追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

yukataka

文字の大きさ
17 / 35
第2章「復興の女神」

第17話「求婚と決意」

しおりを挟む
翌朝。
謁見の間には、王都からの使者が待っていた。
私は、ルシアンと共に玉座の前に立った。
「お返事を、伺いましょう」
使者が、冷たく言った。
「申し訳ございません」
私は、深く頭を下げた。
「王都への召喚、および第二王子殿下との婚約――共に、お断りします」
場内が、静まり返った。
「……何だと?」
使者の顔が、怒りで歪んだ。
「国王陛下の命を、断ると?」
「はい」
私は、顔を上げた。
「私には、すでに決めた道があります」
「馬鹿な!」
使者が、叫んだ。
「お前は、国に仕える身だ! 個人の意志など――」
「私は、まず人間です」
私は、はっきりと言った。
「貴族である前に、臣下である前に、一人の人間です」
「生意気な……!」
使者が、剣に手をかけた。
その瞬間――。
ルシアンが、私の前に立った。
「それ以上、彼女に手を出すな」
冷たい、殺気を含んだ声。
使者が、凍りついた。
「……覚えておけ」
使者は、踵を返した。
「この報復は、必ずある」
扉を荒々しく閉めて、出ていった。
静寂。
「エリシア」
ルシアンが、私を見た。
「本当に、いいのか?」
「はい」
私は、微笑んだ。
「これが、私の選択です」

三日後。
城門に、豪華な馬車の列が到着した。
「第二王子殿下、ご到着です!」
衛兵の声。
「来たか……」
ルシアンが、低く呟いた。
謁見の間に、第二王子が入ってきた。
黄金の髪、端正な顔立ち。
名前は、カイル=エルデンハイム。
二十五歳。アルベルトより五歳若い。
「辺境王、そして――」
カイルは、私を見た。
「エリシア=ハーランド」
「第二王子殿下」
私は、深く頭を下げた。
「お久しぶりです」
以前、王宮で数回会ったことがある。
彼は、アルベルトとは対照的に――聡明で、礼儀正しかった。
「婚約の話、断ったそうだな」
カイルが、単刀直入に言った。
「はい」
「理由を、聞かせてもらえるか」
「私には、愛する人がいます」
私は、ルシアンを見た。
「その人と、共に生きたいのです」
カイルは、しばらく私たちを見ていた。
「……なるほど」
彼は、深くため息をついた。
「正直に言おう。私も、この婚約には乗り気ではなかった」
「え?」
「父上――国王が、政治的な理由で決めたことだ」
カイルは、窓の外を見た。
「お前の功績、お前の人気。それを王家に取り込みたかったのだろう」
「つまり……」
「利用するつもりだった、ということだ」
カイルの声が、自嘲的だった。
「私も、政治の道具に過ぎない」
その言葉に、共感を覚えた。
「殿下……」
「だが」
カイルは、私を見た。
「国の命令を拒むことは、反逆とみなされる」
「わかっています」
「本当に、覚悟があるのか?」
「あります」
私は、はっきりと答えた。
「私は、自分の人生を生きます」
カイルは、長い沈黙の後――。
「……わかった」
彼は、微笑んだ。
「私から、父上に伝えよう」
「え?」
「『エリシア=ハーランドは、婚約に相応しくない』と」
カイルが、私に近づいた。
「お前は、自由に生きるべきだ。誰かの道具ではなく」
その言葉に、涙が溢れそうになった。
「殿下……ありがとうございます」
「礼を言われることではない」
カイルは、ルシアンを見た。
「辺境王」
「はい」
「彼女を、幸せにしろ」
ルシアンは、深く頭を下げた。
「必ず」
カイルは、そのまま謁見の間を出ていった。

