戦えない魔法で追放された俺、家電の知識で異世界の生存率を塗り替える

遊鷹太

文字の大きさ
14 / 28
第2章

第14話「湿腐層」

しおりを挟む
早朝、作業場に全員が集まった。

恒一、リーナ、そして雇った前衛が二人。

カインも、すでに来ている。

「よし、全員揃ったな」

カインが、点呼を取る。

恒一は、前衛の二人を見た。

一人目、ゴルド。
四十代。
がっしりした体格。
顔に傷がある。
無口そうな男だ。
剣を腰に差している。

二人目、マルコ。
三十代。
細身だが筋肉質。
槍を持っている。
明るい顔をしている。

マルコが、手を振った。

「よろしくな! 三浦さん」

「よろしくお願いします」

恒一は、礼をした。

ゴルドは、黙って頷いただけだ。

恒一は、装備を確認した。

机の上に、家電が並んでいる。

除湿機、LED照明三台、送風機、電気毛布、携帯バッテリー二個。

マルコが、不思議そうに見ている。

「これ……戦闘装備じゃないよな?」

カインが、答えた。

「恒一は環境対策担当だから」

マルコ「環境対策?」

「ダンジョンで一番ヤバいのは、魔物じゃなくて環境だろ?」

マルコが、少し考えた。

「まあ、確かに……」

ゴルドが、口を開いた。

「......変わった戦術だ」

恒一は、ゴルドを見た。

「問題ありますか?」

ゴルドが、淡々と答える。

「金さえもらえれば、構わない」

恒一は、頷いた。

「報酬は、約束通り支払います」

ゴルド「なら、いい」

カインが、笑った。

「ゴルドはそういう奴だから」

マルコ「でも腕は確かだぜ。A級冒険者だったんだから」

恒一は、記録した。

ゴルド、元A級冒険者。信頼できる。

リーナが、緊張した顔をしている。

カインが、声をかけた。

「リーナちゃん、大丈夫?」

「はい……頑張ります」

カインが、笑顔を見せた。

「頑張らなくていい。恒一の言う通り動けばいい」

リーナが、少し安心した顔をした。

「はい」

恒一は、全員を見た。

「では、出発します」

五人は、作業場を出た。

商人組合の人々が、見送りに来ていた。

ギルベルトが、手を振る。

「恒一、必ず帰ってこいよ!」

「はい」

魚屋のダンも、声をかけてくれた。

「無事に戻れよ!」

恒一は、頷いた。

五人は、西へ向かった。




深層遺跡。

西の森を抜けた先に、それはあった。

巨大な石造りの入口。

古代の建築物。苔むした石壁。

入口の前に、ギルドの管理官が立っている。

他の冒険者パーティも、数組いた。

恒一たちは、管理官のもとへ向かった。

「名前と目的を」

管理官が、羊皮紙を持っている。

恒一は、答えた。

「三浦恒一。第七層到達」

管理官が、記録する。

「死亡率35%。覚悟はいいな」

「はい」

管理官が、恒一を見た。

「お前……戦闘装備は?」

「必要ありません」

管理官が、眉をひそめた。

「......好きにしろ」

記録を終えた。

「次」

カインたちも、順番に登録する。

その間、他の冒険者たちが、恒一を見ていた。

「あいつ、戦闘装備持ってないぞ」

「召喚士か? ダンジョンで召喚士なんて……」

小声で笑う声が聞こえる。

カインが、ニヤリと笑った。

「後で見てろよ」

マルコも、笑っている。

「カインさん、自信ありますね」

「恒一を信じてるからな」

恒一は、入口の前で立ち止まった。

「携帯バッテリーに魔力を充填します」

魔力を集中させる。

バッテリー二個を取り出し、魔力を注入する。

ゆっくりと、慎重に。

バッテリーが、光り始めた。

青白い光。

他の冒険者が、不思議そうに見ている。

「なんだ、あれ?」

「魔力を……蓄積してるのか?」

恒一は、充填を終えた。

「準備完了です」

カインが、頷いた。

「じゃ、行くか」

五人は、ダンジョンに入った。

石造りの通路。

下へと続く階段。

明かりが、少しずつ減っていく。

足音が、反響する。

リーナが、恒一の後ろを歩いている。

緊張しているが、黙っている。

マルコが、明るく言った。

「さあ、冒険の始まりだ!」

ゴルドは、黙って剣の柄に手を置いている。

階段を下り続けた。

どれくらい下りたか。

空気が、変わった。

湿気。

じっとりとした湿気。

リーナが、顔をしかめた。

