24 / 76
第二十四話 きみには年上があってるよ
しおりを挟む
無理やりキスされて、今朝はギルバートとちょっとギクシャクしてしまった。
「昨日はすまなかった」とぼそぼそ呟かれて、「気にしてない」とは言ったけど。
あんなに乱暴で機嫌が悪いギルバートは初めてだった。
やっぱり俺が任務より余暇を優先してたってのが嫌だったのかな。
……まあ、確かに。ギルバートはいつも俺より遅く帰ってくるし。同じ部屋で相方が遊んでたら、そりゃあ、腹立つよな。
(……ギルバートの負担をちょっとでも無くさないと)
「クヴァールさん。小説、ありがとうございました」
翌日、俺はまた医務室に来ていた。
借りたばかりの小説を手渡すと、クヴァールは「読むの早いね」と驚いていた。
「読みやすくって。一瞬でした」
「そっか、よかった。初の恋愛小説はどうだった?」
「自分でもびっくりするくらい泣きましたよ」
あはは、と笑いながら言うと、クヴァールは目を丸くしていた。「泣いたの?」と聞かれ、若干恥ずかしくなる。
ギルバートにも驚かれたから、やっぱり俺のキャラじゃないんだろうな、恋愛小説って。
「……なんとなく、自分と重なるところもあって」
それだけ言うと、クヴァールはじっと俺を見つめていた。
あれ。もっと笑われるかと思ったのに。
微妙な沈黙が生まれると、クヴァールは「どんなとこが?」と聞いてきた。
「あー……なんだろ。身分差の恋、みたいなのが、なんか。ほら、俺、平民だから」
改めて言葉にすると、ギルバートへの気持ちが浮き彫りになったようで恥ずかしくなった。
そうなんだ、とクヴァールは眉を下げて笑った。
「僕は、恋愛に身分差は関係ないと思うけど」
「うーん、でも。叶えられないなら諦めるしかないじゃないですか」
「そっか」
クヴァールがぽつんと呟く。心なしか落ち込んでいるように見えた。
もしかしてクヴァールはいま、身分差のある恋をしているのだろうか。なんだか悪いことを言ってしまった気がする。
「別に、この国にこだわらなくてもいいんじゃない?」
クヴァールが言った言葉がうまく飲み込めず、「え?」と首を傾げる。
「平民とか貴族とかって、この国の制度なだけじゃん。例えば隣の国……ヴァルトラ共和国では、身分制は廃止されてる」
「へえ、そうなんですね」
「僕は若い頃ヴァルトラに留学したことあるけど、すごくいい国だよ。みんな先進的で差別なんかない。エルマもきっと気に入るよ」
「そうですか」と気の抜けた返事をするも、クヴァールの瞳はなんだか熱がこもっていた。
「エルマはこの国の平民で終わるような人間じゃないよ」
「いや、そんな。俺なんか」
「”なんか”っていうの、禁止。きみは立派だ」
クヴァールはきっぱりとした口調で遮る。
「……きみみたいな子には、年上で、優しい、包容力があるタイプが合ってると思うよ」
柔らかい微笑みを向けられて、なんだか心がむず痒くなった。
俺は「そうですかね」と愛想笑いを浮かべた。
なんともいえない沈黙が落ちる。
クヴァールは優しい瞳で俺を見つめるだけだった。
「あ、そうだ。セオドア司祭から書類を持ってこいって言われてたんです」
気まずい空気を破るように、俺はぱっと明るい声を出した。
クヴァールは「なに?」と優しく首を傾げる。
「司祭たちの健康診断の書類です。結果が出た頃だろうって言われて」
「あー、なるほど。これ。ちょうど持ってこうと思ってたんだ」
クヴァールは乱雑な机から書類の束を手渡した。俺はお礼を言って、ざっと確認する。
七月にトラオム聖教会で行われた健康診断の結果だ。各司祭の最新の魔力量が記載されている。
よし、と気づかれないようにガッツポーズすると、机から一枚の紙がぱらりと落ちた。
「……死亡報告書?」
咄嗟に拾い上げると、予期していなかった単語に驚いてしまった。
「ごめん、ありがとう」
クヴァールがさっと俺の手からその紙を奪い取る。チラリと見えた表情は、一瞬、強ばっていた気がした。
俺は「いえ」とだけ返した。
「どなたか亡くなったのですか?」
「ああ、七月に観光客の子が」
「……それは、ご愁傷さま、ですね」
「そうだね」とクヴァールは視線を下げる。
眉根を寄せて、心を痛めているようだった。
……今、この場で詳しく聞くと、怪しまれるかもしれない。
「書類、ありがとうございました。また来ますね」
クヴァールはぱっと顔を明るくして、「うん」と答えた。
「昨日はすまなかった」とぼそぼそ呟かれて、「気にしてない」とは言ったけど。