「助かった……」
私は、椅子に座り込んだ。
「まさか、第二王子殿下が味方してくれるなんて」
「彼は、聡明だ」
ルシアンが言った。
「政治を理解している」
「どういうこと?」
「お前を無理に王都に連れて行けば、ノルディアの民衆が黙っていない」
ルシアンは、説明した。
「お前は、もう民衆の英雄だ。それを王家が奪えば――」
「反発が起こる」
「そうだ。カイルは、それを理解している」
なるほど。
「でも、国王陛下は――」
「まだ、諦めないだろうな」
ルシアンの表情が、険しくなった。
「これから、圧力が強まる」
コンコン。
ノックの音。
「どうぞ」
ミラが、慌てて入ってきた。
「エリシア、大変!」
「どうしたの?」
「街で、変な噂が流れてる」
「噂?」
「『エリシアは、国を裏切った』って」
私は、立ち上がった。
「誰が、そんなことを?」
「わかんない。でも、あちこちで聞く」
「……王都の工作だな」
ルシアンが、低く言った。
「お前の評判を落とそうとしている」

翌日、広場に行った。
民衆が、集まっている。
「エリシア様は、本当に国を裏切ったのか?」
「いや、そんなはずない」
「でも、王都からそう言われてる」
ざわめきが広がっている。
「皆さん!」
私は、演台に立った。
民衆が、私を見た。
「噂を、聞きました」
「エリシア様……」
「私が、国を裏切ったと」
私は、全員を見渡した。
「でも、それは違います」
「私は、国を裏切っていません。ただ――」
私は、胸に手を当てた。
「自分の人生を、選んだだけです」
民衆が、静かに聞いている。
「王都は、私を政治の道具にしようとしました」
「でも、私は道具じゃない。人間です」
私の声が、広場に響く。
「皆さんと同じ、一人の人間です」
「だから、自分で選びました。自分の愛する人と、共に生きると」
「それが――」
私は、目に涙を浮かべながら言った。
「それが、間違っていますか?」
静寂。
そして――。
「間違ってない!」
一人の男が、叫んだ。
「エリシア様は、正しい!」
「そうだ! 人間には、選ぶ権利がある!」
「王都が間違ってる!」
次々と、声が上がった。
「エリシア様を、応援する!」
「私たちが、守る!」
「ノルディアは、エリシア様の味方だ!」
その声に、涙が溢れた。
「ありがとうございます……」
私は、深く頭を下げた。
「皆さん、本当にありがとうございます」

その夜、城のバルコニーで。
「民衆が、味方してくれた」
私は、安堵のため息をついた。
「当然だ」
ルシアンが、隣に立った。
「お前は、彼らのために戦ってきた」
「でも、王都の圧力は――」
「心配するな」
ルシアンは、私の手を取った。
「私が、お前を守る」
「ルシアン……」
「エリシア」
彼は、私を見た。
「改めて、言わせてくれ」
ルシアンが、片膝をついた。
「え……」
「エリシア=ハーランド」
彼は、小さな箱を取り出した。
中には、青い宝石の指輪。
「私の妻に、なってください」
心臓が、激しく打った。
「正式な、求婚です」
ルシアンの目が、真剣だった。
「私は、お前を愛している。お前と共に、生きたい」
「私も――」
私は、涙を流しながら頷いた。
「私も、あなたを愛しています」
「喜んで、妻になります」
ルシアンが、指輪を私の指にはめた。
「ありがとう」
彼は、立ち上がって私を抱きしめた。
「幸せにする。必ず」
「私も、あなたを幸せにします」
二人で、抱き合った。
星空の下。
冷たい風が吹いている。
でも、心は――温かかった。
「エリシア」
「はい」
「結婚式は、盛大にやろう」
ルシアンが、笑った。
「ノルディア中の人を呼んで」
「それも良いけど――」
私は、彼を見上げた。
「私は、あなたと二人きりの時間も欲しいです」
ルシアンの顔が、赤くなった。
「お、お前……」
「冗談ですよ」
私は、笑った。
「でも、少しは本気です」
「まったく……」
ルシアンも、笑った。
そして、私の額にキスをした。
優しく、温かいキス。
「愛している」
「私も」
二人で、しばらく抱き合っていた。
遠くで、鐘の音が響いた。
深夜の鐘。
新しい日の始まりを告げる鐘。
「さあ、戻りましょう」
「ああ」
手を繋いで、城に戻る。
廊下を歩きながら、私は思った。
これから、どんな困難が待っているだろう。
王都の圧力、政治的な策略、様々な障害。
でも――。
「大丈夫」
小さく呟いた。
この人がいれば、乗り越えられる。
「何か言ったか?」
「いいえ、何も」
私は、微笑んだ。
「ただ、幸せだなって」
ルシアンが、私の手を強く握った。
「私も、だ」
自室の前に着いた。
「おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
ルシアンは、去りがたそうに立っている。
「あの――」
「はい?」
「もう一度、だけ――」
彼は、私の頬に手を添えた。
そして――。
唇に、優しくキスをした。
短いけれど、愛に満ちたキス。
「……おやすみ」
ルシアンは、照れたように去っていった。
私は、扉を閉めて――。
「きゃあ!」
思わず、声を出してしまった。
心臓が、まだドキドキしている。
「落ち着きなさい、エリシア」
自分に言い聞かせる。
でも、笑みが止まらない。
ベッドに座り込んで、指輪を見つめた。
青い宝石が、月明かりに輝いている。
「婚約者……」
前世では、結婚する暇もなかった。
でも今は――。
「本当に、結婚するんだ」
不思議な気持ち。
でも、後悔は全くない。
「幸せ……」
心から、そう思った。
窓の外、雪が静かに降り始めていた。
祝福の雪のように。
明日から、また忙しい日々が始まる。
結婚の準備、王都との交渉、そして――。
新しい挑戦。
「でも、怖くない」
私は、指輪にキスをした。
「だって、私には――」
愛する人がいる。
信じてくれる仲間がいる。
守りたい未来がある。
「頑張るわ」
その決意を、胸に刻んだ。
長い夜が、静かに更けていった。
でも、エリシアの心には――。
希望の光が、燦々と輝いていた。
明日への光。
未来への光。
愛の光。

翌朝。
「エリシア! 起きて!」
ミラが、部屋に飛び込んできた。
「大変なの!」
「どうしたの?」
まだ眠い目をこすりながら訊く。
「街中が、大騒ぎ!」
「え?」
窓を開けると――。
街中に、人が溢れていた。
「おめでとうございます!」
「エリシア様、お幸せに!」
「結婚式、楽しみです!」
歓声が、響いている。
「どういうこと……?」
「昨夜、誰かが見てたみたい」
ミラが、ニヤニヤしながら言った。
「バルコニーでの、プロポーズ」
「え、ええええ!?」
顔が、真っ赤になった。
「見られてたの!?」
「うん。で、あっという間に街中に広まった」
ミラが、笑った。
「みんな、超喜んでるよ」
「恥ずかしい……」
でも、悪い気はしなかった。
「さあ、準備しなきゃ」
ミラが、私の手を引いた。
「今日から、結婚式の準備!」
「もう!?」
「当たり前でしょ! ノルディア史上最大の結婚式にするんだから!」
ミラの目が、キラキラしている。
「わかったわ」
私も、笑った。
「じゃあ、頑張りましょう」
新しい一日が、始まった。
幸せな、騒がしい、素晴らしい一日。
これが、私の選んだ人生。
これが、私の未来。
「最高ね」
小さく呟きながら、私は服を着替えた。
愛する人のために。
仲間たちのために。
そして、自分自身のために。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流

犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。 しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。 遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。 彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。 転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。 そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。 人は、娯楽で癒されます。 動物や従魔たちには、何もありません。 私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

『偽聖女』として追放された薬草師、辺境の森で神薬を作ります ~魔力過多で苦しむ氷の辺境伯様を癒していたら、なぜか溺愛されています~

とびぃ
ファンタジー
『偽聖女』として追放された薬草師、辺境の森で神薬を作ります ~魔力過多で苦しむ氷の辺境伯様を癒していたら、なぜか溺愛されています~ ⚜️ 概要:地味な「真の聖女」の無自覚ざまぁスローライフ! 王家直属の薬草師ルシルは、国家の生命線である超高純度の『神聖原液』を精製できる唯一の存在。しかし、地味で目立たない彼女は、派手な「光の癒やし」を見せる異母妹アデリーナの嫉妬と、元婚約者である王太子ジェラルドの愚かな盲信により、『偽聖女』の濡れ衣を着せられ、魔物が跋扈する**「嘆きの森」**へ永久追放されてしまう。 すべてを失った絶望の淵。だが、ルシルにとってその森は、なんと伝説のSランク薬草が自生する**「宝の山」だった! 知識とナイフ一本で自由なスローライフの基盤を確立した彼女の前に、ある夜、不治の病『魔力過多症』に苦しむ王国最強の男、"氷の辺境伯"カイラス**が倒れ込む。 市販の薬を毒と拒絶する彼を、ルシルは森で手に入れた最高の素材で作った『神薬』で救済。長年の苦痛から解放されたカイラスは、ルシルこそが己の命を握る唯一の存在だと認識し、彼女を徹底的に**「論理的」に庇護し始める**――それは、やがて極度の溺愛へと変わっていく。 一方、ルシルを失った王都では、ポーションが枯渇し医療体制が崩壊。自らの過ちに気づき恐慌に陥った王太子は、ルシルを連れ戻そうと騎士団を派遣するが、ルシルを守る**完治したカイラスの圧倒的な力(コキュートス)**が立ちはだかる!

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

会社をクビになった私、花魔法Lv.MAXの聖女になりました。旅先で出会うイケメンたちが過保護すぎて困ります

☆ほしい
ファンタジー
理不尽な理由で会社をクビになったアラサーOLの佐藤明里。ある日、唯一の癒やしだったベランダの家庭菜園がきっかけで、異世界に転移してしまう。そこで彼女が手にしたのは、どんな植物も一瞬で育て、枯れた大地すら癒やす『花魔法 Lv.MAX』というチートスキルだった。 「リナ」と名乗り、自由なセカンドライフに胸を躍らせていた矢先、森で魔法の毒に侵され死にかけていた『氷の騎士』カインと出会う。諦めきった様子の彼を、リナはスキルで咲かせた幻の薬草であっさりと救ってみせる。 その奇跡と人柄に心打たれたカインは、生涯をかけた恩返しを誓い、彼女の過保護すぎる守護騎士となることを決意。 不遇だった元OLが、チートな花魔法で人々を癒やし、最強騎士をはじめとする様々なイケメンたちにひたすら愛される、ほのぼの異世界やり直しファンタジー。

『ゴミ溜め場の聖女』と蔑まれた浄化師の私、一族に使い潰されかけたので前世の知識で独立します

☆ほしい
ファンタジー
呪いを浄化する『浄化師』の一族に生まれたセレン。 しかし、微弱な魔力しか持たない彼女は『ゴミ溜め場の聖女』と蔑まれ、命を削る危険な呪具の浄化ばかりを押し付けられる日々を送っていた。 ある日、一族の次期当主である兄に、身代わりとして死の呪いがかかった遺物の浄化を強要される。 死を覚悟した瞬間、セレンは前世の記憶を思い出す。――自分が、歴史的な遺物を修復する『文化財修復師』だったことを。 「これは、呪いじゃない。……経年劣化による、素材の悲鳴だ」 化学知識と修復技術。前世のスキルを応用し、奇跡的に生還したセレンは、搾取されるだけの人生に別れを告げる。 これは、ガラクタ同然の呪具に秘められた真の価値を見出す少女が、自らの工房を立ち上げ、やがて国中の誰もが無視できない存在へと成り上がっていく物語。

処理中です...