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第1話 皇后の頭痛の種1

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「……あの馬鹿息子が……」

 母の苦労も知らずにやりたい放題。
 第三皇子である馬鹿息子を皇太子の地位に就けるのにどれ程苦労した事か……それを……。

「どうしてくれよう……」

 これが自分の胎を痛めた我が子でなければとうの昔に放逐している。

 先の皇帝の目に留まり、愛妾から側妃に。
 皇帝の死後は、その息子の末皇子の尻を叩いて皇位に就けさせた。今は彼の皇后に納まったものの、それで安泰という訳ではない。新たな夫となった皇帝クロヴィスは、為政者としての資質が欠けていた。末の皇子として誕生し、生まれながらに病弱だったこともある。体が弱い末の皇子を皆が甘やかした結果ともいえよう。頭の出来は悪くないが、致命的なほどの判断力がなかった。元々、おっとりとした性格で他者と争う事を苦手としていた。優しいといえば聞こえはいいが、要は臆病なのだ。
 
 それは、急な父皇帝の死後に起きた兄弟達の皇位継承争いに巻き込まれたせいで更に酷くなった。

 彼の正妃を押しのけて皇后の座を得た。

 先の正妃が産んだ第一皇子バジル。
 側妃が産んだ第二皇子グラン。

 この異母兄達を押しのけて皇太子に据えたというのに――


「あの馬鹿が……」

「姉上、落ち着いてください」

「ヒューゴ……」

「皇太子殿下は御年十六歳。まだまだお若いのですから」

 ヒューゴ・アラン・ド・ヴァリエール公爵。
 この国の宰相であり、私の実の弟。
 公私に渡って私を支えてくれる弟。
 私が唯一悩みを打ち明けられる相手でもある。
 公式場では「皇后陛下」と呼び臣下としての態度を崩さないが、今はプライベートルームで只の「姉」と「弟」として対峙しているせいか、普段よりも砕けて見える。

 ……あの馬鹿息子にヒューゴの半分……いいえ、せめて十分の一位に真面目だったらと思わずにはいられない。

 
「そうは言っても、王都にいる年頃の貴族令嬢との縁談を悉く破談させているのよ?」 

「姉上、あれは見合いです。婚約はおろか、口約束もしていないものです。何も問題はありません」

「ええ。令嬢達の自尊心を煽り競い合わせ自滅させるというやり方で縁談を壊したのよ?問題にならない筈ないでしょう!」

「表向きの理由は『時期皇后になるには覚悟が足りないため』という各家からの辞退です。双方に傷がつかない穏便な形で終結しております」

「……見合い相手に映像魔法付きの宝飾品をプレゼントして彼女達だけでなく各家の弱みを握った上で、相手側から辞退するように誘導した結果でしょう」
 
「実に見事な手腕でした」

「何を感心しているのです?」

「ですが、姉上。アレウス皇子皇太子のお陰で政策に反対する一派を一掃できたのも事実ですよ」

 ヒューゴの言う通りだった。
 何かにつけて皇后である私を攻撃してきた貴族達が今では猫のように大人しくなっている。だからこそ馬鹿息子を叱責できない状態でもあった。

「まったく……あの計算高さと悪質さは一体誰に似たのかしら」

 私の呟きにヒューゴは何も言わなかった。
 何故か、生暖かい眼差しで見つめるだけだった。
 
 

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