あんなに乱暴で機嫌が悪いギルバートは初めてだった。
やっぱり俺が任務より余暇を優先してたってのが嫌だったのかな。
……まあ、確かに。ギルバートはいつも俺より遅く帰ってくるし。同じ部屋で相方が遊んでたら、そりゃあ、腹立つよな。
(……ギルバートの負担をちょっとでも無くさないと)
「クヴァールさん。小説、ありがとうございました」
翌日、俺はまた医務室に来ていた。
借りたばかりの小説を手渡すと、クヴァールは「読むの早いね」と驚いていた。
「読みやすくって。一瞬でした」
「そっか、よかった。初の恋愛小説はどうだった?」
「自分でもびっくりするくらい泣きましたよ」
あはは、と笑いながら言うと、クヴァールは目を丸くしていた。「泣いたの?」と聞かれ、若干恥ずかしくなる。
ギルバートにも驚かれたから、やっぱり俺のキャラじゃないんだろうな、恋愛小説って。
「……なんとなく、自分と重なるところもあって」
それだけ言うと、クヴァールはじっと俺を見つめていた。
あれ。もっと笑われるかと思ったのに。
微妙な沈黙が生まれると、クヴァールは「どんなとこが?」と聞いてきた。
「あー……なんだろ。身分差の恋、みたいなのが、なんか。ほら、俺、平民だから」
改めて言葉にすると、ギルバートへの気持ちが浮き彫りになったようで恥ずかしくなった。
そうなんだ、とクヴァールは眉を下げて笑った。
「僕は、恋愛に身分差は関係ないと思うけど」
「うーん、でも。叶えられないなら諦めるしかないじゃないですか」
「そっか」
クヴァールがぽつんと呟く。心なしか落ち込んでいるように見えた。
もしかしてクヴァールはいま、身分差のある恋をしているのだろうか。なんだか悪いことを言ってしまった気がする。
「別に、この国にこだわらなくてもいいんじゃない?」
クヴァールが言った言葉がうまく飲み込めず、「え?」と首を傾げる。
「平民とか貴族とかって、この国の制度なだけじゃん。例えば隣の国……ヴァルトラ共和国では、身分制は廃止されてる」
「へえ、そうなんですね」
「僕は若い頃ヴァルトラに留学したことあるけど、すごくいい国だよ。みんな先進的で差別なんかない。エルマもきっと気に入るよ」
「そうですか」と気の抜けた返事をするも、クヴァールの瞳はなんだか熱がこもっていた。
「エルマはこの国の平民で終わるような人間じゃないよ」
「いや、そんな。俺なんか」
「”なんか”っていうの、禁止。きみは立派だ」
クヴァールはきっぱりとした口調で遮る。
「……きみみたいな子には、年上で、優しい、包容力があるタイプが合ってると思うよ」
柔らかい微笑みを向けられて、なんだか心がむず痒くなった。
俺は「そうですかね」と愛想笑いを浮かべた。
なんともいえない沈黙が落ちる。
クヴァールは優しい瞳で俺を見つめるだけだった。
「あ、そうだ。セオドア司祭から書類を持ってこいって言われてたんです」
気まずい空気を破るように、俺はぱっと明るい声を出した。
クヴァールは「なに?」と優しく首を傾げる。
「司祭たちの健康診断の書類です。結果が出た頃だろうって言われて」
「あー、なるほど。これ。ちょうど持ってこうと思ってたんだ」
クヴァールは乱雑な机から書類の束を手渡した。俺はお礼を言って、ざっと確認する。
七月にトラオム聖教会で行われた健康診断の結果だ。各司祭の最新の魔力量が記載されている。
よし、と気づかれないようにガッツポーズすると、机から一枚の紙がぱらりと落ちた。
「……死亡報告書?」
咄嗟に拾い上げると、予期していなかった単語に驚いてしまった。
「ごめん、ありがとう」
クヴァールがさっと俺の手からその紙を奪い取る。チラリと見えた表情は、一瞬、強ばっていた気がした。
俺は「いえ」とだけ返した。
「どなたか亡くなったのですか?」
「ああ、七月に観光客の子が」
「……それは、ご愁傷さま、ですね」
「そうだね」とクヴァールは視線を下げる。
眉根を寄せて、心を痛めているようだった。
……今、この場で詳しく聞くと、怪しまれるかもしれない。
「書類、ありがとうございました。また来ますね」
クヴァールはぱっと顔を明るくして、「うん」と答えた。
19
あなたにおすすめの小説
処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます
ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。
しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。
