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ダーヴィッツ

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3章『革命』

お互いに毒であり薬なんだよ

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母さん
いや
助けたかったのに……
傘持っていきなよ
お前、何者だ……?
あれ、いつだっけ
お姉ちゃん
誰……?
辛くないのですか
帰りたい!
ここで何をしている
反逆者め!
ひっ……死にたくない!
まったく、お前ら……
どっから来たの?
ふざけんな
前見ろよ、前
いくつだよ、アンタ
奴隷の分際で!
明日は良い日だよ、きっと
それ、何?
……裏切るのか
痛い、痛い
殺さないでっ!
嫌だぁぁぁぁぁ!
死にたくない!
死にたくない!
消える!存在が……!
否定するのか……
忘れられるの……?
お前のせいだ!
お前さえ、いなければっ!
サナさんなら、いいよ





「……っ!」

涙を流しながら目を覚ました。『存在否定(カオス)』を手に入れてから毎日見る夢。存在を否定してきた人達との会話、彼等の悲鳴、断末魔。最後には決まってシャインが現れて終わる。無力さ、罪の重さ、責任、理不尽、不条理。その夢は私にそれらを思い出させて全てを背負わせる。怖い。ただひたすらに怖い。私はこの世界から否定した彼等の命、彼等が歩むはずだった未来を生きている。私だけが知っている彼等の存在。それを背負って生きていかなければならない。目を覚ました筈なのに、まだ何処か現実味がない。

「大丈夫。怖い夢見た?」

頭をジン君に撫でられる。彼の感触でようやく現実に戻ってこれた。そうだ。今の私は……。私は隣で一緒に泣き止むまで寝てくれたジン君の胸に顔をうずめて、彼のにおいで世界を確認する。そのまま彼の腰に両手をまわしてぎゅーっと額をぐりぐりと彼に擦り付ける。

「猫みたい」
「……にゃあ」

気恥しさを紛らわす。
最近、かっこ悪いところばっかりだなぁ。

しばらくの間、私はジン君と一緒に過ごした。ようやく気を許せた気がする。あれからずっと緊張感が張り詰めた毎日だったから、ジン君のそばにいれる今は安心感がありだいぶ楽になった。気付けば窓の外はすっかり暗くなっていた。雨は相変わらず降り続いている。そういえば今何時なのかな。

「今?6時だよ」
「6時?朝の?」
「18時の夜だよ。サナさん」
「んん、なんだか、時間感覚が変です……」
「そりゃ、3日も目覚めなかったからね」
「……おなかすいた」
「ぷっ……。なんか食べますか?」
「……やです。まだジン君から離れたくないです」
「それはとても嬉しいですけど、ちゃんと食べなきゃ。ほら。サーナーさーん」

ジン君がやれやれ、とベッドから私を置き去りにしようとした時、形容し難い不安感と孤独感が私を襲う。このまま見送ってしまえばもう戻って来ないような。そのまま行ってしまうような。そんな予感がする。嫌だ。嫌だ。嫌だ。行かないで。離さないで。もう、独りにしないで。お願いだからどこにも行かないで。

「……サナさん?」
「……っ」

ベッドに腰掛けたジン君の腰を後ろから両手で抱き締める。1度は諦めた。それでも辿り着いたこの場所。あれだけ探していたジン君がここにいてくれる。彼と想いも通じ合って、幸せなハズなのに。それでも、彼と離れることに恐怖を覚える。また失うかもしれない。でも近くにいれば『存在否定(カオス)』で彼の存在を否定してしまうかもしれない。アンビバレントだ。

彼を掴んで放さない私の両手は情けなくガタガタ震えていた。大切な人なのに、それを最も脅かすかもしれないのは、私なんだ。エゴだと解っている。どれだけ相応しくなくても、それでも、この子が欲しい。

「サナさん」

ジン君は震える私の手に自分の手を重ねる。

「俺はもう、サナさんのものだよ」

その言葉で私の震えは止まった。ジン君が私の手を優しくほどいて、こちらに向き直る。私もジン君と向き合うように座り直す。

「言ったでしょ。もう離さないよ」

ジン君は苦笑いをする。私は彼に依存している。いい意味でも悪い意味でも。それでも、それを優しく受け止めてくれるジン君。

あぁ、もう、どうしようないな。

その日は結局、2人でベッドから抜け出すことは無かった。何もせずに、ただ手を繋いだまま1日をゆっくり費やした。そして気付いたらまた朝を迎えていた。

それから私は様々な人と再会した。お父さんはやっぱり泣いてしまった。病室に血相変えて駆け込んで来た時にはびっくりしちゃった。でも、お父さんに強く抱き締められたら、私も釣られて泣いてしまった。お母さんもいつの間にか病室に現れ、お父さん同様泣いてくれて、久々の親子の再会を喜んだ。その後、ゼロやシュウ、ベアトリス、ルシュさんなどが見舞いに来てくれた。ロバート君も泣いてくれたっけな。彼を見るとシャインを同時に思い出して、また少しだけ泣いた。

私はこれまであったことを話した。国崩しの後にテラと対峙して『核(フレア)』と遭遇して適応したこと、『存在否定(カオス)』の能力、死の偽装したことを、オストリアでの一件、イヴの墓での事。

そして、これまでの成り行きを聞いた。イヴの墓に私がいた事はアレックスさんから聴いていたらしく、私のバイクを近くで見つけた後にイヴの墓に入ったみたい。ジン君が私の危機を察すると魔法の指輪のおかげで中にワープ出来たらしい。その代わりにあの指輪はヒビが入ってしまった。おそらく、対になる私の指輪もワープを使えばもう使えなくなってしまうのだろう。ゼロはその後『英雄矜恃』が突然発現したようで、秘匿領域の入場条件をクリアし、ほぼ同時に侵入が間に合ったそうだ。

『最強』レイと英雄アークと対峙すると、2人は初手で撤退を選んだ。ジン君とゼロは領域が発動出来る程強くなっていた。ゼロに関しては『英雄矜恃』が発現する程に。歴史に名を遺す圧倒的な存在。ジン君は今回のオストリアの一件を鎮めたと言っても過言ではない。ゼロとジン君はまさに『十一枚片翼(イレヴンバック)』のトップ2。それでも、その2人ですら秘匿領域からの撤退は容易ではなく、ゼロの絶対領域(サンクチュアリ)が無ければ簡単には逃れられなかっただろう。『闇属性特攻』を付随する領域で『最強』レイの脚止めを可能にしたのだ。レイは相変わらず『超越(トランス)』すら発動しなかった。ゼロはイヴの墓による『英雄矜恃』への強化バフの恩恵を受けた事もあり、無事にイヴの墓から脱出を謀る。

脱出した後は私を飛空艇に運び、急発進でダイダロス新大国に戻ってきた。『最強』のレイなら、追って来ようと思えば出来たかもしれない。ここまで来ると敢えて追って来なかったのか……?それに『核(フレア)』もまだ使っていない。ここまで来ると英雄アークもまだ本気を出していないかもしれない。意図が読めないし、戦力差がうかがえない。戦果は生き残っただけだ。

とにかく、そこからはシュウによる集中治療が始まった。手術は1日かかり、私はさらに3日起きなかったらしい。その間もずっとジン君は側にいてくれた。シュウによると傷が少し遺るかもしれないとだけ言われた。そして、精神が擦り減り過ぎているとも言われた。常人であれば発狂するであろう精神的ストレスによる負担。それが心を殺す後遺症になりつつあり、それをぬぐい去るために結果としてジン君に依存しているのだと指摘する。

「まぁ、2人ともお互いが精神的な支柱で似たような存在なんだよね。お互いに毒であり薬なんだよ。依存と理解。今までの2人の心にぽっかり欠けていた部分はお互いの存在なんだから。それを埋める必要がある。離れないのは正解。でも、近付き過ぎるのも良くないよ」

最後のはよく分からないけど、命があるだけ感謝しないと。私にはまだ『最強』の資格があった。レイに完全敗北したにも関わらずだ。思うにそれだけ『存在否定(カオス)』は『核(フレア)』の中でも別格なのかもしれない。色々差し引いてもレイと釣り合う程に。

オストリアは解体され、サウザンドオークスと統合された。歴史上初めてヴィンセントを2種類操り大国を治めたベテルイーゼ大王。オストリアの陥落するまでの過程はダイダロス新大国とサウザンドオークスの同盟と同時に世界に報道された。領土的にはオストリアがサウザンドオークスに加わるような形になる。元々、陸続きだったためそこまで変わらない気もするが、今回の一件でダイダロス新大国に次ぐ『第1世界(ファースト)』で大国に成ったのは確かだ。ベテルイーゼ大王は外部戦力を雇用することで、サウザンドオークスの人造機械(ゴーレム)に依存する性質と、ベテルイーゼ大王一辺倒だった体勢を大きく見直した。内部の軍を強化する『樫の木(オークス)』がその特効薬だ。

オストリアは十二支教を信仰する宗教国家。グラハム司祭がコキュートスと結託し、ヴァムラウート皇帝をオストリアから孤立させ、サウザンドオークスも襲撃によって滅亡させるつもりだった。それを防いだのがジン君だった。

信仰するものを亡くした信徒達は行き場を失った。ある者は吸収されたサウザンドオークスで新たな生活を営み始め、ある者は他国に亡命した。コキュートス、大和、ドン・クライン。ダイダロス新大国も例外ではない。多くの難民がダイダロス新大国に流れて来ているらしい。貧困地域(スラム)や市街地(ダウンタウン)問わずだ。旧国ガルサルム大国でも十二支教が一部の地域で信仰されていたことも大きいかもしれない。

だが、その難民の受け入れやダイダロス新大国の雇用問題、広い領土を管轄する領主の管理体勢による不満などによって、燻っていた反乱軍(レジスタンス)の活動が本格的になっている。旧国ガルサルム大国のあり方やガルサルム騎士団を重要視していた人々が団結して反乱軍(レジスタンス)を組織して反旗を翻そうとしている。お父さんが国王になったとしても、ダイダロス新大国は絶対王政では無いし、十一枚片翼(イレヴンバック)だけで広い国土を管轄するにはあまりに広かった。コキュートスへの対策など様々な問題がまだまだ山積みだが、ここに来てダイダロス新大国に最大級の問題を私が持って来てしまった。

『核(フレア)』だ。






「『存在否定(カオス)』か……」

お父さんがこれまでの経緯を聞いて一言漏らす。病室にはお父さんもといフェイムス王、お母さんもといアドラ王妃、ゼロ、ベアトリス、ジン君、シュウ、ルシュさん、アッシュさん、ロバート君が集まっていた。私のベッドを中心に各々は椅子に座ったり、壁にもたれかかったりしていた。私はベッドに足を伸ばしたまま身体を起こしたまま皆と向かい合う。

「『核(フレア)』を求めて国崩しを決行したが手に入らず、戴冠式の際にも他国には抑止力として『核(フレア)』を所持していると虚勢を張った。それがなんの因果か、俺の娘が適応して帰ってくるとはな。複雑だぜ……」
「あはは……」
「『帰着昇華(ホーム)』『体現完成(パーフェクトワールド)』『神託機械(オラクルマシン)』『楽園配置(エデン)』……そしてサナの『存在否定(カオス)』か。……1番エグいの引いたな」

お父さんは懐から煙草を取り出して火を灯す。シュウが「ここ禁煙ですよ」と注意され「固いこと言うなよ」と申し訳無さそうにシガレットケースの裏に擦り付け消化した。そう言えば、お父さん髪を黒に染めたんだ。以前の金髪も似合ってたけど、これはこれでアリかも。真面目っぽいし、何より清潔感がある。よく観ると他の人も以前会った時と印象が変わっていた。

