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一章
第22話 みんなでおいしくごはんを食べよう
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「ぐうっ、ぬおああああっ!」
パンを一口噛むと、外はかりかりだが中の生地は驚くほど柔らかく、素材の甘さが引き立っていた。
まるで今まで食べていたパンとは別次元のようなふわふわした食感。
口の中に入れるたびに、かりかりの外側に封じ込められていた甘味が、パンの焼きたての匂いと一緒に一気に駆け抜ける。
「うまい、うますぎる!」
町のそうそうたるパンどもが束になっても、このパンにはかなうまい。
だがしかし、誰にも知られてはならない。
このパンが、文明一つ滅ぼしかねない魔法を使って作られたということを。
「ふわふわとしっかり生地が焼き上がっている。今までは素材の悪さが際立っていたが、今は逆に素材の味が十分に引き出されているように思えるな」
サリヴィアが一口食べると、満足そうにうなずいた。
「いっぱい考えて、いっぱい試したんです。どうやったら、素材を活かしていたお父さんの味に近づけるのか。でも生地の食感がよくなるたびに、逆に味が落ちていくように感じて、もう自分でもどうしていいかわからなくなってて……」
マヤはパンを一口かじって味を確かめ、それからゆっくり大粒の涙を流した。
「私のやってきたことは、無駄じゃなかったんですね………」
これは、マヤが普段からどうすればうまく作れるか考えてきたからこその結果だ。
最高の調理と最高の焼き加減がなければ、いい食材が揃っていたとしてもここまでうまくはならなかったろう。
今までずっと積み重ねてきた努力が、ここでようやく形になったのだ。
俺はうなずいた。
「サリヴィアがこの依頼を受けてくれてよかった。考えて、思い詰めて答えを出すのも悪くないが、マヤ、こうして仲間内で遊びながら答えを探すのもまたいいものだな」
「はいっ」
「じゃりじゃり、してない……」
ラミナもパンを口一杯に頬張りながら涙ぐんでいた。
「パンもいいがな、魚もいいぞ」
サリヴィアは串に刺した川魚をかじりながら言った。
忘れていたが、こちらもうまそうだ。
「む?魚は全然臭みとかないな。むしろいい匂いがする」
「ああ、香草で生臭さを消したからな。風味付けに使う香草がたまたま採れたんだ」
「臭みを消す、だと……!?」
俺はこんがり焼けた魚を見下ろした。
臭み消すとかマジか。
「そっ、そんなことができるのか。魔法なしでか。すごすぎるだろ人間」
「そこまで驚くことか?」
「コーラルさんまた語彙がおかしくなってますよ」
やべっ。
どうも油断していると自分の種族を気にしなくなるな。
「ああ、いや、これはだな……」
いいわけが思い付かないでいると、サリヴィアは笑った。
「まあ言葉の綾とか細かいことは気にするな!こちらの国の言葉で話してくれているだけで、私としてはありがたいぞ!」
「そっ、そうなんだよなぁ。まだまだ言語が勉強不足でなぁー……」
ごまかすように魚をかじる。
これも焼きたてでほかほかしていてうまい。
やわらかい。
噛む力を入れるまでもなく、ほろりと白い身が崩れた。
崩れると、塩で閉じ込められていた脂と旨味が口一杯に広がる。
香草のいい匂いと塩気が、魚が持つ旨味と合わさって、一気に押し寄せる。
そして何より、パンとの相性が抜群にいい。
パンと魚、交互に食べるのもまた格別だった。
「まったく別の場所の食材がここまで合うとは……!」
「そうだろう? 挟んでもうまいぞ」
それに、知らなかった。
誰かと囲むまともな食事というのは、こんなにも温かく優しいのか。
――見える。
脳裏でイメージできてしまう、ありえない光景。
小麦畑で戯れる川魚たちの映像。
優しげに揺れる小麦畑の中を跳びはね尾びれをはためかせながら、おいかけっこをするように泳いでいく魚たち。
出会ってしまった。
小麦に、魚……普通なら出会えるはずのない両者が、この川原の上で出会ってしまった。
両者とも、すごく楽しそうだ。
ああ、なんという、朗らかで和やかな情景か。
できればずっと眺めていたい。
俺は、小麦畑のウォッチャーになりたいんだ……。
「くそっ、目の奥が……ジンとしてきやがる……!止まれ!止まらんか、俺の中のイメージ!」
「毎度毎度この二人の食に対するリアクションはいったいなんなんだ」
「まあ、おいしいと言われて悪い気はしないです」
マヤとサリヴィアの二人は呆れ気味だが、この二人はこれがどれだけすばらしいかわからんのだ。
これは攻めるわ。
境界戦争のとき、多数の人間界侵攻派の魔族が魔王軍と対立していたが、攻めちゃうわこんな食事を知ったら。
ひと通り食事が済み、景色を肴に会話を始めようとした頃。
「コーラルさま」
緊張した声で、ラミナは俺の服の裾を引っ張った。
「どうした?」
「なにか、不穏な感じがする」
「ふむ?」
魔物が近づいているのか?
