【完結】行き遅れΩの俺に結婚を申し込んだのは、幼馴染みの御曹司αでした

mei@ネトコン13受賞

文字の大きさ
5 / 8

第五話 もうとっくに好きだよ

しおりを挟む
順路に沿って館内を歩く。
綺麗な珊瑚礁とか、色とりどりのお魚とか、大きなエイとか。
手を繋いで、並んで、ゆっくり歩いた。

ーーー楽しいっていうか、そわそわするっていうか、どきどきするっていうか。

なぜか展示されてるお魚は目に入らなくて。
珍しくて綺麗なのに、ずっと九条くんばっかり見てしまって。
繋がれてる手の暖かさとか、肩が触れる距離だとか、優しく微笑んでくる瞳だとか。
そればっかりが記憶に残っている。




「ーーーあ、ペンギン」

水族館の終わりに、僕たちはお土産コーナーを見つけた。
イルカやウミガメ、エビのなかに大きなペンギンのぬいぐるみがある。もふもふした皇帝ペンギンの赤ちゃんの。
可愛かったなぁ、と頬を緩ませる。ぺたぺた歩いて、ころころ転がってて。

「………欲しいのか」

九条くんはぼそっと話しかける。

「うん。新しい部屋さ、ものが少ないから。何か欲しかったんだよね」
「……そうか」
「そうそう。それでーーー待って待って。全部買おうとしなくていいから」

九条くんが後ろに控えていたSPを呼び出し、棚のものを一掃しようとしたから急いで止めた。うん、かっこよくて忘れてた。この人が規格外の金持ちだって。

「陽向はいつも止める」
「いや、止めるって! こういうのは一個でいいんだよ!」
「……一個でいいのか」
「うん。だからさーーー」

僕は九条くんと握っていた手に、きゅっと力を込める。

「僕に選んで? プレゼントしてよ」

九条くんは、顔を赤くして、固まった。
そして、困ったように棚を見渡す。
ペンギンのぬいぐるみはたくさんの種類がある。
サイズも違うし、ポーズも違うし、服を着てるのだってあるし。

「……陽向は、何が、好きなんだ」
「ひみつ!」

僕はふふっと笑いかけた。
ちょっと意地悪かも知れないけど、荒治療だ。
九条くんは、なにかひとつ選ぶのが、きっと苦手なんだ。
こんなに頭よくてお金持ちでエリートでも、多分自分に自信がない。
……僕のことに関しては、特に。
でも、そんなのよくないと思うから。お互いに。

九条くんは眉根を寄せてじっと悩む。
うろうろ、うろうろ、ぬいぐるみのまわりを歩く。
背の高い男の人が真剣な表情で可愛いぬいぐるみを見ているのは面白かった。
あれこれと手に取って、じっと見分して、悩む。

そして、ついに一個のぬいぐるみを選んだ。
……僕が最初に見ていたやつだ。
なんだかんだ、九条くんは僕をよく見てる。

「これ、陽向が気になってたやつ。このくらいのサイズの方が抱っこしやすい、と思う。季節限定の衣装もあるけど、陽向は……きっと、さっき見たペンギンの姿が好きだと……思った……んだが」

九条くんはもふもふのペンギンを僕に見せながら、一生懸命プレゼンをする。そわそわしながらぬいぐるみを抱っこする姿は、すごく可愛らしかった。
時折自信がなくなるのか、声が小さくなったりするけど、
僕のことを考えてくれたのはしっかりと伝わった。
僕は、とびきりの笑顔を向ける。

「ありがとう! それ、欲しかったんだ!」

九条くんはほっとしたのか、ぬいぐるみを強く抱きしめて、ふふっとはにかんだ。
僕はそんな九条くんを見て、胸の奥がぽかぽかしていた。

別に、僕は九条くんがくれるなら、なんだってよかった。
だってあんなにたくさん考えてくれたんだから、
それだけでもう、飛び跳ねるくらい嬉しい。




ぬいぐるみを一個だけ買ってもらって、僕も別に小さいぬいぐるみを買った。
「陽向に買わせるのは、」と抵抗する九条くんを置いてさっとレジに並んだ。九条くんがくれたペンギンのぬいぐるみの小さいバージョン。