ベアトリスは長かった金髪の髪をバッサリ切って白に染めて、インナーカラーにピンクを交ぜていて、とても素敵だった。話すのは初めてでお互い何処か構えていたけど、見かねたシュウがゼロやジン君の恋愛話をするもんだから、私達は堰を切ったように想いをどばーっとお互いに話してしまった。ベアトリスはゼロが自分を置いて突っ走ってしまうだとか、私はジン君とようやく会えて嬉しいけどまた傷付けないかが不安だとか。気付いた時には2人して泣きながらシュウに慰められていて、シュウはやれやれと私達の頭を撫でてくれた。

横から女子トークに割り込んで来たロバート君も髪をワンブロックに刈り上げていた。相変わらず女の子を追いかけてるんだろうなぁ。割り込んだ瞬間シュウに蹴り飛ばされていたのも相変わらずだった。お母さんは最近会ったから変わっていないけど、お父さんが王様になってから王妃になって、これまでの三賢人や外交部門を管轄していた時よりだいぶ忙しいようだった。ロバート君を中心に諜報部隊を育成中とのこと。大変だなぁ。

ゼロは十一枚片翼(イレヴンバック)の総隊長としてその役割を全うしていた。国崩しまでは『超越(トランス)』までしか使えなかったのに、今では『凌駕(オーバードライブ)』『絶対領域(サンクチュアリ)』『前人未踏領域(サクリファイス)』まで発動が出来るまでに至った。

この1年で何があったのから聞くと、「俺に付きまとう戦闘狂の王様がいるんだよ……」と返された。それってベテルイーゼ大王?ギルガメッシュ王?どっち?と聞くと「両方」と答えた。心做しか遠くを見るゼロが少し可哀想だった。でも、納得した。この1年で圧倒的に水準が高い環境で戦い続けたことによって尋常じゃない経験値を積んでいたんだ。『Beatrix』を携えた彼は、『全属性適合者(オールラウンダー)』の固有技術も相まって、今では闇属性・無属性以外全ての属性を発現し使役出来るようになっていた。もうすぐ、追いつかれちゃうかも。

強くなっているのはジン君もだった。『無限剛腕(ヘカトンケイル)』という固有技術に加え、『人工物(アーティファクト)』大和刀によって彼も領域を展開出来るレベルまで到達していた。星の守護者『猿』バルトロ、『蛇』ダイダロスを『無限豪腕(ヘカトンケイル)』に宿し、『鳥』ケッツァクアトル、『馬』クリムゾン・ピークにも接触している。国崩し、サウザンドオークスの危機、オストリアの崩壊に立ち会った彼もまた大きく成長していた。大きな変化がもう1つ。ジン君はかつて私とドン・クラインの『断罪者(ジャッジメント)』だった。その頃の記憶が最近蘇り始めている。一人称が『僕』から『俺』へと変わり、かつての戦闘の記憶が鮮明になり、『凌駕(オーバードライブ)』『絶対領域(サンクチュアリ)』まで発動出来るようになった。きっと彼の『天衣無縫(スーパーアーマー)』も『無限剛腕(ヘカトンケイル)』の中にあるのだろう。

彼は私に過去のことも、未来のことも聞いてこなかった。「俺にとっては今が1番大切にしたいので」、と。私に気を使っているのかもしれない。私も実際、今は話したくなかった。彼が聞いてこなかったので彼の優しさに甘えている。ずるいよね、私。ルシュさんが私に尋ねる。

「『核(フレア)』は制御出来るのか?」
「……多分。当初は制御出来ませんでした。それどころかいきなり暴走したりして……。でも、ダイダロス新大国に来てからは不思議と安定しているというか。どうしてでしょう?」
「……それって、ジン君じゃない?」

シュウが割り込む。すると、皆の視線がジン君に集中した。いきなりのことに彼は眼をぱちくりさせた。

「私見だから、科学的な根拠にならないかもしれないけど、医者からすると、確かに2人とも以前より安定しているわ。むしろ、これまでより研ぎ澄まされている。精神的に安定しているからかしら。まるで『全能状態(ゾーン)』ね」
「……それは、つまり」
「『核(フレア)』の性質が解明されていない以上、アンタ達は一緒にいるべきね」
「あー……」

私はジン君と視線が交錯する。ふと、これまでの2人の時間を思い出してしまい、なんだか気恥しさを覚える。ジン君と私は嬉しさと恥ずかしさでうつむいて赤面してしまう。

((いや、今更かよ。お前らもう付き合ってんだろうが……))

なんだか、周りの心の声が聞こえてきた気がする。
でも、良かった。私達は一緒にいるべきなんだ。

「……あー、じゃあ、サナは3番隊の隊長、ジンは総副隊長から3番隊副隊長に任命する。任務は主にコキュートスに対しての対外政策だ」

お父さんが煙草を吸うことを諦めて懐にシガレットケースを戻す。私とジン君は頷いた。

「話の続きだ。『核(フレア)』について公表する。明らかにコキュートスが本格的に他国を潰そうとしている。未遂に終わったがオストリアを利用してサウザンドオークスを潰そうとした。ダイダロス新大国も自衛する必要がある。そのためにダイダロス新大国の『核(フレア)』所持表明は対外政策における抑止力になる」

5つの『核(フレア)』、『帰着昇華(ホーム)』『体現完成(パーフェクトワールド)』『神託機械(オラクルマシン)』『楽園配置(エデン)』『存在否定(カオス)』。現段階の所持者はイグザ帝国ギルガメッシュ王、コキュートスの英雄アークとレイ、……そして私。

他の2カ国がどの『核(フレア)』を持っているかは不明。残り2つの『核(フレア)』の所在も不明。コキュートス側にはダイダロス新大国が『核(フレア)』を持っていることは先日のイヴの墓の一件で明らかになった。オストリアが陥落した今、ドン・クラインや大和を牽制することは出来るかもしれない。いや、そもそもその2カ国は閉鎖的で積極的な戦闘はしないと思うが、油断は出来ない。特に母国のドン・クラインは。

「ついでに、サナ。お前も王女になれ」
「え、嫌です」
「……おい」

私はきっぱり断る。お父さんがダイダロス新大国の王様だから当然かもしれない。だけど、仰々しいのは嫌いだし、何よりジン君と離れ離れになる可能性があるのなら、それはしたくない。まぁ、ジン君が王子様になるなら……いや、駄目か。

「お前なぁ……。世間的にサナは死んだ事になってる。加えて、ダイダロス新大国内にも未だに俺達が『核(フレア)』を持っていることに懐疑的な者もいる。それはここに呼んでいない旧国ガルサルム大国騎士団の奴らも同様だ。実は私は生きてました、しかも『核(フレア)』を持って帰ってきましたって信じられると思うか?」
「各地を統治している領主達も隙あらば反乱を目論んでいる者もいる。現に一部で反乱軍(レジスタンス)が国内で暴徒化している。サウザンドオークスとの同盟、オストリアからの難民問題が起因しているかもしれない。国内も『十一枚片翼(イレヴンバック)』もまだ一枚岩では無いということだ」

お父さんの後にアッシュさんが続く。

「王女になれば社会的な地位を得る。旧国ガルサルム大国騎士団のサナへの不信感も薄れるだろう。併せて『核(フレア)』の公表を行えば一石二鳥なんだが……」
「フェイムス。娘を政治に利用するな」
「……うっ。俺はただサナを護りたいだけで、そんなつもりはないんだが、結果的にそうなってるか……。……すまん」

お父さんがお母さんに指摘されて怯んでしまった。相変わらずお母さんには敵わないんだなぁ、お父さんは。

でも、そうだよね。『核(フレア)』を制御出来る人間は国にとっては貴重な人材だ。お父さんとしても、出来れば陰では無く、陽の当たる道を私に歩いて欲しいんだ。それに、私の存在を利用しようと考えている人も中にはいるのだろう。私が王女になれば安易に手は出せなくなる。お父さんが心配しているのはそこなのかな。でも。

「ごめんなさい。私はこの国の王女にはなりません。でも、私がやらないといけないことが2つ出来ました」
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