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ある日、俺の活躍、将来性、そして人柄を見込んだ上司のセオドアが、見合い話を持ってきた。
紹介されたのは、聡明で穏やかな女性
――エレナ・エヴァンス。
エレナと出会った瞬間、初めて俺の人生で“幸せ”という言葉の意味を理解した気がした。
今までは、ただがむしゃらに、一度目の人生のようにならないように努力だけを重ねていた。
それが正しいと思っていたし、それしか知らなかった。
笑顔で、エレナに優しく話しかけられた俺は、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
「ああ、この人となら、幸せな家庭が築ける」
――そう思った。
* **
やがてエレナと順調に交際を進め、両家の両親にも挨拶をし、結婚話は驚くほどスムーズに決まった。 彼女の家族も穏やかで、俺を家族の一員として、すんなり受け入れてくれた。
式の準備が始まり、未来を描く日々は、まるで夢のようだった。
ある日、式の打ち合わせのために、エレナの待つ式場へ独り向かった俺は
―― 馬車の暴走に巻き込まれた。
俺は……
――そのまま、命を落とした。
享年二十五歳。
一度目の人生では、あの辛い環境下で三十五歳まで生きた俺が、 順調な人生を歩んでいた二度目では、十年も早く死んだのだ。
皮肉な話だ…… 今度こそ、うまくやれていると思っていたのに。
……また、白い光が目の前に現れた。 そして、女神エリシアが、再び静かに俺の前に現れた。
「エドガー、おかえりなさい。そして、お疲れ様でしたね」
「今回は、貴方の寿命を全うしたのです」
「人は、幸福ポイントを使い切ると、死ぬことになるのです」
幸福ポイント……?
つまり、俺は“幸せすぎて”死んだのか。
「あなたは失敗を避け、幸福ばかりを積み重ねた」
「貴方の持っていた幸福ポイントが、本来生きられる時よりも早くに枯渇した」
「だから、寿命が尽きたのです」
俺は、言葉を失った。
一度目の人生では不幸に沈み、二度目では幸福に溺れた。
どちらも、極端すぎたのだ。
そして、ふと脳裏に浮かんだのは
―― 結婚相手だった、エレナ・エヴァンスの姿だった。
エレナは、文官として働く俺に、上司から紹介された聡明な女性だった。
初対面の席で交わした言葉は少なかったが、彼女の落ち着いた物腰と、芯のある眼差しに、俺は心を惹かれた。
何度か食事を重ねるうちに、互いの価値観が自然に重なり合っていった。
仕事の話、家族の話、将来の話――どれも心地よく、無理のない会話だった。
やがて、正式に婚約が決まり、結婚式の準備が始まった。 式場を選び、招待状を作り、彼女と並んで未来を描く時間は、何よりも幸せだった。
けれど――その幸せの絶頂で、俺は命を落とした。
馬車の暴走。 そして、白い光に包まれる最後の瞬間。
* **
エレナに何も言えなかった。
「ありがとう」も、「愛してる」も。
式の日を迎えることもなく、俺は彼女を残してこの世を去った。
エレナは、これからも俺のことを思い出してくれているだろうか?