「うわ……すごい湿気」

マルコが、頷いた。

「第一層、湿腐の間だ」

通路は、石造り。

だが、壁から水が滲み出ている。

床も、濡れている。

カインが、壁を触った。

「ベトベトだな」

指に、ぬめりがつく。

ゴルドが、剣を確認した。

「革の鞘が、もう湿ってる」

マルコも、自分の装備を見る。

「ここ、三日いたら装備が腐るって聞いたぞ」

恒一は、頷いた。

「情報通りです」

前方から、声が聞こえた。

恒一たちは、少し進んだ。

先行していたパーティがいる。

五人組の冒険者たち。

壁にもたれかかっている。

リーダーらしき男が、苦しそうな顔をしていた。

「クソ……湿気がひどい」

仲間の一人が、装備を確認している。

「革鎧が、もうダメだ。カビが生えてる」

別の仲間が、盾を見ている。

「俺の盾も……木が腐りかけてる」

リーダーが、決断した。

「無理だ。撤退する」

カインが、声をかけた。

「もう撤退?」

リーダーが、カインを見た。

目を見開く。

「お前……カイン・ヴォルフか」

「よう」

リーダーが、警告するように言った。

「お前も、やめとけ。ここ、装備がもたない」

カイン「大丈夫。対策あるから」

リーダーが、不思議そうな顔をした。

「対策?」

カインが、恒一を指した。

「こいつが何とかする」

リーダーが、恒一を見た。

戦闘装備のない恒一。

小さな荷物だけ。

リーダーが、首を振った。

「......無理だろ。諦めろ」

「装備なしで、ここは抜けられない」

パーティは、去っていった。

階段を上っていく。

マルコが、言った。

「もう撤退か……早いな」

ゴルド「湿気に耐えられなかったんだろう」

恒一は、前を見た。

「進みます」

五人は、さらに奥へ向かった。

通路は、続く。

湿気は、どんどんひどくなる。

リーナの髪が、湿気で重くなっている。

マルコも、不快そうだ。

「うわ、マジでひどいな」

ゴルドが、剣を抜いた。

「魔物だ」

前方から、何かが近づいてくる。

小型の魔物。

ネズミのような姿。だが、大きい。

三匹。

ゴルドが、前に出た。

「任せろ」

剣を振る。

一撃。

魔物が、倒れた。

マルコも、槍を構える。

二匹目を刺す。

三匹目は、逃げた。

ゴルドが、剣を鞘に戻した。

「雑魚だ」

恒一は、観察していた。

戦闘時間、十秒。

効率的だ。

カインが、記録を取っている。

「魔物、三匹。討伐、二匹」

恒一は、前を見た。

「進みましょう」

さらに進むと、小さな部屋があった。

広さは、十畳ほど。

壁から、水が滲み出ている。

床も、水浸し。

恒一は、部屋の中央に立った。

「ここで、除湿機を設置します」

マルコが、尋ねた。

「除湿機?」

恒一は、答えなかった。

魔力を集中させる。

召喚。

空間が歪む。

光が収束する。

白い箱が現れた。

小型の除湿機。

恒一が、スイッチを入れる。

機械音。

静かな、機械的な音。

リーナが、目を輝かせた。

「動いてます」

カインが、除湿機を観察している。

「これ、何するの?」

恒一は、説明した。

「空気中の湿気を取り除きます」

ゴルドが、眉を上げた。

「......そんなことができるのか?」

「できます」

マルコが、除湿機に近づいた。

「でも、どうやって?」

恒一は、簡潔に答えた。

「内部のフィルターが、水分を吸着します」

「そして、タンクに溜めます」

マルコ「へー……」

数分後。

除湿機のタンクに、水が溜まり始めた。

マルコが、驚いた声を上げた。

「おお……水が出てる」

カインが、笑った。

「マジで湿気取ってるわ」

恒一は、時計を確認した。

「この部屋の湿度を下げます」

「十分ほど、待ってください」

五人は、部屋で待った。

除湿機が、動き続ける。

静かな機械音。

タンクの水が、少しずつ増えていく。

リーナが、空気を確認した。

深呼吸する。

「あ……なんか、空気が軽くなった気がします」

マルコも、試してみた。

「本当だ。さっきより楽だ」

ゴルドが、剣の鞘を確認している。

「革の鞘も……乾いてきてる」

カインが、感心した顔をした。

「すげー。本当に効いてるわ」

恒一は、除湿機のタンクを確認した。

水が、半分ほど溜まっている。

