配しに来てくれてるっていうのに」

ラナは呆れたように口を挟むが、その瞳は鋭くクラリスの全身を走査していた。自分と同じ、あるいは自分を超える「女」としての価値を無意識に測ってしまう。そして、クラリスの異様なまでに細く絞られたウエストと、無理に押し上げられた胸のラインを見て、ラナも直感的に眉をひそめた。

(……この女、無理してる。零助が一番嫌いな『間違った着こなし』の極致だわ)

「アンタみたいな女が、なんでこんな拷問器具を自分から身に着けてるんだ? その修道服の下……ボーンが24本は入った鋼鉄製コルセットだろ。しかも、鳩尾を起点に逆V字型に締め上げてる。内臓が押し上げられて、横隔膜が半分も動いてない。酸素が肺で窒息してる音が聞こえるぞ」

「な、何を……っ。これは、教会の『規律』であり……」

クラリスの顔が、みるみるうちに青ざめていく。
彼女は自分の身分を明かしていなかったが、図星だった。民衆の前で「清貧の象徴」であるために、彼女は幼少期から呼吸を奪うほどの補正下着を強要されていた。

「規律で健康が守れるかよ。アンタ、さっきから呼吸が浅すぎて脳に酸素が回ってないだろ。……ラナ、ちょっとその格子、邪魔だ」

「はいはい、わかったわよ。……せいっ!」

ラナが片手で鉄格子を掴み、無造作に力を込める。ギチギチと金属が悲鳴を上げ、屈強な男でも動かせないはずの扉が、飴細工のようにひしゃげた。

「なっ、貴様らッ! 何をする!」

騎士たちが色めき立ち、剣を抜こうとした瞬間。零助はすでに格子の隙間から身を乗り出し、少女――クラリスの目の前に立っていた。

「動くな。アンタ、今すぐその『呪い』を解かないと、三ヶ月以内に倒れるぞ」

「え……? 呪い……?」

クラリスが呆然と立ち尽くす中、零助の指先が彼女の胸元、コルセットの支柱が食い込む「急所」を的確に指し示した。

「アンタが民を救うために練っている魔力、その三割は、その下着のせいで体外に漏れ出してるぞ」

「……っ!? な、何を……!」

あまりにも具体的、かつ「女性の身体の中身」を透視するような零助の言葉に、クラリスの顔が羞恥と驚愕で真っ赤に染まる。周囲の騎士たちは怒髪天を突き、槍の先を零助に突きつけた。

「無礼者ッ! 聖女様に何という破廉恥な妄言を!」

「妄言じゃない、診断だ。アンタ、夜になると肋骨のあたりが疼いて、深く息を吸うと咳が出るだろ。それは信心の試練じゃない、ただの酸欠だ。人を救う前に、自分の身体を救ってやれよ」

零助の瞳には、一切の淫靡さもなかった。そこにあるのは、機能美を害する「悪」に対する、職人特有の冷徹な怒りだけだ。

「……っ、ふ、不躾です! そのような……女性の身体の作りを、さも見てきたかのように語るなど、ただの変態ではありませんか!」

クラリスは震える手で胸元を押さえ、零助を睨みつけた。だが、その瞳の奥には隠しきれない動揺があった。彼が指摘した症状は、誰にも言えずに抱えていた「聖女としての苦しみ」そのものだったからだ。

それを見ていたラナの心臓が、嫌な音を立てて跳ねた。

(……やっぱり。アンタ、初対面の女相手にそこまで『視る』のね)

自分だけが理解されていた特別な領域。それを、この出会ったばかりの女にも同じ熱量で注いでいる。
ラナは、自分の場所を侵食される恐怖と嫉妬に耐えきれず、零助の腕を強引に自分の方へと引き寄せた。

「……もういいでしょ、零助。この女、アンタを『変態』って言ってるじゃない。さっさとここを出ましょうよ。アンタの言葉、こんなわかってない女に安売りしないで」

ラナの声は震えていた。
零助は不思議そうにラナを見たが、やがて小さく溜息をついて肩をすくめた。

「……わかったよ。事実を言ったまでだが、不愉快だったなら謝る」

「……お待ちください」

クラリスが、騎士たちを制して一歩前に出た。
彼女の顔にはまだ羞恥の色が残っていたが、その瞳には聖女としての決然とした光が宿っていた。

「……騎士たちよ、剣を収めなさい。この方々に罪はありません。……解放するのです」

「聖女様!? しかし、こいつはあまりにも無礼な……!」

「構いません。……私の『直感』が、この方の言葉の中にあるはずのない可能性を信じろと言っています。理由は……私一人の心にあれば十分です」

クラリスは、周囲が訝しむのを承知で、それ以上の詳細は語らなかった。ただ、自分しか知らないはずの「真実」を言い当てたこの男に、運命的なものを感じずにはいられなかったのだ。


数刻後。
聖女クラリスの強い進言により、零助とラナは釈放されることとなった。
「変態的な理論」を語る不審者という扱いは変わらないものの、彼女が何らかの価値を見出した客分として、二人は街で最高級の宿へと案内された。

「……サトウ様。用意した宿に、後ほど伺います。その時に、あなたの仰ったことの意味を……詳しく伺わせてください」

「ああ。最高のアトリエを用意しておいてくれ」

豪華な客室に足を踏み入れ、零助は不敵に笑った。
ラナは、用意された椅子に座りながらも、窓の外を見つめる彼の背中をじっと凝視していた。

「ねえ、零助。……私のこと、ちゃんと見てる?」

「あ? なに言ってんだ、さっきから」

「……なんでもないわよ。ただ、アンタを他の女に貸し出すのは、一秒だって嫌なだけ」

ラナは、服の下で脈動する自らの下着を、零助との「鎖」を、確かめるように強く抱きしめた。
王都へと続くこの街で、仕立て屋とモデル、そして聖女による、異世界のQOLを揺るがす大騒動が幕を開けようとしていた。
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