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1章 『国崩し』
無限剛腕(ヘカトンケイル) ジン
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目が覚めると、いつもの無機質な天井ではなく、木製の天井が目に映る。こんな天井だっけ……。そういえば手錠も鎖も付いてない。いつもの風景と違うことを徐々に実感していく。自分は何処かの部屋でベッドに横になってる。久々に柔らかい寝心地を身体に感じる。
ーーそういえば、昨日、誰か、いたような。
身体をなんとか起こす。周りを見渡すと女性が椅子に座り、ベッドの傍(かたわ)らにいた。
「あ、ジン君。起きましたか」
その女性はにっこり笑った。
「……誰、ですか?」
初めて見る人だった。黒髪の女性からは、『いつもの人達』のような敵意は感じられなかった。綺麗な人だ。素直にそう思った。柔らかい雰囲気でそばにいてくれると居心地がいい。
「初めまして、私、サナっていいます」
「サナ……さん」
「はい」
ーーあれ?
突然、涙腺が緩み、涙が溢れてくる。なんで、なんでこんなに胸が苦しいんだ。あの場所にいないからかな?温かいベッドで眠ることが出来たからかな?
違う。サナさんが目の前にいることが嬉しいんだ。わからない。初めて会った人なのに、どうしてこんな気持ちになるんだろう。どうして会えて嬉しいだろう。
サナさんは僕の首元を撫でる。何かが光ったと思ったら、首元が温かくなる。長年僕の首元に刻まれていた黒いタトゥーが浮かび上がり、サナさんの掌によって握り潰される。
「もう、大丈夫ですよ。ジン君」
サナさんが、僕の頭にポンッと手をのせて優しく撫でてくれる。それをきっかけに、ダムが決壊したように感情が溢れ出す。
「あ……あっ、うぅ、あぁぁぁ……あぁぁぁぁぁぁ!」
声にならない声が溢れてくる。僕はこんな声が出せたのか。叫ぶ度に頭をがくらくらしたけど、止まらなかった。
サナさんが近くに寄って、僕を抱き締めてくれる。サナさんのにおいがする。頭をポンッポンッと撫で、落ち着かせてくれる。
「がんばりましたね、えらかったね」
久しぶりに気を許せた。毎日殺されると思って役割を果たしてきた。生きる活力も、支えてくれる何かも、助けてくれる誰かも、僕には何も許されなかった。
ーー太陽みたいだ。
サナさんの背中に両手をまわし、僕の指でサナさんのシャツの端を掴む。その温かい存在を何度も確かめたかった。
チョキ……チョキ……
耳元でサナさんが僕の髪を切る音がする。長年手入れをしてこなかった僕の髪は腰の辺りまで伸びていた。椅子に座った僕の足元に僕の黒色の『これまで』が落ちていく。
ーーなんか、新しくなっていくなぁ。
前髪が切り落とされて、視界が開ける。まぶしい。世界ってこんなに明るかったんだなぁ。『あの部屋』にいた頃は外に全然出してもらえなかったから、太陽が登ってるのを久々に見た気がする。
「はい、おしまい」
サナさんがハサミを置く。
「ありがとうございます。なんだか頭軽くなりました」
「うん。カッコよくなりましたよ」
「あ、……ありがとうございます」
サナさんと目が合い、なんだか恥ずかしくなる。
「歩けますか?」
「はい……なんとか」
「まずはご飯食べて、その後お風呂入りましょ」
支えてもらいながら、なんとか立ち上がる。どうやら昨夜、僕はサナさんに『あの部屋』から助け出されたようだ。一生出れないと思っていたから、感謝してもしきれない。
ところで、ここはヨークという温泉街の宿屋らしい。サナさん達は僕を救出した後しばらくの間、ここを拠点にしていたみたいだ。『サナさん達』というのも、他にも助けてくれた方々が宿泊されているみたいなんだけど……。
ーーなんだか、知らないことだらけだ。
寝ていた2階の部屋から宿屋の食堂に続く道をサナさんと一緒に歩く。少し歩いただけなのに、すごい息が上がる。肺が痛い。節々が痛い。吹き抜けから見えている所にあるのに、とても遠くに感じる。なかなかうまく前に進むことが出来ない。あれだけ長い間閉じ込めらていたから当然かもしれない。
「ゆっくり、で、大丈夫ですよ」
サナさんが支えてくれながら階段をなんとか降りる。
「はい。ありがとうございます」
階段を降りきると、なんとか食堂の扉の前に辿りつけた。扉をサナさんと一緒に開けた。
ーーそういえば、昨日、誰か、いたような。
身体をなんとか起こす。周りを見渡すと女性が椅子に座り、ベッドの傍(かたわ)らにいた。
「あ、ジン君。起きましたか」
その女性はにっこり笑った。
「……誰、ですか?」
初めて見る人だった。黒髪の女性からは、『いつもの人達』のような敵意は感じられなかった。綺麗な人だ。素直にそう思った。柔らかい雰囲気でそばにいてくれると居心地がいい。
「初めまして、私、サナっていいます」
「サナ……さん」
「はい」
ーーあれ?
突然、涙腺が緩み、涙が溢れてくる。なんで、なんでこんなに胸が苦しいんだ。あの場所にいないからかな?温かいベッドで眠ることが出来たからかな?
違う。サナさんが目の前にいることが嬉しいんだ。わからない。初めて会った人なのに、どうしてこんな気持ちになるんだろう。どうして会えて嬉しいだろう。
サナさんは僕の首元を撫でる。何かが光ったと思ったら、首元が温かくなる。長年僕の首元に刻まれていた黒いタトゥーが浮かび上がり、サナさんの掌によって握り潰される。
「もう、大丈夫ですよ。ジン君」
サナさんが、僕の頭にポンッと手をのせて優しく撫でてくれる。それをきっかけに、ダムが決壊したように感情が溢れ出す。
「あ……あっ、うぅ、あぁぁぁ……あぁぁぁぁぁぁ!」
声にならない声が溢れてくる。僕はこんな声が出せたのか。叫ぶ度に頭をがくらくらしたけど、止まらなかった。
サナさんが近くに寄って、僕を抱き締めてくれる。サナさんのにおいがする。頭をポンッポンッと撫で、落ち着かせてくれる。
「がんばりましたね、えらかったね」
久しぶりに気を許せた。毎日殺されると思って役割を果たしてきた。生きる活力も、支えてくれる何かも、助けてくれる誰かも、僕には何も許されなかった。
ーー太陽みたいだ。
サナさんの背中に両手をまわし、僕の指でサナさんのシャツの端を掴む。その温かい存在を何度も確かめたかった。
チョキ……チョキ……
耳元でサナさんが僕の髪を切る音がする。長年手入れをしてこなかった僕の髪は腰の辺りまで伸びていた。椅子に座った僕の足元に僕の黒色の『これまで』が落ちていく。
ーーなんか、新しくなっていくなぁ。
前髪が切り落とされて、視界が開ける。まぶしい。世界ってこんなに明るかったんだなぁ。『あの部屋』にいた頃は外に全然出してもらえなかったから、太陽が登ってるのを久々に見た気がする。
「はい、おしまい」
サナさんがハサミを置く。
「ありがとうございます。なんだか頭軽くなりました」
「うん。カッコよくなりましたよ」
「あ、……ありがとうございます」
サナさんと目が合い、なんだか恥ずかしくなる。
「歩けますか?」
「はい……なんとか」
「まずはご飯食べて、その後お風呂入りましょ」
支えてもらいながら、なんとか立ち上がる。どうやら昨夜、僕はサナさんに『あの部屋』から助け出されたようだ。一生出れないと思っていたから、感謝してもしきれない。
ところで、ここはヨークという温泉街の宿屋らしい。サナさん達は僕を救出した後しばらくの間、ここを拠点にしていたみたいだ。『サナさん達』というのも、他にも助けてくれた方々が宿泊されているみたいなんだけど……。
ーーなんだか、知らないことだらけだ。
寝ていた2階の部屋から宿屋の食堂に続く道をサナさんと一緒に歩く。少し歩いただけなのに、すごい息が上がる。肺が痛い。節々が痛い。吹き抜けから見えている所にあるのに、とても遠くに感じる。なかなかうまく前に進むことが出来ない。あれだけ長い間閉じ込めらていたから当然かもしれない。
「ゆっくり、で、大丈夫ですよ」
サナさんが支えてくれながら階段をなんとか降りる。
「はい。ありがとうございます」
階段を降りきると、なんとか食堂の扉の前に辿りつけた。扉をサナさんと一緒に開けた。
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