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王太子の愛妾side
しおりを挟む「……一緒に逃げよう」
「本気で言ってるの?」
「勿論だ」
「私は王太子の愛妾よ?」
「だが今は逃亡の身だ」
「国外に脱出して、そこから再起するのが王太子の狙いだわ」
「他国が王太子殿下の味方などするものか」
「そんなの分からないわ!正当な王と王位継承権を持つ王太子がいるのよ!?」
「陛下や殿下を引き合いに出すよりも、国を乗っ取った方が早い」
「正当性がないわ!」
「そんなもの後から付け加えれば問題ない。『自国民の保護のために暴徒と化した民衆を鎮圧する』とでも言えばいい」
「……他国が許さないわよ」
「他国も巻き込めば問題ない。我が国を侵略した後で分け前を分割すればいいだけだ」
「祖国が亡国になるのを見過ごすの?」
「君の復讐は果たされるだろう」
その通りだった。
名前を変え、年齢を偽り、経歴まで偽証した。
全ては、祖国に対する復讐のため。王家と貴族に報復するために生きてきた。
「まだ……残ってるわ」
「彼らは無理だ。諦めろ」
「諦めろですって!?」
「そうだ」
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「公爵家は君の存在を察知している」
「それはそうでしょう。私は王太子の愛妾だもの」
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「……」
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名前も、未来も、命も――
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