あの笑顔を、誰かの隣でもう一度咲かせてくれるだろうか。
その姿を想像しながら、俺は静かに胸の奥で頷いた。
彼女との時間は、確かに俺の人生を照らしてくれた。
それだけで、十分だった。
「エドガー……もう一度、やり直しますか?」
女神の問いに、驚いた俺は尋ねた。
「やり直せるのか?」
「本来はできません。ですが、貴方は一度目の人生を、人助けによって本来の寿命よりも早く亡くなった」
「二度目は、一度目の善意を考慮して、やり直しをさせました」
「ただ、二度目に早く幸福ポイントを使い切る可能性があったことを、私は考慮していなかった」
「貴方の一度目の人生は辛く、惨めなものだったのだから、やり直しすれば取り戻したいと思ったはずです」
「だから、今回が最後ですが――やり直ししますか?」
俺は小さく息を吐き、そして――頷いた。
「三度目なら、きっと間違えない」
光が弾け、世界が再び動き出す。
こうして、俺の“三度目の人生”が始まった。
紹介されたのは、聡明で穏やかな女性
――エレナ・エヴァンス。
エレナと出会った瞬間、初めて俺の人生で“幸せ”という言葉の意味を理解した気がした。
今までは、ただがむしゃらに、一度目の人生のようにならないように努力だけを重ねていた。
それが正しいと思っていたし、それしか知らなかった。
笑顔で、エレナに優しく話しかけられた俺は、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
「ああ、この人となら、幸せな家庭が築ける」
――そう思った。
* **
やがてエレナと順調に交際を進め、両家の両親にも挨拶をし、結婚話は驚くほどスムーズに決まった。 彼女の家族も穏やかで、俺を家族の一員として、すんなり受け入れてくれた。
式の準備が始まり、未来を描く日々は、まるで夢のようだった。
ある日、式の打ち合わせのために、エレナの待つ式場へ独り向かった俺は
―― 馬車の暴走に巻き込まれた。
俺は……
――そのまま、命を落とした。
享年二十五歳。
一度目の人生では、あの辛い環境下で三十五歳まで生きた俺が、 順調な人生を歩んでいた二度目では、十年も早く死んだのだ。
皮肉な話だ…… 今度こそ、うまくやれていると思っていたのに。
……また、白い光が目の前に現れた。 そして、女神エリシアが、再び静かに俺の前に現れた。
「エドガー、おかえりなさい。そして、お疲れ様でしたね」
「今回は、貴方の寿命を全うしたのです」
「人は、幸福ポイントを使い切ると、死ぬことになるのです」
幸福ポイント……?
つまり、俺は“幸せすぎて”死んだのか。
「あなたは失敗を避け、幸福ばかりを積み重ねた」
「貴方の持っていた幸福ポイントが、本来生きられる時よりも早くに枯渇した」
「だから、寿命が尽きたのです」
俺は、言葉を失った。
一度目の人生では不幸に沈み、二度目では幸福に溺れた。
どちらも、極端すぎたのだ。
そして、ふと脳裏に浮かんだのは
―― 結婚相手だった、エレナ・エヴァンスの姿だった。
エレナは、文官として働く俺に、上司から紹介された聡明な女性だった。
初対面の席で交わした言葉は少なかったが、彼女の落ち着いた物腰と、芯のある眼差しに、俺は心を惹かれた。
何度か食事を重ねるうちに、互いの価値観が自然に重なり合っていった。
仕事の話、家族の話、将来の話――どれも心地よく、無理のない会話だった。
やがて、正式に婚約が決まり、結婚式の準備が始まった。 式場を選び、招待状を作り、彼女と並んで未来を描く時間は、何よりも幸せだった。
けれど――その幸せの絶頂で、俺は命を落とした。
馬車の暴走。 そして、白い光に包まれる最後の瞬間。
* **
エレナに何も言えなかった。
「ありがとう」も、「愛してる」も。
式の日を迎えることもなく、俺は彼女を残してこの世を去った。
エレナは、これからも俺のことを思い出してくれているだろうか?
あの笑顔を、誰かの隣でもう一度咲かせてくれるだろうか。
その姿を想像しながら、俺は静かに胸の奥で頷いた。
彼女との時間は、確かに俺の人生を照らしてくれた。
それだけで、十分だった。
「エドガー……もう一度、やり直しますか?」
女神の問いに、驚いた俺は尋ねた。
「やり直せるのか?」
「本来はできません。ですが、貴方は一度目の人生を、人助けによって本来の寿命よりも早く亡くなった」
「二度目は、一度目の善意を考慮して、やり直しをさせました」
「ただ、二度目に早く幸福ポイントを使い切る可能性があったことを、私は考慮していなかった」
「貴方の一度目の人生は辛く、惨めなものだったのだから、やり直しすれば取り戻したいと思ったはずです」
「だから、今回が最後ですが――やり直ししますか?」
俺は小さく息を吐き、そして――頷いた。
「三度目なら、きっと間違えない」
光が弾け、世界が再び動き出す。
こうして、俺の“三度目の人生”が始まった。
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