真夏に咲いた恋の花

朝食ダンゴ

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大逆転

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 自転車の車輪止めを上げようとしたところで、勢いよく扉の開く音が聞こえた。近付いてくる足音。僕は慌てて目元を拭った。

「マサアキ」

 澄んだ声。

「もうちょっとだけ、話させて」

 ついさっきまで伏せられていた瞳が、今はしっかりと開かれ、月の光を映していた。
 一体どうしたんだろう。唐突なミサキの変化に、僕は些かならずうろたえた。
 ミサキが手を差し出す。そこには、いびつな白い破片があった。

「これ、あの人がくれた消しゴム」

 何を思ったか、ミサキはその手を大げさに振りかぶると、破片を夜の彼方に放り投げてしまった。
 僕は呆然と、消しゴムが消えていった方を見る。

「言いたいことはいっぱいあるけど、どれも言い訳みたいになりそう。だから、一番伝えたいことだけ言うわね」

 深呼吸をひとつ。凛とした表情は真っ直ぐこっちを向いている。
 正直、僕は動転していた。ミサキが追いかけてくるなんて予想してなかったし、状況を呑みこめてもなかった。

「あたしは、マサアキが好き」

 心臓に楔でも打ち込まれた気がした。ふっと眩暈がして、自転車をやかましく倒してしまう。からからと、ホイールの回る音が虚しい。

「でも、僕は」

「違わない」

 言いかけた言葉は、ミサキによって遮られる。

「ううん、人違いでもいいの。あの消しゴムをくれたのが誰かなんてもうどうでもいい。今あたしが好きなのは、マサアキだから」

 太陽のように、眩しい笑顔だった。
 顔が燃えるように熱い。夜で本当によかった。こんな顔、まともに見せられるわけない。

「言いたいことはそれだけ。ちゃんと伝えたからね!」

 固まった僕を置いて、ミサキは軽い足取りで家の中に戻っていく。

「じゃ、また明日。学校で! ノートありがと!」

 扉の向こうに消える前に、ちらりと見せた窺うような表情。
 僕はしばらく、体の動かし方を忘れていた。
 気が付くと、自転車を押して歩いている自分を発見する。
 段々と頭が冷えてきた。今度は心臓がむず痒い。
 そうか、僕はミサキに告白されたんだ。
 なら、やっぱり返事をしなきゃならないんだろう。それは少し、いやかなり恥ずかしい。
 自分から返事を切り出すなんて、こちらから告白しているのと変わらないじゃないか。
 ああ。
 決めた。ミサキから聞いてくるまで、返事はしないことにしよう。
 でも、あれだ。さっきのミサキの様子からすれば、人目も気にせず朝一番に聞いてきそうな気もする。
 想像すると、頬が緩む。明日が怖い。怖いけど、なんだろう。楽しみでしかたない。
 待てよ。ミサキにとって恋愛ってなんだっけ? いや、改めて考えるまでもない。うわぁちょっと待った。まだ心の準備が。知識とかも無いし。一体どうすれば。
 僕は自転車を押して走る。走って、走って、自転車に飛び乗った。
 煩悩を振り払うために、一心不乱にペダルを踏み込む。
 今夜は、眠れる気がしない。
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