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第三話 御曹司αに初デートに誘われました
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僕は肩をびくりと震わせる。
え、やば、えっ、も、もう……!?
やばい、心臓が口から飛び出そう。
ドッ、ドッ、ドッ、うるさいくらいに心臓が鳴っている。
どうしよう、覚悟してなかったわけじゃないけど、けど……!
僕は真っ赤になって「あっ……えと、」と要領を得ない言葉を繰り返していた。
頑張んなきゃいけないのに。僕は妻になったんだから。
九条くんに向き直って正座をした。
うう、恥ずかしい、っていうか、どうしたらいいかわかんない。
九条くんはというと、なぜか部屋に入ってこようとはしなかった。
微妙な距離が開いたまま、九条くんは顔を真っ赤にして、胸元をぎゅうっと掴んでいる。
服は僕と同じく浴衣で、その……お風呂上がりってことだろう。視線は不思議と合わない。
「えと、あの……九条くん、」
「……どうした」
「あの……その、よ、よる、だけど……」
ぎゅう、と拳を握り締める。
よろしくお願いします? なのかな? 何て言えばいいの?
やばい、声が震える。手も震えてきちゃった。
「ひ、陽向がしたくないなら! するつもりはないから!」
九条くんが叫んだ。僕からぷいっと顔を背けたまま。
ーーーえ?
「ど、どういうこと?」
「その、いや……ひ、陽向が、俺のこと、好きじゃないのは、わかってるから!」
「え?」
「だからっ、その、心が、落ち着いた頃でいいからっ!」
じゃあっ、と叫んで、九条くんは勢いよくふすまを閉じた。
バタバタとした足音が遠ざかる。
途端に部屋の中が静まりかえった。
僕は口をぽかんと開けて、ぴったり閉じられたふすまを呆然と見つめていた。
ーーーーどういうこと?
その日の夜はあんまり寝られなかった。
広すぎる部屋っていうこととか、柔らかすぎる布団ってこととか、いろいろあるけど。
一番はやっぱり、九条くんのことを考えちゃって。
翌朝、目を覚ますと高級旅館みたいな景色が広がっていた。まだ夢かと思った。
顔を洗い、着替えを済ませて、リビングへ向かう。
お味噌汁のいい匂いがする。女中さんたちが朝ご飯を用意してくれているらしい。
……どうしよう。九条くん、いるよね。
内心ちょっと気まずい。思ったよりショックだったみたいだ。
いや、抱かれたかったわけじゃないんだけどさ。
うう、と唸りながらリビングへ足を踏み入れると、九条くんはやっぱりいた。
背筋をピンと伸ばして正座をしていた。低いテーブルには、まだ朝ご飯は運ばれてない。
女中さんが僕に気づいて、案内する。九条くんの目の前だ。
「おはよう、陽向」
九条くんはいつもと変わらない……キリッとした顔だった。
けど、どことなくぽやぽやしているというか、ちょっと寝不足みたいだ。
僕は気まずさを必死に隠して、「おはよう、九条くん」と挨拶を返す。九条くんはちょっと口角を上げた。
女中さんが僕たちの前に朝食を運ぶ。
白米とお味噌汁、漬物に焼き魚。おお、純和風って感じの朝食だ。
いただきます、とふたりで手を合わせて食べ始める。
お米は粒立っていてツヤツヤ輝いている。米の甘みってこういうことを言うんだ、って初めて理解したくらい。シンプルな献立だけど、それぞれ素材の味が際立っていて、美味しい。
朝から贅沢だな、と一口食べるごとに嬉しくなってくる。
「陽向、今日の予定は?」
「えっと……特にないけど。どうして?」
僕はぱっと顔を上げて答えた。
九条くんはそわそわと視線を泳がせる。口を開いて、うう、と唸って、きゅっと閉じる。
顔を真っ赤にしながら、やっと九条くんは僕に話しかけた。
「そ、その……デ、デートを、しないか」
え。
僕は固まってしまった。
でーと。……デート?
お箸を持ちながらぽかんと九条くんを見つめる。
九条くんはハッとしたように、慌てて弁明をした。
「い、いや、違う。イヤならいいんだ、その、ちが、ちがくて。忙しいなら、いい、んだけど」
「何も言ってないけど……」
「ちが、そのっ……! お、俺たちは、あんまりお互いを知らない、からっ! 知ったほうがいいんじゃないかって! 思っただけでっ……!」
手をパタパタとせわしなく動かして、九条くんは続ける。早口だ。
僕はその様子をじっと見ていた。
自分より慌ててる人がいると冷静になる。
……僕と九条くんが、デート。
いや、まあ、結婚したなら何も不自然ではない。
言葉にするとちょっと違和感があるけど。
「……いいよ」
「えっ」
「僕も九条くんのこと、もっと知りたいし」
僕はずず、と温かい緑茶を一口飲んだ。
うん、美味しい。パックのやつとは味が違うな。
九条くんはといえば、脳内がショートしたのか、真っ赤になってじっと固まっていた。
からん、と、九条くんの手元からお箸が転がった。
え、やば、えっ、も、もう……!?
