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第三十三話 ロゼッタを知るひと
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後日。
俺たちはグレース・ハートフィールドが住む家を訪れた。ロアシー邸ほどではないが、ここもまあまあ立派な家だ。
「いらっしゃい。わざわざお越しいただいて、ありがとうございます」
グレースが迎え、豪華な客間に通される。
ふかふかのソファと大理石のローテーブル。置物と絵画が目を引いた。
芸術一家なのだろうか。扱っている家具も、細かな装飾が施されていてセンスがいい。
菓子折を手渡して改めて謝罪をすると、グレースはころころと笑いながら受け取った。
「そんなに気にしなくていいのに。まさか、本当に来るとは思いませんでしたわ」
「いえ、俺たちの気が休まりませんから。ぜひ皆様でお召し上がりください」
「ふふ、”俺たち”ね」
グレースが意味深に笑った。少し引っかかる。
愛想笑いの下で訝しんでいると、グレースは俺たちをソファに案内した。
「ギルバートさんはパーティーでお話ししましたわね。あなたは?」
「ご挨拶が遅くなってしまいすみません。俺はエルマ・クラインといいまして、トラオム聖教会の修道士です」
「あら、そうなんですか。聖騎士さまと修道士さまなんですね」
執事が紅茶を用意した。いい香りが漂ってくる。クッキーなどのお菓子も出されて、謝罪に来たのにこちらがもてなされているみたいだった。
「それで、本当のところは、どういったご用件で?」
グレースが笑みを浮かべる。
背筋に冷や汗が一筋垂れた。
何か、怪しまれることをしてしまっただろうか。
乾いた唇を動かそうとすると、ギルバートが代わりに会話を紡いだ。
「グレース嬢。俺たちはロゼッタ・ヴァン・エクスナーさんの死について調査しています」
グレースの眉が、ぴくりと動く。
そして、ゆっくりと目を伏せて「そうですか」と呟いた。
「わかりました。私にお話しできることであればなんでもお聞きくださいませ」
「ありがとうございます」
ええ、とグレースが相槌を打つ。
視線はここではない、どこか遠くを見つめていた。
「……やっぱり。ロゼッタは、病死じゃなかったのね」
ぽつりと零された言葉は、軽いようで、重かった。
ギルバートに促され、グレースはゆっくりと、噛み締めるように、ロゼッタの話を始めた。
グレース・ハートフィールドとロゼッタ・ヴァン・エクスナーは、エラドールという辺境に生まれた令嬢だった。
同じ学校へ行き、同じ公園で遊び、家族ぐるみで旅行にも行った。
活発でみんなを引っ張るロゼッタと、引っ込み思案で大人しいグレース。
ふたりは姉妹のように仲良く育った。
転機が訪れたのは、十五歳の頃。ふたりは異なる学校へ進んだ。
グレースは優秀な成績を認められ、トラオムで神学について学ぶことに。
ロゼッタはずば抜けて高い魔力が認められ、王都で魔法学を学ぶことに。
距離が離れてもふたりは仲が良かった。
手紙を送り合って、年に一回はアリュール教育学会の活動で顔を合わせていた。
今年の七月、ロゼッタはトラオムを訪れた。
到着したその日に、心臓発作で亡くなった。
グレースが対面したのは、すでに冷たくなったロゼッタだった。
「今でも、信じられないんです。だって、すごく美しい顔で眠ってたんですよ」
グレースはぽつりと零した。
もう泣き疲れたのか、現実が重すぎたのか。その表情は、疲れ切っていた。
「確かに、ロゼッタは身体が弱いところもあった。けど、亡くなるような病気はもってなかった。それなのに……」
グレースは手を強く握り締める。小刻みに震えて、耐えている。俺は重い空気に唇を噛んだ。
ロゼッタは七月三日にトラオム中央広場で倒れて、亡くなった。
新聞記事で読んだその文字の羅列が、いま、現実の出来事として身に染みる。
しんとした空気の中、ギルバートが尋ねた。
「ロゼッタがトラオムに来たのは、どういった理由で」
「詳しい理由は聞いてません。あの子……フットワークが軽いところがあって。ふらっと旅行に行くこともよくあるのです」
「そうですか」
「………あ、でも」
グレースはぱっと顔を上げた。
「アインホルン司祭に会いにきたんだと思います」
俺たちは息を呑んだ。
