52 / 130
~一度目~
4.悪意のある噂
しおりを挟む
「どうやら鈴木家が主体として噂を流しているようだわ」
私の親友である和泉篤子。
彼女が教えてくれました。
夫……いいえ、元夫の再婚相手は学生時代の恋人でもあったそうです。同じ学校の友人達の大半が二人の結婚を祝福しているとか。
「知りませんでしたわ。晃司さんにそのような女性がいたなんて……」
「桃子……」
「結婚前に知っていたら……私、身を引きましたのに……」
「桃子は何も悪くないわ」
「篤子は知っていたの?」
「……ええ。一応ね。結構、噂になっていたのよ」
「そうだったの……噂に……」
私は噂になっている事すら知らなかった。
「他にも気付いている子はいたわ。でも所詮は学生時代の間の事だと思われていたの。こういう世界で生きているんだもの。結婚と恋愛は別と割り切っている子は多いのよ。ただ、桃子はそういうタイプじゃないでしょう?だらか桃子を知っている人は桃子に負担にならないように気を配っていたのよ。まさかそれが仇になるなんて……」
篤子は「ごめんなさい」と頭を私に下げました。
彼女は何も悪くありません。私に内緒にしていた人達もです。皆様、私を想ってのこと。そしてなにより。
私の事を一番よく知っているであろう家族も私に教えようとはしなかったのです。きっと、それは私に対する優しさだったのでしょう。
離婚した時に覚悟はしていました。
親しくない方々の間で醜聞になるということを。
それでも、まさか噂の中に虚実が混ざっているとは考えもしませんでした。考えが甘かったと後悔します。
悪意のある噂は確実に私の精神を蝕んでいきました。
噂というのは便利であり残酷である事を実感した瞬間です。
嘆く私に家族や友人達は海外での療養を勧めてくれたのです。それもそのはずです。このままでは悪化する一方だと精神科の医師から診断書まで提出されました。
たしかにその通りでした。私は噂から逃げるようにスイスへ渡ったのです。
それから九年後。
私は一人の男性にプロポーズをされました。
男性の名前は、東雲シオン。
今注目されている投資家。
一見、日本人に見えますが、彼はドイツの血が流れているそうです。
日本人離れしているスラリとした身体。目鼻立ちも非常に整っており、まるでモデルのようでした。ハンサム、という言葉がこれほど似合う方も珍しいですね。
彼とは、サナトリウムでの療養中に出会いました。
私の主治医が治療の一環として彼を紹介してくださったのです。「これでも彼は心理学も学んでいたんだ。私の教え子でもあるんだよ」と私が驚き呆れてしまう事を先生から告げられました。
「何故か全く畑違いの職業に就いてしまったが、彼のカウンセリング能力は一級品だ。一応、医師免許も持っているしな」
茶目っ気たっぷりに言う先生の姿に私は思わず苦笑いで返しました。
きっと冗談を仰っているのだと思ったのです。
それから何度かお会いする内に私はシオンさんが信頼するに十分な人柄だとわかりました。先生が紹介するだけのことはあります。なにより、彼には安心感がありました。私の心を優しく包み込んでくれるような気がします。一緒に過ごしている空間はとても穏やかな気持ちでいられたのです。私は今まではずっと心休まる時はなかったのだと。常に誰かの言動を疑っていたのだと。鈴木家の方々は信頼に足りる人達ではなかったのだと理解したのです。そのような人達と五年も家族として暮らしてきたのですもの。その影響は計り知れないですわね。
そう考えると私はいつの間にか人を疑ってしまう癖がついてしまったようでした。
あの五年間の結婚生活は私の心に見えない爪跡を残すのに十分な期間だったようです。
スイスでの数年は心を休息させる時間だったのでしょうね。
私だけでしたら、きっと、まだ心の整理に時間がかかりそうでしたが……今は先生たちやシオンさんがいらっしゃいますもの。日本から家族や友人達も私を心配して何度もスイスに来てくれています。本当に優しい方々です。
そんな中でのシオンさんからのプロポーズだったものですから、私の心は揺れに揺れました。
私の親友である和泉篤子。
彼女が教えてくれました。
夫……いいえ、元夫の再婚相手は学生時代の恋人でもあったそうです。同じ学校の友人達の大半が二人の結婚を祝福しているとか。
「知りませんでしたわ。晃司さんにそのような女性がいたなんて……」
「桃子……」
「結婚前に知っていたら……私、身を引きましたのに……」
「桃子は何も悪くないわ」
「篤子は知っていたの?」
「……ええ。一応ね。結構、噂になっていたのよ」
「そうだったの……噂に……」
私は噂になっている事すら知らなかった。
「他にも気付いている子はいたわ。でも所詮は学生時代の間の事だと思われていたの。こういう世界で生きているんだもの。結婚と恋愛は別と割り切っている子は多いのよ。ただ、桃子はそういうタイプじゃないでしょう?だらか桃子を知っている人は桃子に負担にならないように気を配っていたのよ。まさかそれが仇になるなんて……」
篤子は「ごめんなさい」と頭を私に下げました。
彼女は何も悪くありません。私に内緒にしていた人達もです。皆様、私を想ってのこと。そしてなにより。
私の事を一番よく知っているであろう家族も私に教えようとはしなかったのです。きっと、それは私に対する優しさだったのでしょう。
離婚した時に覚悟はしていました。
親しくない方々の間で醜聞になるということを。
それでも、まさか噂の中に虚実が混ざっているとは考えもしませんでした。考えが甘かったと後悔します。
悪意のある噂は確実に私の精神を蝕んでいきました。
噂というのは便利であり残酷である事を実感した瞬間です。
