【BL大賞、奨励賞受賞】嫌いなバディとキスをする!? ~ふたりきりの任務で再会したのは初恋の幼馴染でした~

mei@ネトコン13受賞

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第七十四話 帰還

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”神の御許”を取り戻してから、三ヶ月ほどが経った。クヴァールは裁判にかけられ、横領と窃盗で有罪判決となった。

クヴァールは、誰の魔素を奪っていたのか知らなかったらしい。
そのせいでロゼッタが亡くなったことも、俺の魔素を奪っていたことも知らなかった。
殺人罪で裁くのは難しいが、未必の故意にあたる可能性が高い。続く裁判でなんらかの罪に問われるだろう。

研究所は閉鎖となった。
けれど魔素研究は画期的で、闇に葬るのはもったいないとの結論になった。アリュール教育学会のメンバーが研究内容を共有し、魔素不足に悩む人々への解決策を探している。
オープンな場で、身分も関係なく議論や研究ができるように。
トラオムは変わりつつある。

”神の御許”は、今日もトラオム聖教会で、穏やかに眠っている。




「久しぶりだな、王都」

揺れる馬車には、俺、ギルバート、ダリウス、カイルが乗っている。
狭い馬車はぎゅうぎゅうで、俺はギルバートと肩をぴたりと触れあうくらい。
正面に座るダリウスとカイルも窮屈そうだ。

トラオムから王都までの長い道のりを、俺たちは帰っていた。
窓の外の景色は、山や森から次第に家々に変わっていく。馬車道が舗装され、揺れも少なくなる。
遠くに厳かな宮殿が見えると、帰ってきたなって感じがした。到着まであと数時間ってところだろうか。

王都アインス。
この国の政治、経済の中枢。
宮殿の近くにはグラナード騎士団の本部がある。

カタカタと、馬車の車輪が回る。
穏やかな音に胸が切なくなった。
もう少しで、本当にこの任務が終わる。


「戻ったら書類地獄や。帰りたくなーい」
「ほんとそれッスね。上司の顔も見たくないッス」
「うわ、思い出させんといて、カイル。今から憂鬱や」

ダリウスとカイルがそれぞれ愚痴る。眉根を寄せて、うげ、とうめく。
ダリウスは軍医で、騎士だ。それなりに偉い階級だった。
カイルは”正魔術師”だった。騎士と同等の権限を持つ、魔術師のなかでもごく一部の存在。侯爵家出身というのもあるけど、高い技能も考慮されているだろう。

今回は緊急事態だから派遣されてきたけど、本当は俺みたいな下っ端の”補佐魔術師”が一緒に働けるような階級の人たちじゃない。
ふたりと任務をすることは、もうないかもしれない。

……さみしいな。
トラオムでは階級なんか気にしないで、みんなで話し合っていられたから。


ちらりと、気づかれないように隣に座るギルバートに目を向ける。
ギルバートは背筋を伸ばして、ふたりの声に耳を傾けていた。

ギルバートと一緒に任務をすることも、もうないだろう。
やっぱり俺は平民で、補佐魔術師だから。
平民がのし上がるには、この国は高いハードルがある。


ーーー身体を張った任務をして、どうなるかな
ーーー成功したって、ちゃんとエルマのこと認めてくれるかな

今になってクヴァールの言葉が、ズキズキと突き刺さった。あのときは無我夢中で、怒りに我を忘れていたけど。


……でも。俺はトラオムを救った。
ギルバートと、ダリウスと、カイルと、一緒に。
階級は低いかもしれないけど、俺だって。俺だって任務の一員だった。

そうは思っても、やっぱり王都が近づくにつれ、黒い気持ちがじわじわ浸食してきて。
うつむいて、どうしようもなく、胸が苦しくなった。




「エルマ。今回の任務、お疲れ様」

ギルバートが口を開いた。
俺はハッとして顔を上げる。

「ギルバートこそ。お前がいてくれたから助かった。ありがとう」
「礼を言うのは俺のほうだ」

ギルバートの声は、低くて、小さくて。
カタカタ動く馬車の中では聞き取りづらかった。

「他の誰かがバディだったら、この任務は失敗していたと思う」
「まさか。買いかぶりすぎだよ」
「エルマの機転の働かせ方と情報収集能力。俺にはないものだ。俺だったらクヴァールを逃していた」
「急に褒めるじゃん」

むず痒くなって、自嘲気味に笑った。そんなに褒められても。
ギルバートが一緒に考えてくれたからだし、俺を守ってくれたからだし、決断してくれたからだし。俺一人じゃ、絶対無理だった。

「俺、そんな役立ってないよ。魔法も使えない魔術師だったしさ」

ははっ、と乾いた笑いを出すと、ギルバートが眉根を寄せて、唇を噛む。


「なんや、一番の功労者はエルマくんやろ」
「そうッス。クヴァールへのハニトラとか、鞭で捕まえたりとか。えげつないことばっかしてるじゃないッスか」

ダリウスとカイルがすごい勢いで口を挟んできた。

「えげつないって……しょうがないでしょ。他にできることなかったんだから」
「それでもやったんや、偉いやん。現にうちら、クヴァールから”神の御許”の場所、聞き出せんかったし」
「それは……偶然っていうか」
「それも実力やん」

ダリウスが眉を下げて、からからと笑う。

「ギルバートくんとエルマくん、ふたりがいたから解決したんや。
ギルバートくんだけじゃ逃してた情報を、エルマくんがキャッチして。エルマくんに届かない情報をギルバートくんが持ってくる。んで、支え合って進んでく。ええバディやんけ」

カイルも横で、うんうんと頷く。
俺は、胸がぽっと熱くなった。

”ええバディやんけ”

最初は上手くやっていける気がしなかった。
魔素も加護も、与えられるだけで、頼りっきりみたいで、悔しくて、申し訳なくて、苦しかったけど。
俺は、ギルバートの”いいバディ”って言われるくらいの存在に、なれた。

「………うん」

小さく頷くのを、ダリウスとカイルは微笑んで見つめていた。



馬車の揺れが緩やかになる。
もうすぐ王都に到着する頃だ。
待ち望む人々の歓声も、馬車の外から聞こえてくる。

「エルマ」

ギルバートが俺を呼んだ。

「王都に着いたら褒章授与式がある」
「ああ、そうだな。リーダーはギルバートだろ。俺も後ろでちゃんと見てるからさ」

褒章授与式。
大きな任務が終わった後、騎士団や王都の民の前で、功労者が表彰される式。昇級や報酬を言い渡される。騎士や貴族にはなじみ深いが、平民が壇上に立つことはない。
今回のリーダーはギルバートだ。
俺はあくまで”補佐魔術師”。下で、民たちと一緒に拍手を送ることになるだろう。

「式典が終わったら、返事を聞かせてほしいんだが」
「返事? なんの?」
「今から言う」

馬車が止まった。待ち受ける民の歓声がわっと盛り上がる。
黄色い歓声ってこういうこと言うんだろうな、とどこか他人事だった。
降りる準備をする。
従者が馬車の扉を、ぎい、と開けた、瞬間。

ギルバートが俺を振り返る。


「俺と結婚してくれ、エルマ」


俺は、馬車から降りる足を踏み外しそうになった。
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