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宵の逢瀬
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その日の晩。
旅支度を終えた俺は、魔導具が放つ淡い照明をじっと見つめていた。薄暗い部屋で思い出すのは、ここ最近の怒涛の出来事だ。
クレイン達からパーティを追放されてからというもの、俺の人生は大きく軌道を変えた。どん底から成り上がったと思ったら、魔王復活の絡む大事件に巻き込まれるなんて、一体誰が想像できるんだ。運命の女神ダーナでも、きっと無理に違いない。
俺は音を立てず部屋を出る。
すっかり夜は更けてしまったが、まだ眠れそうになかった。メローネから聞いた話が頭の中をぐるぐると回っている。
ガウマン侯爵は本当に事件の首謀者なのか。真実を確かめるために会いに行くわけだが、その意味合いが俺の中で少し変わってしまっている。
侯爵の悪事を暴くためではなく、潔白を証明するためだと。
昼間の話を聞いてしまったら、そう考えてしまうのもしょうがない。俺だって、リーベルデとメローネの恩人が魔王の手先だとは考えたくない。
廊下を歩き辿り着いたのは、フォルス教官の部屋だ。彼女にも話しておいた方がいいだろう。話すことで、俺自身の考えも整理できると思う。
扉をノックする。
返事はない。明日に備え、もう寝てしまっただろうか。
踵を返し戻ろうとしたところで、部屋の扉が静かに開かれた。
「マイヴェッターか?」
呼ばれて振り返る。小さく開いた扉の隙間から、寝間着姿の教官が顔を覗かせていた。
「すみません。こんな遅くに」
「いや……」
なんだろう。教官の様子がいつもと違うな。
部屋から頭を出し、きょろきょろと左右を見回す。
「ほら、早く入れ」
手を取られ、部屋の中に引っ張りこまれる。
扉を閉めた教官は、ほっとしたように控えめな胸を撫でた。
ピンクのネグリジェと、フリルをあしらったナイトキャップ。普段の教官からは想像もつかない可愛らしい寝間着だった。
「えっと、何を警戒してるんです?」
「たわけ。こんな夜更けに男を部屋に連れ込んでいるなどと知れたら、どんな噂が立つかわからんだろう」
「昨夜も同じだったと思いますが」
「それは、そうだが……」
フォルス教官はなにやら言いにくそうに自分の手を弄りながら、顔を背けてぽつりと呟いた。
「お前、今夜は泊まりに来たのだろう?」
「えっ」
赤く染まった頬は常夜灯のせいか、はたまた別の理由か。
「あ、あーっと。いや、あれは」
冗談だった、とは言える雰囲気じゃない。
教官は目を逸らしたまま黙り込んでいる。俺は彼女のネグリジェ姿にまじまじと見入ってしまい、何を言ったものかと考える頭も働いていなかった。
「ま、まぁとにかく座れ。茶を淹れよう」
「は、はい」
動き出した教官の小さな背中を見て、俺もテーブルについた。
教官が準備をしている間、部屋は沈黙に包まれていた。こんな気まずい空気、生まれて初めてじゃないだろうか。非常にいたたまれない。
部屋にお茶の香りが立ち込める。昨日飲んだものとはまた違ったものだろう。花っぽい香りがする。
カップにお茶を注いでくれた教官は、向かいの椅子に腰を落ち着ける。
参ったな。緊張してしまって言葉が出てこない。とにかく喉を潤そうと、茶を一口すする。
「ん? 変わった味ですね、このお茶」
「そうだろう? 夕食の時にシャルルーネ教官から頂いたんだ。東方の茶らしいぞ。花で香り付けをしてあるらしい」
「ああ。だから花の香りがするんですね」
「うむ」
そこでまた、会話が止まってしまう。
教官は一体どういうつもりなのだろう。本当に俺が泊まりに来ると思っていたのだろうか。あの冗談を真に受けてしまったと。
旅支度を終えた俺は、魔導具が放つ淡い照明をじっと見つめていた。薄暗い部屋で思い出すのは、ここ最近の怒涛の出来事だ。
クレイン達からパーティを追放されてからというもの、俺の人生は大きく軌道を変えた。どん底から成り上がったと思ったら、魔王復活の絡む大事件に巻き込まれるなんて、一体誰が想像できるんだ。運命の女神ダーナでも、きっと無理に違いない。
俺は音を立てず部屋を出る。
すっかり夜は更けてしまったが、まだ眠れそうになかった。メローネから聞いた話が頭の中をぐるぐると回っている。
ガウマン侯爵は本当に事件の首謀者なのか。真実を確かめるために会いに行くわけだが、その意味合いが俺の中で少し変わってしまっている。
侯爵の悪事を暴くためではなく、潔白を証明するためだと。
昼間の話を聞いてしまったら、そう考えてしまうのもしょうがない。俺だって、リーベルデとメローネの恩人が魔王の手先だとは考えたくない。
廊下を歩き辿り着いたのは、フォルス教官の部屋だ。彼女にも話しておいた方がいいだろう。話すことで、俺自身の考えも整理できると思う。
扉をノックする。
返事はない。明日に備え、もう寝てしまっただろうか。
踵を返し戻ろうとしたところで、部屋の扉が静かに開かれた。
「マイヴェッターか?」
呼ばれて振り返る。小さく開いた扉の隙間から、寝間着姿の教官が顔を覗かせていた。
「すみません。こんな遅くに」
「いや……」
なんだろう。教官の様子がいつもと違うな。
部屋から頭を出し、きょろきょろと左右を見回す。
「ほら、早く入れ」
手を取られ、部屋の中に引っ張りこまれる。
扉を閉めた教官は、ほっとしたように控えめな胸を撫でた。
ピンクのネグリジェと、フリルをあしらったナイトキャップ。普段の教官からは想像もつかない可愛らしい寝間着だった。
「えっと、何を警戒してるんです?」
「たわけ。こんな夜更けに男を部屋に連れ込んでいるなどと知れたら、どんな噂が立つかわからんだろう」
「昨夜も同じだったと思いますが」
「それは、そうだが……」
フォルス教官はなにやら言いにくそうに自分の手を弄りながら、顔を背けてぽつりと呟いた。
「お前、今夜は泊まりに来たのだろう?」
「えっ」
赤く染まった頬は常夜灯のせいか、はたまた別の理由か。
「あ、あーっと。いや、あれは」
冗談だった、とは言える雰囲気じゃない。
教官は目を逸らしたまま黙り込んでいる。俺は彼女のネグリジェ姿にまじまじと見入ってしまい、何を言ったものかと考える頭も働いていなかった。
「ま、まぁとにかく座れ。茶を淹れよう」
「は、はい」
動き出した教官の小さな背中を見て、俺もテーブルについた。
教官が準備をしている間、部屋は沈黙に包まれていた。こんな気まずい空気、生まれて初めてじゃないだろうか。非常にいたたまれない。
部屋にお茶の香りが立ち込める。昨日飲んだものとはまた違ったものだろう。花っぽい香りがする。
カップにお茶を注いでくれた教官は、向かいの椅子に腰を落ち着ける。
参ったな。緊張してしまって言葉が出てこない。とにかく喉を潤そうと、茶を一口すする。
「ん? 変わった味ですね、このお茶」
「そうだろう? 夕食の時にシャルルーネ教官から頂いたんだ。東方の茶らしいぞ。花で香り付けをしてあるらしい」
「ああ。だから花の香りがするんですね」
「うむ」
そこでまた、会話が止まってしまう。
教官は一体どういうつもりなのだろう。本当に俺が泊まりに来ると思っていたのだろうか。あの冗談を真に受けてしまったと。
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