「効果を確認しました」

「この調子で進めます」

夜、野営地点に到着した。

広い空間。

天井が高く、複数のパーティが集まっている。

恒一たちも、一角を確保した。

「ここで休みます」

恒一は、荷物を下ろした。

カインが、周囲を見回している。

「結構、人がいるな」

マルコが、数えた。

「五つ……いや、六つのパーティか」

ゴルドは、黙って座った。

恒一は、魔力を集中させた。

除湿機を召喚する。

一台。

二台。

三台。

周囲に配置する。

同時召喚の限界。

カイン「三台フル稼働か」

恒一は、頷いた。

「魔力消費は、許容範囲です」

三台の除湿機が、動き始めた。

機械音が、響く。

周囲のパーティが、不思議そうに見ている。

隣のパーティのリーダーが、近づいてきた。

「なあ、それ何だ?」

カインが、答えた。

「除湿機。湿気を取る機械」

「機械?」

恒一が、説明する。

「魔法で召喚した装置です」

リーダーが、興味深そうに除湿機を見た。

「効果あるのか?」

「あります」

リーダーが、少し考えた。

「......俺たちの場所にも、置いてくれないか?」

恒一は、首を振った。

「申し訳ありません。同時召喚の限界があります」

「三台までしか、維持できません」

リーダーが、諦めた顔をした。

「そうか……」

「羨ましいな」

リーダーは、自分のパーティに戻った。

リーナが、食事の準備を始めた。

乾燥した肉。パン。水。

マルコが、手伝っている。

「リーナちゃん、俺も手伝うよ」

「ありがとうございます」

ゴルドは、剣の手入れをしている。

布で、丁寧に拭いている。

恒一は、記録をつけた。

第一層、一日目。

除湿機、有効。

装備の劣化、なし。

体調、良好。

カインが、隣に座った。

「順調だな」

「はい」

「他のパーティ、結構きつそうだぜ」

恒一は、周囲を見た。

他のパーティは、不快そうだ。

湿気で、表情が暗い。

装備が濡れている。

誰かが、咳をしている。

カビの臭いが漂っている。

一方、恒一たちの周囲は快適だった。

空気が乾いている。

装備も、湿気ていない。

リーナが、笑顔で食事を配っている。

「はい、どうぞ」

マルコが、嬉しそうに受け取った。

「ありがとう」

ゴルドも、黙って受け取る。

五人で、食事をした。

リーナが、笑顔で言った。

「すごいです。全然ジメジメしません」

マルコも、満足そうだ。

「これなら、ぐっすり眠れそうだ」

「いつもは、湿気で眠れないんだよな」

ゴルドが、珍しく口を開いた。

「......快適だ」

カインが、笑った。

「お前のおかげで、快適だわ」

恒一は、淡々と答えた。

「仕事です」

夜、恒一は除湿機を稼働させたまま眠った。

魔力は、まだ余裕がある。

携帯バッテリーもある。

問題ない。

リーナが、すぐ隣で眠っている。

安心した顔。

ゴルドとマルコも、ぐっすり眠っている。

カインは、記録をつけている。

恒一は、目を閉じた。

快適な夜だった。



三日目。

第一層を進んでいる。

恒一たちは、順調だった。

装備に異常なし。

皮膚も健康。

体力も十分。

リーナが、元気に歩いている。

「恒一さん、私、全然平気です」

「除湿機の効果です」

マルコが、自分の革鎧を確認した。

「俺の革鎧も、全然腐ってない」

「すげーな」

ゴルドも、剣の鞘を見ている。

「......驚いた。本当に効くんだな」

カインが、笑った。

「信じてなかったのか?」

ゴルド「半信半疑だった」

前方から、パーティが来た。

撤退する冒険者たち。

五人組。

顔色が悪い。

装備がボロボロだ。

革鎧には、カビが生えている。

武器も、錆びている。

リーダーが、恒一たちを見て驚いた。

「お前ら……まだいたのか」

カインが、笑顔で答えた。

「まだも何も、順調だぜ」

リーダーが、恒一たちの装備を見る。

綺麗な装備。

健康的な顔色。

リーダーの顔が、信じられないという表情になった。

「......どうやってる?」

恒一が、答えた。

「除湿機です」

リーダー「除湿機って、あの機械か」

「そんなに効くのか……」

恒一「効きます」

リーダーが、悔しそうな顔をした。

「俺たち、三日が限界だった」

