1 / 25
出逢いの野菜スープ
1
しおりを挟む目の前に広がるのは木。
左右前後、どこを見ても木しか見えない森の中。
そして空を見上げればこれまた大きな木が覆い、夜空に浮かんでいるだろう月は私の前に顔を出してくれない。
ただ、手に持っていた魔石が作り出す小さな明かりだけが、広大な夜の森の中を照らしていた。
辺りは静寂に包まれている中、私のお腹からは空腹を訴える音がうるさい程鳴り響く。
「お腹、すいたぁ」
今日一日、何度この言葉を口にしただろうか。
歩けど歩けど道らしき道は見えない。
この森に入った当初にはあったはずの歩道は、いつの間にか獣道へと変貌していた。
今、私が歩いている月隠の森に入って既に三日目。
現在手持ちの食事と言えるものは、乾いた干し肉が少しだけ。
水筒に入っていた水も残り僅かだけど、喉の乾きだけは我慢出来ず時々少しずつ口に含み、水分補給しながら道無き道を歩いていく。
地図など手元になく、ただ入ってきた道を真っ直ぐ歩いていた。
(もうそろそろこの森を抜けてもいいものだけど、考えが甘かったな)
自分の中にある魔力が残り僅かなのか、持っている明かりの代わりの魔石が段々と消えかかっている。
せめてこの森に生息する獣に襲われない場所を見つけて朝になるまで休みたい。
重い身体を必死に踏ん張らせて、一歩ずつ前へと進む。
「はぁ……、きっつい…………」
視界は薄暗く周りははっきりとは見えないが、どうやら私は今軽い傾斜のある坂を歩いているようだ。
せめて少しでも疲れにくい道を歩こうと登ることをやめて、目の前の坂を横切る方向へ歩き始めた時だった。
「っきゃああ!!」
突然、歩いていた道が消えた。
道が下り坂になっていたのだろう。
踏もうとした場所に地面はなく、私はバランスを崩し倒れたまま下り坂を転げ落ちていく。
幸いそこまで長い坂ではなかったためすぐに平らな場所に到着する。
しかし、歩き続けて体力も限界だったため私は起き上がれず、そのまま地面に横たわることしか出来なかった。
「いた、い……。もう、無理」
身体の至る箇所に痛みが走る。
きっと私は泥だらけで酷い格好になっていることだろう。
そう頭では思っていても確認する気力さえなく、思わず深いため息が零れていた。
(私、このまま死んじゃうのかな)
身体が限界に来たのか瞳が重くなっていく。
疲れきって瞼が重くなっていく私が思い出したのは、これまでの自分の人生。
とても今までの人生は幸せだったと、口に出来ないような記憶だった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,840
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる