元魔王おじさん

うどんり

文字の大きさ
111 / 119
四章

第112話 屋敷の中へ

しおりを挟む
黒装束たちが展開する魔法印から魔法が発せられるより早く、灰色の影が動いた。ウォフナーだ。

「ぎゃあっ!」

ウォフナーは魔物化した腕で黒装束たちをなぎ倒した。

もう一方の――人間の方の手にはロングソードが握られている。

跳ぶ。

持っている剣で、黒装束を切り伏せる。
魔法印がウォフナーに向けられる。

《火球召喚》――放たれた炎はしかし、それ以上のスピードで駆けるウォフナーをかすめもしなかった。

さらに振るわれた魔物化した腕。

――しかしそれを装飾のあしらった剣で受け止める者があった。

黒装束を守るように魔物化した腕を魔法石のあしらった剣で防いでいる男。

自称《ガルデローヴ》だ。

「甘いわ!」

雷撃が放たれ、とっさにウォフナーは後方へ跳んだ。

後方へ避けてから、間髪入れず、ウォフナーは横に跳ぶ。

ウォフナーの体は片腕や片足など一部が魔物化しているせいか、人間の部分との重量バランスがおそろしく悪い。

はじめは歩いたり走ったりすることさえ難儀していたが……今はそれを克服し、自分のものにしている。

ウォフナーが手に入れた、重量バランスの悪さからくるブレを利用した動き。
人間の体のほうが振り回される不便さを矯正せず、無駄を削ぎ落さず、振り回されるままにすることで得た予測不能な体捌き。

不規則な軌道で駆けるウォフナーに、ガルデローヴは狙いを定めて雷撃を放つ。

跳ぶ。避ける。当たらない。

当たるはずがない。
おそらく本人さえどうブレるか正確にはわからない規則性のない動きに、完璧に狙いを定めるのは至難の業だ。

「――行け。ここは引き受ける」

片腕をついて、やや四つん這いになって止まったウォフナーは、俺たちに告げる。

「頼んだぞ」

いうが早いか、ウォフナーは《ガルデローヴ》へ肉迫する。

体をひねりながら、手に持つ長剣を振りかぶる。

振り下ろされる攻撃的な剣は、しかし《ガルデローヴ》にすかさず受け止められた。
剣戟が響く。

それを背に、俺たちは進む。



屋敷の前まで到着する。

目の前には、見えない結界が張り巡らされてある。

「破れるかラミナ」

「うん」

ラミナが銀色のナイフを振るうと、空間が割れて結界が暴かれる。

鉄製の門が、ついでに真っ二つにされる。

「ちょっと縮もうかダストよ」

「わざわざ屋敷の中に招かれるのですか」

「そういうことだ」

俺は口元を吊り上げた。

「屋敷の外から攻撃を加えずわざわざ入っていくというのは、また何か意地の悪いことを企んでいるのでしょう」

「いや、そんなことはないぞ」

「どうだか」

でかい溜息をつきながら、ダストの外殻が剥がれ落ちていき、やがて俺と同じくらいのサイズにまで縮んでいく。
しかし全身甲冑に包まれたように、薄く外殻を纏っている。

「べつにすっぴんでもいいんじゃないか」

「魔王っぽくと言ったのはどこのどいつですか」

軽口を叩き合いながら屋敷の中に入ると、いきなり魔法で攻撃を受ける。

「む?」

風の刃。
風圧とともに放たれた不可視の斬撃が、俺たちを襲う。

ラミナが、ナイフを振るってその風をかき消す。

敵の姿はない。広い屋敷のどこかに隠れながら、こちらを攻撃している。

「敵の場所、見つける。先に行って」

ラミナが両手にナイフを構えながら言った。
俺たちは頷く。

リィサの見せてくれた映像で、《魔王》の居場所はだいたい把握している。

その通りのルートに沿って、俺たちは進む。
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...