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一章
第23話 襲撃事件は突然に
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行くときは川を辿らなければいけなかったため歩いてきたが、急いで戻るときは魔法で一瞬ですむ。
しかも空間魔法の使い手がいるので、通常よりも手間や労力が少ない。
結構魔力を使うからな、転移魔法。
ラミナが空間を切り裂いて場所同士を繋ぐ門を形成し、俺たちは急いで町に戻った。
「なんだ、なんだこれは……!?」
黒煙の上がっていた町の中心地へ一歩踏み入れると、サリヴィアは愕然と辺りを見回した。
町の家々には炎が上がっていた。粉々に破壊されているものもある。
所々で悲鳴が聞こえ、逃げ惑う人々で道は溢れていた。
何があった、なんて聞くまでもなかった。
「魔物の襲撃か」
俺は萎縮するマヤを守るようにしながら呟いた。
目視で確認できるだけで十体以上はいる。
空には翼竜に似た魔物が数体、飛び回りながら火を吐いて回っており、陸には猛獣のような姿の魔物や歩行する蛇のような鱗を持つ魔物などが人を襲っていた。
しかし、見たたところどれも低級の魔物だ。
対処は容易いだろう。
「コーラルどの、注意してくれ。襲っているのはすべて中級以上の魔物のようだ」
サリヴィアが俺に忠告してくれる。
「中級以上?」
一瞬そんなものいるのかと見渡してみたが、見当たらなかった。
いや、人間界と魔界ではカテゴリーの分け方が違うのかもしれん。
どの魔物も人間の数倍は大きい。
人間基準で考えれば、確かに一部の低級の魔物はやりにくそうだ。
実際、鎧をつけた者たちが魔物一体を数人でかかっているが、かなりてこずっている様子だった。
「私も加勢する。皆は安全な場所へ」
サリヴィアはナイフを抜いて俺たちに告げた。
「ラミナ、マヤを町の外へ。魔物が襲ってきたときのために守ってやってくれ」
「わかった」
ラミナはすぐにうなずいた。
「こっ、コーラルさんは逃げないんですか!?」
「まあ頃合いだと思ったら勝手に逃げるさ。それまではな」
町が破壊されてしまってはこちらも困るのでな。
とはいっても――魔法はあまり使えんな。
そもそもパン作りでしこたま消費した魔力がまだ回復していない。
ラミナとマヤが逃げるのを見送って、
「コーラルどのも早く逃げてくれ!」
サリヴィアはナイフを手に一人で近くの魔族に挑んでいった。
防具もなくほぼ丸腰だ。
さすがに無茶が過ぎる。
サリヴィアは巨大な狼に似た魔物にナイフを素早く繰り出す。
片目にそれが命中。
狼がうなり声を上げ、怯んでいる一瞬をついて死角へ回り込み耳の奥へ刃を差し込み頭部を穿った。
鮮やかで、無駄のない動きだ。
並の人間なら数人でかかって手こずるような相手を、一人で簡単に倒すとは。
しかし倒れた狼の陰から、サリヴィアを狙って飛び込んでくる魔物がいた。
今度は黒猫に似た魔物。
赤い目玉が顔に十ほどついたグロテスクな面持ちに、暗器のような鋭い爪を持っていた。
俺はサリヴィアの首根っこを掴んで引き寄せた。
サリヴィアの鼻先を魔物の爪がかすめていく。
「おお、すまないコーラルどの!」
サリヴィアは元気に感謝するので、俺はため息をついた。
「まったく。命を無駄にするぞそんな戦い方だと」
魔物が追撃してくるのを持っていた鉈で切り伏せた。
「平気だ。今の一撃ならたぶん避けられる。ちゃんと見えていたぞ」
「なぜそこまで町を守ることにこだわる?こんな状況だ、逃げても誰も文句は言わん。しかもいまの装備だと、丸腰で魔物に挑んでいるようなものだぞ」
「これしか知らないからな。守るために戦えなければ、私が存在している意味がない」
サリヴィアはまっすぐな目で、しかしどこか寂しそうな表情で、声を落として言った。
「ならばよし」
「……え?」
「存分に守れ。援護してやる」
「驚いたな。笑われるか否定されるかと思った」
「自分の思いを貫こうとしながら生きている者を誰が笑うのだ」
「……はは、そんなこと言われたのは、はじめてだな」
「命を無駄にする戦いかたは推奨せんがな」
五本の尻尾を持ったいびつな妖狐のような魔物が飛びかかってくる。
サリヴィアは持っていたナイフを投擲して、魔物の額に命中させた。
魔物は地に伏せて動かなくなる。
「使えい!」
俺は魔法で強化した鉈をサリヴィアに投げてよこす。
「いや、ありがたいが、コーラルどのはいいのか?」
「うむ。この程度の魔物ならパワーでどうにかできるからな」
巨大な狼に似た魔物が俺に飛びかかってくる。
ごきり、と指を鳴らして息を吐く。
身の程知らずめが。
俺は魔物の頭部を鷲掴みにして、力と勢いにまかせて地面に叩きつけた。
頭をぺしゃんこにされた魔物は鮮血を飛び散らせ、痙攣して絶命する。