「これ、九条くんにあげる」

包んでもらったばかりのぬいぐるみを手渡すと、九条くんは口をぽかんと開ける。

「……陽向」
「おそろい! 今日の思い出」
「…………うん」

九条くんは小さい袋をきゅうっと大事そうに抱える。
まるで宝石でも入っているかのように。
ありがとう、と呟いて、九条くんははにかんだ。





水族館を出る。
空は赤に紫がかっていた。
もう時刻は夕刻で、なんだかんだ一日楽しんでいた。
爽やかな風が吹いて、汗ばんだ身体を撫でる。
ぬいぐるみを前でぎゅっと抱いて、僕は隣に立つ九条くんを見上げた。

正真正銘のデートだった。
………なんか、そわそわしちゃう。
水族館にいたときはなんとなく、デートモードっていうか、恋人モードって感じがしたけど。
一歩外を出ると、どんな距離でいるべきか急にわかんなくなる。
手を繋いでたのも、肩を寄せて笑い合ってたのも、なんか急に恥ずかしくなって、
むずかゆくなって、どきどきして、ふわふわしちゃう。

「陽向」

九条くんが話しかける。僕はハッとする。

「……今日は、楽しかった、か?」

九条くんは視線をあちこちに泳がせ、ぬいぐるみが入った紙袋をきゅうっと抱きしめる。

「……うん」
「なら、よかった。……ま、また。来よう。次は、違うところでも、いいし、」

僕は真っ赤になる九条くんの顔を見て、きゅうっと胸が締め付けられた。
『俺を……好きになってもらえるように、がんばる、から』
真剣な声が脳裏に蘇る。

さすがに、ここまでされたら分かる。
九条くんが、僕のことを、とんでもなく好きだってことくらい。

慣れないデートだって、苦手なプレゼントだって、全部がんばって、僕を喜ばせようとしてくれたし。
強く握る手とか。柔らかい瞳とか。うわずる声とか、全部。
僕だって気づいてるし、それにーーーー

「九条くん」

僕は九条くんに真正面から向き直った。
すっと背筋を伸ばす。ぬいぐるみを持つ手に力が入る。
西日が僕たちを赤く照らしている。

「僕、九条くんのこと、好きだよ」

もう、とっくに。
ずっと昔からだし、惚れ直したし、もう、ずっと好きだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

「出来損ない」オメガと幼馴染の王弟アルファの、発情初夜

鳥羽ミワ
BL
ウィリアムは王族の傍系に当たる貴族の長男で、オメガ。発情期が二十歳を過ぎても来ないことから、家族からは「欠陥品」の烙印を押されている。 そんなウィリアムは、政略結婚の駒として国内の有力貴族へ嫁ぐことが決まっていた。しかしその予定が一転し、幼馴染で王弟であるセドリックとの結婚が決まる。 あれよあれよと結婚式当日になり、戸惑いながらも結婚を誓うウィリアムに、セドリックは優しいキスをして……。 そして迎えた初夜。わけもわからず悲しくなって泣くウィリアムを、セドリックはたくましい力で抱きしめる。 「お前がずっと、好きだ」 甘い言葉に、これまで熱を知らなかったウィリアムの身体が潤み、火照りはじめる。 ※ムーンライトノベルズ、アルファポリス、pixivへ掲載しています

起きたらオメガバースの世界になっていました

さくら優
BL
眞野新はテレビのニュースを見て驚愕する。当たり前のように報道される同性同士の芸能人の結婚。飛び交うα、Ωといった言葉。どうして、なんで急にオメガバースの世界になってしまったのか。 しかもその夜、誘われていた合コンに行くと、そこにいたのは女の子ではなくイケメンαのグループで――。

幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。

叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。 幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。 大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。 幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。 他サイト様にも投稿しております。

胎児の頃から執着されていたらしい

夜鳥すぱり
BL
好きでも嫌いでもない幼馴染みの鉄堅(てっけん)は、葉月(はづき)と結婚してツガイになりたいらしい。しかし、どうしても鉄堅のねばつくような想いを受け入れられない葉月は、しつこく求愛してくる鉄堅から逃げる事にした。オメガバース執着です。 ◆完結済みです。いつもながら読んで下さった皆様に感謝です。 ◆表紙絵を、花々緒さんが描いて下さいました(*^^*)。葉月を常に守りたい一途な鉄堅と、ひたすら逃げたい意地っぱりな葉月。

学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました

こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

処理中です...