追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

yukataka

文字の大きさ
17 / 40
第2章「復興の女神」

第17話「求婚と決意」

しおりを挟む
翌朝。
謁見の間には、王都からの使者が待っていた。
私は、ルシアンと共に玉座の前に立った。
「お返事を、伺いましょう」
使者が、冷たく言った。
「申し訳ございません」
私は、深く頭を下げた。
「王都への召喚、および第二王子殿下との婚約――共に、お断りします」
場内が、静まり返った。
「……何だと?」
使者の顔が、怒りで歪んだ。
「国王陛下の命を、断ると?」
「はい」
私は、顔を上げた。
「私には、すでに決めた道があります」
「馬鹿な!」
使者が、叫んだ。
「お前は、国に仕える身だ! 個人の意志など――」
「私は、まず人間です」
私は、はっきりと言った。
「貴族である前に、臣下である前に、一人の人間です」
「生意気な……!」
使者が、剣に手をかけた。
その瞬間――。
ルシアンが、私の前に立った。
「それ以上、彼女に手を出すな」
冷たい、殺気を含んだ声。
使者が、凍りついた。
「……覚えておけ」
使者は、踵を返した。
「この報復は、必ずある」
扉を荒々しく閉めて、出ていった。
静寂。
「エリシア」
ルシアンが、私を見た。
「本当に、いいのか?」
「はい」
私は、微笑んだ。
「これが、私の選択です」

三日後。
城門に、豪華な馬車の列が到着した。
「第二王子殿下、ご到着です!」
衛兵の声。
「来たか……」
ルシアンが、低く呟いた。
謁見の間に、第二王子が入ってきた。
黄金の髪、端正な顔立ち。
名前は、カイル=エルデンハイム。
二十五歳。アルベルトより五歳若い。
「辺境王、そして――」
カイルは、私を見た。
「エリシア=ハーランド」
「第二王子殿下」
私は、深く頭を下げた。
「お久しぶりです」
以前、王宮で数回会ったことがある。
彼は、アルベルトとは対照的に――聡明で、礼儀正しかった。
「婚約の話、断ったそうだな」
カイルが、単刀直入に言った。
「はい」
「理由を、聞かせてもらえるか」
「私には、愛する人がいます」
私は、ルシアンを見た。
「その人と、共に生きたいのです」
カイルは、しばらく私たちを見ていた。
「……なるほど」
彼は、深くため息をついた。
「正直に言おう。私も、この婚約には乗り気ではなかった」
「え?」
「父上――国王が、政治的な理由で決めたことだ」
カイルは、窓の外を見た。
「お前の功績、お前の人気。それを王家に取り込みたかったのだろう」
「つまり……」
「利用するつもりだった、ということだ」
カイルの声が、自嘲的だった。
「私も、政治の道具に過ぎない」
その言葉に、共感を覚えた。
「殿下……」
「だが」
カイルは、私を見た。
「国の命令を拒むことは、反逆とみなされる」
「わかっています」
「本当に、覚悟があるのか?」
「あります」
私は、はっきりと答えた。
「私は、自分の人生を生きます」
カイルは、長い沈黙の後――。
「……わかった」
彼は、微笑んだ。
「私から、父上に伝えよう」
「え?」
「『エリシア=ハーランドは、婚約に相応しくない』と」
カイルが、私に近づいた。
「お前は、自由に生きるべきだ。誰かの道具ではなく」
その言葉に、涙が溢れそうになった。
「殿下……ありがとうございます」
「礼を言われることではない」
カイルは、ルシアンを見た。
「辺境王」
「はい」
「彼女を、幸せにしろ」
ルシアンは、深く頭を下げた。
「必ず」
カイルは、そのまま謁見の間を出ていった。

