上 下
60 / 105
マジックアワー

9. 薄明

しおりを挟む



ー …  in the case of  ナッツ  …


 
名前の無い病気を、医師から聞いた時、

私は 大声で笑いそうになった。


「 今の日本の医学では、

到底 無理です。治せません。」


日本では、この病気になった人は
私が、第1号 だったから。

何年も掛けて、
パパは 朝から翌朝まで働き続け、
そして、貯まったお金で

まるで、全国を旅するみたいに、
私を連れて、
" めずらしい脳の病気 " に強い病院を、
渡り歩いた。


" 最後のとりで " と 思っていた、

最先端の病院へ行った時、

ベテラン と呼ばれている医師が、
私に言ってきた。

その ためらいもなく言い放った言葉に、
パパは ひどく落胆し、

私は、そんなパパを見て…

落胆している暇など なくなった。


「 ですよね~、うん、解ってた 」


見透かした目を医師に向けて、

今までの、この… 何年間、
パパが 自分の身を削ってきた苦労を、
馬鹿にされたような気持ちにすらなり、
激しい いきどおりを感じた。


「 帰るよ、パパ 」 

私は、診察中の丸椅子から立ち上がる。

「 ナツ! まだ、先生の話は終わって」

「 終わったよ、何もかも。何もない。

だから、今ここからまた 始めてやる 」


止まらない涙で濡れた パパの頬を、
私は そっと 手の甲で拭ってあげた。


「 帰るよ、パパ 」



私達は、おかしな2人 だ。変な親子だ。


私は、加速していく脳の発達に、
老化すら加速していき、

人より短い寿命を宣告された。




私のパパは、生まれた時から、


男性でも 女性でも、何者でもない。


解ってる。知ってたんだ、ちゃんと 私。

パパには、知らないふりをして、
隠してる事に 付き合ってあげてるけど。


でもね、それでもいいの。


私は、そんなパパが 大好きだから。

ママが、パパを 愛していたように。



私が、ママの代わりに パパを守るんだ。







しおりを挟む

処理中です...