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第16章『総攻撃の嵐』
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夜明けと共に、帝国軍の総攻撃が始まった。
四万の軍勢が一斉に動き出す光景は、圧巻だった。大地が揺れ、空が兵士たちの雄叫びで満たされる。
無数の投石機が火を噴き、巨大な石が王都に降り注ぐ。城壁に激突し、建物を破壊し、街路に穴を開ける。
「全軍、配置につけ」
セリーヌが城壁の上で叫ぶ。
「一歩も引くな。ここが最後の防衛線だ」
兵士たちが持ち場につく。弓兵が矢を番え、歩兵が盾を構える。
「弓兵、放て」
セリーヌの命令で、千の矢が一斉に放たれた。
だが、帝国軍は盾の壁を作り、矢を防ぎながら前進してくる。その数は圧倒的だった。
最初の波が城壁に到達する。梯子が立てかけられ、帝国兵が登り始める。
「梯子を押し返せ」
レオンが叫ぶ。
兵士たちが梯子を押すが、次々と新しい梯子が立てかけられる。
セリーヌは自ら城壁の上で剣を振るった。登ってくる帝国兵を斬り倒し、梯子を蹴り落とす。
「陛下、危険です」
近衛騎士が叫ぶ。
「構わない」
セリーヌが答える。
「女王が戦わずして、誰が戦う」
彼女の剣が閃くたびに、帝国兵が悲鳴を上げて落下していく。
だが、敵の数は多すぎた。城壁のあちこちで、帝国兵が登り切ろうとしている。
「油だ」
セリーヌが命じる。
熱した油が城壁から注がれ、登ってくる帝国兵に降りかかった。悲鳴が響き渡る。
それでも、帝国軍は止まらない。次々と兵士が投入され、城壁への攻撃が激化していく。
午前中だけで、城壁の三ヶ所が損傷を受けた。
「東側城壁、崩壊しそうです」
伝令が報告する。
「予備隊を送れ」
セリーヌが命じる。
「絶対に突破させるな」
戦いは正午を過ぎても続いた。兵士たちは疲労困憊しているが、誰も退こうとしない。
その時、城壁の北側で大きな爆発音が響いた。
「何だ」
セリーヌが駆けつける。
そこでは、帝国軍が火薬を使って城壁を爆破していた。巨大な穴が開き、そこから帝国兵が雪崩れ込んでくる。
「阻止しろ」
レオンが近衛騎士団を率いて突撃した。
穴の前で激しい戦闘が展開される。レオンの剣が帝国兵を次々と斬り倒すが、敵は無限に湧いてくるようだった。
「くそ」
レオンが舌打ちする。
「きりがない」
セリーヌも加わり、共に戦った。二人は背中合わせで、襲いかかる敵を迎え撃つ。
「陛下、このままでは」
「わかっている」
セリーヌが答える。
「だが、今は踏みとどまるしかない」
夕刻になると、城壁の損傷はさらに深刻になっていた。北側の穴は広がり、東側の城壁も崩壊寸前だった。
「損害報告を」
セリーヌが問う。
「戦死五百、負傷千」
オットーが報告する。
「矢と油も残り少ないです」
「食糧は」
「明日一日分です」
「水は」
「貯水槽が破壊されました。井戸の水だけでは、全員には足りません」
絶望的な状況だった。
「だが、敵も同じはずだ」
セリーヌが言う。
「補給が途絶えている。向こうも限界に近い」
「問題は、どちらが先に折れるかです」
グレゴールが言う。
その夜、セリーヌは作戦会議を開いた。
「このままでは、明日の夕方には城壁が完全に崩壊する」
彼女が地図を見つめる。
「その前に、こちらから攻める」
「攻める、ですか」
マルコが驚く。
「我々は守勢です。攻撃に出れば」