嘆く私に家族や友人達は海外での療養を勧めてくれたのです。それもそのはずです。このままでは悪化する一方だと精神科の医師から診断書まで提出されました。
たしかにその通りでした。私は噂から逃げるようにスイスへ渡ったのです。
それから九年後。
私は一人の男性にプロポーズをされました。
男性の名前は、東雲シオン。
今注目されている投資家。
一見、日本人に見えますが、彼はドイツの血が流れているそうです。
日本人離れしているスラリとした身体。目鼻立ちも非常に整っており、まるでモデルのようでした。ハンサム、という言葉がこれほど似合う方も珍しいですね。
彼とは、サナトリウムでの療養中に出会いました。
私の主治医が治療の一環として彼を紹介してくださったのです。「これでも彼は心理学も学んでいたんだ。私の教え子でもあるんだよ」と私が驚き呆れてしまう事を先生から告げられました。
「何故か全く畑違いの職業に就いてしまったが、彼のカウンセリング能力は一級品だ。一応、医師免許も持っているしな」
茶目っ気たっぷりに言う先生の姿に私は思わず苦笑いで返しました。
きっと冗談を仰っているのだと思ったのです。
それから何度かお会いする内に私はシオンさんが信頼するに十分な人柄だとわかりました。先生が紹介するだけのことはあります。なにより、彼には安心感がありました。私の心を優しく包み込んでくれるような気がします。一緒に過ごしている空間はとても穏やかな気持ちでいられたのです。私は今まではずっと心休まる時はなかったのだと。常に誰かの言動を疑っていたのだと。鈴木家の方々は信頼に足りる人達ではなかったのだと理解したのです。そのような人達と五年も家族として暮らしてきたのですもの。その影響は計り知れないですわね。
そう考えると私はいつの間にか人を疑ってしまう癖がついてしまったようでした。
あの五年間の結婚生活は私の心に見えない爪跡を残すのに十分な期間だったようです。
スイスでの数年は心を休息させる時間だったのでしょうね。
私だけでしたら、きっと、まだ心の整理に時間がかかりそうでしたが……今は先生たちやシオンさんがいらっしゃいますもの。日本から家族や友人達も私を心配して何度もスイスに来てくれています。本当に優しい方々です。
そんな中でのシオンさんからのプロポーズだったものですから、私の心は揺れに揺れました。
178
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。
しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。
友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。
『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。
取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。
彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。
八年間の恋を捨てて結婚します
abang
恋愛
八年間愛した婚約者との婚約解消の書類を紛れ込ませた。
無関心な彼はサインしたことにも気づかなかった。
そして、アルベルトはずっと婚約者だった筈のルージュの婚約パーティーの記事で気付く。
彼女がアルベルトの元を去ったことをーー。
八年もの間ずっと自分だけを盲目的に愛していたはずのルージュ。
なのに彼女はもうすぐ別の男と婚約する。
正式な結婚の日取りまで記された記事にアルベルトは憤る。
「今度はそうやって気を引くつもりか!?」
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
白い結婚なので無効にします。持参金は全額回収いたします
鷹 綾
恋愛
「白い結婚」であることを理由に、夫から離縁を突きつけられた公爵夫人エリシア。
だが彼女は泣かなかった。
なぜなら――その結婚は、最初から“成立していなかった”から。
教会法に基づき婚姻無効を申請。持参金を全額回収し、彼女が選んだ新たな居場所は修道院だった。
それは逃避ではない。
男の支配から離れ、国家の外側に立つという戦略的選択。
やがて彼女は修道院長として、教育制度の整備、女性領主の育成、商業と医療の再編に関わり、王と王妃を外から支える存在となる。
王冠を欲さず、しかし王冠に影響を与える――白の領域。
一方、かつての夫は地位を失い、制度の中で静かに贖罪の道を歩む。
これは、愛を巡る物語ではない。
「選ばなかった未来」を守り続けた一人の女性の物語。
白は弱さではない。
白は、均衡を保つ力。
白い結婚から始まる、静かなリーガル・リベンジと国家再編の物語。
幼馴染が夫を奪った後に時間が戻ったので、婚約を破棄します
天宮有
恋愛
バハムス王子の婚約者になった私ルーミエは、様々な問題を魔法で解決していた。
結婚式で起きた問題を解決した際に、私は全ての魔力を失ってしまう。
中断していた結婚式が再開すると「魔力のない者とは関わりたくない」とバハムスが言い出す。
そしてバハムスは、幼馴染のメリタを妻にしていた。
これはメリタの計画で、私からバハムスを奪うことに成功する。
私は城から追い出されると、今まで力になってくれた魔法使いのジトアがやって来る。
ずっと好きだったと告白されて、私のために時間を戻す魔法を編み出したようだ。
ジトアの魔法により時間を戻すことに成功して、私がバハムスの妻になってない時だった。
幼馴染と婚約者の本心を知ったから、私は婚約を破棄します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる