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敵陣突入 1/2
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魔導馬の蹄鉄が平原の土を打つ。二頭の銀馬は疾風の如く、夕焼けの下を猛進していた。
目指すは、旧エーランド王都パマルティスだ。
セスが先導し、ティアがすぐ後ろを追従する。彼女の背中には、シルキィがお守りにしていた長剣があった。
「では、お嬢様はパマルティスに連れ去られたというのですか?」
「ああ。奴ら、独立の人質として利用するつもりだ。デットランで貴族攫いが多かったのも、全部この為だったんだろうな」
組合での騒動の後、ティアを伴ってグランタリアを発った。急な出立だったため、ティアへの説明は道中で行っている。
「人質、ということでしたら、お嬢様の身は安全なのでしょうか。利用するつもりなら下手に傷付けたりはしないでしょうし」
ティアの希望的な憶測に対して、セスは何も答えなかった。命だけは奪われないだろうが、それだけだ。シルキィがどのような目に遭っているかはわからない。
「独立がなったからと言って人質が解放されるわけじゃないんだ。帝国がいつ方針を変えるかもわからない。だったら、少しでも早く助け出すしかない」
「仰る通りです。申し訳ありません。無用な気休めでした」
気持ちはわかる。だが、現実は非情だ。
グランタリアを発ってから半日が経過しようというあたりで、パマルティスの高い外壁が見えてきた。紅く染まった空では夕日が沈もうとしている。都市の外門は固く閉ざされ、外壁には歩哨が警戒していた。
「さて。考えなしに来たはいいけど、あれをどう攻めるか」
小高い丘に立つ一本の木の下で、セスとティアはパマルティスの外壁を眺めている。
「門は固く閉ざされています。忍び込む隙などあるのでしょうか」
「ダプアみたいに地下道でもあったらな」
もしかしたらあるのかもしれないが、そういったものは大抵厳重に隠されている。有事の際、王族が逃亡する際の抜け道として使われるからだ。探し出すのは時間と根気がいるだろう。残念ながら今それほどの猶予はない。
「いっそのこと、あの外門を破壊して正面突破を試みますか?」
「それができれば苦労はないけど」
そこまで言って、セスはティアが何故そんな提案をしたかを考える。
「できるのか?」
頑丈な外門を破壊するなど突拍子もない発想だ。そんな手段はセスには思いつかない。
「出立の際、旦那様が仰ったことを憶えておいでですか? 魔導馬には、隠された使い方があると」
セスは首肯する。
「それを使用します。魔導馬はしばらく機能を停止してしまいますが、この際致し方ありません」
「詳しく聞かせてくれ」
二人は一応の作戦を立てた。それはあまりにもお粗末な計画で、とても作戦と呼べるような代物ではない。外門を破壊後、セスが突撃して警備を撹乱し、その隙にティアが潜入してシルキィを救い出す。
「パマルティスの王城は焼失してるから、奴らの拠点は大聖堂だと思う。堅牢で、守りを固めるに最適。お嬢もそこにいるはずだ」
「私は真っすぐ聖堂を目指せばよろしいのですね」
「ああ。けど、できるだけ目立たない路地を使うんだ。敵に見つかったら後はない」
外門からおよそ五百ミトロの距離で、二人を馬を止めた。歩哨にもこちらを視認されているだろう。だが、矢や攻性魔法が届く距離ではない。
魔導馬の首の裏にはめ込まれた魔石に手を当てると、装甲の隙間から漏れる青白い燐光が強まった。重なり合っていた金属板が展開し、黒い骨格が露わになる。それまでぴったりと閉じられていた口が、顎が外れるように真下にずれ、喉の奥から太い砲身が伸びた。先端に魔石を備えた砲身には青白い文様が浮かび、その光度を上げていく。
