【BL大賞、奨励賞受賞】嫌いなバディとキスをする!? ~ふたりきりの任務で再会したのは初恋の幼馴染でした~

mei@ネトコン13受賞

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第三十話 みんな、気づかなきゃいいのに

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数十分ほど俺の知らない話が続いた。
誰々がどこどこ行ったとか、知らん固有名詞のオンパレードだ。
愛想笑いを浮かべて「へー」と相槌を打った。クヴァールも談笑に加わってるので、勝手に外れるわけにもいかない。

ちらりと気づかれない程度に会場に視線を向ける。
ギルバートは……来てるな。
華やかなドレスの中で、黒のジャケットが映えていた。凜とした佇まいで遠くからでも分かる。
心なしか、周りの女性陣が浮き足立っていた。

みんな、ギルバートに気づかなきゃいいのに。とか。俺だけが知ってればいいのに、とか。思っちゃうけど。
手をぎゅっとして、溢れ出るモヤモヤを必死で押し込めた。

ひとりの令嬢がギルバートに声をかけた。青いドレスを着た令嬢だ。ギルバートが応じる。二人ははにかみながら会話をしている。
時折ギルバートが顔をほころばせて、楽しそうに笑っている。

……わかってる。これは任務だ。
ギルバートの任務はたくさんの人に話を聞くこと。

だけど。
遠目にもふたりは釣り合って見えた。
楽しそうで、穏やかで。王子様とお姫様みたいな。

(きっと、ギルバートは。将来、あんな風に結婚するんだろうな)

拳を握り締める。手に爪が食い込んで痛い。


「エルマ?」
「え? あ、なんです?」

クヴァールが心配そうに見下ろしていた。

「どうしたの?」
「え、いやー、なんでも」
「……あの人が気になる?」

クヴァールが視線を向けたのは、ギルバートとその令嬢だった。焦りで鼓動が早まる。
やばい。俺たちの関係に気づかれちゃ、やりづらくなるのに。

「ハートフィールドさん、いらしてたのね。元気になったならよかったわ」

セリーヌが驚いたように見つめている。
まわりのご婦人も「そうね」と合わせていた。

「元気になったって、何かあったんですか?」
「ああ、彼女ね。グレース・ハートフィールドさんっていうんだけど。今年の七月に親友を亡くしたのよ。この会でも一緒で、とても仲良かったのだけれど」

俺は目を見開いた。
今年の七月、アリュール教育学会のメンバー。ロゼッタだ。

「ご愁傷さまです。その、親友というのは」
「ああ……そうね。こういう華やかな場で亡くなった人の話はしたくないわ」
「あ、そ、そうですよね、すみません」

セリーヌは愛想笑いで場を濁した。
俺は気づかれないように唇を噛む。

グレースに話を聞かなければ。
ギルバートが聞き出してくれればいいのだが、初対面でそこまで話してくれるだろうか。
案の定、グレースはギルバートに手を振り、別の男性と談笑を始めた。
そしてギルバートのもとには別の、ピンクのドレスを着た令嬢が駆け寄っていった。

ギルバートに強い視線を送ると、ばちりと目が合った。
『さっきの女性、くわしく きけ』と、視線と小さな身振りで伝える。
ギルバートは目を細めて頷く。


「そういえば、アインホルン司祭が今年の冬、エラドールに戻られるそうよ」
「あらそうなの。ロゼッタのこともあるものね」

セリーヌが話を変えるように切り出す。
急いで耳をそばだてた。

「いまはトラオムで眠っているけれど、やっぱり故郷で埋葬したいでしょうね」
「トラオムから外へ出る馬車は少ないものね。冬まで待たなければならないのが可哀想だわ」

セリーヌの言葉を発端に、周りの婦人たちがぽつぽつと話し始める。
俺が聞き出すと嫌な顔をしたのに、知り合いならいいのかよ。という苛立ちは若干残るが、じっと口をつぐんで会話に集中した。

「あのふたり、やっぱり何かあったの?」
「ああ、あなた知らなかったわね。ロゼッタとアインホルン司祭はエラドール出身なのよ」
「アインホルン司祭は学校で講師をしていて、ロゼッタはその教え子。だけど………」
「アインホルン司祭がロゼッタの魔法の才能を見いだして、王都の学校へ推薦したんですって」
「家族ぐるみで親しかったそうだけれど。それだけなのかしらね」
「なにそれ、どういうこと」
「アインホルン司祭は独身でしょう。もしかしたら……」
「やだぁ、何歳離れてると思ってるのよ」

俺は脳内で必死にメモをとる。
アインホルン司祭とロゼッタは故郷・エラドールで先生と生徒だった。
親しい仲で、かつ、アインホルン司祭はロゼッタの魔法の才を知っていた。
……そして、ロゼッタの遺体は、まだトラオムに眠っている。


「アインホルン司祭が独身なのはも関係してるんじゃない? それがなかったら、もうとっくに結婚してるわよ」


……“ご実家の能力”。
ふと零されただけの単語だったが、今までの会話とは明らかに異なる響きがあった。
笑いながら流された言葉の裏に、何か……もっと深い事情があるのではないか、と思わせる何かが。
すると突然、クヴァールが「エルマ」と声をかけた。

「……はい?」
「あっちにケーキがあるんだ。食べに行こうよ」
「あ、はい」

セリーヌたちの会話はもうアインホルン司祭ともロゼッタとも違う方向に向かっていた。
女性陣の会話はあちこちに飛ぶから、しばらく情報は得られないだろう。

挨拶をして場を抜ける。
思いがけず得られた情報に、胸を躍らせていた。
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