【BL大賞、奨励賞受賞】嫌いなバディとキスをする!? ~ふたりきりの任務で再会したのは初恋の幼馴染でした~

mei@ネトコン13受賞

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第七十三話 任務、完了

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柔らかい風がふわりと吹き抜けた。
白い月明かりがあたりを照らしている。
俺たちの呼吸音がかすかに聞こえるだけ。

「そうだ、”神の御許”を戻さないと」
「ああ、そうだな」

ギルバートははっとして、茂みに隠していた白い箱を取り出した。ベルトラム司祭に貸してもらったものだ。

ギルバートは一日中木の上で待機していた。
何時にクヴァールたちが来てもいいように、朝日が昇る前から、休憩も取らずに。
物音一つ立てず、気づかれないように、じっと身を潜める。すごい精神力だなって改めて思う。おかげでこの白い箱にも気づかれなかった。

白い箱を開ける。
中身は、泡のような柔らかい、奇妙な感触のする白い綿が敷き詰められていた。

慎重に救急箱をさぐる。
包帯や薬品をよけると、厳重に布でぐるぐる巻きにされているものが手に当たった。
傷つけないようにそっと取り出す。

”神の御許”だ。
名前は聞いていたが、実物を見るのは初めてだ。

ーーーー。
ーーーーーー。

たしかに、かすかなうめき声のような音が聞こえる。なんて言っているかはわからない。
一枚ずつ、刺激を与えないように、ゆっくりと布を取り払う。
最後の一枚を取り払った瞬間、虹色の強い光が目を刺した。

「わっ、なにこれ」

白、赤、黄色、青、緑、ピンク、幾筋もの光が乱反射するように四方に散った。
小瓶の中身は、光で見えない。
けれど、動かすとどろりとした液体が入っているような重さがある。
割れてはない、爆発するような熱さもない。
俺は急いで”神の御許”を白い箱にしまった。

瞬間、光が、ぱ、ぱ、ぱ、と点滅した。
ーーーありがとう
と、言っているように、聞こえた。

「……え?」
「いまの………」

ギルバートと顔を合わせて、固まった。
声が出なかった。驚きで。
聞いたことあるような、懐かしいような、全てを包み込むような、優しい音だった。

改めて”神の御許”に目を向けるも、光はすでに収まっていた。先ほどまで目がくらむほどの光を放出していたのに。
今は確かに、眠ったかのように穏やかだった。

「…………生きてる?」




首を傾げていると、山道の下のほうから、俺たちを呼ぶ声がした。

「ギルバートくん! エルマくん! 無事か!?」
「さっきのヤバい光、大丈夫ッスか!?」

ダリウスとカイル、そして数人の私兵たちが山道を駆け上ってきた。
その後ろにはベルトラム司祭もいる。
この山道なのに偉いひとが登れるんだな、なんて呑気に考えていると、ベルトラム司祭は血相を変えて駆け上った。
先にいた兵たちを追い抜いて、息を切らして俺たちの元に来た。

「”神の御許”は」
「ここに。先ほど、強い光を発したのですが、いまは落ち着いています」
「………よかった」

ベルトラム司祭は白い箱を覗き込んで、安堵の息を吐いた。そのまま崩れ落ちるようにうずくまる。
ぎゅっと箱を大切そうに抱えた。肩が震え、目頭には涙が浮かんでいた。

「俺の管理がなっていなくて、辛い目に遭わせてしまった。ごめん、ごめんな」

ベルトラム司祭の言葉は、月明かりに消えた。
一家で大事にしてきたもので、ずっと研究をしてきて、大事に保管してきたものだ。
ベルトラム司祭は、大切な我が子が戻ってきたかのように、嗚咽を噛み殺した。



「無事でよかったなぁ。”神の御許”もちゃんと取り戻せたやん」
「本当に、よかったッス。死ぬかと思いました」

ダリウスとカイルが俺たちに話しかけた。
研究所を制圧した後に山道を駆け上ってきたからか、かなりの疲労が伺える。

「ああ。エルマがクヴァールを制圧してくれた」
「それを言うなら、ぶん投げられた”神の御許”はギルバートがキャッチしたんですよ」
「ぶん投げた!? あんな爆弾を!? 何考えてんねん、アイツ!」
「クヴァール………マジ、ありえねーッス」

経緯を軽く説明していると、ダリウスとカイルは表情豊かに反応する。
真っ青になったり真っ赤になったり。

「それで、クヴァールは」
「そこで気絶してます」
「……エルマ、たまに思うッスけど、………容赦ないッスね」
「しょうがないじゃないですか。ムカついたんで」

ふん、と鼻を鳴らすと、カイルは引きつった笑みを浮かべた。
背後で伸びている十数人の男たちを、私兵たちの力も借りて捕縛する。結構な人数だ。
クヴァールも後ろ手に縛られた。
馬車に積んだ荷物もすべて確認し、トラオム聖教会へ降ろすことになった。

「研究所は無事に制圧を?」
「ああ。事前にカイルが機械をハッキングしてくれてな。大混乱の中やったから比較的楽やったわ」
「あと、輸送品の差し押さえも成功ッス。意外なことに、差し押さえた荷物はセオドア司祭とアインホルン司祭が確認してくれたッスよ」
「え、偉いひとなのに? そんな下っ端みたいなことやってくれたんですか」
「人手が足りないって言ったら、率先してやってくれたッス。アインホルン司祭なんか、”クヴァールさん、いい趣味してますねぇ”って笑いながら荷物をひとつひとつ出してて。俺、あのひとに捕まるのだけはイヤって思いましたね」

カイルが、うげ、と疲れたように遠い目をする。
アインホルン司祭の飄々とした笑顔が脳裏に浮かぶ。確かに、あの笑顔とあの話し方で自分の荷物をチェックされたくないな。


爽やかな風が、あたりに吹いた。
枯れ葉が一枚舞って、一瞬静寂が落ちて。
ほっとしたように笑う仲間たちが目に入って。


「任務は、無事完了だ」


ギルバートの声が響いた。
俺は、ふっと、肩の力が、抜けた。

終わった。
ギルバートとふたりで始まった、極秘の任務が。
”神の御許”を取り戻して、犯人も捕まえて。すべての荷物も差し押さえて。
俺たちは、トラオムを救った。


「…………まじか」

全然実感が湧かない。
呆然とした、ふわふわとした感覚になった。

「まあまあ、まだ終わりやないで。コイツらちゃんと下に届けて、そのあとも調査や。裁判までが遠足やで」

ダリウスの声に、はっとする。
カイルの「遠足じゃないッスよ」という声がして、あたりには笑い声が響いた。
みんなの楽しそうな声に、じわじわと、達成感が込み上げてくる。

………誰一人、欠けることなく。
俺たちは、任務をやり遂げた。
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