神格兵ネフィリム ～再生のパラドックス～

第一章 神の王国

プロローグ 黄昏の戦場

　異国の地、理不尽な運命――これは神格をその身に宿し、己の人間性を追い求める一人の男の物語である。

　戦場を包み込むのは、消えることのない煉獄の炎。

　草木は瘴気によって腐敗し、穢れた土壌は聖なる光によって再び浄化される。

　闇と光の循環――それは、まごうことなき二人の存在がもたらす破壊と再生の輪廻。

　一人は、背中から８本の邪悪な触手をうごめかせ、大剣を握る人外の少年。

　もう一人は、６枚の翼を羽ばたかせ、天使の輪を輝かせながら空を舞う美しい熾天使の少女。

　どちらも、互いを憎悪に満ちた眼差しで睨み合っている。

　何より、少年の瞳には、少女に対する強い復讐心――同じ奴隷兵士である弟分を殺されたことによる深い悲しみが渦巻いていた。

　けれど、彼らにどんな理由があろうと、闘いに必要なのは勝利と敗北。

　全てを得るのは――勝者、ただ一人。

「終わりです」

　終焉の言葉と共に、熾天使の剣がまばゆい光を放ち、全身が神話の絵画のような輝きに包まれていく。

　そして、女神が放った矢の如く、天から急降下した。
　
　それをネフィリムは、唸り声を上げながら必死に押し返そうとする。

　しかし、大剣は砕け――ネフィリムの右半身は光の斬撃によって切り刻まれた。

「ぐぁっ……あぁぁあああ……！？」

　敗者が苦痛の叫びを上げる。

　通常なら致命傷で死ぬはずの彼は、その攻撃を生き延びた。

　女神の化身はその苦境を見かね、最後の慈悲として、神格兵の胸元に剣を突き刺した。
　
「さようなら」

　勝者が敗者に冷たい言葉を残し、去って行く。

「あぐっ……はぁ……はぁ……みんな……」
　
　絶望の中、元陰陽師だった少年の過去が、走馬灯のように脳裏を駆け抜ける。

　そこに映っていたのは、彼が大切にしていた家族との思い出だった――。