「装備が腐って、皮膚病も出始めた」

仲間の一人が、腕を見せた。

赤い発疹。

カビによる皮膚病だ。

リーナが、心配そうに見ている。

リーダーが、ため息をついた。

「お前ら、すげーな」

「第七層、頑張れよ」

カインが、手を振った。

「お疲れ様」

パーティは、去っていった。

階段を上っていく。

マルコが、感心した顔をした。

「すげーな。他のパーティ、どんどん撤退してる」

「でも俺たち、余裕だ」

リーナが、嬉しそうに言った。

「恒一さんのおかげです」

恒一は、淡々と答えた。

「準備の成果です」

ゴルドが、恒一を見た。

「......お前、本物だな」

「本物?」

「プロだ。仕事のやり方が」

恒一は、少し考えた。

「ありがとうございます」

ゴルド「金貨十枚、安いくらいだ」

マルコが、笑った。

「ゴルド、珍しく褒めてるぞ」

ゴルド「事実だ」

五人は、さらに進んだ。

魔物も、何度か現れた。

だが、ゴルドとマルコが対応した。

恒一は、戦闘に参加しない。

除湿機を維持し、環境を管理する。

それが、恒一の仕事だった。




五日目。

第一層の出口が見えた。

階段。

下に続いている。

マルコが、歓声を上げた。

「やった! 第一層クリアだ!」

リーナも、嬉しそうだ。

「無事に抜けられましたね」

ゴルドが、恒一を見た。

「......お前のおかげだ」

恒一は、首を振った。

「いえ」

ゴルド「いや、感謝してる」

「俺、これまで五回ここに来たが」

「こんなに快適だったのは、初めてだ」

マルコも、頷いた。

「俺も。いつもは、湿気でヘトヘトになるのに」

「今回、全然疲れてない」

カインが、笑った。

「恒一、お前すげーわ」

恒一は、除湿機を解除した。

三台の除湿機が、消える。

魔力が、戻ってくる。

体に、力が戻る感覚。

「第二層に備えます」

リーナが、尋ねた。

「次は、暗闇ですよね」

「はい。LED照明を使います」

カインが、期待した顔をした。

「また、何か面白いことやるんだろ?」

「LED照明です」

「楽しみだわ」

恒一は、階段を見た。

暗闇が、待っている。

だが、準備はできている。

LED照明が、ある。

五人は、階段の前で休憩した。

ゴルドが、剣を確認している。

マルコは、槍を磨いている。

リーナは、水を配っている。

カインは、記録をつけている。

恒一も、記録を更新した。

第一層、完全攻略。

所要日数、五日。

装備劣化、なし。

体調不良、なし。

魔物討伐、ゴルドとマルコが対応。

恒一の討伐数、ゼロ。

だが、問題ない。

恒一の仕事は、環境対策だ。

それは、完璧に遂行した。

休憩を終えた。

「行きましょう」

恒一は、立ち上がった。

五人は、第二層への階段を下り始めた。

暗闇が、近づいてくる。

だが、恐れない。

LED照明がある。

計画通りだ。

階段の途中で、恒一は立ち止まった。

「ここで、最終確認をします」

カインが、頷いた。

「おう」

恒一は、装備を確認した。

LED照明、三台。

送風機、一台。

電気毛布、一台。

携帯バッテリー、二個。

すべて、揃っている。

「問題ありません」

リーナが、恒一の隣に来た。

「恒一さん、第一層、本当に楽でしたね」

「除湿機のおかげです」

マルコが、笑った。

「いやー、マジで快適だった」

「いつもは、三日でギブアップするのに」

ゴルドも、同意した。

「......俺も同じだ」

「第一層を、こんなに楽に抜けたのは初めてだ」

カインが、記録を見ている。

「他のパーティ、ほとんど撤退したな」

「俺たちが見ただけで、四組くらい」

恒一は、頷いた。

「装備の劣化、体調不良、が原因でしょう」

「除湿機があれば、防げます」

マルコが、感心した顔をした。

「お前、本当にすげーよ」

「魔物、一匹も倒してないのに」

恒一は、淡々と答えた。

「戦闘は、あなたたちの仕事です」

「私の仕事は、環境対策です」

ゴルドが、恒一を見た。

「役割分担、か」

「はい」

ゴルド「......理にかなってる」

カインが、笑った。

「だろ? 俺、最初からそう思ってたんだ」

マルコ「カインさん、最初は疑ってたくせに」

カイン「いや、疑ってないし」

リーナが、クスッと笑った。

温かい空気。

恒一は、階段を見た。

「では、第二層へ」

五人は、階段を下り始めた。

光が、少しずつ減っていく。

暗くなる。

さらに暗くなる。

完全な暗闇。

リーナが、小さく声を上げた。

「わ……真っ暗です」

マルコも、驚いている。

「おい、何も見えないぞ」

ゴルドが、松明を取り出した。

火をつける。

だが――火が、すぐに小さくなった。

弱々しい光。

そして、消えた。

ゴルド「......消えた」

カイン「マジかよ」

恒一は、予想していた。

「情報通りです」

「この層は、光を吸収します」

マルコ「どうするんだ?」

恒一は、魔力を集中させた。

LED照明を召喚する。

手のひらサイズの小型ライト。

スイッチを入れる。

明るい光。

白く、強い光。

暗闇が、照らされた。

リーナが、驚いた。

「明るい!」

マルコも、目を丸くした。

「すげー! こんなに明るいのか」

光は、消えない。

松明と違う。

電気の光だ。

カインが、感心した。

「おお……これ、消えないな」

恒一は、さらに二台召喚した。

三台のLED照明。

周囲が、明るく照らされた。

ゴルドが、驚いた顔をした。

「......すごいな」

恒一は、一台をリーナに渡した。

「これを持ってください」

「はい」

もう一台を、マルコに渡す。

「前方を照らしてください」

「了解!」

恒一は、最後の一台を自分で持った。

「これで、進めます」

五人は、暗闇の中を進み始めた。

LED照明が、道を照らす。

明るい。

松明より、ずっと明るい。

マルコが、感動した声を上げた。

「これ、マジで便利だな」

「昼間みたいだ」

リーナも、嬉しそうだ。

「足元も、よく見えます」

カインが、記録をつけている。

「LED照明、有効。光の減衰なし」

恒一は、周囲を観察した。

壁には、何かが這った跡がある。

床も、濡れている。

天井からは、水滴が落ちている。

だが、視界は良好だ。

問題ない。

しばらく進むと、休憩地点があった。

広い空間。

恒一は、LED照明を三台とも設置した。

部屋全体が、明るく照らされた。

リーナが、座った。

「明るいと、安心します」

マルコも、頷いた。

「暗闇、怖いもんな」

ゴルドは、黙って水を飲んでいる。

カインが、恒一の隣に座った。

「なあ、恒一」

「はい」

カインが、少し真面目な顔をした。

「お前、本当に戦ってないよな」

恒一は、頷いた。

「戦闘はしていません」

「魔物、一匹も倒してない」

「ゴルドさんとマルコさんが対応しました」

カインが、少し考えた。

「それでも……」

「お前、評価されないぞ。ギルドでは」

恒一は、淡々と答えた。

「分かっています」

カイン「討伐数ゼロだからな」

「問題ありません」

カインが、笑った。

「でもさ、俺は分かったわ」

恒一が、少し驚いた顔をした。

「......何をですか?」

カインが、恒一の肩を叩いた。

「お前、戦ってるんだよな」

恒一「......戦っている?」

「ああ。環境と」

恒一は、黙った。

カインが、続ける。

「他のパーティ、どんどん撤退した」

「湿気に負けた。装備が腐った。体調を崩した」

「でも俺たち、余裕で抜けた」

「装備も無事、体も健康」

カインが、恒一を真っ直ぐ見た。

「これ、お前の勝利だよ」

恒一は、少し考えた。

「勝利……ですか」

「ああ。環境に勝った」

カインが、ニヤリと笑った。

「魔物を倒すより、ずっと難しいことをやってる」

恒一は、その言葉を記憶した。

環境に勝つ。

確かに、それは戦いだ。

見えない敵との戦い。

湿気、暗闇、毒、寒さ。

それらと、戦っている。

恒一は、小さく頷いた。

「......そうかもしれません」

カインが、満足そうに笑った。

「ギルドは評価しないかもしれないけどさ」

「俺は評価するわ」

「お前、すげーよ」

恒一は、答えた。

「ありがとうございます」

カインが、立ち上がった。

「で、次は暗闇だっけ?」

恒一「もう、暗闇です」

「あ、そうか」

カインが、周囲を見た。

LED照明が、部屋を明るく照らしている。

「でも、全然暗くないな」

「LED照明のおかげです」

カイン「また、お前の勝ちだな」

恒一は、立ち上がった。

「まだ、第二層です」

「油断はできません」

カインが、笑った。

「そういうとこ、お前らしいわ」

リーナが、手を振っている。

「恒一さん、カインさん、休憩終わりです」

カイン「おー」

マルコとゴルドも、立ち上がった。

五人は、再び歩き始めた。

LED照明が、暗闇を照らす。

明るい道。

恐れることは、ない。

恒一は、前を見た。

第二層。

暗闇の層。

だが、LED照明がある。

計画通りだ。

環境と戦う。

それが、恒一のやり方だった。

カインの言葉が、頭に残っている。

「お前、戦ってるんだよな。環境と」

そうだ。

恒一は、戦っている。

魔物ではなく、環境と。

討伐数は、ゼロだ。

だが、勝っている。

それで、いい。

恒一は、LED照明を見た。

明るい光。

消えない光。

これが、恒一の武器だった。

五人は、暗闇の中を進んでいく。

だが、暗闇ではなかった。

LED照明が、すべてを照らしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった

雷覇
ファンタジー
ワノクニ、蒼神流・蒼月道場。 天城蒼真は幼き頃から剣を学び、努力を重ねてきた。 だがある日、異世界から来た「勇者」瀬名隼人との出会いが、すべてを変える。 鍛錬も経験もない隼人は、生まれながらの天才。 一目見ただけで蒼真と幼馴染の朱音の剣筋を見切り、打ち破った。 朱音は琴音の命で、隼人の旅に同行することを決意する。 悔しさを抱えた蒼真は、道場を後にする。 目指すは“修羅の山”――魔族が封印され、誰も生きて戻らぬ死地へと旅立つ。

異世界転移したので旅してみました

松石 愛弓
ファンタジー
ある日、目覚めたらそこは異世界で。勇者になってと頼まれたり、いろんな森や町を旅してみることにしました。 ゆる~い感じののんびりほんわかなんでやねん路線の地味系主人公です。 気楽に読めるものを目指しています。よろしくお願いします。毎週土曜日更新予定です。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

異世界配信中。幼馴染みに捨てられた俺に、神々(視聴者)がコメントしてくるんだが。

葉月
ファンタジー
コルネ村で、幼なじみであり恋人でもあったユリアナと、ささやかな幸福を分かち合って生きていたロイド。 だがある日、ユリアナは女神の愛子として目覚め、国王の命により王都へと連れ去られる。 突然、日常を奪われ、運命に引き裂かれたロイドは、抗う術も持たぬまま、否応なく大きな流れへと呑み込まれていく。 これは、奪われたものを取り戻すため、そして理不尽な運命に抗おうとする、一人の少年の物語である。

俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ 『壽命 懸(じゅみょう かける)』 しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。 だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。 異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」

チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。 だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。 魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。 だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。 追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。 訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。 そして助けた少女は、実は王国の姫!? 「もう面倒ごとはごめんだ」 そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。

処理中です...