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第15章『皇帝の野望』
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帝国本国から進軍してくる四万の軍勢。その報せは、瞬く間に王国中に広がった。
王都に戻ったセリーヌは、連日連夜、対応策を練っていた。だが、どう計算しても勝算は見えない。
「我が軍は一万五千」
グレゴールが報告する。
「ノルディア軍はトール将軍を失い、士気が低下しています。アルカディアの傭兵は、契約期間が残り二週間です」
「つまり、二週間以内に決着をつけなければならない」
セリーヌが地図を見つめる。
「だが、四万を相手に、どう戦えと」
「陛下」
サイラスが影のように現れた。
「捕虜のエッシェンバッハが、陛下との面談を求めています」
「エッシェンバッハが?」
セリーヌが眉をひそめる。
「何の用だ」
「重要な情報があると」
「……わかった。連れてこい」
しばらくして、エッシェンバッハが護衛に連れられて入室してきた。捕虜とはいえ、将軍としての威厳は失われていない。
「女王陛下」
エッシェンバッハが一礼する。
「お時間をいただき、感謝します」
「で、何の用だ」
セリーヌが問う。
「帝国皇帝カール五世について、お話ししたい」
エッシェンバッハが真剣な顔になる。
「皇帝陛下は……危険な男です」
「敵の将軍が、自国の皇帝を批判するのか」
「批判ではありません。警告です」
エッシェンバッハが言う。
「皇帝陛下の野望は、リオネール王国の征服だけではありません。全大陸の統一、それが陛下の目的です」
「全大陸?」
セリーヌが驚く。
「そんなことが可能なのか」
「可能かどうかではなく、陛下はそれを信じています」
エッシェンバッハが続ける。
「そのためには、手段を選びません。虐殺も、略奪も、裏切りも。全てが許されると考えています」
「なぜ、お前はそれを私に話す」
「私は軍人です」
エッシェンバッハが答える。
「国のために戦うことに誇りを持っています。ですが、皇帝陛下のやり方には賛同できません」
彼は懐から一通の書簡を取り出した。
「これは、皇帝陛下が私に送った命令書です。読んでください」
セリーヌは書簡を受け取り、内容を読んだ。顔色が変わる。
「これは……」
「リオネール王国を征服した後、全ての王族と貴族を処刑せよ。民衆は奴隷とせよ。抵抗する者は、女子どもであろうとも容赦するな」
グレゴールが書簡を覗き込み、絶句した。
「なんと、残虐な」
「これが、皇帝陛下の本性です」
エッシェンバッハが言う。
「私は、このような命令に従うことはできません」
「では、お前はどうしたい」
セリーヌが問う。
「私を、使ってください」
エッシェンバッハが真剣な目で見つめる。
「帝国内部には、私と同じように皇帝陛下のやり方に疑問を持つ者がいます。彼らと連絡を取り、内部から帝国を揺さぶることができます」
「裏切るのか、自国を」
「裏切るのではありません」
エッシェンバッハが首を横に振る。
「帝国を救うのです。このまま皇帝陛下の野望を放置すれば、帝国は滅びます」
セリーヌは考え込んだ。これは罠かもしれない。だが、エッシェンバッハの目には嘘がないように見える。
「わかった」
セリーヌが決断する。
「お前を信じよう。サイラス、エッシェンバッハ将軍に協力しろ」
「了解しました」
サイラスが頭を下げる。
数日後、帝国皇帝カール五世が、国境に到着したという報せが入った。
「皇帝が来た」
グレゴールが報告する。
「四万の軍勢を率いて、王都に向かっています」
「どのような男だ」
セリーヌが尋ねる。
「四十代半ば。冷酷で計算高く、カリスマ性があると言われています」
グレゴールが説明する。
「幼少期から帝王学を学び、二十歳で帝位に就きました。以来、周辺国を次々と征服してきました」
「化け物だな」
レオンが呟く。
「その化け物と、我々は戦わなければならない」