「守っているだけでは負ける」
セリーヌがきっぱりと言う。
「ならば、攻めて活路を開く」
「具体的には」
「夜襲だ」
セリーヌが計画を説明する。
「今夜、三千の精鋭で帝国軍の本陣を襲撃する。目標は、皇帝だ」
会議室が静まり返った。
「皇帝を、ですか」
レオンが確認する。
「ああ。皇帝を討ち取れば、帝国軍は崩壊する」
「ですが、本陣は厳重に警備されています」
エッシェンバッハが言う。
「突破するのは困難です」
「だから、お前の力が必要だ」
セリーヌがエッシェンバッハを見る。
「帝国内部の協力者に、本陣の警備を緩めさせられないか」
「……試してみます」
エッシェンバッハが頷く。
「ただし、成功の保証はできません」
「わかっている」
セリーヌが立ち上がる。
「これは賭けだ。だが、他に方法がない」
深夜、三千の兵士が密かに王都を出た。セリーヌとレオン、そして近衛騎士団が先頭に立つ。
月のない暗闇の中、一行は帝国軍の陣営に近づいていった。
「警備が薄い」
レオンが囁く。
「エッシェンバッハの協力者が、成功したようです」
「よし」
セリーヌが頷く。
「全軍、突撃」
三千の兵士が一斉に帝国軍の陣営に突入した。
眠っていた帝国兵たちが驚いて飛び起きる。だが、暗闇の中で敵味方の区別がつかない。
混乱が広がる中、セリーヌは本陣へと突き進んだ。
黄金の玉座が置かれたテントが見える。
「あそこだ」
セリーヌが駆ける。
だが、本陣の前には精鋭の親衛隊が待ち構えていた。
「女王を通すな」
親衛隊長が叫ぶ。
百名の親衛隊が、セリーヌたちを阻む。
「突破する」
セリーヌが剣を構える。
「レオン、私について来い」
「了解」
二人は親衛隊に突撃した。セリーヌの剣とレオンの剣が、闇の中で閃く。
親衛隊は精鋭だった。一人一人が熟練の戦士で、簡単には倒せない。
だが、セリーヌは止まらなかった。一人斬り、二人斬り、三人斬る。その勢いは、まるで復讐の旅をしていた頃のようだった。
「どけ」
セリーヌが叫ぶ。
「私は、皇帝に用がある」
ついに、親衛隊を突破した。セリーヌは本陣のテントに飛び込む。
そこには、黄金の鎧を身につけた男が立っていた。
帝国皇帝カール五世。
「ほう」
皇帝が冷静に言う。
「まさか本当に、ここまで来るとはな」
「カール五世」
セリーヌが剣を構える。
「お前の野望は、ここで終わる」
「野望?」
皇帝が笑う。
「これは野望ではない。使命だ」
彼は剣を抜いた。見事な剣で、柄には宝石が埋め込まれている。
「この大陸を統一し、真の平和をもたらす。それが、余の使命だ」
「平和だと?」
セリーヌが怒りを露わにする。
「お前がやっているのは、征服だ。虐殺だ。略奪だ」
「それは過程に過ぎぬ」
皇帝が冷たく言う。
「統一のためには、犠牲が必要だ。貴女も、その犠牲の一つになるだけだ」
「私は、犠牲にはならない」
セリーヌが突進する。
二人の剣が激突した。
皇帝は強かった。セリーヌが今まで戦ってきた誰よりも強い。剣技、力、速さ、全てが高いレベルにある。
「なかなかやるな、小娘」
皇帝が認める。
「だが、余には及ばぬ」
皇帝の剣が、セリーヌの防御を突破した。刃が肩に食い込み、血が飛び散る。
「ぐっ」
セリーヌがよろめく。
「陛下」
レオンが駆けつけようとするが、親衛隊が阻む。
「余の邪魔をするな」
皇帝が親衛隊に命じる。
「これは、余と女王の決闘だ」
セリーヌは肩の傷を押さえながら、再び構えた。
「まだだ。まだ終わらない」
「愚かな」
皇帝が再び攻撃してくる。
