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本編
4.姦しい女達
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「劣り腹で満足するなんて、ファブラ王国はよっぽど女に飢えてるのかしらね?」
「言えてるわ。私達は未だ会ってないけど、噂じゃあカルーニャ王国では見かけない容貌だとか」
「わかったわ!きっと化け物のような見た目なのよ」
「やだ!それだったら、この国は化け物に支配されて国ってことね!」
「あはは!確かに!」
「そんな男相手にしなくて良かったわ」
「あら。相手は国王なんだから上手くいけば側妃にだってなれるでしょう?挑戦してみれば?」
「嫌よ。それに侍女長様が許さないわよ。エルビラ王女殿下が異国の王に嫁ぐことだって反対されていたようだし」
「やだ!そうなの?」
母国カルーニャ王国から王妃の輿入れに随行して来た侍女達は、後宮の噂話に花を咲かせていた。
彼女達は、カルーニャ王国がファブラ王国のラミロ国王に嫁いだエルビラ王妃付きの侍女だ。
嫁入り前の彼女達は、ある意味気楽な立場だった。侍女をしているのも嫁ぐ前の箔付けのようなもの。王女付き、それも王妃付きの侍女となれば、嫁ぎ先も困らない。良い縁談が舞い込んでくるというもの。後数年したら国に帰って結婚しようと考えている者達ばかり。
「それにしても、国王陛下も思い切ったことをしたものだわ。幾ら同盟締結のためだからって」
「ねぇ。意外よね。陛下は王女殿下を溺愛していたもの」
「てっきり自国の貴族に嫁がすものだとばかり思っていたのに」
「一体どうされるのかしら。あんな条件をのんで。王女殿下がお可哀相だわ」
「本当に。まぁ、仕方のない部分はあるとは思うけど。あの陛下がねぇ。大勢いるお子様方の中で特に可愛がっていらした王女殿下の夫に『側妃や愛妾を持っても良い』なんて。今までの国王陛下を考えると……ねえ?」
姦しい女達の会話は続く。
彼女達は知らない。
両国の同盟の意味を。
カルーニャ王国が、ラミロ国王にエルビラ王女の輿入れを望んだ本当の意味を。
これはカルーニャ王国からの申し込んだ縁組だということを。
自分達の会話に興が乗っていると、近くの戸から咳払いする声がした。
その堅い口調にはっと会話を止める。
「侍女長様!」
一人の侍女が慌てて返事をした。
扉を開けて部屋に入って来たのは侍女長その人だ。
「貴方達、カルーニャ王国人の品位に欠ける言葉は慎みなさい」
「も、申し訳ございません……」
侍女長を目の前にして今更遅いが、侍女達は居ずまいを正した。
「まったく。ここは他国。しかもカルーニャより随分劣る国とはいえ、一国の王宮なのですよ。少しは自覚しなさい」
「はい……」
侍女達は項垂れるように返事をする。
「まぁ、良いでしょう」
侍女長は、侍女達から視線を外すとキョロキョロと辺りを見回した。
「ところでニラはどうしたのです。まだ帰ってきていないのですか?」
侍女長からの突然の所在確認に、侍女達は押し黙った。
何故なら自分達にとって、たった今話題にしていた人物だったからだ。
「はい、……まだ……」
「なんたること!」
歯切れの悪い返事に侍女長は、怒りの声を上げた。
「ニラを早く連れ戻して来なさい!」
侍女長の怒鳴り声に、侍女達は弾かれるように部屋を飛び出した。
ただし、侍女長の望みは叶わない。
それというのもニラは最初の夜伽から王妃の元に戻っていないのだ。
後宮は隔離された場所。
出入りの自由はない。
後宮に自由に行き来できるのは国王ただ一人。
侍女達の思惑をよそに、ニラは既に王の手の中。
連れ戻せることなんて出来るはずもない。
そもそもニラは後宮内にいないのだから。
彼女達はまだ知らない。
自分達が馬鹿にしていた、ニラが王の寵愛を得ていることを。
どれだけ母国で侮られようとニラは一国の王女。
庶子とはいえ王女なのだ。
自国の王女に対して、いつもけなしから入っていた侍女長もそのことを忘れるほど、蔑む対象だった。
周囲の者達がそう扱っていたからといって、それが他国でも「当たり前」とはならない。
ニラがカルーニャの王女、ペトロニラだと知られればどう思われるのかを理解していなかった。
