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騎士の契り
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「と言っても、俺の方はたぶん大丈夫でしょう。学院も一学生に構っている場合じゃない。体面を保つのに必死です。それより今は、リーベルデ様のご安全を最優先に考えるべきではありませんか。理事達もリーベルデ様の御身を守るのに心血を注ぐと言っていました」
俺としては自分よりもリーベルデの方がよほど心配である。先日のハナクイ竜といい、今回の襲撃といい、間違いなく彼女を狙ったものだ。
「メローネ」
「はい」
二人は視線を交わして意思疎通をしているようだった。これだけでお互いの考えていることを察せるのは、固く結ばれた信頼関係のなせる業だろう。
栗色の瞳がこちらに向く。強いまなざし。メローネは真摯な面持ちで、じっと俺を見つめる。
「フリードさん。今一度確認するわ。リーベルデ様の騎士となる覚悟は、揺らいでいないわね?」
「無論です」
すでに決意は固めた。
このスキルがある以上、俺はリーベルデの庇護下にいなければ生きられない。だがそれ以上に、彼女を守りたいと強く願っている。この力が彼女の役に立つのならば、俺は喜んで聖女の騎士になろう。
メローネからリーベルデへ視線を移す。この言葉は、本人へ伝えるべき誓いだ。
「この命尽きるまで、リーベルデ様と共に歩み、お守りいたします」
唇を引き結び、俺の言葉を受け止めたリーベルデ。
じわり。紅い瞳に涙が滲む。
彼女がどれだけこの時を待ち望んでいたか。心底、身に余る光栄である。
「よろしい。略式ではありますが、騎士の契りを結んで頂きましょう」
立ち上がったメローネは、部屋の片隅に立てかけられた聖杖を手にした。
ちょっと待った。騎士の契りだって?
「それって、お付きになる騎士がやるものなんじゃ……」
同じ神聖騎士でも、聖女付きと一般騎士とでは明確な違いがある。
聖女を守るという使命は同じだが、お付きの騎士は聖女と寝食を共にし、公私ともに傍で支える大任を拝している。故に聖女付きは女性であると定められているし、その実力も一般騎士とは隔絶していなければならない。
「これまで男性の聖女付きがいなかったわけじゃないわ。数えるほどだけれど前例はある。そうじゃなくても今は異例の事態だし、教会も口うるさいことは言わないでしょう」
そうだろうか。ただでさえ俺は『ハードパンチャー』という爆弾を抱えているというのに、その上目立つような真似をして大丈夫なのか。
「スキルのことなら安心して。リーベルデ様がきちんと考えて下さっているわ」
リーベルデが頷く。
俺の頭じゃ考えるだけ無駄かもしれないな。この件は二人に任せ、俺はリーベルデを守ることに注力した方がいい。
杖を受け取ったリーベルデは、俯き加減に席を立つ。
「フリードさん。よろしく、お願いします」
初夜に臨む新妻のような調子で言うものだから、なんだか急に重大なことのように思えて――実際かなり重大な契約なのだろう――急に緊張してきた。
こじんまりとした一室で執り行われる契りの儀式。
聖杖を握り、魔力を練るリーベルデ。俺は彼女の前に跪き、紡がれる祝詞に耳を澄ます。
「運命の女神ダーナに仕えし聖女リーベルデの名のもと、汝と我が騎士の契りを結ばんことを願う。隷属でなく、服従でなく、まことの義と忠誠を持ち、自発能動の志士たらんことを願う。汝の心は如何に」
聖杖に込められた魔力が、淡い輝きとなって部屋に広がる。それは一列のルーン文字となって、俺の周囲を巡った。
「いついかなる時も、聖女リーベルデと道を同じくすることを誓います」
言葉はなんでもいい。その意思を示しさえすれば、契約の術式は成立する。
虚空を舞っていたルーン文字が、俺の首に巻き付いた。俺は壁の鏡を一瞥する。あたかも首輪のように刻まれた魔力の文様。それは、まもなく見えなくなった。
リーベルデが、長い息を吐き出す。
「契約は成されました。フリードさん。あなたは、私の騎士になったのです」
今のところ特に変わったことはない。
「しばらくすれば私の魔力が馴染んできます。いずれ感覚の共有や魔力の受け渡しができるようになりますから、その時になれば練習しましょう」
弾んだ声のリーベルデに手を引かれ、立ち上がる。
「これで、ずっと一緒です」