「助かった……」
私は、椅子に座り込んだ。
「まさか、第二王子殿下が味方してくれるなんて」
「彼は、聡明だ」
ルシアンが言った。
「政治を理解している」
「どういうこと?」
「お前を無理に王都に連れて行けば、ノルディアの民衆が黙っていない」
ルシアンは、説明した。
「お前は、もう民衆の英雄だ。それを王家が奪えば――」
「反発が起こる」
「そうだ。カイルは、それを理解している」
なるほど。
「でも、国王陛下は――」
「まだ、諦めないだろうな」
ルシアンの表情が、険しくなった。
「これから、圧力が強まる」
コンコン。
ノックの音。
「どうぞ」
ミラが、慌てて入ってきた。
「エリシア、大変!」
「どうしたの?」
「街で、変な噂が流れてる」
「噂?」
「『エリシアは、国を裏切った』って」
私は、立ち上がった。
「誰が、そんなことを?」
「わかんない。でも、あちこちで聞く」
「……王都の工作だな」
ルシアンが、低く言った。
「お前の評判を落とそうとしている」

翌日、広場に行った。
民衆が、集まっている。
「エリシア様は、本当に国を裏切ったのか?」
「いや、そんなはずない」
「でも、王都からそう言われてる」
ざわめきが広がっている。
「皆さん!」
私は、演台に立った。
民衆が、私を見た。
「噂を、聞きました」
「エリシア様……」
「私が、国を裏切ったと」
私は、全員を見渡した。
「でも、それは違います」
「私は、国を裏切っていません。ただ――」
私は、胸に手を当てた。
「自分の人生を、選んだだけです」
民衆が、静かに聞いている。
「王都は、私を政治の道具にしようとしました」
「でも、私は道具じゃない。人間です」
私の声が、広場に響く。
「皆さんと同じ、一人の人間です」
「だから、自分で選びました。自分の愛する人と、共に生きると」
「それが――」
私は、目に涙を浮かべながら言った。
「それが、間違っていますか?」
静寂。
そして――。
「間違ってない!」
一人の男が、叫んだ。
「エリシア様は、正しい!」
「そうだ! 人間には、選ぶ権利がある!」
「王都が間違ってる!」
次々と、声が上がった。
「エリシア様を、応援する!」
「私たちが、守る!」
「ノルディアは、エリシア様の味方だ!」
その声に、涙が溢れた。
「ありがとうございます……」
私は、深く頭を下げた。
「皆さん、本当にありがとうございます」

その夜、城のバルコニーで。
「民衆が、味方してくれた」
私は、安堵のため息をついた。
「当然だ」
ルシアンが、隣に立った。
「お前は、彼らのために戦ってきた」
「でも、王都の圧力は――」
「心配するな」
ルシアンは、私の手を取った。
「私が、お前を守る」
「ルシアン……」
「エリシア」
彼は、私を見た。
「改めて、言わせてくれ」
ルシアンが、片膝をついた。
「え……」
「エリシア=ハーランド」
彼は、小さな箱を取り出した。
中には、青い宝石の指輪。
「私の妻に、なってください」
心臓が、激しく打った。
「正式な、求婚です」
ルシアンの目が、真剣だった。
「私は、お前を愛している。お前と共に、生きたい」
「私も――」
私は、涙を流しながら頷いた。
「私も、あなたを愛しています」
「喜んで、妻になります」
ルシアンが、指輪を私の指にはめた。
「ありがとう」
彼は、立ち上がって私を抱きしめた。
「幸せにする。必ず」
「私も、あなたを幸せにします」
二人で、抱き合った。
星空の下。
冷たい風が吹いている。
でも、心は――温かかった。
「エリシア」
「はい」
「結婚式は、盛大にやろう」
ルシアンが、笑った。
「ノルディア中の人を呼んで」
「それも良いけど――」
私は、彼を見上げた。
「私は、あなたと二人きりの時間も欲しいです」
ルシアンの顔が、赤くなった。
「お、お前……」
「冗談ですよ」
私は、笑った。
「でも、少しは本気です」
「まったく……」
ルシアンも、笑った。
そして、私の額にキスをした。
優しく、温かいキス。
「愛している」
「私も」
二人で、しばらく抱き合っていた。
遠くで、鐘の音が響いた。
深夜の鐘。
新しい日の始まりを告げる鐘。
「さあ、戻りましょう」
「ああ」
手を繋いで、城に戻る。
廊下を歩きながら、私は思った。
これから、どんな困難が待っているだろう。
王都の圧力、政治的な策略、様々な障害。
でも――。
「大丈夫」
小さく呟いた。
この人がいれば、乗り越えられる。
「何か言ったか?」
「いいえ、何も」
私は、微笑んだ。
「ただ、幸せだなって」
ルシアンが、私の手を強く握った。
「私も、だ」
自室の前に着いた。
「おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
ルシアンは、去りがたそうに立っている。
「あの――」
「はい?」
「もう一度、だけ――」
彼は、私の頬に手を添えた。
そして――。
唇に、優しくキスをした。
短いけれど、愛に満ちたキス。
「……おやすみ」
ルシアンは、照れたように去っていった。
私は、扉を閉めて――。
「きゃあ!」
思わず、声を出してしまった。
心臓が、まだドキドキしている。
「落ち着きなさい、エリシア」
自分に言い聞かせる。
でも、笑みが止まらない。
ベッドに座り込んで、指輪を見つめた。
青い宝石が、月明かりに輝いている。
「婚約者……」
前世では、結婚する暇もなかった。
でも今は――。
「本当に、結婚するんだ」
不思議な気持ち。
でも、後悔は全くない。
「幸せ……」
心から、そう思った。
窓の外、雪が静かに降り始めていた。
祝福の雪のように。
明日から、また忙しい日々が始まる。
結婚の準備、王都との交渉、そして――。
新しい挑戦。
「でも、怖くない」
私は、指輪にキスをした。
「だって、私には――」
愛する人がいる。
信じてくれる仲間がいる。
守りたい未来がある。
「頑張るわ」
その決意を、胸に刻んだ。
長い夜が、静かに更けていった。
でも、エリシアの心には――。
希望の光が、燦々と輝いていた。
明日への光。
未来への光。
愛の光。

