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アルシーラ聖騎士団 3/4
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「それでこそお嬢だ」
セスは意気揚々と馬車を跳び、死線に身を投じる。
それに逸早く気付いた騎士達が、統制の取れた動きでセスを取り囲んだ。
分厚い全身鎧と頑丈な盾に身を固めた完全装備の騎士達と、軽装のセス。装備の差は歴然だ。数でも負けている。ただの斬り合いでは勝機が薄い。故にセスはこの差を逆手に取る。軽装ならではの敏捷性を活かして常に位置を変えながら、騎士の懐に潜り込み、一撃また一撃と攻撃を加えていく。
柄頭で兜を打って昏倒させる。鎧の重さを利用して転倒させ手足の関節を外す。投げナイフが鎧の隙間に直撃する。強力な斬撃で分厚い鎧を砕き、裂傷を与えることもあった。地に散乱した斧槍や戦槌など鎧に有効な武器を拾っての力任せな攻撃も躊躇わない。
聖騎士達は怯むことなく応戦する。その練度たるや凄まじく、重装備とは思えないほど機敏な動きと鋭い武器捌きに加え、それぞれの隙を補完する立ち回りはまさに大陸最強の名に恥じない連携。彼らは装備を身に着けただけの有象無象ではなく、正真正銘本物のアルシーラ聖騎士団だ。クローデンの護衛隊を壊滅させたことからもそれは明白であった。
にも拘らず、彼らの刃はセスに届かない。時には余裕をもって、時には紙一重の差で。騎士達の振るう武器を回避する様は、あたかも曲芸のようであった。
「すごい……なんと勇壮な」
感嘆を漏らしたのはティアだ。武に通じる彼女は、騎士達のいかに精強かがよく理解できる。ティアならば、あの中の騎士一人が相手でも苦戦は必至だろう。故に、それを単独で相手取るセスの動きから目が離せなかった。
「まぁ、ちょっとはやるみたいね」
シルキィが唇を尖らせて言った。ティアが言葉を発するまで、同じくセスの戦いに見惚れていたことを誤魔化しているのだ。
セスの戦闘能力は、連携した騎士団のそれをはるかに凌駕していた。瞬きをする暇もない。聖騎士達は次々と負傷し、戦意を喪失するか意識を失うか、あるいは戦闘不能に陥って戦線を離脱していく。
セスの介入は戦況を一変させた。
聖騎士団は総崩れとなり、劣勢を悟った残りの者は体勢を立て直すためにサラサから離れ、セスとも距離を取らざるを得なかった。
「無事かい?」
セスは気さくな笑みでサラサと合流した。おおよそ戦場に似つかわしくない表情に、サラサは安堵を覚え、傍らのディーンは眉を顰める。
「ミス・シエラの供をしていた方ですわね。ご助力、感謝いたしますわ」
「お礼なら、どうぞミス・シエラへ」
セスはシルキィの馬車を五本の指で指す。
腰を抜かしていたサラサはゆっくりと立ち上がる。ディーンが咄嗟に彼女を支え、シルキィの馬車に向かうのを助けた。
だが。
「手練れがいたか」
地を震わせるような低い声が聞こえた時、すでにサラサに向かって一人の聖騎士が猛然と迫っていた。
「ちぃっ!」
それを遮るように、ディーンが剣を構えて対峙する。
新手の騎士は、鎧と同じく金彫りの凝った意匠の剣を握っていた。刀身は細く、身の丈ほどに長い。
この男は他の団員とはまったく違う。全身から放たれる静かな闘気は、幾度の死線を潜ってきた真の強者特有のもの。それだけではない。彼の全身を覆う緑の靄。新緑の彩りを持つその靄は、強力な魔力が放出されていることを示している。
ディーンは雄叫びと共に剣を振るう。彼とて並みの剣士ではない。クローデンで三本の指に入るというのは真実である。激しく剣を打ち合わせ、一見拮抗した剣戟を演じたかのように思えた。だが、十合にも満たずディーンの体勢が崩されてしまう。
