真夏に咲いた恋の花

朝食ダンゴ

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汗ばむ夏の朝

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 見慣れない天井。
 まったく起こす気の感じられないアラームで目を覚ました私は、ここが自分の部屋じゃないことを遅れて理解した。
 中途半端に覚醒した意識でも、全身にかいた汗を明確に感じ取ることが出来る。得も言われぬ不快感にタオルケットを引き剥がすと、温い空気が剥き出しの肌を撫でる。そこでやっと、何も身に着けていないことを思い出した。
 まどろみと心地よい倦怠感の中、隣で眠る彼の寝顔を見る。四つも年上だとは思えないほどの無垢な寝顔。思わず顔が綻ぶ。
 カーテンの隙間から差し込む日差し。壁越しに伝わる生活音。耳障りにもならない目覚ましアラームが、朝の到来を告げていた。
 さて、のんびりはしてられない。彼を起こさないようにベッドから抜け出すと、私は身支度を整え始める。
 シャワーを浴び終え、無造作に投げ置かれたセーラー服を取る。同級生のものと比べると目に見えて小さいそれを広げ、私は溜息を吐いた。夜更かしか小食か、遺伝か体質か。小学生の頃から伸び悩み続ける身長には、ほとほと呆れかえる。

「綴」

 彼の声。振り返ると、寝ぼけ眼がこちらに向いている。

「起きた? もう朝だよ」

 私の恋人である斎藤二己は、ベッドの上で唸り背伸びをする。
 すでに朝の身支度を整えている私を見て、次に時計に目を向けた。

「寝る」

 そう呟いて動かなくなるニコ。いくら暑い季節でも、裸のままじゃ体に良くない。揺すって起こそうとするも、目を覚ます気配はない。

「もう」

 風邪ひいても知らないんだから。
 まるで子供服みたいなセーラー服に着替えると、ニコの寝顔をたっぷりと堪能してから部屋を出た。名残惜しいけど、学級委員長として遅刻するわけにいかない。
 七月の日差しはじりじりと熱く、歩いているだけで額に汗が滲む。紫外線が恨めしい。
 登校時には色々な人間を目にする。その中でも私の目に留まるのは同年代か、それより下の子達だ。自転車で颯爽と駆け抜ける他校の生徒や、去年までの私と同じ制服を着た中学生。色とりどりのランドセルを背負った小学生の集団。
 仮に私が私服だったなら、ランドセルの集団に紛れてもおかしくないだろう。誇張ではない。中学三年間は実年齢に見られることは無かったし、高校生になって数カ月経っても身長が伸びる気配はない。日本に飛び級制度がなくて本当に良かったと思う。制服を着ている限り、私は全身で女子高生であることを主張することができる。
 幼い容貌は人生最大のコンプレックスだけど、悪いことばかりじゃない。この容姿のおかげで高校では人気者になった。友人もたくさんできたし、部活の先輩からも可愛がられる。それは誰にでも手に入れられる境遇じゃない。
 けど。

「綴ちゃんおはよ! 今日もかわいいねー」

 急ぎ足の先輩が手を振ってくれた。私はそれに笑顔で応える。彼女が去ってから、私は見えないように溜息を吐いた。
 みんなは私のことをかわいいと言ってくれる。それは嬉しいし、ありがたくもある。でも複雑だ。だって、みんなが言う「かわいい」は女として綺麗なんじゃなくて、幼さと愛らしさを形容しているだけだから。私が少しでも大人っぽく振る舞うよう心がけていることに、みんな気付いているのだろうか。
 教室に着くと、中学時代からの親友が白い手を上げた。

「綴、おっはよー!」

 元気な朝の挨拶。その溢れるエネルギーを分けてもらおうと、私は椅子に座った彼女に駆け寄り、ハイタッチを打った。

「おっはよー、ミサキちゃん」

 小気味良い音が教室に響く。
 隣席の男子が、呆れた顔で私達を見ていた。
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