真夏に咲いた恋の花

朝食ダンゴ

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マラソン

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 今日の体育はマラソンだった。
 もれなく運動が苦手な僕だが、体力勝負な競技は特に相性が悪い。クラスの最後尾に陣取り、校舎の外周を走る。気力もなければやる気も無い。だらだらと足を運んで前に進んでいく。
 そんな風にマラソンもどきを続けていると、真剣に走っている体育会系たちが後ろから迫ってくる。屈辱にも、というわけではないが周回遅れにされた。
 まるで風のように。そんな比喩が似合うくらい清々しいまでの勢いで僕を抜き去っていったのはミサキだ。結った髪をなびかせて、長い四肢を躍動させている。僕は遠ざかっていく彼女の背中から目が離せなかった。ああいう姿には惚れ惚れするんだけど。
 後続の数人が、必死にミサキを追いかけていく。そのほとんどは運動部の男子だ。せいぜい頑張ってほしい。

「ミサキちゃん、相変わらず速いね」

 後ろから女子が一人。我らがクラス委員長である。
 クラス内外問わず友人の多いミサキだけど、委員長とは特に仲が良い。そのせいか僕と会話する機会も多からずあり、僕にとっては数少ない知人の一人でもある。

「ミサキ、運動部だからなぁ」

「でも、陸上部じゃないんだよ」

 委員長の視点は僕より頭一つ半も低い位置にある。高校生でありながら小学生にしか見えない容姿と愛らしい笑顔の委員長は、男子からも女子からも人気がある。

「テニス部だっけ。期待のホープとか、自分で言ってたような」

「あはは、言ってた言ってた」

 スポーツに関しては万能の二文字を背負うミサキのことだ。あながち冗談でもないんだろう。

「先行くね。津々井君も頑張って」

 委員長にも置いていかれた僕がやっとの思いでゴールしたのは、授業終了五分前だった。ほとんどのクラスメイトはスタート兼ゴール地点である校門前で談笑と洒落こんでいる。
 額の汗を拭う。
 ミサキの周りには、委員長を始め数人の男女が集まって、楽しそうな声を上げていた。
 膝を屈した僕は酸素を求めて喘ぐ。
 疲れた。その一言に尽きる。そもそもこんな暑い季節にマラソンなんてやらせる体育教師はバカではないだろうか。マラソンと言えば枯れ木の賑わう冬だと相場は決まっているだろう。
 なんとか息が整ってくると、足下に影が差した。

「相変わらずだらしないわね」

 腰を折ったまま見上げる。仁王立ちのミサキが、不敵な笑みを浮かべていた。

「これくらいで音をあげてどうすんのよ」

 別に音をあげてない。遅かったけどちゃんと完走もしている。僕は疲れているだけだ。

「まったく、昨日ヌキすぎるからそんなだらしないことになるの」

 僕の恨めしげな視線を気にした風もなく、ミサキは肩にかけていたタオルで僕の頭をぴしぴしと打つ。

「ま、それくらいの方がいいけどね」

 防御も反撃も反論もする元気がない。
 僕は低い目線のまま、ミサキのハーフパンツから伸びるしなやかな脚を眺めていた。
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