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めっちゃ泣いてますけど
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「わ、私が君のこ…婚約者となる、サイラス・レオンハルト、だっ…」
美少年は嗚咽混じりに名乗った。サイラス君…そんな名前だったっけね。
光に当たると濃藍にも見える不思議なブルーブラックの髪。子供ながらにほぼ完成された、端整な顔立ち。蜂蜜色のキラキラした瞳が、今は溢れる涙でゆらゆら揺れている。
「わ、私は…っ、この先何があろうとも、君のことを生涯守り抜くと誓う……私の命にかけて」
今度こそ、と決意に満ちた声で少年は言った。
なんかいきなり重過ぎない?
◇◇◇
時を戻そう。
俺は観察力を振り絞り、いま置かれている状況を把握した。
穏やかな光射す豪華な応接間。
目の前にはサイラス君。その右隣にはサイラス君のお父上と思われる、面立ちのよく似たイケオジさん。
左隣にはお母上?と呼んでもいいのかわからないけど、柔らかな雰囲気の美青年が同席していた。
対して、俺サイドには俺の父様であろう、恰幅の良いぽやっとした初老のオジさん。
その隣には母様であろう、ちょっと冷たい感じの美青年が控えていた。
うーん多分俺、母様似ですよね。良かった。
どうやら今日は、サイラス君と俺の婚約を交わすための両家の顔合わせみたいだ。
「はじめまして…サイラス様」
今度こそ?の意味はよくわからないけど、とりあえずご挨拶。
それにしてもまだ8歳くらいでしょサイラス君。
あと十年もしたら、運命の人に出会って俺を断罪するんだから、今から生涯誓っちゃダメなんじゃない?
それと俺、まだ自分の名前が思い出せない。ここはなんとか誤魔化して切り抜けねば。
「あのぅ、サイラス様…。恐れながら、わたしも男でございます。
自分の身は自分で守れますし、サイラス様の貴い命をかけていただく程の価値もございません。
どうか、御身は大切になさって下さい。この先、あなたが本当に命をかけて守るべきものに出会うまで」
なるべく失礼にならず、なるべく束縛しないように、慎重に言葉を選びながら、俺はぎこちなく笑ってみせた。
俺の腕を握りしめているサイラス君の手を、さりげなく解きながら。
自分の声が思ったより幼いことに驚いた。確か婚約者君より、2歳下って設定だったかも。
俺が半歩程下がってサイラス君から距離を取ろうとすると、彼は引き止めるように俺の両手をぎゅっと握り、頭突きする勢いで踏み込んできた。
あっ…ぶないし、顔面が!近い近い近い。
「シエル、私は…君より大切なものなどないし、これからも作るつもりはない」
蜂蜜色の濡れた瞳に射抜かれて、俺はちょっとどころではなくドキドキしてしまう。
睫毛長いな!これだけ綺麗な造りだと、男だとか女だとか関係なく見惚れてしまうし、ときめいちゃうよね。
ていうか俺、シエルって名前だったんだね。
「い、今はそう思って下さっていても、そのぅ…長い人生色々とありますし。
そんなに早く大切なものを決めなくても、いいんじゃないでしょうか」
動揺のあまり、見た目年齢にそぐわない物言いをしてしまった。
将来心変わりしても貴方を責めたりしませんから~という俺の保身よ、伝われ!
つい目をそらしてしまったのは、サイラス君の視線があまりにも強過ぎたから。ビビリーな俺を許して。
そらした先の視界には、母様の若干引きつった氷の美貌があった。
婚約初日にいつでも身を引きます宣言してる息子に、ドン引きしてるんですよねわかります。でもそうでもしないと貴方の息子、将来断罪されちゃうんですよ!ごめんなさいね。
「シエル、君は……婚約者である私よりも、他の者と結ばれたいのか…?」
震える声が聞こえ、そらした目を再びサイラス君に戻し。輝かしいお顔を直視してしまう。ま、眩し!
「そ、そうではなく、サイラス様のような素晴らしい方には、この先もっとふさわしい方が現れることもあるか、と……っ」
サイラス君のお目々から再び滂沱の涙──!