セリーヌが言う。
その日の午後、帝国から使者が来た。豪華な衣装を身につけた外交官が、羊皮紙を携えている。
「皇帝陛下からの親書です」
使者がセリーヌに渡す。
セリーヌは封を切り、内容を読んだ。
『リオネール王国女王セリーヌへ。余は、ヴァルディア帝国皇帝カール五世である。貴女の勇敢さには敬意を表する。だが、現実を見よ。我が軍勢は四万、貴国の軍勢は一万五千に満たぬ。勝負は既についている。ここに、最後の慈悲として降伏の機会を与える。条件は以下の通り。一、リオネール王国は帝国の属州となる。二、女王セリーヌは退位し、帝国の監視下に置かれる。三、王国軍は武装解除し、解散する。これらを受け入れれば、民衆の命は保証しよう。返答は三日以内に。さもなくば、王都を灰燼に帰す。皇帝カール五世』
セリーヌは書簡を机に叩きつけた。
「ふざけるな」
彼女の声が怒りで震える。
「属州だと?監視下だと?」
「陛下、しかし」
使者が言いかける。
「帰れ」
セリーヌがきっぱりと言う。
「皇帝に伝えろ。リオネール王国は、決して屈しないと」
「……後悔なさいますぞ」
使者が冷たく言い放って退出していった。
評議会が緊急招集された。
「陛下、本当によろしいのですか」
マーカス伯爵が心配そうに言う。
「四万です。我々では到底」
「わかっている」
セリーヌが答える。
「だが、降伏すれば全てが終わる。それよりは、戦って散る方がましだ」
「ですが、民衆は」
「民衆も、私と同じ考えだ」
セリーヌがきっぱりと言う。
「彼らは、自由を選んだ。奴隷として生きるより、自由のために死ぬことを」
その時、サイラスが入室してきた。
「陛下、重要な報告があります」
「何だ」
「東方のミラノ公国から、密使が参りました」
「ミラノ公国?」
セリーヌが驚く。
「あの中立国が、なぜ」
「彼らも、帝国の拡大を恐れています」
サイラスが説明する。
「ミラノ公国は、我が国に軍事支援を申し出ています」
「どれだけの兵力を」
「八千です」
会議室がざわめいた。
「八千なら、我が軍と合わせて二万三千。まだ四万には及ばないが」
グレゴールが計算する。
「ですが、戦えない数字ではありません」
「条件は」
セリーヌが尋ねる。
「戦後、通商条約の締結と、技術交流です」
「それだけか」
「はい。ミラノ公国は、帝国の次の標的になることを恐れています。今、我が国が倒れれば、次は自分たちの番だと」
「賢明な判断だな」
セリーヌが頷く。
「受け入れる。すぐに契約を」
「既に準備してあります」
サイラスが契約書を取り出す。
「陛下のサインをいただければ」
セリーヌは契約書に署名した。これで、援軍が確保できた。
だが、それでもまだ四万には遠い。
「他に、何か手は」
セリーヌが諸侯たちに問う。
「エッシェンバッハ将軍の計画は、どうなっている」
「順調です」
サイラスが報告する。
「帝国内部の反皇帝派と接触し、協力を取り付けました。彼らは、皇帝の出陣中に、帝国本国で反乱を起こす準備をしています」
「反乱?」
「はい。皇帝が敗北すれば、帝国内部は混乱します。その混乱に乗じて、穏健派が実権を握る計画です」
「つまり、我々が勝てば、帝国は内部から崩壊する」
「その通りです」
セリーヌは立ち上がった。
「ならば、勝たなければならない。何としても」
その夜、セリーヌは城壁を歩いていた。星空の下、王都の灯りが静かに輝いている。
「陛下」
レオンが近づいてくる。
「眠らなくてよろしいのですか」
「眠れない」
セリーヌが正直に答える。
「考えることが多すぎる」
「俺も同じです」
レオンが城壁に寄りかかる。
「四万か。途方もない数字です」
「ああ」
セリーヌが頷く。
「だが、諦めるわけにはいかない」
「俺は、陛下を信じています」
レオンが言う。
「どんな困難があろうとも、陛下なら乗り越えられる」
「ありがとう」
セリーヌが微笑む。
「お前がいてくれて、本当に助かっている」
二人は並んで、夜空を見上げた。
翌朝、ミラノ公国の軍勢八千が王都に到着した。彼らは赤と金の軍旗を掲げ、整然と入城してくる。