決定打として放った騎士の一撃。反射的に身を翻したディーンの肩から胸にかけて切創が走る。辛うじて致命傷は避けたようだが、決して浅い傷ではない。
「よく凌いだ。だが」
間を置かず打ち込まれたとどめの斬撃。
そこにセスが割って入った。魔力を帯びた一撃を受け止めたセスの腕が悲鳴をあげる。歯を食いしばり大地を踏みしめて、騎士の剣を押し返して後退させた。
「今のうちに!」
「ありがたい!」
セスが作り出した僅かな猶予を逃さず、ディーンはサラサを連れて離脱する。
新手の騎士とは、セスが対峙することとなった。
「フェルメルト・ギルムート」
セスが口にしたのは、アルシーラの騎士団長として諸国に勇名を馳せた男の名だ。大陸最強の騎士団を率いる、名実ともに当代屈指の使い手である。
「あなたほどの男が、賊に身を窶したか」
セスの呟きは、糾弾というよりほとんど嘆きに近かった。
フェルメルトの厳めしい顔に、強い険が生まれる。
「黙れ」
空間に殺気が満ちる。息苦しいまでに濃密な気当たりだ。
「帝国に媚びる野良犬が」
燭台の火が風に揺らめいたのを合図に、フェルメルトの巨躯がぶれた。
セスは半ば無意識のうちに剣を構える。
緑の軌跡を引いて迫る刃。それを受けると、凄まじい衝撃がセスを襲った。間髪いれず、鋭い斬撃が幾度となく迫る。残像を描くほどに速く、体の芯まで響く重い剣であった。
彼の持つ剣は軽そうに見えて相当な重量がある。長さも重さもある剣を片手で振り回す膂力と技術は尋常ではない。纏う魔力が肉体の能力を底上げしているのだろう。身体強化の魔法は単純だが、それ故に強力だ。リーチで劣る状態では防戦一方。セスは投げナイフを抜く隙も見出せない。
鈍い金属音が断続する。幾度となく繰り出される斬撃を受けるうち、セスの手は次第に痺れてくる。握りが弱まる瞬間を狙っていたのだろう。フェルメルトが放った疾風の如き一撃が、痺れた手から剣を弾き飛ばした。
戦いを見守っていたシルキィとティアが、同時に息を呑む。
「もらった」
好機とばかりに、強烈な刺突がセスの胸めがけて放たれた。
セスは意気揚々と馬車を跳び、死線に身を投じる。
それに逸早く気付いた騎士達が、統制の取れた動きでセスを取り囲んだ。
分厚い全身鎧と頑丈な盾に身を固めた完全装備の騎士達と、軽装のセス。装備の差は歴然だ。数でも負けている。ただの斬り合いでは勝機が薄い。故にセスはこの差を逆手に取る。軽装ならではの敏捷性を活かして常に位置を変えながら、騎士の懐に潜り込み、一撃また一撃と攻撃を加えていく。
柄頭で兜を打って昏倒させる。鎧の重さを利用して転倒させ手足の関節を外す。投げナイフが鎧の隙間に直撃する。強力な斬撃で分厚い鎧を砕き、裂傷を与えることもあった。地に散乱した斧槍や戦槌など鎧に有効な武器を拾っての力任せな攻撃も躊躇わない。
聖騎士達は怯むことなく応戦する。その練度たるや凄まじく、重装備とは思えないほど機敏な動きと鋭い武器捌きに加え、それぞれの隙を補完する立ち回りはまさに大陸最強の名に恥じない連携。彼らは装備を身に着けただけの有象無象ではなく、正真正銘本物のアルシーラ聖騎士団だ。クローデンの護衛隊を壊滅させたことからもそれは明白であった。
にも拘らず、彼らの刃はセスに届かない。時には余裕をもって、時には紙一重の差で。騎士達の振るう武器を回避する様は、あたかも曲芸のようであった。
「すごい……なんと勇壮な」
感嘆を漏らしたのはティアだ。武に通じる彼女は、騎士達のいかに精強かがよく理解できる。ティアならば、あの中の騎士一人が相手でも苦戦は必至だろう。故に、それを単独で相手取るセスの動きから目が離せなかった。
「まぁ、ちょっとはやるみたいね」
シルキィが唇を尖らせて言った。ティアが言葉を発するまで、同じくセスの戦いに見惚れていたことを誤魔化しているのだ。