そんな彼女達だからこそ、事の深刻さにも気付くことは無かった。
そしてそれは、カルーニャ王国も同じだった。
「言えてるわ。私達は未だ会ってないけど、噂じゃあカルーニャ王国では見かけない容貌だとか」
「わかったわ!きっと化け物のような見た目なのよ」
「やだ!それだったら、この国は化け物に支配されて国ってことね!」
「あはは!確かに!」
「そんな男相手にしなくて良かったわ」
「あら。相手は国王なんだから上手くいけば側妃にだってなれるでしょう?挑戦してみれば?」
「嫌よ。それに侍女長様が許さないわよ。エルビラ王女殿下が異国の王に嫁ぐことだって反対されていたようだし」
「やだ!そうなの?」
母国カルーニャ王国から王妃の輿入れに随行して来た侍女達は、後宮の噂話に花を咲かせていた。
彼女達は、カルーニャ王国がファブラ王国のラミロ国王に嫁いだエルビラ王妃付きの侍女だ。
嫁入り前の彼女達は、ある意味気楽な立場だった。侍女をしているのも嫁ぐ前の箔付けのようなもの。王女付き、それも王妃付きの侍女となれば、嫁ぎ先も困らない。良い縁談が舞い込んでくるというもの。後数年したら国に帰って結婚しようと考えている者達ばかり。
「それにしても、国王陛下も思い切ったことをしたものだわ。幾ら同盟締結のためだからって」
「ねぇ。意外よね。陛下は王女殿下を溺愛していたもの」
「てっきり自国の貴族に嫁がすものだとばかり思っていたのに」
「一体どうされるのかしら。あんな条件をのんで。王女殿下がお可哀相だわ」
「本当に。まぁ、仕方のない部分はあるとは思うけど。あの陛下がねぇ。大勢いるお子様方の中で特に可愛がっていらした王女殿下の夫に『側妃や愛妾を持っても良い』なんて。今までの国王陛下を考えると……ねえ?」
姦しい女達の会話は続く。
彼女達は知らない。
両国の同盟の意味を。
カルーニャ王国が、ラミロ国王にエルビラ王女の輿入れを望んだ本当の意味を。
これはカルーニャ王国からの申し込んだ縁組だということを。
自分達の会話に興が乗っていると、近くの戸から咳払いする声がした。
その堅い口調にはっと会話を止める。
「侍女長様!」
一人の侍女が慌てて返事をした。
扉を開けて部屋に入って来たのは侍女長その人だ。
「貴方達、カルーニャ王国人の品位に欠ける言葉は慎みなさい」
「も、申し訳ございません……」
侍女長を目の前にして今更遅いが、侍女達は居ずまいを正した。
「まったく。ここは他国。しかもカルーニャより随分劣る国とはいえ、一国の王宮なのですよ。少しは自覚しなさい」
「はい……」
侍女達は項垂れるように返事をする。
「まぁ、良いでしょう」
侍女長は、侍女達から視線を外すとキョロキョロと辺りを見回した。
「ところでニラはどうしたのです。まだ帰ってきていないのですか?」
侍女長からの突然の所在確認に、侍女達は押し黙った。
何故なら自分達にとって、たった今話題にしていた人物だったからだ。
「はい、……まだ……」
「なんたること!」
歯切れの悪い返事に侍女長は、怒りの声を上げた。
「ニラを早く連れ戻して来なさい!」
侍女長の怒鳴り声に、侍女達は弾かれるように部屋を飛び出した。
ただし、侍女長の望みは叶わない。
それというのもニラは最初の夜伽から王妃の元に戻っていないのだ。
後宮は隔離された場所。
出入りの自由はない。
後宮に自由に行き来できるのは国王ただ一人。
侍女達の思惑をよそに、ニラは既に王の手の中。
連れ戻せることなんて出来るはずもない。
そもそもニラは後宮内にいないのだから。
彼女達はまだ知らない。
自分達が馬鹿にしていた、ニラが王の寵愛を得ていることを。
どれだけ母国で侮られようとニラは一国の王女。
庶子とはいえ王女なのだ。
自国の王女に対して、いつもけなしから入っていた侍女長もそのことを忘れるほど、蔑む対象だった。
周囲の者達がそう扱っていたからといって、それが他国でも「当たり前」とはならない。
ニラがカルーニャの王女、ペトロニラだと知られればどう思われるのかを理解していなかった。
そんな彼女達だからこそ、事の深刻さにも気付くことは無かった。
そしてそれは、カルーニャ王国も同じだった。
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