やばい、心臓が口から飛び出そう。
ドッ、ドッ、ドッ、うるさいくらいに心臓が鳴っている。
どうしよう、覚悟してなかったわけじゃないけど、けど……!
僕は真っ赤になって「あっ……えと、」と要領を得ない言葉を繰り返していた。
頑張んなきゃいけないのに。僕は妻になったんだから。
九条くんに向き直って正座をした。
うう、恥ずかしい、っていうか、どうしたらいいかわかんない。
九条くんはというと、なぜか部屋に入ってこようとはしなかった。
微妙な距離が開いたまま、九条くんは顔を真っ赤にして、胸元をぎゅうっと掴んでいる。
服は僕と同じく浴衣で、その……お風呂上がりってことだろう。視線は不思議と合わない。
「えと、あの……九条くん、」
「……どうした」
「あの……その、よ、よる、だけど……」
ぎゅう、と拳を握り締める。
よろしくお願いします? なのかな? 何て言えばいいの?
やばい、声が震える。手も震えてきちゃった。
「ひ、陽向がしたくないなら! するつもりはないから!」
九条くんが叫んだ。僕からぷいっと顔を背けたまま。
ーーーえ?
「ど、どういうこと?」
「その、いや……ひ、陽向が、俺のこと、好きじゃないのは、わかってるから!」
「え?」
「だからっ、その、心が、落ち着いた頃でいいからっ!」
じゃあっ、と叫んで、九条くんは勢いよくふすまを閉じた。
バタバタとした足音が遠ざかる。
途端に部屋の中が静まりかえった。
僕は口をぽかんと開けて、ぴったり閉じられたふすまを呆然と見つめていた。
ーーーーどういうこと?
その日の夜はあんまり寝られなかった。
広すぎる部屋っていうこととか、柔らかすぎる布団ってこととか、いろいろあるけど。
一番はやっぱり、九条くんのことを考えちゃって。
翌朝、目を覚ますと高級旅館みたいな景色が広がっていた。まだ夢かと思った。
顔を洗い、着替えを済ませて、リビングへ向かう。
お味噌汁のいい匂いがする。女中さんたちが朝ご飯を用意してくれているらしい。
……どうしよう。九条くん、いるよね。
内心ちょっと気まずい。思ったよりショックだったみたいだ。
いや、抱かれたかったわけじゃないんだけどさ。
うう、と唸りながらリビングへ足を踏み入れると、九条くんはやっぱりいた。
背筋をピンと伸ばして正座をしていた。低いテーブルには、まだ朝ご飯は運ばれてない。
女中さんが僕に気づいて、案内する。九条くんの目の前だ。
「おはよう、陽向」
九条くんはいつもと変わらない……キリッとした顔だった。
けど、どことなくぽやぽやしているというか、ちょっと寝不足みたいだ。
僕は気まずさを必死に隠して、「おはよう、九条くん」と挨拶を返す。九条くんはちょっと口角を上げた。
女中さんが僕たちの前に朝食を運ぶ。
白米とお味噌汁、漬物に焼き魚。おお、純和風って感じの朝食だ。
いただきます、とふたりで手を合わせて食べ始める。
お米は粒立っていてツヤツヤ輝いている。米の甘みってこういうことを言うんだ、って初めて理解したくらい。シンプルな献立だけど、それぞれ素材の味が際立っていて、美味しい。
朝から贅沢だな、と一口食べるごとに嬉しくなってくる。
「陽向、今日の予定は?」
「えっと……特にないけど。どうして?」
僕はぱっと顔を上げて答えた。
九条くんはそわそわと視線を泳がせる。口を開いて、うう、と唸って、きゅっと閉じる。
顔を真っ赤にしながら、やっと九条くんは僕に話しかけた。
「そ、その……デ、デートを、しないか」
え。
僕は固まってしまった。
でーと。……デート?
お箸を持ちながらぽかんと九条くんを見つめる。
九条くんはハッとしたように、慌てて弁明をした。
「い、いや、違う。イヤならいいんだ、その、ちが、ちがくて。忙しいなら、いい、んだけど」
「何も言ってないけど……」
「ちが、そのっ……! お、俺たちは、あんまりお互いを知らない、からっ! 知ったほうがいいんじゃないかって! 思っただけでっ……!」
手をパタパタとせわしなく動かして、九条くんは続ける。早口だ。
僕はその様子をじっと見ていた。
自分より慌ててる人がいると冷静になる。
……僕と九条くんが、デート。
いや、まあ、結婚したなら何も不自然ではない。
言葉にするとちょっと違和感があるけど。
「……いいよ」
「えっ」
「僕も九条くんのこと、もっと知りたいし」
僕はずず、と温かい緑茶を一口飲んだ。
うん、美味しい。パックのやつとは味が違うな。
九条くんはといえば、脳内がショートしたのか、真っ赤になってじっと固まっていた。
からん、と、九条くんの手元からお箸が転がった。
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