ここで彼と繋がるのか。震える手を強く握り締めながら、グレースの続きを待った。
俺たちはグレース・ハートフィールドが住む家を訪れた。ロアシー邸ほどではないが、ここもまあまあ立派な家だ。
「いらっしゃい。わざわざお越しいただいて、ありがとうございます」
グレースが迎え、豪華な客間に通される。
ふかふかのソファと大理石のローテーブル。置物と絵画が目を引いた。
芸術一家なのだろうか。扱っている家具も、細かな装飾が施されていてセンスがいい。
菓子折を手渡して改めて謝罪をすると、グレースはころころと笑いながら受け取った。
「そんなに気にしなくていいのに。まさか、本当に来るとは思いませんでしたわ」
「いえ、俺たちの気が休まりませんから。ぜひ皆様でお召し上がりください」
「ふふ、”俺たち”ね」
グレースが意味深に笑った。少し引っかかる。
愛想笑いの下で訝しんでいると、グレースは俺たちをソファに案内した。
「ギルバートさんはパーティーでお話ししましたわね。あなたは?」
「ご挨拶が遅くなってしまいすみません。俺はエルマ・クラインといいまして、トラオム聖教会の修道士です」
「あら、そうなんですか。聖騎士さまと修道士さまなんですね」
執事が紅茶を用意した。いい香りが漂ってくる。クッキーなどのお菓子も出されて、謝罪に来たのにこちらがもてなされているみたいだった。
「それで、本当のところは、どういったご用件で?」
グレースが笑みを浮かべる。
背筋に冷や汗が一筋垂れた。
何か、怪しまれることをしてしまっただろうか。
乾いた唇を動かそうとすると、ギルバートが代わりに会話を紡いだ。
「グレース嬢。俺たちはロゼッタ・ヴァン・エクスナーさんの死について調査しています」
グレースの眉が、ぴくりと動く。
そして、ゆっくりと目を伏せて「そうですか」と呟いた。
「わかりました。私にお話しできることであればなんでもお聞きくださいませ」
「ありがとうございます」
ええ、とグレースが相槌を打つ。
視線はここではない、どこか遠くを見つめていた。
「……やっぱり。ロゼッタは、病死じゃなかったのね」
ぽつりと零された言葉は、軽いようで、重かった。
ギルバートに促され、グレースはゆっくりと、噛み締めるように、ロゼッタの話を始めた。
グレース・ハートフィールドとロゼッタ・ヴァン・エクスナーは、エラドールという辺境に生まれた令嬢だった。
同じ学校へ行き、同じ公園で遊び、家族ぐるみで旅行にも行った。
活発でみんなを引っ張るロゼッタと、引っ込み思案で大人しいグレース。
ふたりは姉妹のように仲良く育った。
転機が訪れたのは、十五歳の頃。ふたりは異なる学校へ進んだ。
グレースは優秀な成績を認められ、トラオムで神学について学ぶことに。
ロゼッタはずば抜けて高い魔力が認められ、王都で魔法学を学ぶことに。
距離が離れてもふたりは仲が良かった。
手紙を送り合って、年に一回はアリュール教育学会の活動で顔を合わせていた。
今年の七月、ロゼッタはトラオムを訪れた。
到着したその日に、心臓発作で亡くなった。
グレースが対面したのは、すでに冷たくなったロゼッタだった。
「今でも、信じられないんです。だって、すごく美しい顔で眠ってたんですよ」
グレースはぽつりと零した。
もう泣き疲れたのか、現実が重すぎたのか。その表情は、疲れ切っていた。
「確かに、ロゼッタは身体が弱いところもあった。けど、亡くなるような病気はもってなかった。それなのに……」
グレースは手を強く握り締める。小刻みに震えて、耐えている。俺は重い空気に唇を噛んだ。
ロゼッタは七月三日にトラオム中央広場で倒れて、亡くなった。
新聞記事で読んだその文字の羅列が、いま、現実の出来事として身に染みる。
しんとした空気の中、ギルバートが尋ねた。
「ロゼッタがトラオムに来たのは、どういった理由で」
「詳しい理由は聞いてません。あの子……フットワークが軽いところがあって。ふらっと旅行に行くこともよくあるのです」
「そうですか」
「………あ、でも」
グレースはぱっと顔を上げた。
「アインホルン司祭に会いにきたんだと思います」
俺たちは息を呑んだ。
ここで彼と繋がるのか。震える手を強く握り締めながら、グレースの続きを待った。
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