翌朝。
「エリシア! 起きて!」
ミラが、部屋に飛び込んできた。
「大変なの!」
「どうしたの?」
まだ眠い目をこすりながら訊く。
「街中が、大騒ぎ!」
「え?」
窓を開けると――。
街中に、人が溢れていた。
「おめでとうございます!」
「エリシア様、お幸せに!」
「結婚式、楽しみです!」
歓声が、響いている。
「どういうこと……?」
「昨夜、誰かが見てたみたい」
ミラが、ニヤニヤしながら言った。
「バルコニーでの、プロポーズ」
「え、ええええ!?」
顔が、真っ赤になった。
「見られてたの!?」
「うん。で、あっという間に街中に広まった」
ミラが、笑った。
「みんな、超喜んでるよ」
「恥ずかしい……」
でも、悪い気はしなかった。
「さあ、準備しなきゃ」
ミラが、私の手を引いた。
「今日から、結婚式の準備!」
「もう!?」
「当たり前でしょ! ノルディア史上最大の結婚式にするんだから!」
ミラの目が、キラキラしている。
「わかったわ」
私も、笑った。
「じゃあ、頑張りましょう」
新しい一日が、始まった。
幸せな、騒がしい、素晴らしい一日。
これが、私の選んだ人生。
これが、私の未来。
「最高ね」
小さく呟きながら、私は服を着替えた。
愛する人のために。
仲間たちのために。
そして、自分自身のために。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

過労死コンサル、貧乏貴族に転生す~現代農業知識と魔法で荒地を開拓していたら、いつの間にか世界を救う食糧大国になっていました~

黒崎隼人
ファンタジー
農業コンサルタントとして過労死した杉本健一は、異世界の貧乏貴族ローレンツ家の当主として目覚めた。 待っていたのは、荒れた土地、飢える領民、そして莫大な借金! チートスキルも戦闘能力もない彼に残された武器は、前世で培った「農業知識」だけだった。 「貴族が土を耕すだと?」と笑われても構わない! 輪作、堆肥、品種改良! 現代知識と異世界の魔法を組み合わせた独自農法で、俺は自らクワを握る「耕作貴族」となる! 元Sランク冒険者のクールなメイドや、義理堅い元騎士を仲間に迎え、荒れ果てた領地を最強の農業大国へと変えていく、異色の領地経営ファンタジー!

