【完結】彼女を妃にした理由

つくも茄子

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番外編

18.側妃の嫁ぎ先

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 公爵家の娘に生まれて、十六歳で後宮に入った。
 私がもっと早くに生まれていたら側妃ではなく正妃となれていたはず。

 現在の正妃など目じゃない程に美しいのだから。
 私を妻にと望む者は多い。その中には小国の王子もいるのだ。

 だからこそ、自国の後宮に入った。
 私を一目見れば、陛下はきっと私を寵愛する。正妃など見向きもされなくなる筈だと。

 後宮にいる妃はどれも美しいけれど、私はあの女達には負けない。

 一番問題だと思っていた正妃は後宮には居なかった。
 なんでも離宮でずっと過ごしているとか。
 なにそれ?
 後宮の女主人の役割を果たさないなんて。
 陛下がお可哀想だわ。
 だから、私が正妃に取って代わろうと決意した。
 正妃は子供を何人も産んでいるけれど、そんなものは関係ない。
 子供なんて私が産めば問題ないもの。

 私の子供なら正妃の産んだ子より優秀なはず。
 美しく賢い子に決まっている。
 正妃に成り代わり陛下の寵愛を受けるのは、この私!

 なのに、何故!?


「どういうことなの!どうして陛下は来られないの!!?」

「落ち着いてください、側妃様」

「落ち着けですって!?」

「はい」

「何を落ち着けというの?わ、私が……何故……?」

 ショックを隠せない私に、女官が淡々と告げる。

「側妃様は、後宮に入り、今日で三年目でございます」

「そ、それがどうしたのよ」

「後宮入りなさり、三年目で懐妊の兆しがない妃は、陛下の采配で降嫁となるのです」

「な……」

 目の前が暗くなる。
 私以外にも懐妊していない妃は大勢いる。
 古株と呼ばれる妃だって、何人も残っている。
 それなのに……なぜ……私が……。

 理解できないまま、大量の荷物と共に馬車に詰め込まれた。
 実家の公爵家は静まり返っていて、ゆっくりする暇もないまま、結婚相手の国に連れていかれた。

 私の夫だと名乗る相手は嘗ての求婚者の一人。
 小国の王子だった。

「ようこそ、我が国にいらして下さいました」

 恭しく微笑みながら向けられたその言葉に、私は愕然とするしかない。

「貴女のように美しい妃を妻にできて、とても嬉しいです。ようやく願いが叶いました」

「願い……?」

「ええ。ラミロ国王陛下に何度も願い出て、ようやく……。これからはずっと一緒です。私もラミロ国王陛下を見習って妃の為の宮殿を改築したんです。出入口は私が選び抜いた者達しか通れないようにしたんですよ。彼の国の正妃は乳母に任せない子育てを推奨しているとか。素晴らしいことです。私も貴女との間に子供が生まれたら一緒に育てていきたいなと思うんです」

 心底嬉しそうに、どこか狂気をはらんだ笑みを前に、私は息を飲んだ。

「さあ、中に入りましょう。お互いを知り合う時間はたくさんあります」

 いきなり夫になった男が強引に私の手を取って馬車から降りて、宮殿の中に連れ込まれた。
 優雅にエスコートしているようでいて、その手つきはどこか強引だった。

「ああ……やっと……やっとだ……」

 宮殿の中に入りながら、男はぶつぶつと呟く。
 その目は私を見てはいない。

「ずっと……ずっと……夢見ていたんだ……。美しい貴女が……私の妻となる日を……」

「ひっ……」

「ああ……そんな怯えた顔をしないでください。大丈夫です。私はとても優しい男ですからね。貴女だけを愛し続けますよ」

 にっこり笑うこの男に恐怖を覚えた私は、これからの自分の運命を呪うしかなかった。
 何故、こんなことになったのか分からない。
 家族の助けもない。
 そもそも自国ですらないのだ。
 他国の王子の元に妃をして嫁ぐ。
 それだけで国同士の契約は成立するのだから。

 逃げられない恐怖に、私は震えるしかなかった。

 ラミロ国王陛下のように妃を愛する――――その言葉の意味を知るのは、それからすぐのことだった。



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