セスの戦闘能力は、連携した騎士団のそれをはるかに凌駕していた。瞬きをする暇もない。聖騎士達は次々と負傷し、戦意を喪失するか意識を失うか、あるいは戦闘不能に陥って戦線を離脱していく。
セスの介入は戦況を一変させた。
聖騎士団は総崩れとなり、劣勢を悟った残りの者は体勢を立て直すためにサラサから離れ、セスとも距離を取らざるを得なかった。
「無事かい?」
セスは気さくな笑みでサラサと合流した。おおよそ戦場に似つかわしくない表情に、サラサは安堵を覚え、傍らのディーンは眉を顰める。
「ミス・シエラの供をしていた方ですわね。ご助力、感謝いたしますわ」
「お礼なら、どうぞミス・シエラへ」
セスはシルキィの馬車を五本の指で指す。
腰を抜かしていたサラサはゆっくりと立ち上がる。ディーンが咄嗟に彼女を支え、シルキィの馬車に向かうのを助けた。
だが。
「手練れがいたか」
地を震わせるような低い声が聞こえた時、すでにサラサに向かって一人の聖騎士が猛然と迫っていた。
「ちぃっ!」
それを遮るように、ディーンが剣を構えて対峙する。
新手の騎士は、鎧と同じく金彫りの凝った意匠の剣を握っていた。刀身は細く、身の丈ほどに長い。
この男は他の団員とはまったく違う。全身から放たれる静かな闘気は、幾度の死線を潜ってきた真の強者特有のもの。それだけではない。彼の全身を覆う緑の靄。新緑の彩りを持つその靄は、強力な魔力が放出されていることを示している。
ディーンは雄叫びと共に剣を振るう。彼とて並みの剣士ではない。クローデンで三本の指に入るというのは真実である。激しく剣を打ち合わせ、一見拮抗した剣戟を演じたかのように思えた。だが、十合にも満たずディーンの体勢が崩されてしまう。
決定打として放った騎士の一撃。反射的に身を翻したディーンの肩から胸にかけて切創が走る。辛うじて致命傷は避けたようだが、決して浅い傷ではない。
「よく凌いだ。だが」
間を置かず打ち込まれたとどめの斬撃。
そこにセスが割って入った。魔力を帯びた一撃を受け止めたセスの腕が悲鳴をあげる。歯を食いしばり大地を踏みしめて、騎士の剣を押し返して後退させた。
「今のうちに!」
「ありがたい!」
セスが作り出した僅かな猶予を逃さず、ディーンはサラサを連れて離脱する。
新手の騎士とは、セスが対峙することとなった。
「フェルメルト・ギルムート」
セスが口にしたのは、アルシーラの騎士団長として諸国に勇名を馳せた男の名だ。大陸最強の騎士団を率いる、名実ともに当代屈指の使い手である。
「あなたほどの男が、賊に身を窶したか」
セスの呟きは、糾弾というよりほとんど嘆きに近かった。
フェルメルトの厳めしい顔に、強い険が生まれる。
「黙れ」
空間に殺気が満ちる。息苦しいまでに濃密な気当たりだ。
「帝国に媚びる野良犬が」
燭台の火が風に揺らめいたのを合図に、フェルメルトの巨躯がぶれた。
セスは半ば無意識のうちに剣を構える。
緑の軌跡を引いて迫る刃。それを受けると、凄まじい衝撃がセスを襲った。間髪いれず、鋭い斬撃が幾度となく迫る。残像を描くほどに速く、体の芯まで響く重い剣であった。
彼の持つ剣は軽そうに見えて相当な重量がある。長さも重さもある剣を片手で振り回す膂力と技術は尋常ではない。纏う魔力が肉体の能力を底上げしているのだろう。身体強化の魔法は単純だが、それ故に強力だ。リーチで劣る状態では防戦一方。セスは投げナイフを抜く隙も見出せない。
鈍い金属音が断続する。幾度となく繰り出される斬撃を受けるうち、セスの手は次第に痺れてくる。握りが弱まる瞬間を狙っていたのだろう。フェルメルトが放った疾風の如き一撃が、痺れた手から剣を弾き飛ばした。
戦いを見守っていたシルキィとティアが、同時に息を呑む。
「もらった」
好機とばかりに、強烈な刺突がセスの胸めがけて放たれた。
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