騎士団長を追放した平和ボケ王国は、七日で滅びました

藤原遊
ファンタジー
長らく戦のなかった王国で、 騎士団長の父を病で失った令嬢は、その座を引き継いだ。 だが王城に呼び出された彼女に告げられたのは、 騎士団の解体と婚約破棄。 理由はただ一つ―― 「武力を持つ者は危険だから」。 平和ボケした王子は、 非力で可愛い令嬢を侍らせ、 彼女を“国の火種”として国外追放する。 しかし王国が攻められなかった本当の理由は、 騎士団長家が持つ“戦況を覆す力”への恐れだった。 追放された令嬢は、即座に隣国帝国へ迎えられ、 軍人として正当に評価され、安泰な地位を得る。 ――そして一週間後。 守りを捨てた王国は、あっけなく陥落した。 これは、 「守る力」を理解しなかった国の末路と、 追放された騎士団長令嬢のその後の物語。

「不吉な黒」と捨てられた令嬢、漆黒の竜を「痛いの飛んでいけー!」で完治させてしまう

ムラサメ
恋愛
​漆黒の髪と瞳。ただそれだけの理由で「不吉なゴミ」と虐げられてきた公爵令嬢ミア。 死の森に捨てられた彼女が出会ったのは、呪いに侵され、最期を待つ最強の黒竜と、その相棒である隣国の竜騎士ゼノだった。 しかし、ミアが無邪気に放った「おまじない」は、伝説の浄化魔法となって世界を塗り替える。 向こう見ずな天才騎士に拾われたミアは、隣国で「女神」として崇められ、徹底的に甘やかされることに。 一方、浄化の源を失った王国は、みるみるうちに泥沼へと沈んでいき……?

悪役令嬢発溺愛幼女着

みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」  わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。  響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。  わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。  冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。  どうして。  誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

役立たず聖女見習い、追放されたので森でマイホームとスローライフします ~召喚できるのは非生物だけ?いいえ、全部最強でした~

しおしお
ファンタジー
聖女見習いとして教会に仕えていた少女は、 「役立たず」と嘲笑され、ある日突然、追放された。 理由は単純。 彼女が召喚できるのは――タンスやぬいぐるみなどの非生物だけだったから。 森へ放り出され、夜を前に途方に暮れる中、 彼女は必死に召喚を行う。 呼び出されたのは、一体の熊のぬいぐるみ。 だがその瞬間、彼女のスキルは覚醒する。 【付喪神】――非生物に魂を宿らせる能力。 喋らないが最強の熊、 空を飛び無限引き出し爆撃を行うタンス、 敬語で語る伝説級聖剣、 そして四本足で歩き、すべてを自動化する“マイホーム”。 彼女自身は戦わない。 努力もしない。 頑張らない。 ただ「止まる場所が欲しかった」だけなのに、 気づけば魔物の軍勢は消え、 王城と大聖堂は跡形もなく吹き飛び、 ――しかし人々は、なぜか生きていた。 英雄になることを拒み、 責任を背負うこともせず、 彼女は再び森へ帰る。 自動調理、自動防衛、完璧な保存環境。 便利すぎる家と、喋らない仲間たちに囲まれた、 頑張らないスローライフが、今日も続いていく。 これは、 「世界を救ってしまったのに、何もしない」 追放聖女の物語。 -

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

公爵令息様を治療したらいつの間にか溺愛されていました

Karamimi
恋愛
マーケッヒ王国は魔法大国。そんなマーケッヒ王国の伯爵令嬢セリーナは、14歳という若さで、治癒師として働いている。それもこれも莫大な借金を返済し、幼い弟妹に十分な教育を受けさせるためだ。 そんなセリーナの元を訪ねて来たのはなんと、貴族界でも3本の指に入る程の大貴族、ファーレソン公爵だ。話を聞けば、15歳になる息子、ルークがずっと難病に苦しんでおり、どんなに優秀な治癒師に診てもらっても、一向に良くならないらしい。 それどころか、どんどん悪化していくとの事。そんな中、セリーナの評判を聞きつけ、藁をもすがる思いでセリーナの元にやって来たとの事。 必死に頼み込む公爵を見て、出来る事はやってみよう、そう思ったセリーナは、早速公爵家で治療を始めるのだが… 正義感が強く努力家のセリーナと、病気のせいで心が歪んでしまった公爵令息ルークの恋のお話です。

処理中です...