「ミラノ公国軍、到着しました」
司令官のマルコ・ヴィスコンティが敬礼する。
「我々は、貴国と共に戦います」
「よく来てくれた」
セリーヌが握手を交わす。
「共に、帝国を倒そう」
「光栄です」
マルコが微笑む。
「我が国は小国ですが、兵士たちは精鋭です。期待してください」
これで、総兵力は二万三千。まだ四万には及ばないが、戦える数字になってきた。
午後、作戦会議が開かれた。
「帝国軍四万は、三日後に王都に到着します」
グレゴールが報告する。
「我が軍は二万三千。兵力差は二倍近いです」
「正面からぶつかれば、負ける」
オットー将軍が言う。
「策が必要です」
「エッシェンバッハ将軍」
セリーヌが呼びかける。
「帝国軍の弱点は」
「補給です」
エッシェンバッハが答える。
「四万の軍勢を維持するには、膨大な食糧と水が必要です。補給路を断てば、彼らは戦えなくなります」
「だが、補給路は厳重に警備されているはずだ」
「そこで、内部からの協力です」
エッシェンバッハが地図を指す。
「反皇帝派の将校が、補給部隊の指揮を執っています。彼が、わざと補給を遅らせます」
「なるほど」
セリーヌが頷く。
「補給が遅れれば、帝国軍の士気は下がる」
「その隙を突いて、攻撃します」
マルコが提案する。
「夜襲が効果的でしょう」
「よし」
セリーヌが決断する。
「作戦を立てよう。帝国軍が到着する前に、準備を整える」
その夜、セリーヌは父の書斎で古い文書を読んでいた。父が残した戦術書だ。
そこには、様々な戦術が記されている。奇襲、包囲、伏兵、撤退戦。
一つ一つを読みながら、セリーヌは作戦を練っていく。
「父上」
セリーヌが呟く。
「私は、お前の教えを実践しようとしています。見守っていてください」
窓の外では、兵士たちが夜通し訓練している。剣を振るう音、盾を叩く音。
王都全体が、決戦に向けて準備を進めていた。
二日後、帝国軍が王都の北に現れた。
四万という数字は、実際に見ると圧倒的だった。地平線まで続く兵士の列、無数の旗、巨大な攻城兵器。
その中央に、黄金の玉座を載せた馬車がある。
そこに座っているのが、帝国皇帝カール五世だ。
威厳に満ちた顔立ち、鋭い眼光。その姿は、まさに覇者のそれだった。
「あれが、皇帝か」
セリーヌが城壁から見つめる。
「強大な敵だ」
「ですが、倒せない敵ではありません」
レオンが言う。
「我々には、守るべきものがあります」
「ああ」
セリーヌが剣の柄を握る。
「必ず、勝つ」
帝国軍が王都を包囲し始めた。四方から取り囲み、逃げ道を塞ぐ。
正午、皇帝から再び使者が来た。
「最後通告だ」
使者が叫ぶ。
「今すぐ降伏せよ。さもなくば、王都を完全に破壊する」
「帰れ」
セリーヌが城壁から叫ぶ。
「我々の答えは、変わらない」
「愚かな」
使者が吐き捨てて戻っていく。
その日の夕刻、帝国軍の陣営で異変が起きた。
「皇帝陛下、補給部隊が到着しません」
副官が報告する。
「何?」
皇帝カール五世が眉をひそめる。
「どういうことだ」
「わかりません。連絡も取れません」
「探せ。すぐに探せ」
皇帝が命じる。
だが、補給部隊は見つからなかった。実は、エッシェンバッハの協力者が、補給部隊を別のルートに誘導していたのだ。
「くそ」
皇帝が舌打ちする。
「では、手持ちの補給で戦うしかない」
「ですが、それでは三日が限界です」
「三日で落とせ」
皇帝が命じる。
「総攻撃だ。王都を三日以内に陥落させろ」
その夜、セリーヌは全軍に訓示を与えた。
「兵士諸君」
彼女が語る。
「明日から、最後の戦いが始まる。敵は四万、我々は二万三千。数では劣るが、我々には守るべきものがある」
兵士たちが静かに聞き入る。
「この王都を守り抜けば、我々の勝ちだ。帝国軍は補給が続かない。時間は、我々の味方だ」
セリーヌが剣を掲げる。
「共に戦おう。共に勝利を掴もう」
「女王陛下万歳」
兵士たちが叫ぶ。
その声が、王都全体に響き渡った。