魔導馬に搭載された攻撃機構。トゥジクスが仄めかした、隠された機能である。
これを発動すれば最後、戦いは始まり、最早引き返せないだろう。
緊張と恐怖を勇気で塗りつぶし、ティアは深く息を吸い込んだ。
「エーランドの腐れ兵士ども!」
力一杯に声を張り上げる。
「くたばりやがれぇッ!」
ティアの豪然たる一声を引き金に、魔導馬の内部で圧縮された魔力が加速と集束を繰り返して砲身から放出される。
それはまさに光の爆発であった。周囲一帯は目も眩む閃耀に包まれ、歩哨の誰もかもがきつく瞼を閉じた。魔導馬の口から伸びたのは青白い光芒。魔導馬の首よりも太いそれは刹那の間に門へと直撃し、その輝きを膨れ上がらせ、金属製の堅牢な大門を瞬時にして溶解させた。光が収まるまでの数秒間で、見上げるほどの大門は初めから何もなかったかのように消え失せる。
動力となる魔力を収束して撃ち出す魔導馬の攻撃機構。ティアも知識としては知っていたが、実際の威力を目の当たりにして空いた口が塞がらなかった。恐るべきは帝国の魔導技術である。こんなものがあと何頭もいれば、戦力としては申し分ない。否、度が過ぎている。攻城兵器に耐えうる設計をされた大都市の門をものの一瞬で消滅させるなど。
魔導馬は沈黙した。展開していた装甲と砲門が戻り、青白い燐光が消える。長旅で消費していた燃料が、今の一撃で底をついたようだった。
「活路を開く。後は頼んだ」
力強く言い残して、セスは魔導馬を発進させる。
「ご武運を!」
背中にかけられたティアの声援が、これ以上なく心強かった。
セスは全速力で都市に突入する。敵陣の真っ只中に、たった一人。
勝ち目はない。策もない。頼みの綱は魔導馬だけだが、千の軍勢を相手取るにはあまりに心許ない。
だがそれがどうした。シルキィの護衛依頼を受けた時、セスは誓ったのだ。
何があっても彼女を守ると。
「待ってろ、お嬢」
目指すは、旧エーランド王都パマルティスだ。
セスが先導し、ティアがすぐ後ろを追従する。彼女の背中には、シルキィがお守りにしていた長剣があった。
「では、お嬢様はパマルティスに連れ去られたというのですか?」
「ああ。奴ら、独立の人質として利用するつもりだ。デットランで貴族攫いが多かったのも、全部この為だったんだろうな」
組合での騒動の後、ティアを伴ってグランタリアを発った。急な出立だったため、ティアへの説明は道中で行っている。
「人質、ということでしたら、お嬢様の身は安全なのでしょうか。利用するつもりなら下手に傷付けたりはしないでしょうし」
ティアの希望的な憶測に対して、セスは何も答えなかった。命だけは奪われないだろうが、それだけだ。シルキィがどのような目に遭っているかはわからない。
「独立がなったからと言って人質が解放されるわけじゃないんだ。帝国がいつ方針を変えるかもわからない。だったら、少しでも早く助け出すしかない」
「仰る通りです。申し訳ありません。無用な気休めでした」
気持ちはわかる。だが、現実は非情だ。
グランタリアを発ってから半日が経過しようというあたりで、パマルティスの高い外壁が見えてきた。紅く染まった空では夕日が沈もうとしている。都市の外門は固く閉ざされ、外壁には歩哨が警戒していた。
「さて。考えなしに来たはいいけど、あれをどう攻めるか」
小高い丘に立つ一本の木の下で、セスとティアはパマルティスの外壁を眺めている。
「門は固く閉ざされています。忍び込む隙などあるのでしょうか」
「ダプアみたいに地下道でもあったらな」
もしかしたらあるのかもしれないが、そういったものは大抵厳重に隠されている。有事の際、王族が逃亡する際の抜け道として使われるからだ。探し出すのは時間と根気がいるだろう。残念ながら今それほどの猶予はない。
「いっそのこと、あの外門を破壊して正面突破を試みますか?」
「それができれば苦労はないけど」
そこまで言って、セスはティアが何故そんな提案をしたかを考える。
「できるのか?」
頑丈な外門を破壊するなど突拍子もない発想だ。そんな手段はセスには思いつかない。
「出立の際、旦那様が仰ったことを憶えておいでですか? 魔導馬には、隠された使い方があると」
セスは首肯する。
「それを使用します。魔導馬はしばらく機能を停止してしまいますが、この際致し方ありません」
「詳しく聞かせてくれ」
二人は一応の作戦を立てた。それはあまりにもお粗末な計画で、とても作戦と呼べるような代物ではない。外門を破壊後、セスが突撃して警備を撹乱し、その隙にティアが潜入してシルキィを救い出す。
「パマルティスの王城は焼失してるから、奴らの拠点は大聖堂だと思う。堅牢で、守りを固めるに最適。お嬢もそこにいるはずだ」
「私は真っすぐ聖堂を目指せばよろしいのですね」
「ああ。けど、できるだけ目立たない路地を使うんだ。敵に見つかったら後はない」
外門からおよそ五百ミトロの距離で、二人を馬を止めた。歩哨にもこちらを視認されているだろう。だが、矢や攻性魔法が届く距離ではない。
魔導馬の首の裏にはめ込まれた魔石に手を当てると、装甲の隙間から漏れる青白い燐光が強まった。重なり合っていた金属板が展開し、黒い骨格が露わになる。それまでぴったりと閉じられていた口が、顎が外れるように真下にずれ、喉の奥から太い砲身が伸びた。先端に魔石を備えた砲身には青白い文様が浮かび、その光度を上げていく。
魔導馬に搭載された攻撃機構。トゥジクスが仄めかした、隠された機能である。
これを発動すれば最後、戦いは始まり、最早引き返せないだろう。
緊張と恐怖を勇気で塗りつぶし、ティアは深く息を吸い込んだ。
「エーランドの腐れ兵士ども!」
力一杯に声を張り上げる。
「くたばりやがれぇッ!」
ティアの豪然たる一声を引き金に、魔導馬の内部で圧縮された魔力が加速と集束を繰り返して砲身から放出される。
それはまさに光の爆発であった。周囲一帯は目も眩む閃耀に包まれ、歩哨の誰もかもがきつく瞼を閉じた。魔導馬の口から伸びたのは青白い光芒。魔導馬の首よりも太いそれは刹那の間に門へと直撃し、その輝きを膨れ上がらせ、金属製の堅牢な大門を瞬時にして溶解させた。光が収まるまでの数秒間で、見上げるほどの大門は初めから何もなかったかのように消え失せる。
動力となる魔力を収束して撃ち出す魔導馬の攻撃機構。ティアも知識としては知っていたが、実際の威力を目の当たりにして空いた口が塞がらなかった。恐るべきは帝国の魔導技術である。こんなものがあと何頭もいれば、戦力としては申し分ない。否、度が過ぎている。攻城兵器に耐えうる設計をされた大都市の門をものの一瞬で消滅させるなど。
魔導馬は沈黙した。展開していた装甲と砲門が戻り、青白い燐光が消える。長旅で消費していた燃料が、今の一撃で底をついたようだった。
「活路を開く。後は頼んだ」
力強く言い残して、セスは魔導馬を発進させる。
「ご武運を!」
背中にかけられたティアの声援が、これ以上なく心強かった。
セスは全速力で都市に突入する。敵陣の真っ只中に、たった一人。
勝ち目はない。策もない。頼みの綱は魔導馬だけだが、千の軍勢を相手取るにはあまりに心許ない。
だがそれがどうした。シルキィの護衛依頼を受けた時、セスは誓ったのだ。
何があっても彼女を守ると。
「待ってろ、お嬢」
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