——このままじゃ、王太子に処刑される。
前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。
中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。
囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。
ところが動くほど状況は悪化していく。
レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、
カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、
隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。
しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。
周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり——
自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。
誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う——
ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
辺境の酒場で育った少年が、美貌の伯爵にとろけるほど愛されるまで
月ノ江リオ
BL
◆ウィリアム邸でのひだまり家族な子育て編 始動。不器用な父と、懐いた子どもと愛される十五歳の青年と……な第二部追加◆断章は残酷描写があるので、ご注意ください◆
辺境の酒場で育った十三歳の少年ノアは、八歳年上の若き伯爵ユリウスに見初められ肌を重ねる。
けれど、それは一時の戯れに過ぎなかった。
孤独を抱えた伯爵は女性関係において奔放でありながら、幼い息子を育てる父でもあった。
年齢差、身分差、そして心の距離。
不安定だった二人の関係は年月を経て、やがて蜜月へと移り変わり、交差していく想いは複雑な運命の糸をも巻き込んでいく。
冷酷無慈悲なラスボス王子はモブの従者を逃がさない
北川晶
BL
冷徹王子に殺されるモブ従者の子供時代に転生したので、死亡回避に奔走するけど、なんでか婚約者になって執着溺愛王子から逃げられない話。
ノワールは四歳のときに乙女ゲーム『花びらを恋の数だけ抱きしめて』の世界に転生したと気づいた。自分の役どころは冷酷無慈悲なラスボス王子ネロディアスの従者。従者になってしまうと十八歳でラスボス王子に殺される運命だ。
四歳である今はまだ従者ではない。
死亡回避のためネロディアスにみつからぬようにしていたが、なぜかうまくいかないし、その上婚約することにもなってしまった??
十八歳で死にたくないので、婚約も従者もごめんです。だけど家の事情で断れない。
こうなったら婚約も従者契約も撤回するよう王子を説得しよう!
そう思ったノワールはなんとか策を練るのだが、ネロディアスは撤回どころかもっと執着してきてーー!?
クールで理論派、ラスボスからなんとか逃げたいモブ従者のノワールと、そんな従者を絶対逃がさない冷酷無慈悲?なラスボス王子ネロディアスの恋愛頭脳戦。
【本編完結】異世界で政略結婚したオレ?!
カヨワイさつき
BL
美少女の中身は32歳の元オトコ。
魔法と剣、そして魔物がいる世界で
年の差12歳の政略結婚?!
ある日突然目を覚ましたら前世の記憶が……。
冷酷非道と噂される王子との婚約、そして結婚。
人形のような美少女?になったオレの物語。
オレは何のために生まれたのだろうか?
もう一人のとある人物は……。
2022年3月9日の夕方、本編完結
番外編追加完結。
不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です
新川はじめ
BL
国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。
フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。
生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる