【完結】行き遅れΩの俺に結婚を申し込んだのは、幼馴染みの御曹司αでした

mei@ネトコン13受賞

文字の大きさ
4 / 8

第四話 好きになってもらえるように頑張るから、とか、

しおりを挟む
水槽には青がゆらゆらと瞬いていた。
色とりどりのお魚、白い珊瑚礁。小さいサメが優雅に泳いでいる。

僕たちは水族館に来ていた。



ここに来るまではちょっと大変だった。
九条くんの提案は「クルーズ船を手配しようか。ヘリから夜景を見るのも……」だったから即却下した。普通に買い物行くノリでやるから恐ろしい。
「水族館とか……」と、とりあえず無難な答えを出すと、早速貸し切りにしようとするから慌てて止めた。


あたりで楽しそうにはしゃぐ子どもたちを見てほっと胸をなで下ろす。
この笑顔を守ったんだなと、街の隠れたヒーローみたいな気分になっていた。
いや、僕が水族館に行きたいって言わなきゃいいんだけどね。


「陽向、あっちにペンギンがいるらしい」

九条くんは館内図をじっと見つめた後、きらりとした笑顔で微笑みかけた。
不覚にもキュンときてしまう。
九条くんは思ったより楽しそうだ。
御曹司に庶民派デートはどうだろうかと不安になっていたけど。後ろにSPが控えている以外は普通のデートだ。

人混みの中、並んで歩く。
九条くんは目立つ。背も高いし、イケメンだし。
まわりのひとが、ぱぁ~~っと色めき立つのが分かる。
横に立つ僕はいたたまれなくなった。
「あれ絶対友達だよね」みたいな、そんな視線が突き刺さる。

僕はちょっとうつむきがちに、九条くんの半歩後ろに下がったーーーのだけれど、
九条くんは振り返って、僕の手を取った。

「えっ」
「…………はぐれるから」
「あ、うん…………ありがと」

向かい合って、手を握られる。
慣れてないんだろうなっていう手つきだった。
妙に力が入ってるし、指を絡めようともしない。

きっと僕がいたたまれないのに気づいたんだろう。
頑張って”恋人”ーーいや、ホントは”妻”だけど。それっぽく見えるようにしてくれたんだと思う。
だって、見上げる顔は真っ赤で、今にも爆発しそうだった。

僕はくしゃっと笑って、手を握り返した。
九条くんはロボットみたいにぎくしゃくした動きで歩き出した。



ペンギンたちがぱしゃぱしゃと泳いでいる。
餌やりの時間が終わったからか、あたりに人は少ない。最前線でペンギンたちが遊んでいるのを見れた。

「わ~、可愛いね。あ、あの子、もふもふしてる。赤ちゃんかな」
「ああ。皇帝ペンギンの赤ちゃんだな。大きくなったらあれになる」
「へー。全然違うね。あっちは格好いいっていうか……オーラが違うね」

グレーのもふもふした赤ちゃんペンギンと、その隣には白い腹の大きなペンギンがいる。よくテレビで見るザ・ペンギンみたいな。並ぶとサイズ感が全然違う。赤ちゃんペンギンがぺたぺたと歩く。
思わず身を乗り出して「可愛い~!」とはしゃぐと、隣の九条くんはくすっと笑った。

「………ああ、可愛いな」
「そうだよね。九条くんも好き?」
「…………、………好きだ」
「そっか! 僕もね、大好き。実物見るのは初めてなんだ。赤ちゃんペンギンってあんなにころころしてるんだね。…………九条くん?」
「あ、うん、そうだな。可愛い」

九条くんは僕を見ながらそればっかり繰り返す。若干頬が赤く染まっている。
表情より握られている手の方が雄弁だった。
ぎゅう、と力が入ると、楽しいの合図。

「陽向はペンギンが好きなんだな」
「うん! ーーーあ、飼おうとかしなくていいからね。水族館も買わなくていいよ」
「えっ…………だ、ダメなのか」

九条くんは驚愕の表情を浮かべた。ぽかん……と。
やっぱり財閥の考えることは格が違うとは思っていたけど、まさか予想が当たるとは。
僕も大分九条くんに慣れてきたな。
「誰が世話するのさ」「専門家を雇えば……」「僕のためにそんなにしなくていいって!」と、軽い会話を繰り返す。

