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本編
34.国王side
しおりを挟むエラ・ダズリンがライアン相手にここまで勝負に出れたのは、ライアンの態度の悪さもあった。
彼女の妊娠を知り狂喜乱舞した父親から監禁され「結婚して家を継げ」という圧力を受け、愛する恋人に別れを告げられ、世論からも「結婚」のプレッシャーを与えてくるという極限状態に誰から構わずに牙をむき出しにしたのは仕方ない事だ。牙を向けられた者達がどう思うかは別として、ライアンにも同情の余地は十分あった。
世間というのは何かと母親やか弱い女の味方になるものだ。
それは間違いではない。
産まれた子供に母親が必要だと思うのは世間一般の常識と照らし合わせても当然の事だろう。
エラ・ダズリンの弁護士はそれを上手く利用していた。
ただ、弁護士は気付かなかった。
彼女の母親を恨む人間の多さに。
過去の事だと切り捨てたのが敗因だろう。
彼女の母親が起こした騒動は有名だったものの二十年近く経っている。その上、娘であるエラ・ダズリンは母親の事を全く知らなかった。
恨まれ憎まれていた彼女の母親。
どうして被害者達が訴えなかったのか。
何故、被害者達が加害者の娘に何もしなかったのか。
それを考えなかった時点で弁護士の負けは確定したも同然だった。
最大の被害者家族がエラ・ダズリンの最も身近にいたからこそ、彼ら彼女たちは「加害者の娘」に何もしなかったのだ――――
カンカンカン!!
「これより判決を言い渡す――」
最終判決の今日。
俺は特別室で判決結果を聞いていた。
使えるものは何でも使う。
それが俺の信条だ。
卑怯?
褒め言葉だ。
欲しいものを得るためならどんな手段でも取る。
ライアン・キングが苦労知らずのボンボンで助かった。隙だらけのアホなお陰であの女を近づけさせることができたんだからな。赤毛の女は実に使い勝手がよかった。欲望に忠実でストッパー的存在がいなかった事も功を奏した。
ああ、それを言うならあの二人の家もだな。
どちらも欲望に忠実で素直な連中だ。
よくまぁ、隠しもせずにああも言いたい放題にいられるものだ。
下賤の血を半分引く俺には理解できない事だな。
あいつより俺が先に見つけたんだ。
横から奪い取ったのはあの男の方だ。
だから返して貰う。
いいだろ?
今までずっと独占してきたんだ。
もう十分だろ?
俺は優しい男だからな。
惚れた嫁に元カレと会わせない、なんていう鬼畜なことしないさ。安心してくれ。
優秀な魔術師を国が放逐するような真似はしない。
産まれた子供が魔力適性を持っているかどうかは調べる必要があるけどな。もし持っていたならこの国の為にその才能を発揮して貰わなくてはならない。それには当然親の協力が必要だ。そして、その協力を得るためにはその子供の母親は必要な存在となる。
ライアン・キング、感謝するよ。
今までノアを守ってくれて。
ノアは無自覚のタラシだからな。苦労しただろう。
しかも全く気付かない鈍感男だ。
横からかっさわれないように気を付けていたことだろうに。一緒に住んで気が緩んだのがいけなかったな。ノアが自分の傍を離れて行かないと確信できたからだ。釣った魚に必要なのは餌だけじゃない。広くて綺麗な場所と魚の望む環境、それと主人の献身があってこそ長く生きられるもんだ。一つでも怠ると魚は余所に持っていかれちまう。いい教訓ができただろう
これからは俺が守っていく。俺達の息子と一緒にな。
「残念だったな、隙を見せたお前の負けだ。ライアン・キング」
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