王都に戻ったセリーヌは、連日連夜、対応策を練っていた。だが、どう計算しても勝算は見えない。
「我が軍は一万五千」
グレゴールが報告する。
「ノルディア軍はトール将軍を失い、士気が低下しています。アルカディアの傭兵は、契約期間が残り二週間です」
「つまり、二週間以内に決着をつけなければならない」
セリーヌが地図を見つめる。
「だが、四万を相手に、どう戦えと」
「陛下」
サイラスが影のように現れた。
「捕虜のエッシェンバッハが、陛下との面談を求めています」
「エッシェンバッハが?」
セリーヌが眉をひそめる。
「何の用だ」
「重要な情報があると」
「……わかった。連れてこい」
しばらくして、エッシェンバッハが護衛に連れられて入室してきた。捕虜とはいえ、将軍としての威厳は失われていない。
「女王陛下」
エッシェンバッハが一礼する。
「お時間をいただき、感謝します」
「で、何の用だ」
セリーヌが問う。
「帝国皇帝カール五世について、お話ししたい」
エッシェンバッハが真剣な顔になる。
「皇帝陛下は……危険な男です」
「敵の将軍が、自国の皇帝を批判するのか」
「批判ではありません。警告です」
エッシェンバッハが言う。
「皇帝陛下の野望は、リオネール王国の征服だけではありません。全大陸の統一、それが陛下の目的です」
「全大陸?」
セリーヌが驚く。
「そんなことが可能なのか」
「可能かどうかではなく、陛下はそれを信じています」
エッシェンバッハが続ける。
「そのためには、手段を選びません。虐殺も、略奪も、裏切りも。全てが許されると考えています」
「なぜ、お前はそれを私に話す」
「私は軍人です」
エッシェンバッハが答える。
「国のために戦うことに誇りを持っています。ですが、皇帝陛下のやり方には賛同できません」
彼は懐から一通の書簡を取り出した。
「これは、皇帝陛下が私に送った命令書です。読んでください」
セリーヌは書簡を受け取り、内容を読んだ。顔色が変わる。
「これは……」
「リオネール王国を征服した後、全ての王族と貴族を処刑せよ。民衆は奴隷とせよ。抵抗する者は、女子どもであろうとも容赦するな」
グレゴールが書簡を覗き込み、絶句した。
「なんと、残虐な」
「これが、皇帝陛下の本性です」
エッシェンバッハが言う。
「私は、このような命令に従うことはできません」
「では、お前はどうしたい」
セリーヌが問う。
「私を、使ってください」
エッシェンバッハが真剣な目で見つめる。
「帝国内部には、私と同じように皇帝陛下のやり方に疑問を持つ者がいます。彼らと連絡を取り、内部から帝国を揺さぶることができます」
「裏切るのか、自国を」
「裏切るのではありません」
エッシェンバッハが首を横に振る。
「帝国を救うのです。このまま皇帝陛下の野望を放置すれば、帝国は滅びます」
セリーヌは考え込んだ。これは罠かもしれない。だが、エッシェンバッハの目には嘘がないように見える。
「わかった」
セリーヌが決断する。
「お前を信じよう。サイラス、エッシェンバッハ将軍に協力しろ」
「了解しました」
サイラスが頭を下げる。
数日後、帝国皇帝カール五世が、国境に到着したという報せが入った。
「皇帝が来た」
グレゴールが報告する。
「四万の軍勢を率いて、王都に向かっています」
「どのような男だ」
セリーヌが尋ねる。
「四十代半ば。冷酷で計算高く、カリスマ性があると言われています」
グレゴールが説明する。
「幼少期から帝王学を学び、二十歳で帝位に就きました。以来、周辺国を次々と征服してきました」
「化け物だな」
レオンが呟く。
「その化け物と、我々は戦わなければならない」
セリーヌが言う。
その日の午後、帝国から使者が来た。豪華な衣装を身につけた外交官が、羊皮紙を携えている。
「皇帝陛下からの親書です」
使者がセリーヌに渡す。
セリーヌは封を切り、内容を読んだ。
