【完結】転生三回目、俺はもう幸せだけを追わないことにした「ようやく人生を掴んだ俺の話」

なみゆき

文字の大きさ
5 / 10

5

しおりを挟む
 ある日、俺の活躍、将来性、そして人柄を見込んだ上司のセオドアが、見合い話を持ってきた。 

紹介されたのは、聡明で穏やかな女性
――エレナ・エヴァンス。


エレナと出会った瞬間、初めて俺の人生で“幸せ”という言葉の意味を理解した気がした。 

今までは、ただがむしゃらに、一度目の人生のようにならないように努力だけを重ねていた。 
それが正しいと思っていたし、それしか知らなかった。


笑顔で、エレナに優しく話しかけられた俺は、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。

「ああ、この人となら、幸せな家庭が築ける」 
――そう思った。


* **

やがてエレナと順調に交際を進め、両家の両親にも挨拶をし、結婚話は驚くほどスムーズに決まった。 彼女の家族も穏やかで、俺を家族の一員として、すんなり受け入れてくれた。 
式の準備が始まり、未来を描く日々は、まるで夢のようだった。


ある日、式の打ち合わせのために、エレナの待つ式場へ独り向かった俺は
―― 馬車の暴走に巻き込まれた。



俺は……
――そのまま、命を落とした。


享年二十五歳。 
一度目の人生では、あの辛い環境下で三十五歳まで生きた俺が、 順調な人生を歩んでいた二度目では、十年も早く死んだのだ。


皮肉な話だ…… 今度こそ、うまくやれていると思っていたのに。


……また、白い光が目の前に現れた。 そして、女神エリシアが、再び静かに俺の前に現れた。


「エドガー、おかえりなさい。そして、お疲れ様でしたね」 
「今回は、貴方の寿命を全うしたのです」 
「人は、幸福ポイントを使い切ると、死ぬことになるのです」


幸福ポイント……? 
つまり、俺は“幸せすぎて”死んだのか。


「あなたは失敗を避け、幸福ばかりを積み重ねた」 
「貴方の持っていた幸福ポイントが、本来生きられる時よりも早くに枯渇した」 
「だから、寿命が尽きたのです」


俺は、言葉を失った。 
一度目の人生では不幸に沈み、二度目では幸福に溺れた。 

どちらも、極端すぎたのだ。


そして、ふと脳裏に浮かんだのは
―― 結婚相手だった、エレナ・エヴァンスの姿だった。


エレナは、文官として働く俺に、上司から紹介された聡明な女性だった。 
初対面の席で交わした言葉は少なかったが、彼女の落ち着いた物腰と、芯のある眼差しに、俺は心を惹かれた。


何度か食事を重ねるうちに、互いの価値観が自然に重なり合っていった。 
仕事の話、家族の話、将来の話――どれも心地よく、無理のない会話だった。


やがて、正式に婚約が決まり、結婚式の準備が始まった。 式場を選び、招待状を作り、彼女と並んで未来を描く時間は、何よりも幸せだった。


けれど――その幸せの絶頂で、俺は命を落とした。 
馬車の暴走。 そして、白い光に包まれる最後の瞬間。



 * **

エレナに何も言えなかった。 

「ありがとう」も、「愛してる」も。
 式の日を迎えることもなく、俺は彼女を残してこの世を去った。


エレナは、これからも俺のことを思い出してくれているだろうか? 
あの笑顔を、誰かの隣でもう一度咲かせてくれるだろうか。

その姿を想像しながら、俺は静かに胸の奥で頷いた。 
彼女との時間は、確かに俺の人生を照らしてくれた。 

それだけで、十分だった。


「エドガー……もう一度、やり直しますか?」


女神の問いに、驚いた俺は尋ねた。

「やり直せるのか?」


「本来はできません。ですが、貴方は一度目の人生を、人助けによって本来の寿命よりも早く亡くなった」 

「二度目は、一度目の善意を考慮して、やり直しをさせました」 


「ただ、二度目に早く幸福ポイントを使い切る可能性があったことを、私は考慮していなかった」 
「貴方の一度目の人生は辛く、惨めなものだったのだから、やり直しすれば取り戻したいと思ったはずです」 


「だから、今回が最後ですが――やり直ししますか?」




俺は小さく息を吐き、そして――頷いた。


「三度目なら、きっと間違えない」

光が弾け、世界が再び動き出す。 

こうして、俺の“三度目の人生”が始まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

忘れるにも程がある

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたしが目覚めると何も覚えていなかった。 本格的な記憶喪失で、言葉が喋れる以外はすべてわからない。 ちょっとだけ菓子パンやスマホのことがよぎるくらい。 そんなわたしの以前の姿は、完璧な公爵令嬢で第二王子の婚約者だという。 えっ? 噓でしょ? とても信じられない……。 でもどうやら第二王子はとっても嫌なやつなのです。 小説家になろう様、カクヨム様にも重複投稿しています。 筆者は体調不良のため、返事をするのが難しくコメント欄などを閉じさせていただいております。 どうぞよろしくお願いいたします。

望まない相手と一緒にいたくありませんので

毬禾
恋愛
どのような理由を付けられようとも私の心は変わらない。 一緒にいようが私の気持ちを変えることはできない。 私が一緒にいたいのはあなたではないのだから。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

処刑から始まる私の新しい人生~乙女ゲームのアフターストーリー~

キョウキョウ
恋愛
 前世の記憶を保持したまま新たな世界に生まれ変わった私は、とあるゲームのシナリオについて思い出していた。  そのゲームの内容と、今の自分が置かれている状況が驚くほどに一致している。そして私は思った。そのままゲームのシナリオと同じような人生を送れば、16年ほどで生涯を終えることになるかもしれない。  そう思った私は、シナリオ通りに進む人生を回避することを目的に必死で生きた。けれど、運命からは逃れられずに身に覚えのない罪を被せられて拘束されてしまう。下された判決は、死刑。  最後の手段として用意していた方法を使って、処刑される日に死を偽装した。それから、私は生まれ育った国に別れを告げて逃げた。新しい人生を送るために。 ※カクヨムにも投稿しています。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

婚約破棄を申し込まれたので、ちょっと仕返ししてみることにしました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約破棄を申し込まれた令嬢・サトレア。  しかし、その理由とその時の婚約者の物言いに腹が立ったので、ちょっと仕返ししてみることにした。

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

処理中です...