「見れるだけで楽しいでしょ。また来ようよ」

じっと九条くんを見つめると、九条くんはどぎまぎしながら「わ、わかった」と、頷いた。




館内を歩く。
暗い照明に、ライトアップされた水槽がある。
ピンク、水色、白、淡い光に照らされて、くらげが優雅に泳いでいた。
宇宙空間に放り出されたような、深海を泳いでいるような。幻想的で美しい景色だった。

ふと、隣に立つ九条くんに視線を向けた。
九条くんも見入っているようで、黒い瞳には星のように光が反射している。

ーーーー綺麗

凜々しい横顔、スッと通った鼻すじに、キリッとした瞳。
理想を彫刻にしたような姿に、僕は思わず息を呑んだ。



「……陽向?」
「え、あ、な、なに?」
「ぼーっとしてたから。少し疲れたか?」

九条くんは首を傾げる。
見とれてたなんて気づかれたら恥ずかしい。
「大丈夫」と微笑みかけると、九条くんの握る手が強くなった。

「………陽向は、楽しい、か?」
「え? うん! もちろん。どうして?」
「いや……俺は……」

九条くんは視線を下げる。
自信なさげに、眉根をきゅっと寄せて。

「その……友人と出かけた経験も少ない。陽向を喜ばせられてるか、……わからなくて」
「……そうなんだ」
「で、でも、がんばる、から。もっと、喜ばせられるように……そ、それで」

九条くんがパッと顔を上げる。
キラキラした瞳には必死さが滲んでいた。


「俺を……好きになってもらえるように、がんばる、から」


僕は、不意に、心臓がどくんとした。
視線を逸らす。唇を噛む。
……暗くてよかった。
たぶん、いま、真っ赤だから。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

「出来損ない」オメガと幼馴染の王弟アルファの、発情初夜

鳥羽ミワ
BL
ウィリアムは王族の傍系に当たる貴族の長男で、オメガ。発情期が二十歳を過ぎても来ないことから、家族からは「欠陥品」の烙印を押されている。 そんなウィリアムは、政略結婚の駒として国内の有力貴族へ嫁ぐことが決まっていた。しかしその予定が一転し、幼馴染で王弟であるセドリックとの結婚が決まる。 あれよあれよと結婚式当日になり、戸惑いながらも結婚を誓うウィリアムに、セドリックは優しいキスをして……。 そして迎えた初夜。わけもわからず悲しくなって泣くウィリアムを、セドリックはたくましい力で抱きしめる。 「お前がずっと、好きだ」 甘い言葉に、これまで熱を知らなかったウィリアムの身体が潤み、火照りはじめる。 ※ムーンライトノベルズ、アルファポリス、pixivへ掲載しています

起きたらオメガバースの世界になっていました

さくら優
BL
眞野新はテレビのニュースを見て驚愕する。当たり前のように報道される同性同士の芸能人の結婚。飛び交うα、Ωといった言葉。どうして、なんで急にオメガバースの世界になってしまったのか。 しかもその夜、誘われていた合コンに行くと、そこにいたのは女の子ではなくイケメンαのグループで――。

幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。

叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。 幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。 大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。 幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。 他サイト様にも投稿しております。

胎児の頃から執着されていたらしい

夜鳥すぱり
BL
好きでも嫌いでもない幼馴染みの鉄堅(てっけん)は、葉月(はづき)と結婚してツガイになりたいらしい。しかし、どうしても鉄堅のねばつくような想いを受け入れられない葉月は、しつこく求愛してくる鉄堅から逃げる事にした。オメガバース執着です。 ◆完結済みです。いつもながら読んで下さった皆様に感謝です。 ◆表紙絵を、花々緒さんが描いて下さいました(*^^*)。葉月を常に守りたい一途な鉄堅と、ひたすら逃げたい意地っぱりな葉月。

学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました

こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

処理中です...