情緒不安定過ぎやしませんか!?
俺は縋る思いで母様を仰ぎ見た。この子、ちょっと俺の手に負えないかも知れません。助けて母様~
俺のアイコンタクトが通じたのか、母様は菫色の瞳を瞬くと、すっと上品な微笑を浮かべた。
「アインシュテルンの不肖の息子に並々ならぬご厚意をいただき…身に余る光栄です。
ただ、シエルはまだ幼く世間知らずでございます。自分の未熟がサイラス様の未来に影さすことを、不安に思っているのでしょう。
誠実な御心に背くような数々のご無礼、どうかご容赦下さいませ」
少し背を屈めサイラス君の瞳を覗き込むようにして、淀みなく言い切る母様。めちゃくちゃキレ者。尊敬する。
そして我が名はシエル・アインシュテルン!これが正式名称らしい。
サイラス君は、蜂蜜の両眼が溶ける前にぱちぱちと瞬きして、涙を散らした。母様の美貌に小さく息を飲みながらも、しっかりと頷いた。
「私こそ、年長でありながらシエルの心も推し量れず…失礼をいたしました。母君の謝ることではございません」
さ、サイラス君も立派~!
キリッと母様を見つめて潔く謝罪する姿は、先程の泣き虫さんと同一人物とは思えない。
柔らかく微笑むサイラス君のお母上も口を挟んだ。
「シエル様があまりにお可愛らしくて、誰かに取られないよう、サイラスもつい先走ってしまったんでしょう。
お恥ずかしながら、すっかりシエル様の虜になってしまったようです。
息子と良いご縁を結んでいただき、心より感謝申し上げます」
優しい中にも凛とした誠実さが感じられる声。お母上も素敵だ。
こんな立派なお家のご子息に断罪される俺、ホント身の程知らずでした。今生はひそやかに慎ましく生きていくのでどうか見逃してくださいませ。
「まだお互いを良く知らない者同士だ。しばらく二人で交流し、相手への理解を深めると良い」
サイラス君のお父上の一声で、俺たちはポンと中庭に追い出された。後は若いお二人でってこと?
めっちゃ気まずいし、俺は別に仲良しになりたくないんですけどー!
美少年は嗚咽混じりに名乗った。サイラス君…そんな名前だったっけね。
光に当たると濃藍にも見える不思議なブルーブラックの髪。子供ながらにほぼ完成された、端整な顔立ち。蜂蜜色のキラキラした瞳が、今は溢れる涙でゆらゆら揺れている。
「わ、私は…っ、この先何があろうとも、君のことを生涯守り抜くと誓う……私の命にかけて」
今度こそ、と決意に満ちた声で少年は言った。
なんかいきなり重過ぎない?
◇◇◇
時を戻そう。
俺は観察力を振り絞り、いま置かれている状況を把握した。
穏やかな光射す豪華な応接間。
目の前にはサイラス君。その右隣にはサイラス君のお父上と思われる、面立ちのよく似たイケオジさん。
左隣にはお母上?と呼んでもいいのかわからないけど、柔らかな雰囲気の美青年が同席していた。
対して、俺サイドには俺の父様であろう、恰幅の良いぽやっとした初老のオジさん。
その隣には母様であろう、ちょっと冷たい感じの美青年が控えていた。
うーん多分俺、母様似ですよね。良かった。
どうやら今日は、サイラス君と俺の婚約を交わすための両家の顔合わせみたいだ。
「はじめまして…サイラス様」
今度こそ?の意味はよくわからないけど、とりあえずご挨拶。
それにしてもまだ8歳くらいでしょサイラス君。
あと十年もしたら、運命の人に出会って俺を断罪するんだから、今から生涯誓っちゃダメなんじゃない?
