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第五十九話 あなたがいい
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ギルバートは口をぽかんと開けて、しばらく固まっていた。
脳が情報を処理し切れていないのかもしれない。いつもは優秀に回ってるのに。
ギルバート、と声をかけると、ハッとして「あ、え、うん」と、まだ処理中みたいな言葉が返ってくる。
「………好き、か。エルマ、俺、を」
変な翻訳機にいれたみたいな言葉が返ってきて、俺はつい噴き出してしまった。あはは、と声に出して笑うと、ギルバートは真っ赤になって唇を噛んだ。
その顔がなんだか可愛らしくってたまらない。
「ホントだよ。ずっと好きだったよ。子どもの頃から」
笑いかけると、ギルバートはややうつむきがちに、こくん、と頷いた。
「俺もエルマが好きだった。ずっと、会いたかった」
「うん」
「……本当のことを言うと、両親は、俺がエルマと結婚するんだと思ってたみたいで。マナレギュレータも、あげたつもりだった」
俺は、え、と、固まってしまった。
なんかすごいことが聞こえた気がしたんだけど。
「俺が頼み込んだってのもあるだろうが、両親も、エルマだから助けたかったんだ。だから……、気負わなくていい、って言うのは、そういうのもある」
ギルバートが恥ずかしそうにぽつぽつと話す。
今度は俺の脳内が処理落ちするところだった。
「結婚? え、ま、まじ?」
「両親は気が早いから。今でも”エルマを大事にしろ”って手紙が来るくらい」
「ギルバートは? お、俺で、いいの?」
結婚なんて、そんな簡単に決めていいものじゃないだろ。あたふたしながら尋ねると、ギルバートはまっすぐに俺を見た。
「俺はエルマがいい」
金色の瞳はまっすぐだった。
その視線にたじろいで、俺は言葉が紡げなかった。
ルフトシュタット家は名家だ。俺みたいな平民が嫁いでいいとこじゃない。
『俺もギルバートと結婚したい』と、胸を張って言う自信はなかった。
ギルバートの手を握る。
いまできる精一杯の意思表示だった。
ギルバートの近くにいたい。
昔みたいに、一緒に走れるようになりたい。
俺が隣に立ってもいいって、思えるようになりたい。
そのときになったら、「結婚しよう」と、俺も言えるかもしれない。
俺たちは同じベッドで寝た。
狭くて暑かったけど、ギルバートの香りに包まれて、幸せだった。
翌朝。
目が覚めると、ギルバートが俺の頭を撫でていた。近すぎる距離にびっくりして飛び起きてしまった。
「おはよう、エルマ」
「えっ!?」
「体調はどうだ? 魔素不足は感じるか」
ぼんやりとした頭で「大丈夫」と呟くと、ギルバートは嬉しそうに俺の髪を撫でる。寝癖でちょっと跳ねているみたいだ。
働かない頭で昨日のことを思い出す。
途端に羞恥が込み上げてきて、俺は急いで洗面所に向かった。
鏡を見て叫びそうになった。寝癖もすごい。よく見たらよだれも垂れてる。ごしごしと顔を洗って、寝癖も直して、うわぁ、と唸った。
身だしなみをちゃんとしてなかった過去の自分が、急に恥ずかしい。
いつもより念入りに鏡を確認する。
洗面所の棚に隠している魔素入りのドリンクがちらりと視界に入った。
手を伸ばしそうになって、止める。そのまま部屋に戻った。
部屋に戻ると、ギルバートは荷物を整理していたところだった。
俺はぱたぱたと近くまで駆けた。
「ギルバート」
「どうした」
「”緊急避難の魔素供給”、これからはギルバートに頼みたいんだけど」
「だめ?」と首を傾げると、ギルバートはぴたりと動きを止める。
「ダメじゃない、けど」とぼそぼそ呟いた。次第に顔が赤くなって、口元が緩んでいった。
「じゃあ、今日のお願い」
甘えるように笑いかけた。
昨日たくさんもらったから、する必要はないんだけど。
ギルバートは俺を思いっきり抱きしめて、キスをした。いつもより激しくて、とろけるような、甘いキスだった。
ギルバートの首に手を回して、舌を絡める。
唾液が口の端から垂れる。
それすらも愛おしくて、どくどくと幸せが込み上げてきた。
「ちょっとぉ、朝っぱらから激しいシーン見せんといて」
部屋の扉がガチャリと開いた。
俺たちは肩をびくりと震わせてしまった。
騎士団の服を着た男が二名、扉のところに立っている。
「うちらが今日到着するって忘れてたんやろ。ほんま、若いっちゃぁ、ええなぁ」
「こんな時によくベタベタできますね、アンタら」
ひげ面のくたびれたおっさんがにやりと笑った。その後ろで、気難しそうな青年がむすっとしている。
「はじめましてぇ。ダリウス・コルヴィン申しますぅ。一応軍医ですわ」
「カイル・フェルナー。魔法技術者っス」
ーーー増援を頼んだ。あと数日で到着するらしい
数日前、ギルバートが会議で言っていた言葉が、脳裏に蘇ってきた。
脳が情報を処理し切れていないのかもしれない。いつもは優秀に回ってるのに。
ギルバート、と声をかけると、ハッとして「あ、え、うん」と、まだ処理中みたいな言葉が返ってくる。
「………好き、か。エルマ、俺、を」
変な翻訳機にいれたみたいな言葉が返ってきて、俺はつい噴き出してしまった。あはは、と声に出して笑うと、ギルバートは真っ赤になって唇を噛んだ。
その顔がなんだか可愛らしくってたまらない。
「ホントだよ。ずっと好きだったよ。子どもの頃から」
笑いかけると、ギルバートはややうつむきがちに、こくん、と頷いた。
「俺もエルマが好きだった。ずっと、会いたかった」
「うん」
「……本当のことを言うと、両親は、俺がエルマと結婚するんだと思ってたみたいで。マナレギュレータも、あげたつもりだった」
俺は、え、と、固まってしまった。
なんかすごいことが聞こえた気がしたんだけど。
「俺が頼み込んだってのもあるだろうが、両親も、エルマだから助けたかったんだ。だから……、気負わなくていい、って言うのは、そういうのもある」
ギルバートが恥ずかしそうにぽつぽつと話す。
今度は俺の脳内が処理落ちするところだった。
「結婚? え、ま、まじ?」
「両親は気が早いから。今でも”エルマを大事にしろ”って手紙が来るくらい」
「ギルバートは? お、俺で、いいの?」
結婚なんて、そんな簡単に決めていいものじゃないだろ。あたふたしながら尋ねると、ギルバートはまっすぐに俺を見た。
「俺はエルマがいい」
金色の瞳はまっすぐだった。
その視線にたじろいで、俺は言葉が紡げなかった。
ルフトシュタット家は名家だ。俺みたいな平民が嫁いでいいとこじゃない。
『俺もギルバートと結婚したい』と、胸を張って言う自信はなかった。
ギルバートの手を握る。
いまできる精一杯の意思表示だった。
ギルバートの近くにいたい。
昔みたいに、一緒に走れるようになりたい。
俺が隣に立ってもいいって、思えるようになりたい。
そのときになったら、「結婚しよう」と、俺も言えるかもしれない。
俺たちは同じベッドで寝た。
狭くて暑かったけど、ギルバートの香りに包まれて、幸せだった。
翌朝。
目が覚めると、ギルバートが俺の頭を撫でていた。近すぎる距離にびっくりして飛び起きてしまった。
「おはよう、エルマ」
「えっ!?」
「体調はどうだ? 魔素不足は感じるか」
ぼんやりとした頭で「大丈夫」と呟くと、ギルバートは嬉しそうに俺の髪を撫でる。寝癖でちょっと跳ねているみたいだ。
働かない頭で昨日のことを思い出す。
途端に羞恥が込み上げてきて、俺は急いで洗面所に向かった。
鏡を見て叫びそうになった。寝癖もすごい。よく見たらよだれも垂れてる。ごしごしと顔を洗って、寝癖も直して、うわぁ、と唸った。
身だしなみをちゃんとしてなかった過去の自分が、急に恥ずかしい。
いつもより念入りに鏡を確認する。
洗面所の棚に隠している魔素入りのドリンクがちらりと視界に入った。
手を伸ばしそうになって、止める。そのまま部屋に戻った。
部屋に戻ると、ギルバートは荷物を整理していたところだった。
俺はぱたぱたと近くまで駆けた。
「ギルバート」
「どうした」
「”緊急避難の魔素供給”、これからはギルバートに頼みたいんだけど」
「だめ?」と首を傾げると、ギルバートはぴたりと動きを止める。
「ダメじゃない、けど」とぼそぼそ呟いた。次第に顔が赤くなって、口元が緩んでいった。
「じゃあ、今日のお願い」
甘えるように笑いかけた。
昨日たくさんもらったから、する必要はないんだけど。
ギルバートは俺を思いっきり抱きしめて、キスをした。いつもより激しくて、とろけるような、甘いキスだった。
ギルバートの首に手を回して、舌を絡める。
唾液が口の端から垂れる。
それすらも愛おしくて、どくどくと幸せが込み上げてきた。
「ちょっとぉ、朝っぱらから激しいシーン見せんといて」
部屋の扉がガチャリと開いた。
俺たちは肩をびくりと震わせてしまった。
騎士団の服を着た男が二名、扉のところに立っている。
「うちらが今日到着するって忘れてたんやろ。ほんま、若いっちゃぁ、ええなぁ」
「こんな時によくベタベタできますね、アンタら」
ひげ面のくたびれたおっさんがにやりと笑った。その後ろで、気難しそうな青年がむすっとしている。
「はじめましてぇ。ダリウス・コルヴィン申しますぅ。一応軍医ですわ」
「カイル・フェルナー。魔法技術者っス」
ーーー増援を頼んだ。あと数日で到着するらしい
数日前、ギルバートが会議で言っていた言葉が、脳裏に蘇ってきた。
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