気をはってみたが、魔物の気配はない。
「あれは……火事だろうか?」
サリヴィアに言われて町を見てみると、たしかに町の一部から黒煙が上がっていた。
「ただの火事、か……?」
いや、しかしラミナの勘はよく当たるからな。
念のために見に行ってみても――
「すまない、三人とも。私は先に帰らせてもらう。町が心配だ」
焦ったようなサリヴィアがおもむろに立ち上がった。
ならば、我々もご一緒しようじゃないか。
パンを一口噛むと、外はかりかりだが中の生地は驚くほど柔らかく、素材の甘さが引き立っていた。
まるで今まで食べていたパンとは別次元のようなふわふわした食感。
口の中に入れるたびに、かりかりの外側に封じ込められていた甘味が、パンの焼きたての匂いと一緒に一気に駆け抜ける。
「うまい、うますぎる!」
町のそうそうたるパンどもが束になっても、このパンにはかなうまい。
だがしかし、誰にも知られてはならない。
このパンが、文明一つ滅ぼしかねない魔法を使って作られたということを。
「ふわふわとしっかり生地が焼き上がっている。今までは素材の悪さが際立っていたが、今は逆に素材の味が十分に引き出されているように思えるな」
サリヴィアが一口食べると、満足そうにうなずいた。
「いっぱい考えて、いっぱい試したんです。どうやったら、素材を活かしていたお父さんの味に近づけるのか。でも生地の食感がよくなるたびに、逆に味が落ちていくように感じて、もう自分でもどうしていいかわからなくなってて……」
マヤはパンを一口かじって味を確かめ、それからゆっくり大粒の涙を流した。
「私のやってきたことは、無駄じゃなかったんですね………」
これは、マヤが普段からどうすればうまく作れるか考えてきたからこその結果だ。
最高の調理と最高の焼き加減がなければ、いい食材が揃っていたとしてもここまでうまくはならなかったろう。
今までずっと積み重ねてきた努力が、ここでようやく形になったのだ。
俺はうなずいた。
「サリヴィアがこの依頼を受けてくれてよかった。考えて、思い詰めて答えを出すのも悪くないが、マヤ、こうして仲間内で遊びながら答えを探すのもまたいいものだな」
「はいっ」
「じゃりじゃり、してない……」
ラミナもパンを口一杯に頬張りながら涙ぐんでいた。
「パンもいいがな、魚もいいぞ」
サリヴィアは串に刺した川魚をかじりながら言った。
忘れていたが、こちらもうまそうだ。
「む?魚は全然臭みとかないな。むしろいい匂いがする」
「ああ、香草で生臭さを消したからな。風味付けに使う香草がたまたま採れたんだ」
「臭みを消す、だと……!?」
俺はこんがり焼けた魚を見下ろした。
臭み消すとかマジか。
「そっ、そんなことができるのか。魔法なしでか。すごすぎるだろ人間」
「そこまで驚くことか?」
「コーラルさんまた語彙がおかしくなってますよ」
やべっ。
どうも油断していると自分の種族を気にしなくなるな。
「ああ、いや、これはだな……」
いいわけが思い付かないでいると、サリヴィアは笑った。
「まあ言葉の綾とか細かいことは気にするな!こちらの国の言葉で話してくれているだけで、私としてはありがたいぞ!」
「そっ、そうなんだよなぁ。まだまだ言語が勉強不足でなぁー……」
ごまかすように魚をかじる。
これも焼きたてでほかほかしていてうまい。
やわらかい。
噛む力を入れるまでもなく、ほろりと白い身が崩れた。
崩れると、塩で閉じ込められていた脂と旨味が口一杯に広がる。
香草のいい匂いと塩気が、魚が持つ旨味と合わさって、一気に押し寄せる。
そして何より、パンとの相性が抜群にいい。
パンと魚、交互に食べるのもまた格別だった。
「まったく別の場所の食材がここまで合うとは……!」
「そうだろう? 挟んでもうまいぞ」
それに、知らなかった。
誰かと囲むまともな食事というのは、こんなにも温かく優しいのか。
――見える。
脳裏でイメージできてしまう、ありえない光景。
小麦畑で戯れる川魚たちの映像。
優しげに揺れる小麦畑の中を跳びはね尾びれをはためかせながら、おいかけっこをするように泳いでいく魚たち。
出会ってしまった。
小麦に、魚……普通なら出会えるはずのない両者が、この川原の上で出会ってしまった。
両者とも、すごく楽しそうだ。
ああ、なんという、朗らかで和やかな情景か。
できればずっと眺めていたい。
俺は、小麦畑のウォッチャーになりたいんだ……。
「くそっ、目の奥が……ジンとしてきやがる……!止まれ!止まらんか、俺の中のイメージ!」
「毎度毎度この二人の食に対するリアクションはいったいなんなんだ」
「まあ、おいしいと言われて悪い気はしないです」
マヤとサリヴィアの二人は呆れ気味だが、この二人はこれがどれだけすばらしいかわからんのだ。
これは攻めるわ。
境界戦争のとき、多数の人間界侵攻派の魔族が魔王軍と対立していたが、攻めちゃうわこんな食事を知ったら。
ひと通り食事が済み、景色を肴に会話を始めようとした頃。
「コーラルさま」
緊張した声で、ラミナは俺の服の裾を引っ張った。
「どうした?」
「なにか、不穏な感じがする」
「ふむ?」
魔物が近づいているのか?
気をはってみたが、魔物の気配はない。
「あれは……火事だろうか?」
サリヴィアに言われて町を見てみると、たしかに町の一部から黒煙が上がっていた。
「ただの火事、か……?」
いや、しかしラミナの勘はよく当たるからな。
念のために見に行ってみても――
「すまない、三人とも。私は先に帰らせてもらう。町が心配だ」
焦ったようなサリヴィアがおもむろに立ち上がった。
ならば、我々もご一緒しようじゃないか。
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