それと俺、まだ自分の名前が思い出せない。ここはなんとか誤魔化して切り抜けねば。
「あのぅ、サイラス様…。恐れながら、わたしも男でございます。
自分の身は自分で守れますし、サイラス様の貴い命をかけていただく程の価値もございません。
どうか、御身は大切になさって下さい。この先、あなたが本当に命をかけて守るべきものに出会うまで」
なるべく失礼にならず、なるべく束縛しないように、慎重に言葉を選びながら、俺はぎこちなく笑ってみせた。
俺の腕を握りしめているサイラス君の手を、さりげなく解きながら。
自分の声が思ったより幼いことに驚いた。確か婚約者君より、2歳下って設定だったかも。
俺が半歩程下がってサイラス君から距離を取ろうとすると、彼は引き止めるように俺の両手をぎゅっと握り、頭突きする勢いで踏み込んできた。
あっ…ぶないし、顔面が!近い近い近い。
「シエル、私は…君より大切なものなどないし、これからも作るつもりはない」
蜂蜜色の濡れた瞳に射抜かれて、俺はちょっとどころではなくドキドキしてしまう。
睫毛長いな!これだけ綺麗な造りだと、男だとか女だとか関係なく見惚れてしまうし、ときめいちゃうよね。
ていうか俺、シエルって名前だったんだね。
「い、今はそう思って下さっていても、そのぅ…長い人生色々とありますし。
そんなに早く大切なものを決めなくても、いいんじゃないでしょうか」
動揺のあまり、見た目年齢にそぐわない物言いをしてしまった。
将来心変わりしても貴方を責めたりしませんから~という俺の保身よ、伝われ!
つい目をそらしてしまったのは、サイラス君の視線があまりにも強過ぎたから。ビビリーな俺を許して。
そらした先の視界には、母様の若干引きつった氷の美貌があった。
婚約初日にいつでも身を引きます宣言してる息子に、ドン引きしてるんですよねわかります。でもそうでもしないと貴方の息子、将来断罪されちゃうんですよ!ごめんなさいね。
「シエル、君は……婚約者である私よりも、他の者と結ばれたいのか…?」
震える声が聞こえ、そらした目を再びサイラス君に戻し。輝かしいお顔を直視してしまう。ま、眩し!
「そ、そうではなく、サイラス様のような素晴らしい方には、この先もっとふさわしい方が現れることもあるか、と……っ」
サイラス君のお目々から再び滂沱の涙──!
情緒不安定過ぎやしませんか!?
俺は縋る思いで母様を仰ぎ見た。この子、ちょっと俺の手に負えないかも知れません。助けて母様~
俺のアイコンタクトが通じたのか、母様は菫色の瞳を瞬くと、すっと上品な微笑を浮かべた。
「アインシュテルンの不肖の息子に並々ならぬご厚意をいただき…身に余る光栄です。
ただ、シエルはまだ幼く世間知らずでございます。自分の未熟がサイラス様の未来に影さすことを、不安に思っているのでしょう。
誠実な御心に背くような数々のご無礼、どうかご容赦下さいませ」
少し背を屈めサイラス君の瞳を覗き込むようにして、淀みなく言い切る母様。めちゃくちゃキレ者。尊敬する。
そして我が名はシエル・アインシュテルン!これが正式名称らしい。
サイラス君は、蜂蜜の両眼が溶ける前にぱちぱちと瞬きして、涙を散らした。母様の美貌に小さく息を飲みながらも、しっかりと頷いた。
「私こそ、年長でありながらシエルの心も推し量れず…失礼をいたしました。母君の謝ることではございません」
さ、サイラス君も立派~!
キリッと母様を見つめて潔く謝罪する姿は、先程の泣き虫さんと同一人物とは思えない。
柔らかく微笑むサイラス君のお母上も口を挟んだ。
「シエル様があまりにお可愛らしくて、誰かに取られないよう、サイラスもつい先走ってしまったんでしょう。
お恥ずかしながら、すっかりシエル様の虜になってしまったようです。
息子と良いご縁を結んでいただき、心より感謝申し上げます」
優しい中にも凛とした誠実さが感じられる声。お母上も素敵だ。
こんな立派なお家のご子息に断罪される俺、ホント身の程知らずでした。今生はひそやかに慎ましく生きていくのでどうか見逃してくださいませ。
「まだお互いを良く知らない者同士だ。しばらく二人で交流し、相手への理解を深めると良い」
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めっちゃ気まずいし、俺は別に仲良しになりたくないんですけどー!
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