未だかつてこんなに幸せそうな顔を見たことがない。そんな風に思わされるとびきりの笑顔だった。
彼女の手を握り、改めて決意を固める。
もう後戻りはできない。
こんな笑顔を見せられてしまっては、するつもりも起きないけどな。
俺としては自分よりもリーベルデの方がよほど心配である。先日のハナクイ竜といい、今回の襲撃といい、間違いなく彼女を狙ったものだ。
「メローネ」
「はい」
二人は視線を交わして意思疎通をしているようだった。これだけでお互いの考えていることを察せるのは、固く結ばれた信頼関係のなせる業だろう。
栗色の瞳がこちらに向く。強いまなざし。メローネは真摯な面持ちで、じっと俺を見つめる。
「フリードさん。今一度確認するわ。リーベルデ様の騎士となる覚悟は、揺らいでいないわね?」
「無論です」
すでに決意は固めた。
このスキルがある以上、俺はリーベルデの庇護下にいなければ生きられない。だがそれ以上に、彼女を守りたいと強く願っている。この力が彼女の役に立つのならば、俺は喜んで聖女の騎士になろう。
メローネからリーベルデへ視線を移す。この言葉は、本人へ伝えるべき誓いだ。
「この命尽きるまで、リーベルデ様と共に歩み、お守りいたします」
唇を引き結び、俺の言葉を受け止めたリーベルデ。
じわり。紅い瞳に涙が滲む。
彼女がどれだけこの時を待ち望んでいたか。心底、身に余る光栄である。
「よろしい。略式ではありますが、騎士の契りを結んで頂きましょう」
立ち上がったメローネは、部屋の片隅に立てかけられた聖杖を手にした。
ちょっと待った。騎士の契りだって?
「それって、お付きになる騎士がやるものなんじゃ……」
同じ神聖騎士でも、聖女付きと一般騎士とでは明確な違いがある。
聖女を守るという使命は同じだが、お付きの騎士は聖女と寝食を共にし、公私ともに傍で支える大任を拝している。故に聖女付きは女性であると定められているし、その実力も一般騎士とは隔絶していなければならない。
「これまで男性の聖女付きがいなかったわけじゃないわ。数えるほどだけれど前例はある。そうじゃなくても今は異例の事態だし、教会も口うるさいことは言わないでしょう」
そうだろうか。ただでさえ俺は『ハードパンチャー』という爆弾を抱えているというのに、その上目立つような真似をして大丈夫なのか。
「スキルのことなら安心して。リーベルデ様がきちんと考えて下さっているわ」
リーベルデが頷く。
俺の頭じゃ考えるだけ無駄かもしれないな。この件は二人に任せ、俺はリーベルデを守ることに注力した方がいい。
杖を受け取ったリーベルデは、俯き加減に席を立つ。
「フリードさん。よろしく、お願いします」
初夜に臨む新妻のような調子で言うものだから、なんだか急に重大なことのように思えて――実際かなり重大な契約なのだろう――急に緊張してきた。
こじんまりとした一室で執り行われる契りの儀式。
聖杖を握り、魔力を練るリーベルデ。俺は彼女の前に跪き、紡がれる祝詞に耳を澄ます。
「運命の女神ダーナに仕えし聖女リーベルデの名のもと、汝と我が騎士の契りを結ばんことを願う。隷属でなく、服従でなく、まことの義と忠誠を持ち、自発能動の志士たらんことを願う。汝の心は如何に」
聖杖に込められた魔力が、淡い輝きとなって部屋に広がる。それは一列のルーン文字となって、俺の周囲を巡った。
「いついかなる時も、聖女リーベルデと道を同じくすることを誓います」
言葉はなんでもいい。その意思を示しさえすれば、契約の術式は成立する。
虚空を舞っていたルーン文字が、俺の首に巻き付いた。俺は壁の鏡を一瞥する。あたかも首輪のように刻まれた魔力の文様。それは、まもなく見えなくなった。
リーベルデが、長い息を吐き出す。
「契約は成されました。フリードさん。あなたは、私の騎士になったのです」
今のところ特に変わったことはない。
「しばらくすれば私の魔力が馴染んできます。いずれ感覚の共有や魔力の受け渡しができるようになりますから、その時になれば練習しましょう」
弾んだ声のリーベルデに手を引かれ、立ち上がる。
「これで、ずっと一緒です」
未だかつてこんなに幸せそうな顔を見たことがない。そんな風に思わされるとびきりの笑顔だった。
彼女の手を握り、改めて決意を固める。
もう後戻りはできない。
こんな笑顔を見せられてしまっては、するつもりも起きないけどな。
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