セリーヌは必死に防御するが、次第に押されていく。傷が痛み、体力も限界に近い。
「これで終わりだ」
皇帝の剣が、セリーヌの心臓を狙って突き出される。
その瞬間、セリーヌは父の剣を思い出した。腰に帯びている、父が愛用していた剣。
彼女は咄嗟に父の剣を抜き、皇帝の剣を受け止めた。
二本の剣で、皇帝の攻撃を受け流す。
「二刀流か」
皇帝が驚く。
「面白い」
セリーヌは二本の剣を使い、反撃に転じた。右の剣で攻撃し、左の剣で防御する。
皇帝が初めて、防戦に回った。
「ほう」
皇帝の顔に、初めて焦りの色が浮かぶ。
セリーヌの二本の剣が、嵐のように皇帝を襲う。
そして、隙を見つけた。
セリーヌの左の剣が、皇帝の右腕を斬り裂いた。
「ぐっ」
皇帝の剣が地面に落ちる。
「終わりだ」
セリーヌの右の剣が、皇帝の喉元に突きつけられる。
「……見事だ」
皇帝が認める。
「だが、余を殺しても無駄だ。帝国は、余一人で成り立っているのではない」
「わかっている」
セリーヌが言う。
「だが、お前がいなければ、この戦争は終わる」
「本当にそう思うか」
皇帝が笑う。
「余が死ねば、息子が帝位を継ぐ。そして、復讐のために再び軍を送るだろう」
「ならば、その時はその時だ」
セリーヌが剣に力を込める。
その時、テントの外から叫び声が聞こえた。
「皇帝陛下、敵の増援が」
親衛隊の声だ。
「何?」
セリーヌが振り返る。
テントの外では、帝国軍の援軍が到着し、リオネール軍を包囲しようとしていた。
「陛下、撤退を」
レオンが叫ぶ。
「このままでは囲まれます」
セリーヌは皇帝を見つめた。ここで殺せば、戦争は終わるかもしれない。だが、自分たちも全滅する。
「くそ」
セリーヌが判断する。
「撤退だ。全軍、王都に戻れ」
彼女は皇帝から剣を引き、テントを出た。
「待て」
皇帝が呼び止める。
「余は、貴女を認めた。強い女だ」
「……」
セリーヌは答えず、駆け出した。
リオネール軍は帝国軍の陣営から撤退し、王都へと戻っていった。
夜襲は失敗した。皇帝を討ち取ることはできなかった。
だが、帝国軍に大きな混乱を与えることには成功した。
王都に戻ると、兵士たちが歓声を上げた。
「女王陛下が戻られた」
「陛下は生きている」
セリーヌは馬を降り、城壁に上がった。
東の空が明るくなり始めている。夜が明ける。
「もう一日、持ちこたえた」
セリーヌが呟く。
「あと少しだ。あと少しで」
「陛下」
グレゴールが駆け寄ってくる。
「帝国軍の動きが」
「何だ」
「撤退を始めています」
「撤退?」
セリーヌが驚く。
城壁から見ると、確かに帝国軍が陣営を畳み始めていた。
「補給が完全に途絶えたのでしょう」
エッシェンバッハが説明する。
「これ以上、王都を攻めても勝てないと判断したのです」
「勝った……のか?」
セリーヌが呆然とする。
「ああ、勝ちました」
レオンが微笑む。
「我々の勝利です」
城壁の上で、兵士たちが叫び始めた。
「勝った」
「我々は勝った」
歓声が王都全体に広がっていく。
セリーヌは剣を空に掲げた。
「勝利だ。我々の勝利だ」
民衆が街路に飛び出し、喜びを爆発させる。子どもたちが駆け回り、老人たちが涙を流す。
だが、セリーヌは複雑な表情をしていた。
確かに勝った。だが、どれだけの犠牲を払ったのか。
戦死者は数千に上り、王都は破壊され、財政は破綻している。
これが、勝利なのか。
セリーヌは城壁から、遠ざかっていく帝国軍を見つめた。
四万の軍勢が一斉に動き出す光景は、圧巻だった。大地が揺れ、空が兵士たちの雄叫びで満たされる。
無数の投石機が火を噴き、巨大な石が王都に降り注ぐ。城壁に激突し、建物を破壊し、街路に穴を開ける。
「全軍、配置につけ」
セリーヌが城壁の上で叫ぶ。
「一歩も引くな。ここが最後の防衛線だ」
兵士たちが持ち場につく。弓兵が矢を番え、歩兵が盾を構える。
「弓兵、放て」
セリーヌの命令で、千の矢が一斉に放たれた。
だが、帝国軍は盾の壁を作り、矢を防ぎながら前進してくる。その数は圧倒的だった。
最初の波が城壁に到達する。梯子が立てかけられ、帝国兵が登り始める。
「梯子を押し返せ」
レオンが叫ぶ。
兵士たちが梯子を押すが、次々と新しい梯子が立てかけられる。
セリーヌは自ら城壁の上で剣を振るった。登ってくる帝国兵を斬り倒し、梯子を蹴り落とす。
「陛下、危険です」
近衛騎士が叫ぶ。
「構わない」
セリーヌが答える。
「女王が戦わずして、誰が戦う」
彼女の剣が閃くたびに、帝国兵が悲鳴を上げて落下していく。
だが、敵の数は多すぎた。城壁のあちこちで、帝国兵が登り切ろうとしている。
「油だ」
セリーヌが命じる。
熱した油が城壁から注がれ、登ってくる帝国兵に降りかかった。悲鳴が響き渡る。
それでも、帝国軍は止まらない。次々と兵士が投入され、城壁への攻撃が激化していく。
午前中だけで、城壁の三ヶ所が損傷を受けた。
「東側城壁、崩壊しそうです」
伝令が報告する。
「予備隊を送れ」
セリーヌが命じる。
「絶対に突破させるな」
戦いは正午を過ぎても続いた。兵士たちは疲労困憊しているが、誰も退こうとしない。
その時、城壁の北側で大きな爆発音が響いた。
「何だ」
セリーヌが駆けつける。
そこでは、帝国軍が火薬を使って城壁を爆破していた。巨大な穴が開き、そこから帝国兵が雪崩れ込んでくる。
「阻止しろ」
レオンが近衛騎士団を率いて突撃した。
穴の前で激しい戦闘が展開される。レオンの剣が帝国兵を次々と斬り倒すが、敵は無限に湧いてくるようだった。
「くそ」
レオンが舌打ちする。
「きりがない」
セリーヌも加わり、共に戦った。二人は背中合わせで、襲いかかる敵を迎え撃つ。
「陛下、このままでは」
「わかっている」
セリーヌが答える。
「だが、今は踏みとどまるしかない」
夕刻になると、城壁の損傷はさらに深刻になっていた。北側の穴は広がり、東側の城壁も崩壊寸前だった。
「損害報告を」
セリーヌが問う。
「戦死五百、負傷千」
オットーが報告する。
「矢と油も残り少ないです」
「食糧は」
「明日一日分です」
「水は」
「貯水槽が破壊されました。井戸の水だけでは、全員には足りません」
絶望的な状況だった。
「だが、敵も同じはずだ」
セリーヌが言う。
「補給が途絶えている。向こうも限界に近い」
「問題は、どちらが先に折れるかです」
グレゴールが言う。
その夜、セリーヌは作戦会議を開いた。
「このままでは、明日の夕方には城壁が完全に崩壊する」
彼女が地図を見つめる。
「その前に、こちらから攻める」
「攻める、ですか」
マルコが驚く。
「我々は守勢です。攻撃に出れば」
「守っているだけでは負ける」
セリーヌがきっぱりと言う。
「ならば、攻めて活路を開く」
「具体的には」
「夜襲だ」
セリーヌが計画を説明する。
「今夜、三千の精鋭で帝国軍の本陣を襲撃する。目標は、皇帝だ」
会議室が静まり返った。
「皇帝を、ですか」
レオンが確認する。
「ああ。皇帝を討ち取れば、帝国軍は崩壊する」
「ですが、本陣は厳重に警備されています」
エッシェンバッハが言う。
「突破するのは困難です」
「だから、お前の力が必要だ」
セリーヌがエッシェンバッハを見る。
「帝国内部の協力者に、本陣の警備を緩めさせられないか」
「……試してみます」
エッシェンバッハが頷く。
「ただし、成功の保証はできません」
「わかっている」
セリーヌが立ち上がる。
「これは賭けだ。だが、他に方法がない」
深夜、三千の兵士が密かに王都を出た。セリーヌとレオン、そして近衛騎士団が先頭に立つ。
月のない暗闇の中、一行は帝国軍の陣営に近づいていった。
「警備が薄い」
レオンが囁く。
「エッシェンバッハの協力者が、成功したようです」
「よし」
セリーヌが頷く。
「全軍、突撃」
三千の兵士が一斉に帝国軍の陣営に突入した。
眠っていた帝国兵たちが驚いて飛び起きる。だが、暗闇の中で敵味方の区別がつかない。
混乱が広がる中、セリーヌは本陣へと突き進んだ。
黄金の玉座が置かれたテントが見える。
「あそこだ」
セリーヌが駆ける。
だが、本陣の前には精鋭の親衛隊が待ち構えていた。
「女王を通すな」
親衛隊長が叫ぶ。
百名の親衛隊が、セリーヌたちを阻む。
「突破する」
セリーヌが剣を構える。
「レオン、私について来い」
「了解」
二人は親衛隊に突撃した。セリーヌの剣とレオンの剣が、闇の中で閃く。
親衛隊は精鋭だった。一人一人が熟練の戦士で、簡単には倒せない。
だが、セリーヌは止まらなかった。一人斬り、二人斬り、三人斬る。その勢いは、まるで復讐の旅をしていた頃のようだった。
「どけ」
セリーヌが叫ぶ。
「私は、皇帝に用がある」
ついに、親衛隊を突破した。セリーヌは本陣のテントに飛び込む。
そこには、黄金の鎧を身につけた男が立っていた。
帝国皇帝カール五世。
「ほう」
皇帝が冷静に言う。
「まさか本当に、ここまで来るとはな」
「カール五世」
セリーヌが剣を構える。
「お前の野望は、ここで終わる」
「野望?」
皇帝が笑う。
「これは野望ではない。使命だ」
彼は剣を抜いた。見事な剣で、柄には宝石が埋め込まれている。
「この大陸を統一し、真の平和をもたらす。それが、余の使命だ」
「平和だと?」
セリーヌが怒りを露わにする。
「お前がやっているのは、征服だ。虐殺だ。略奪だ」
「それは過程に過ぎぬ」
皇帝が冷たく言う。
「統一のためには、犠牲が必要だ。貴女も、その犠牲の一つになるだけだ」
「私は、犠牲にはならない」
セリーヌが突進する。
二人の剣が激突した。
皇帝は強かった。セリーヌが今まで戦ってきた誰よりも強い。剣技、力、速さ、全てが高いレベルにある。
「なかなかやるな、小娘」
皇帝が認める。
「だが、余には及ばぬ」
皇帝の剣が、セリーヌの防御を突破した。刃が肩に食い込み、血が飛び散る。
「ぐっ」
セリーヌがよろめく。
「陛下」
レオンが駆けつけようとするが、親衛隊が阻む。
「余の邪魔をするな」
皇帝が親衛隊に命じる。
「これは、余と女王の決闘だ」
セリーヌは肩の傷を押さえながら、再び構えた。
「まだだ。まだ終わらない」
「愚かな」
皇帝が再び攻撃してくる。
セリーヌは必死に防御するが、次第に押されていく。傷が痛み、体力も限界に近い。
「これで終わりだ」
皇帝の剣が、セリーヌの心臓を狙って突き出される。
その瞬間、セリーヌは父の剣を思い出した。腰に帯びている、父が愛用していた剣。
彼女は咄嗟に父の剣を抜き、皇帝の剣を受け止めた。
二本の剣で、皇帝の攻撃を受け流す。
「二刀流か」
皇帝が驚く。
「面白い」
セリーヌは二本の剣を使い、反撃に転じた。右の剣で攻撃し、左の剣で防御する。
皇帝が初めて、防戦に回った。
「ほう」
皇帝の顔に、初めて焦りの色が浮かぶ。
セリーヌの二本の剣が、嵐のように皇帝を襲う。
そして、隙を見つけた。
セリーヌの左の剣が、皇帝の右腕を斬り裂いた。
「ぐっ」
皇帝の剣が地面に落ちる。
「終わりだ」
セリーヌの右の剣が、皇帝の喉元に突きつけられる。
「……見事だ」
皇帝が認める。
「だが、余を殺しても無駄だ。帝国は、余一人で成り立っているのではない」
「わかっている」
セリーヌが言う。
「だが、お前がいなければ、この戦争は終わる」
「本当にそう思うか」
皇帝が笑う。
「余が死ねば、息子が帝位を継ぐ。そして、復讐のために再び軍を送るだろう」
「ならば、その時はその時だ」
セリーヌが剣に力を込める。
その時、テントの外から叫び声が聞こえた。
「皇帝陛下、敵の増援が」
親衛隊の声だ。
「何?」
セリーヌが振り返る。
テントの外では、帝国軍の援軍が到着し、リオネール軍を包囲しようとしていた。
「陛下、撤退を」
レオンが叫ぶ。
「このままでは囲まれます」
セリーヌは皇帝を見つめた。ここで殺せば、戦争は終わるかもしれない。だが、自分たちも全滅する。
「くそ」
セリーヌが判断する。
「撤退だ。全軍、王都に戻れ」
彼女は皇帝から剣を引き、テントを出た。
「待て」
皇帝が呼び止める。
「余は、貴女を認めた。強い女だ」
「……」
セリーヌは答えず、駆け出した。
リオネール軍は帝国軍の陣営から撤退し、王都へと戻っていった。
夜襲は失敗した。皇帝を討ち取ることはできなかった。
だが、帝国軍に大きな混乱を与えることには成功した。
王都に戻ると、兵士たちが歓声を上げた。
「女王陛下が戻られた」
「陛下は生きている」
セリーヌは馬を降り、城壁に上がった。
東の空が明るくなり始めている。夜が明ける。
「もう一日、持ちこたえた」
セリーヌが呟く。
「あと少しだ。あと少しで」
「陛下」
グレゴールが駆け寄ってくる。
「帝国軍の動きが」
「何だ」
「撤退を始めています」
「撤退?」
セリーヌが驚く。
城壁から見ると、確かに帝国軍が陣営を畳み始めていた。
「補給が完全に途絶えたのでしょう」
エッシェンバッハが説明する。
「これ以上、王都を攻めても勝てないと判断したのです」
「勝った……のか?」
セリーヌが呆然とする。
「ああ、勝ちました」
レオンが微笑む。
「我々の勝利です」
城壁の上で、兵士たちが叫び始めた。
「勝った」
「我々は勝った」
歓声が王都全体に広がっていく。
セリーヌは剣を空に掲げた。
「勝利だ。我々の勝利だ」
民衆が街路に飛び出し、喜びを爆発させる。子どもたちが駆け回り、老人たちが涙を流す。
だが、セリーヌは複雑な表情をしていた。
確かに勝った。だが、どれだけの犠牲を払ったのか。
戦死者は数千に上り、王都は破壊され、財政は破綻している。
これが、勝利なのか。
セリーヌは城壁から、遠ざかっていく帝国軍を見つめた。
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やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
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