『リオネール王国女王セリーヌへ。余は、ヴァルディア帝国皇帝カール五世である。貴女の勇敢さには敬意を表する。だが、現実を見よ。我が軍勢は四万、貴国の軍勢は一万五千に満たぬ。勝負は既についている。ここに、最後の慈悲として降伏の機会を与える。条件は以下の通り。一、リオネール王国は帝国の属州となる。二、女王セリーヌは退位し、帝国の監視下に置かれる。三、王国軍は武装解除し、解散する。これらを受け入れれば、民衆の命は保証しよう。返答は三日以内に。さもなくば、王都を灰燼に帰す。皇帝カール五世』
セリーヌは書簡を机に叩きつけた。
「ふざけるな」
彼女の声が怒りで震える。
「属州だと?監視下だと?」
「陛下、しかし」
使者が言いかける。
「帰れ」
セリーヌがきっぱりと言う。
「皇帝に伝えろ。リオネール王国は、決して屈しないと」
「……後悔なさいますぞ」
使者が冷たく言い放って退出していった。
評議会が緊急招集された。
「陛下、本当によろしいのですか」
マーカス伯爵が心配そうに言う。
「四万です。我々では到底」
「わかっている」
セリーヌが答える。
「だが、降伏すれば全てが終わる。それよりは、戦って散る方がましだ」
「ですが、民衆は」
「民衆も、私と同じ考えだ」
セリーヌがきっぱりと言う。
「彼らは、自由を選んだ。奴隷として生きるより、自由のために死ぬことを」
その時、サイラスが入室してきた。
「陛下、重要な報告があります」
「何だ」
「東方のミラノ公国から、密使が参りました」
「ミラノ公国?」
セリーヌが驚く。
「あの中立国が、なぜ」
「彼らも、帝国の拡大を恐れています」
サイラスが説明する。
「ミラノ公国は、我が国に軍事支援を申し出ています」
「どれだけの兵力を」
「八千です」
会議室がざわめいた。
「八千なら、我が軍と合わせて二万三千。まだ四万には及ばないが」
グレゴールが計算する。
「ですが、戦えない数字ではありません」
「条件は」
セリーヌが尋ねる。
「戦後、通商条約の締結と、技術交流です」
「それだけか」
「はい。ミラノ公国は、帝国の次の標的になることを恐れています。今、我が国が倒れれば、次は自分たちの番だと」
「賢明な判断だな」
セリーヌが頷く。
「受け入れる。すぐに契約を」
「既に準備してあります」
サイラスが契約書を取り出す。
「陛下のサインをいただければ」
セリーヌは契約書に署名した。これで、援軍が確保できた。
だが、それでもまだ四万には遠い。
「他に、何か手は」
セリーヌが諸侯たちに問う。
「エッシェンバッハ将軍の計画は、どうなっている」
「順調です」
サイラスが報告する。
「帝国内部の反皇帝派と接触し、協力を取り付けました。彼らは、皇帝の出陣中に、帝国本国で反乱を起こす準備をしています」
「反乱?」
「はい。皇帝が敗北すれば、帝国内部は混乱します。その混乱に乗じて、穏健派が実権を握る計画です」
「つまり、我々が勝てば、帝国は内部から崩壊する」
「その通りです」
セリーヌは立ち上がった。
「ならば、勝たなければならない。何としても」
その夜、セリーヌは城壁を歩いていた。星空の下、王都の灯りが静かに輝いている。
「陛下」
レオンが近づいてくる。
「眠らなくてよろしいのですか」
「眠れない」
セリーヌが正直に答える。
「考えることが多すぎる」
「俺も同じです」
レオンが城壁に寄りかかる。
「四万か。途方もない数字です」
「ああ」
セリーヌが頷く。
「だが、諦めるわけにはいかない」
「俺は、陛下を信じています」
レオンが言う。
「どんな困難があろうとも、陛下なら乗り越えられる」
「ありがとう」
セリーヌが微笑む。
「お前がいてくれて、本当に助かっている」
二人は並んで、夜空を見上げた。
翌朝、ミラノ公国の軍勢八千が王都に到着した。彼らは赤と金の軍旗を掲げ、整然と入城してくる。
「ミラノ公国軍、到着しました」
司令官のマルコ・ヴィスコンティが敬礼する。
「我々は、貴国と共に戦います」
「よく来てくれた」
セリーヌが握手を交わす。
「共に、帝国を倒そう」
「光栄です」
マルコが微笑む。
「我が国は小国ですが、兵士たちは精鋭です。期待してください」
これで、総兵力は二万三千。まだ四万には及ばないが、戦える数字になってきた。
午後、作戦会議が開かれた。
「帝国軍四万は、三日後に王都に到着します」
グレゴールが報告する。
「我が軍は二万三千。兵力差は二倍近いです」
「正面からぶつかれば、負ける」
オットー将軍が言う。
「策が必要です」
「エッシェンバッハ将軍」
セリーヌが呼びかける。
「帝国軍の弱点は」
「補給です」
エッシェンバッハが答える。
「四万の軍勢を維持するには、膨大な食糧と水が必要です。補給路を断てば、彼らは戦えなくなります」
「だが、補給路は厳重に警備されているはずだ」
「そこで、内部からの協力です」
エッシェンバッハが地図を指す。
「反皇帝派の将校が、補給部隊の指揮を執っています。彼が、わざと補給を遅らせます」
「なるほど」
セリーヌが頷く。
「補給が遅れれば、帝国軍の士気は下がる」
「その隙を突いて、攻撃します」
マルコが提案する。
「夜襲が効果的でしょう」
「よし」
セリーヌが決断する。
「作戦を立てよう。帝国軍が到着する前に、準備を整える」
その夜、セリーヌは父の書斎で古い文書を読んでいた。父が残した戦術書だ。
そこには、様々な戦術が記されている。奇襲、包囲、伏兵、撤退戦。
一つ一つを読みながら、セリーヌは作戦を練っていく。
「父上」
セリーヌが呟く。
「私は、お前の教えを実践しようとしています。見守っていてください」
窓の外では、兵士たちが夜通し訓練している。剣を振るう音、盾を叩く音。
王都全体が、決戦に向けて準備を進めていた。
二日後、帝国軍が王都の北に現れた。
四万という数字は、実際に見ると圧倒的だった。地平線まで続く兵士の列、無数の旗、巨大な攻城兵器。
その中央に、黄金の玉座を載せた馬車がある。
そこに座っているのが、帝国皇帝カール五世だ。
威厳に満ちた顔立ち、鋭い眼光。その姿は、まさに覇者のそれだった。
「あれが、皇帝か」
セリーヌが城壁から見つめる。
「強大な敵だ」
「ですが、倒せない敵ではありません」
レオンが言う。
「我々には、守るべきものがあります」
「ああ」
セリーヌが剣の柄を握る。
「必ず、勝つ」
帝国軍が王都を包囲し始めた。四方から取り囲み、逃げ道を塞ぐ。
正午、皇帝から再び使者が来た。
「最後通告だ」
使者が叫ぶ。
「今すぐ降伏せよ。さもなくば、王都を完全に破壊する」
「帰れ」
セリーヌが城壁から叫ぶ。
「我々の答えは、変わらない」
「愚かな」
使者が吐き捨てて戻っていく。
その日の夕刻、帝国軍の陣営で異変が起きた。
「皇帝陛下、補給部隊が到着しません」
副官が報告する。
「何?」
皇帝カール五世が眉をひそめる。
「どういうことだ」
「わかりません。連絡も取れません」
「探せ。すぐに探せ」
皇帝が命じる。
だが、補給部隊は見つからなかった。実は、エッシェンバッハの協力者が、補給部隊を別のルートに誘導していたのだ。
「くそ」
皇帝が舌打ちする。
「では、手持ちの補給で戦うしかない」
「ですが、それでは三日が限界です」
「三日で落とせ」
皇帝が命じる。
「総攻撃だ。王都を三日以内に陥落させろ」
その夜、セリーヌは全軍に訓示を与えた。
「兵士諸君」
彼女が語る。
「明日から、最後の戦いが始まる。敵は四万、我々は二万三千。数では劣るが、我々には守るべきものがある」
兵士たちが静かに聞き入る。
「この王都を守り抜けば、我々の勝ちだ。帝国軍は補給が続かない。時間は、我々の味方だ」
セリーヌが剣を掲げる。
「共に戦おう。共に勝利を掴もう」
「女王陛下万歳」
兵士たちが叫ぶ。
その声が、王都全体に響き渡った。
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★主人公は口が悪いです。
★不定期更新です。
★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。
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