「さあ、一匹残らず駆逐してやろうぞ」
俺は血のついた腕を振り払い、飛沫を辺りに散らせた。
しかも空間魔法の使い手がいるので、通常よりも手間や労力が少ない。
結構魔力を使うからな、転移魔法。
ラミナが空間を切り裂いて場所同士を繋ぐ門を形成し、俺たちは急いで町に戻った。
「なんだ、なんだこれは……!?」
黒煙の上がっていた町の中心地へ一歩踏み入れると、サリヴィアは愕然と辺りを見回した。
町の家々には炎が上がっていた。粉々に破壊されているものもある。
所々で悲鳴が聞こえ、逃げ惑う人々で道は溢れていた。
何があった、なんて聞くまでもなかった。
「魔物の襲撃か」
俺は萎縮するマヤを守るようにしながら呟いた。
目視で確認できるだけで十体以上はいる。
空には翼竜に似た魔物が数体、飛び回りながら火を吐いて回っており、陸には猛獣のような姿の魔物や歩行する蛇のような鱗を持つ魔物などが人を襲っていた。
しかし、見たたところどれも低級の魔物だ。
対処は容易いだろう。
「コーラルどの、注意してくれ。襲っているのはすべて中級以上の魔物のようだ」
サリヴィアが俺に忠告してくれる。
「中級以上?」
一瞬そんなものいるのかと見渡してみたが、見当たらなかった。
いや、人間界と魔界ではカテゴリーの分け方が違うのかもしれん。
どの魔物も人間の数倍は大きい。
人間基準で考えれば、確かに一部の低級の魔物はやりにくそうだ。
実際、鎧をつけた者たちが魔物一体を数人でかかっているが、かなりてこずっている様子だった。
「私も加勢する。皆は安全な場所へ」
サリヴィアはナイフを抜いて俺たちに告げた。
「ラミナ、マヤを町の外へ。魔物が襲ってきたときのために守ってやってくれ」
「わかった」
ラミナはすぐにうなずいた。
「こっ、コーラルさんは逃げないんですか!?」
「まあ頃合いだと思ったら勝手に逃げるさ。それまではな」
町が破壊されてしまってはこちらも困るのでな。
とはいっても――魔法はあまり使えんな。
そもそもパン作りでしこたま消費した魔力がまだ回復していない。
ラミナとマヤが逃げるのを見送って、
「コーラルどのも早く逃げてくれ!」
サリヴィアはナイフを手に一人で近くの魔族に挑んでいった。
防具もなくほぼ丸腰だ。
さすがに無茶が過ぎる。
サリヴィアは巨大な狼に似た魔物にナイフを素早く繰り出す。
片目にそれが命中。
狼がうなり声を上げ、怯んでいる一瞬をついて死角へ回り込み耳の奥へ刃を差し込み頭部を穿った。
鮮やかで、無駄のない動きだ。
並の人間なら数人でかかって手こずるような相手を、一人で簡単に倒すとは。
しかし倒れた狼の陰から、サリヴィアを狙って飛び込んでくる魔物がいた。
今度は黒猫に似た魔物。
赤い目玉が顔に十ほどついたグロテスクな面持ちに、暗器のような鋭い爪を持っていた。
俺はサリヴィアの首根っこを掴んで引き寄せた。
サリヴィアの鼻先を魔物の爪がかすめていく。
「おお、すまないコーラルどの!」
サリヴィアは元気に感謝するので、俺はため息をついた。
「まったく。命を無駄にするぞそんな戦い方だと」
魔物が追撃してくるのを持っていた鉈で切り伏せた。
「平気だ。今の一撃ならたぶん避けられる。ちゃんと見えていたぞ」
「なぜそこまで町を守ることにこだわる?こんな状況だ、逃げても誰も文句は言わん。しかもいまの装備だと、丸腰で魔物に挑んでいるようなものだぞ」
「これしか知らないからな。守るために戦えなければ、私が存在している意味がない」
サリヴィアはまっすぐな目で、しかしどこか寂しそうな表情で、声を落として言った。
「ならばよし」
「……え?」
「存分に守れ。援護してやる」
「驚いたな。笑われるか否定されるかと思った」
「自分の思いを貫こうとしながら生きている者を誰が笑うのだ」
「……はは、そんなこと言われたのは、はじめてだな」
「命を無駄にする戦いかたは推奨せんがな」
五本の尻尾を持ったいびつな妖狐のような魔物が飛びかかってくる。
サリヴィアは持っていたナイフを投擲して、魔物の額に命中させた。
魔物は地に伏せて動かなくなる。
「使えい!」
俺は魔法で強化した鉈をサリヴィアに投げてよこす。
「いや、ありがたいが、コーラルどのはいいのか?」
「うむ。この程度の魔物ならパワーでどうにかできるからな」
巨大な狼に似た魔物が俺に飛びかかってくる。
ごきり、と指を鳴らして息を吐く。
身の程知らずめが。
俺は魔物の頭部を鷲掴みにして、力と勢いにまかせて地面に叩きつけた。
頭をぺしゃんこにされた魔物は鮮血を飛び散らせ、痙攣して絶命する。
「さあ、一匹残らず駆逐してやろうぞ」
俺は血のついた腕を振り払い、飛沫を辺りに散らせた。
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